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LNJ Logo 野党事務所への違法な「隠しカメラ」設置問題の背景にあるもの〜大分県警に染みついた「謀略体質」を暴く!
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 7月に行われた参院選を前に、大分県警別府署が野党候補の事務所に出入りする関係者を監視するため、違法にカメラを設置した問題が波紋を呼んでいる。

 一連の報道によれば、カメラが設置されていたのは、別府地区平和運動センターや連合大分東部地域協議会が入居する別府地区労働福祉会館(同市南荘園町)の敷地内。連合大分が支援している民進党現職候補や比例区に立候補していた社民党・吉田忠智党首の支援拠点として使われていた。カメラの設置は6月の参院選公示直前に行われ、事務所に出入りする人々を無差別に撮影。カメラ本体に装着されたSDカードを取り替えるため、別府署員が3回、敷地内に侵入していたこともわかっている。

 警察がたびたび民有地内に侵入したことは選挙への不当な干渉であり言語道断というしかないものだ。そもそも、例えばコンビニなどの民間施設に設置されている防犯カメラは、記憶容量が一杯になると古いデータから順に消去しながら新しいデータを上書きする方式が採られているものが多い。航空機に搭載されているボイスレコーダーなども同様だ。事故が起きれば、直前の状況を記録した状態で録音が自動的に停止するから、事故原因究明が目的ならそれで十分なのだ。

 これに対し、今回、大分県警は、SDカードを取り替えながら撮影を続けている。明らかに、事故や犯罪の「直前の状況さえ記録されていれば良い」という民間防犯的なカメラの使用方法ではない。特定政党、特定候補とその支援者を狙い撃ちする形で、事務所に出入りする人々のデータを蓄積するため、公安的手法で行われたものといえる。

 今回、警察がこうした直接的な情報収集活動を、なりふり構わず行ってきた背景に「野党共闘」の進展があることは間違いない。昨年9月の安保関連法案強行採決を契機として、日本共産党の「国民連合政権」構想を呼び水に始まった野党共闘は、32の参院選1人区すべてで統一候補を立てるところまで、わずか1年足らずで急進展。11勝21敗の「負け越し」ではあるものの、前回参院選1人区のうち野党が2選挙区でしか勝てなかったことを考えると巨大な前進を勝ち取った。こうした情勢に驚愕した権力側が、民進党(旧民主党)の急速な「左傾化」と、共闘進展の背景を探ろうとしたことは想像に難くない。

 しかし、今回、「隠しカメラ問題」の報道に接した市民の多くは、同時にこんな疑問も抱いているのではないだろうか。「なぜ、警察による監視活動が、基地問題で野党圧勝の勢いだった沖縄や原発が争点となっている福島、野党が全勝しそうな勢いだった東北各県でなく大分だったのか」という疑問である。今回の私のこの記事が、みなさんのそうした疑問を解きほぐすための一助になると思う。

 ●大分で警察が起こした「ある事件」

 サンフランシスコ講和条約が発効したばかりの1952年6月、大分で小さな駐在所が爆破される事件が起きた。爆破された駐在所の所在地は大分県直入郡菅生村(現在の大分県竹田市菅生)。当時の国家地方警察(国警)大分県本部は、直ちにこの事件を日本共産党員の犯行と「断定」、現場近くにいた2人の共産党員を逮捕した。現場にはなぜか多数の新聞記者が「偶然」居合わせ、事件は直ちに新聞報道される。起訴された共産党員は1審では有罪判決を受けたが、2審・福岡高裁では逆転無罪となった。一体、何があったのか。

 明らかになった事件の全容は驚くべきものだった。市木春秋と名乗り、地元では生い立ち・経歴すべて不詳の「謎の男」が実行犯。事件直前の1952年春、菅生村にやってきた市木が駐在所に爆発物を仕掛けていたことが判明したが、後に、市木が地元で「行方不明」扱いになっていた国警大分県本部所属の警察官・戸高公徳と同一人物であることが、被告となった共産党員の弁護団により突き止められた。

 事件から5年後の1957年、衆院法務委員会で中村梅吉法相は、警察が戸高を使って「おとり捜査」を行ってきたことを認めた。警察庁長官も、大分県警備部長の命令により、公安警察官の身分を隠して共産党に「潜入」させる目的で戸高を派遣したと述べた。市木春秋こと戸高公徳による駐在所爆破事件は、共産党に政治的打撃を与えるために警察みずから仕組んだ事件だったのである。

 一方、事件を起こした戸高は何ら罪に問われないどころか警部補に「昇任」。警察大学校校長、警察庁装備・人事課課長補佐などを歴任し、警視(地方の警察署長クラス)にまで昇進した後、1985年、警察大学校術科教養部長を最後に退官した。

 しかし、驚くのはまだ早い。この戸高公徳は退官後、警察関係者向けに設立された傷害保険会社「たいよう共済」の常務に就任している。共産党に打撃を与えるための謀略の最前線で刑事事件まで起こした警察官が、異例の出世をするのみならず、警察ファミリー企業に天下りまでしていたのである。

 ●連綿と続く謀略の「伝統」

 爆破された駐在所の所在地にちなんで「菅生事件」と呼ばれたこの出来事はもう64年も前のことだ。既に歴史の領域に入りつつあり、現在の警察は表向き、こうした身分を隠しての「スパイ的潜入」は行っていないとされる。事件を引き起こした国家地方警察も、幾多の組織改正を経て今は都道府県警察に姿を変えた。だが、1986年に発覚した緒方靖夫・日本共産党国際部長宅電話盗聴事件で、東京都町田市の緒方部長宅の電話を盗聴していたのが神奈川県警だったように、警察の中でも公安部門だけは警察庁警備局の指揮の下、全国統一の運用をされており、今なお都道府県の垣根を越えて活動している。

 今回の隠しカメラ設置は別府警察署刑事課が行っており、直接的には公安部門の「犯行」ではない。しかし、別府署員らがこうした行為を疑問もためらいもなく実行できるのは、やはり菅生事件以来、大分県警に連綿と受け継がれた謀略の「伝統」が波打っているからだろう。

 私たちは、安倍政権の「暴力装置」としての警察を今後も絶え間なく監視していくべきだ。そして、安倍政権が狙う改憲とは、今でさえこのような非合法行為を実行している警察にフリーハンドを与えることを意味する。憲法審査会の動きも絶え間なく注視しなければならない。特高がのさばった「あの時代」の悲劇をよみがえらせないために。

<参考文献>
 この記事の執筆に当たっては、「日本の公安警察」(青木理・著、講談社現代新書、2000年)を参考にした。

(文責:黒鉄好)

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黒鉄 好 aichi200410@yahoo.co.jp

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