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LNJ Logo 黒鉄好の時事寸評〜自民圧勝は本当か? 見えてきた「勝者なき選挙」
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第15回 自民圧勝は本当か?〜見えてきた「勝者なき選挙」

 筆者が投票権を得てから20年以上の歳月が経つが、今回の選挙ほど投票所に向かうのを苦痛に感じたことはない。死票として無駄になることが初めからわかっている票を投じるため、「義務として」投票所に向かうのだから。

 人生いつも少数派である当コラム読者の皆さんは、今さら自分の票が生かされないくらいで落ち込んだりはしないのだろう。「義務だから行くべき」「権利は行使すべき」「棄権すると白紙委任したことになり、世の中はもっと悪くなる」…国民を投票所に向かわせるために使われる言説である。どれもよく理解できる。しかし、今回の選挙の空しさと来たら、こんな薄っぺらな言説ではどうしようもならないくらい酷いものだった。過去に1度も棄権したことがなく、模範有権者として総務省・中央選挙管理会から表彰の1つや2つ受けてもおかしくない当コラム筆者が、今回は投票日当日まで真剣に棄権を考えたほどだ。

 政党ばかり乱立しているのに投票したい候補者も政党も1つもないというのも今に始まったことではないが、自称「第3極」による票目当てのなりふり構わぬ離合集散が、筆者の投票意欲を大きく棄損していることは明らかだった。

 2009年の政権交代、「アラブの春」、2011年の大震災、福島原発事故、そして官邸前デモへの20万人大結集…2年前には誰ひとり予想もできないほどの「政治の季節」が訪れた日本で、投票率は「上がる」「下がる」の両方の予測があった。上がるほうの根拠は、さすがにここまで追い詰められて政治的無関心でいられる人はそうそう多くないはずで、誰もが無為無策の政治への怒りを込めて投票所に向かうだろう、というもの。一方、下がるほうの根拠は、怒りを持っている層ほどどこにも投票したくないし、できないのではないか、というものだった。

 期日前投票は、本投票の前哨戦として本投票の投票率を占う先行指標にもなる。その期日前投票率が15%近くも下がったと聞き、まずいと直感した。投票率が下がれば、固い組織票を持つ政党が圧倒的に有利になる。世界情勢は激動しているのに、20年前で時計の針が止まったかのような、「景気対策」にしか関心がない「命よりカネ」の「一部業界団体」にまた選挙が牛耳られるのか、と暗澹たる気持ちになった。

 ●「棄権」が第1党

 投票率は、戦後最低となる59.66%(小選挙区)に終わった。後述するとおり、比例区では約半分のブロックで自公両党合わせても得票率は40%に満たなかった。つまりほとんどのブロックでは「棄権」が第1党だったことになる。

 その上、12もの政党が乱立したため、「死票率」(落選した候補に投じられた票の、有効投票に占める割合)は56%と空前の規模に達した。

 当コラム筆者は、小泉郵政選挙で自民党が「大勝」した直後の2005年9月、次のように記したことがある。『3人が立候補してその3人にほぼ均等に票が分散した場合、理論上は34%の得票で1位となり当選する。同様に立候補者4人なら26%、5人なら21%で当選が可能になる。6人なら17%だ。…(中略)…この場合、実に83%の民意が切り捨てられるのだ。実際にはこんな極端な形になることはないだろうが、小選挙区制の下では、得票率の17%を議席率の100%に拡大することも理論上は可能なのだ。小選挙区制がいかに民意を反映しないシステムであるかがわかるというものだろう』(コラム「鉄ちゃんのつぶや記」第25号「小泉劇場の果てに」2005.9.12)。

 今回の選挙に関し、この記述に修正を加える必要はまったくない。4割の人が棄権した多くのブロックで、自公両党は合わせても4割程度の得票に過ぎなかった。6割の、さらに4割。つまり全有権者の4分の1の得票しか得ていないことになる。こんな状態で当選した連中が明日から「選良」「国民の代表」を名乗るのだ。いい加減にしてくれと言いたい。

 ●原発はやはり争点だった

 一般メディアは、脱原発を掲げた「第3極」が軒並み議席を減らしたのを見て、原発は争点にならなかった、と宣伝している。脱原発をあきらめさせようというメディア戦略なのだろうが、本当にそうだろうか。

 そこで筆者は、今回の選挙結果について詳しい分析を試みた。得られた結果は、メディアの宣伝とはまったく違うものだった。

 6人の候補者が乱立すれば得票率17%でも当選することができ、83%が死票となるような小選挙区は、あまりに制度としてデタラメ過ぎで、もはやデータ分析のためのサンプルにすらなり得ない。そこで筆者は、比例各ブロックにおける各党の得票数を基に、各党の得票率をブロックごとに割り出した。以下の資料を参照いただきたい。

 <資料1>2012.12.16総選挙 各党の得票数(比例区のみ)と各ブロックの与野党得票率  http://www.geocities.jp/stopnuclearkansai/121216election/121216election1.html

 <資料2>2012.12.16総選挙 原発推進勢力とそれ以外の勢力の比例ブロック別得票率  http://www.geocities.jp/stopnuclearkansai/121216election/121216election2.html

 資料1は、今後、自公政権ができるという想定で、新「与党」(自公)と新「野党」(自公以外)の得票数、得票率をまとめたものである。自公両党の得票率が低いのが東京(35%)、近畿と南関東(いずれも37%)、北海道と東北(いずれも38%)の各ブロック。東海も39%と比較的低い。一方、高いのは中国(49%)、四国と九州(いずれも46%)となっている。

 また、資料2は、原発推進勢力(自公+民主、維新、国民新党)とそれ以外の勢力の得票数、得票率をまとめたものである。原発推進勢力の得票率は北海道(69%)で特に低く、東京(70%)がこれに次いで低い。以下、東北と南関東(いずれも73%)、東海(76%)と続く。一方、高いのは中国と四国(いずれも83%)、次いで九州(80%)となる。

 この2つの分析結果から、「福島原発に近い地域、あるいは原発事故の被害を強く受けている地域ほど、自公両党、原発推進勢力が負けている」という明確な相関関係が確認された。得票率が議席に反映されない選挙制度がおかしいだけで、原発は明確に今回総選挙の争点だったと評価して差し支えないと思われる。

 ●院外での大衆闘争強化を

 すでに多くの識者・メディアが指摘しているように、自民党は、民主党に大敗し政権交代を許した前回(2009年)の得票数を下回った。投票率が前回より1割近く下がったことが得票減の背景にあると考えられるが、民主党が壊滅的惨敗を喫したこと、第3極が共倒れとなったことにより、相対的に自公両党が浮き上がっての勝利に過ぎない。国民が自公両党を信任したわけでないことは強調しておかなければならない。

 自公両党が参議院での議決を覆す3分の2の多数を衆議院で得たことで、脱原発、反TPP、オスプレイ・基地反対等の闘いを繰り広げる市民にとって極めて厳しい状況となったが、考えようによっては「2009年総選挙以前に戻っただけ」と割り切ることもできよう。

 むしろ、多くの市民が「政府もメディアも学者もみんなウソつき」「非暴力・直接行動で闘う以外に社会を前進させる方法はない」と知っていることは当時あり得なかった有利な材料といえる。敵は強大なふりをしているだけで実際は強大ではない。民意を反映しない選挙制度の下で選挙結果に一喜一憂するのではなく、全原発を一度は停止に追い込んだ私たちの政治的力量に自信を持って進んでいこう。どのみち世の中厳しいのだ。腹を据えて闘うならば、輝かしい明日への扉は必ず開かれると信じたい。

(黒鉄好・2012年12月19日)


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