大阪市職員基本条例に関する見解2012年3月10日なかまユニオン大阪市職員支部長 矢野幸一はじめに 大阪市の橋下市長は、大阪府と同様の内容である「職員基本条例」を現在開会中の大阪市議会に提案する予定である。しかし、この条例は地方公務員法の枠を超えた内容となっており、違法だと言わざるを得ない(市町村等で定める条例はその上級法の枠内でしか作ることができない)。しかもその内容は、大量首切り、職員の下僕化、大阪市の乗っ取りであり、到底容認できるものではない。しかも、こうした条例を制定して公務員制度そのものを変えていこうとする動きが全国的に出始めていることから、この条例案との闘いは大阪市だけのものではなくなってきている。この条例案の廃案に向けて全力で取り組んでいきたい。1 19000人の大量首切り 大阪市は「4年で職員半減」を発表した(2012年3月7日)。これは「市営地下鉄・バスやごみ収集、さらには病院、上下水道、保育所、幼稚園などを民営化や独立行政法人化、事務事業の見直し、大阪府との業務統合などを進め、15年10月現在の職員数(非常勤を除く)3万8000人を1万9000人に削減する」というものである。 つまり、民営化などによってそこで働いている1万9000人を解雇しようというのである。そしてそのことを実行していく根拠にしようとしているのが、この「職員基本条例」である。 まず、第39条(民営化等による分限処分)である。ここでは、「民営化後に当該事業を行う法人又は当該一部事務組合に就職する機会が与えられているときには、職員を分限処分により免職することができる」としている。さらには、「就職する機会が与えられていないときは、再就職の支援に努める」とされている。いずれにせよ、民営化によって生じた「余剰人員」は解雇できるとしているのである。 第26条(組織及び定数)で「任命権者は、5年ごとに職員数の管理目標を定めて、公表する」とし、その結果「余剰人員」が生じた場合の対応について、第38条(組織の改廃に基づく分限手続き)で定めている。そこでは、「分限処分の対象となる職員の選定は、職員の配置転換により最大限に分限処分の回避に努めたうえで、職員の勤務成績、勤務年数その他の客観的な事情を考慮して公平に行わなければならない」(第3項)している。しかし、その次の項では、「前項の配置転換は、職員の適正及び資質を評価することなく、安易に行ってはならない」(第4項)と釘を刺している。 また、「免職の分限処分をしようとするときには、あらかじめ当該分限処分の対象となりえる職員の範囲を定めて、退職を希望する職員を募集しなければならない」(第5項)「分限免職となる職員が希望する場合には、職員の再就職の支援に努めるものとする」(第6項)とされている。 民営化や定数管理によって生じる「余剰人員」の分限免職(解雇)は、民間労働者の闘いによって法理論として確定している「整理解雇の4要件」が適用されるのは、公務員も労働者であることから当然である。したがって、公務員の免職(解雇)の場合でも、この「整理解雇の4要件」に照らして妥当かどうかが問題となる。 「整理解雇の4要件」では、�/涌�整理の必要性(相当の経営上の必要性が認められなければならない)��解雇回避努力義務の履行(整理解雇を回避するための相当の経営努力がなされ、整理解雇に着手することがやむを得ないと判断される必要がある)�H鏖鮓杣堊�定の合理性(人選基準が合理的であり、あわせて具体的人選も合理的かつ公平でなければならない)�ぜ蠡海�の妥当性(説明・協議、納得を得るための手順を踏むこと)が求められる。 この4要件の趣旨からすると、解雇を回避する努力がいかにされたのかが求められるが、条例での回避努力は「職員の配置転換により最大限に分限処分の回避に努め」とされているのみである。この4要件が求めているのは、解雇しなければならない状況を回避する努力である。この条例の理念には、そうした認識が皆無だと言わざるを得ない。 また、手続きについても「廃職又は過員を生じる原因となった職制若しくは定数の改廃又は予算の減少に関し、議会に報告しなければならない」(第38条第2項)としているのみである。 次にこの条項が上級法である地公法(地方公務員法)との関係で正当かどうかについて検討する。確かに地公法第28条(降任、免職、休職等)4項には、「職制若しくは定数の改廃又は予算の減少により廃職又は過員を生じた場合」には、免職することができるという規定がある。しかし、この条項には、「基本的には公務員は解雇できない」とする大前提がある。何故なら、公務員は競争試験を経て選任され、それなりの身分保障を受ける(これを成績主義という)ことになっており、その代償として労働基本権(争議権)が制約されているのである。したがって、その身分保障を解除するには、それ相当の法的根拠が求められ、かつ政治によって左右されないことが身分保障の根幹となっている。 しかし、市条例は、政治判断である地下鉄や市バス、保育所・病院などの民営化によって生じた「余剰人員」を安易に解雇できると規定しており、明らかに地公法違反の条例だと言わざるを得ない。 また、この条例では、職員を相対評価して5段階に区分(第19条 相対評価)し、「人事評価の区分が2年以上継続して最下位の区分(職員の5%は必ず最下位に区分される)であって勤務実績が良くないと認められる場合」には解雇できると規定している(第34条第1項)。このことも不当・違法である。地公法には、確かに「勤務成績が良くない場合」免職できるという条項がある(第28条)。しかし、それはあくまでも身分保障を前提とした対応であり、市条例のように機械的に職員の5%を最下位にランク付けする相対評価を行い、解雇するというやり方は予定していない。市条例は、文言だけ地公法の条文を引き合いに出しているが、その法の意味するところを勝手に解釈しているに過ぎず、地公法違反の条例である。身分保障を前提とした地公法の解釈を捻じ曲げて、自由に解雇できる条例とすることで、公務員制度そのものの実質改悪を狙っているものと言わざるを得ない。2 厳罰主義による職員の下僕化 橋下市長は当選後、就任前にも係らず、選挙についてテレビのインタビューに応じた職員が「大阪都構想はよく分からない」という趣旨の発言をしたことをとらえて、「民意を語れるのは選挙で選ばれた私だけだ。職員が民意を語ることは許さない」と激怒し、インタビューに応じた職員2名に対して反省文を書かせた。その後も、違憲・違法な「労使関係に関する職員アンケート」を業務命令だとして全職員に強制した。こうした姿勢が、この条例案にも貫徹されている。すなわち、職務命令絶対主義であり、違反者に対する厳罰主義である。 第43条2項では、「職務命令違反行為の累計が5回となるとき又は同内容の職務命令違反行為の累計が3回となるときは、免職とする」とされている。さらには、「複数の非違行為を行った職員に対し懲戒処分を行う場合は、最も重い懲戒処分よりも重い懲戒処分を行うことができる」(第28条 懲戒の基準 2項)としており、その運用次第では1回の業務命令違反でも免職(解雇)まで行くことも可能となっている。 確かに、地公法第27条で「分限及び懲戒処分ができる」との規定はあるが、それは組織秩序破壊の程度を問題として処罰するという概念であり、市条例のように職務命令違反の回数を機械的に懲戒処分に結びつけるのは、法解釈として失当である。 市条例では、わざわざ第12章と章まで起こして「人事監察委員会」の設置を謳っている。役割は、「職員を懲戒処分する際に意見を述べる」(第55条1項)や「職員の再就職に関する事項について調査及び勧告を行う」(同条2項)としている。しかしその外にも「この条例の規定によりその権限に属するものとされた事項を処理する」(同条3項)としており、何でも扱えることになっている。 この監察委員会なるものは、言わば戦前の特高警察(特別高等警察の略)のようなものである。職員の懲戒処分を始めとした風紀全般に権限を持つ機関であると解釈できる。こうした機関は、他都市では類を見ないもので、今後の大阪市の厳罰主義を支えていくことになると思われる。 こうした市条例によって職員はますますものが言えなくなり、橋下市長の下僕化することになる。組織の活性化や機能強化は、一人ひとりの職員が活き活きと働き、間違ったことにはものが言える民主的な職場や人間関係が前提である。また、公務員として住民要求に応えていくには、こうした民主的な職場・人間関係が担保されなければならない。3 大阪市の乗っ取り 市条例第11条(特定幹部職の公募)では、「会計管理者、交通局長、水道局長、本市の執行機関の管理に関する組織の長(教育長を除く)の職、市会事務局長並びに高度な専門職を要する職として任命権者の指定する職(特定幹部職)への任用は、広く公募により行う」とされている。そして採用に当たっては「市長が指名するものによる面接」(第11条4項)となっている。これについては、先取りして交通局長に労務畑の民間人(京福電鉄副社長)を登用している。さらには、「専門的な知識経験を有する意欲ある人材を任期付き職員として、積極的に採用する」(第12条)、「民間企業その他の本市以外の団体に勤務した経験を有するものを継続的に採用する」(第13条)、「国内外及び官民を問わず広く交流人事を行う」(第14条)としている。 すなわち、大阪市の幹部は今後、橋下市長のお目にかなった人が次々と登用されることになる。このことで、現在特別顧問として人権無視のアンケートや組合調査を行っている野村修也弁護士などの橋下市長のブレーンを正式な大阪市の幹部として迎えることができるようになる。これは民間でよくみられる猟官主義(スポイルズシステム)というもので、自分の都合の良い人を探してきてポストを与えるというやり方である。こうしたことがまかり通ると、大阪市の組織そのものが橋下市長の私兵集団となる。そもそも公務員制度はその職員を試験で選考し、組織を構築していくことにその基本を置いているわけだから、こうしたやり方は公務員制度そのものの変質を狙ったものである。 そして、その狙いは大阪都実現の暁には、行政の幹部を財界から登用し、行政組織を財界の思うままにできるようにすることにある。まさに橋下市長、財界による大阪市の乗っ取りが始まったと見るべきである。 以上見てきたように、市条例はその本質において公務員制度の変質を目指しており、その意味で地公法の法趣旨に反しており、下級条例で上級の法を越えた規定を行っているところに、違法性が存在していると言わざるを得ない。 そして、条例は公務員を削減することを目的としており、民営化による行政財産の財界への切り売り、その結果である住民福祉などの切り捨てに繋がるものであるから、広範な市民との連携した闘いによって橋下市長の狙いに歯止めをかけていくことが求められている。以上