投稿コラム：名古屋議定書をめぐる叔父と姪の会話

投稿者：小林たかし


環境保護も雇用確保も必要なんや、労働者は。　 

――名古屋議定書をめぐる叔父と姪の会話―― 


さ　お　り◎オッチャン「生物多様性条約名古屋会議（ＣＯＰ10）」が名古屋議定書を採択したゆう
報道があったやろ。この会議の過程でも、３年前の「地球温暖化防止京都会議（ＣＯＰ３）」のとき
とおなじような途上国と先進国の利害の対立があったみたいやなあ。


オッチャン◇オッチャンは、「先進国／途上国」とか「南北問題」とかいう言葉は前からきらいなん
や。だから「他の生きものと共生するのに先進国も途上国も関係ない」とか「北も南も、私たちはみ
な地球の子」という言いかたには疑問を感じるんや。温暖化防止対策の二酸化炭素削減も頓挫しとる
し、アメリカも参加していない名古屋議定書にどんな効果があるのかよう分らんなあ。今回も「あい
まい規制」とか「抽象的目標」とかいわれてるくらいやからな。


さ　お　り◎そのアメリカはカリフォルニア州のことやけどな、ここは失業率が12％もあるのや。そ
んで「カリフォルニア州温暖化対策法の施行を、同州の失業率が１年を通じて5.5％に低下するまで
凍結する」ゆう法案が提出されとるって新聞に書いてあったんや。提案者の背後には石油化学企業が
何社も顔をそろえておって、この法案に反対する自然保護団体と対決しそうなんやて。「雇用確保か
環境保護か」というより「企業利潤か自然保護か」という構図かな。労働組合のことは書いてなかっ
たけど、労働者は「雇用確保も環境保護も」をスローガンにすべきやろな、オッチャン？


オッチャン◇そやな、イギリスのウィリアム・モリスは1884年の『芸術と社会主義』というパンフレ
ットに、労働者が確保すべきものとして次の三つをあげとるんや。①恥ずかしくない適切な仕事、②
快適な環境、③余暇、とね。それぞれコメントも書いとる。①仕事は価値があり楽しいものでなけれ
ばならない、②どんな口実にせよ煤煙で日の光を暗くすることは許されない、③人間には個人的な思
索をしたり夢想にふけったりする時間がなければならない、と。「他の生きものとの共生」もええけ
ど、「世界の労働者の共生」が先決問題と思うのや、オッチャンは。


さ　お　り◎うーん、そのモリスさんのいうのは正しいと思うけど、いまの三つ全部が実現するのは
難しいやろな、すぐには。目標としてはええと思う。③の余暇なんかも、商業主義の怪物テレビが振
りまくスポーツやグルメやファッションでアップアップしとる労働者は、夢想にふける時間も企業に
うばわれとるからなあ。


オッチャン◇そこやねん。環境破壊したんは国やら州ではなくて、企業なんや。だいぶ前に問題にな
ったオゾン層の破壊も、犯人が1931年にアメリカの大企業デュポン社がつくったフロンガスだってこ
とはみんな知っとるけど、フロンで大もうけしたデュポン社が企業責任をとらされたゆう話は聞いた
ことないやろ。


さ　お　り◎そやな。名古屋議定書について「南北協調で資源循環のスムーズな流れをつくる」こと
を地球に定着させる、とかいうのも怪しい話やな。「商業主義のスムーズな流れをつくる」ことにな
りそやな。途上国の資源で巨額の利益をえている先進国の大企業も、それで潤っている途上国の資本
家たちも、環境破壊の責任とって営業停止することは考えられんからなあ、いまは。どないしたらえ
えのやろ？　夢想にふけっとる場合ちゃうで、オッチャン。


オッチャン◇そやな、ここは夢想でなく思索せなあかんな。「南北の共生」でなく「世界の労働者の
共生」をつくるにはどうするかを考えんとな。また話そや、さおりくん。


【2010.11.01　小林たかし‘記す】