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黒鉄好@安全問題研究会です。

遅くなりましたが、信濃川発電所へ私も調査に行きましたので、報告を兼ねて感想を書きます。

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JRに安全と人権を!市民会議(略称:JRウォッチ)のメンバーとして、6月8〜9日、私も「不正取水」が行われたJR東日本信濃川発電所へ行ってきた。

この不正取水問題は、今年2月、「データ改ざん」の発覚と、これを受けた国土交通省北陸地方整備局によるJR東日本への水利権停止(=取水禁止)処分によって、一気に全国に知られることになったが、信濃川からの国鉄〜JR東日本による超過取水は20年以上前から行われていたのである。

問題の発端となったのは1985年。この年、すでに信濃川から毎秒167トンを取水する権利を得ていた旧国鉄に対し、追加で150トン取水することを十日町市が許可した。しかもこの決定は、住民と議会の反発を恐れた当時の市長によって「専決処分」により行われたのだ。

地方自治法第180条の規定によれば、「普通地方公共団体の議会の権限に属する軽易な事項で、その議決により特に指定したものは、普通地方公共団体の長において、これを専決処分にすることができる」とある。専決処分は首長が独断で行使できる権限ではなく、議会がわざわざ審議する必要がないような軽微な事案について、議会が首長に権限を委任した場合のみ許されている例外的事項である(「●●市専決規則」のような名称で条例として定められ、専決ができる範囲が限定的に列挙されるのが普通である)。住民生活に直結する信濃川からの追加取水が「軽易な事項」であるとは考えられず、当時の市長の専決処分は、地方自治法に定める要件を満たさない不当な処理だった可能性が高いが、こうした違法行為を行ってまで「信濃川処分」を強行した背景には「国策」があった。国鉄という巨大な公共企業体が実施する信濃川からの取水が「国策」と受け止められたこと、また地元・新潟に強い影響力を持っていた田中角栄元首相の意向で、地元の一地方自治体に反対できる雰囲気はなかったという。

結果的には、この150トンの追加取水が信濃川の命取りとなった。信濃川で漁師として生計を立てていた人は「最後の150トンですべてが終わった」という。これ以降、信濃川から魚は消え、漁師たちは廃業して生活の糧を奪われていった。子供たちが楽しみにしていた魚の放流も、効果に結びつかないためいつしか消えていった。

「信濃川をよみがえらせる会」の話によれば、旧国鉄が再開発と称して行った150トンの追加取水は、国鉄の川崎火力発電所が老朽化で廃止となるため、その代替措置と地元には説明されたが、実際には川崎火力発電所は建て替えられ今も発電が行われているという。しかも、新潟県中越地震(2004年10月)により一時的に信濃川発電所からの取水が停止したときも、首都圏の電車は何ら影響を受けることなく動いていたのだ。国鉄〜JR東日本は住民に二重、三重のウソをついていたのではないか。そんな疑念が湧いたが、地元との交流のなかでそれは氷解した。信濃川発電所の電気は、山手線電車の運行にも使われているが、主な用途は駅ビル事業だったのだ。

「信濃川をよみがえらせる会」の根津東六・副会長(前十日町市議会議員)は、「信濃川が枯れたことにより、市は地下を250メートルも掘り進まなければ水道水を汲み上げられなくなった。このため、十日町市は信濃川のすぐそばにありながら、新潟県で最も高い水準の水道料金を負担させられている」と窮状を訴えた。私はそれを聞いて、自分たちが米を作っているのに米を食べられなかった江戸時代の農民を思い出した。「百姓は生かさず殺さず」が江戸幕府だとすれば、川も自然も殺してしまうJR東日本は江戸幕府以下の泥棒企業だ。

翌9日は、十日町市役所を訪問。克雪維持課の係長らと意見交換を行った。「地方は人も水も都会に吸い上げられているが、そのことを都会の人々にご理解いただけなかったことが残念」と担当者は述べ「特に石原・東京都知事にはこのことを認識してもらいたい」と語気を強めた。「JR社内処分だけをもって国交省は良いと考えているようだが、私たち地元は“過去の清算”と謝罪を要求する」とも述べた。その内容も「すでに清野智・JR東日本社長が行った議会と市長への謝罪では不十分であり、住民への謝罪が必要」との認識だった。

「JRの企業体質に関しては、私たちの立場で申し上げる事柄ではない」と、初めのうちは口が堅かった市役所担当者も、次第にうち解けてくると、ざっくばらんに語るようになった。最後には「JRには公益事業を行う企業にふさわしい体質に変わってもらいたい。それが私たちの願いだ」と語ってくれた。私たちJRウォッチと十日町市、そして「信濃川をよみがえらせる会」の思いは同じだった。

2007年、安全問題研究会は羽越線事故の現場を訪れ、その結果を20ページの事故調査報告書としてまとめた。その報告書の「あとがき」で私はこう記した−−『今、特に地方の人たちは思い出してほしい。高度成長時代に誰が東京の発展を支えたのかということを。地方の貧しい農家の二男、三男が農業を長男に任せて離農、大量に東京に流れ込んだことで、歴史上まれに見る高度経済成長は達成できた。地方から吸い上げた人材を安く使うことで東京は発展していったのである。支えてくれた地方の人たちに感謝しなければならないのは東京のほうではないのか』と。

今回の信濃川訪問でこの思いは一層強まった。とはいえ、地方はなにも東京に一方的恨みを抱き、東京からの収奪のすべてを拒否するというスタンスに立ったわけではない。「水を供給しないわけではないが、せめて東京の電車が信濃川の水で動いているという事実に感謝を示して欲しい」「信濃川をよみがえらせることが公共性であるならば、首都圏の電車を滞りなく動かすことも公共性」と十日町市役所係長が語ったように、両者のバランスを考えて欲しいというのが十日町市の要求なのだ。

ここにひとつのデータがある。農林水産省が5月29日に発表した2008年度の都道府県別食糧自給率である(http://www.maff.go.jp/j/press/kanbo/anpo/pdf/090529-01.pdf)。東京都はカロリーベース食糧自給率がたったの1%であるのに対し、新潟県は99%とほぼ自給を達成している。ここでも東京は地方の食料を収奪して生活していることがわかる。私は今こそ、東京初め大都会で便利な生活を享受している人々に対し、「誰が誰のおかげで生活できているのか。少しは地方に感謝せよ」と訴えたいと思う。

同時に、「純粋公共財であり、命の源である川を一企業の私有物にして良いのか」という根本的な疑問を抱いた。信濃川発電所は、農業用水の取水の役割も兼ねており、このために国土交通省は水利権停止の処分を農業用水分50トンに限定して解除せざるを得なかったが、農業用水の取水の役割をこの発電所に負わせたのは、それが国鉄という公共企業体の所有物であり、その限りにおいて公共性を維持できると判断されたからだろう。だが、その公共性が国鉄解体により崩壊し、川はJR東日本という暴走企業の私有物に貶められてしまった。このことが信濃川不正取水問題の背景にあることは間違いない。信濃川をよみがえらせるため、川を純粋公共財にふさわしい所有形態に戻していくという段階に私たちは踏み出すべきだろう。

反逆するものを許さない「国策」としての信濃川処分と、同じく国策による「国労処分」はひとつの糸でつながっていた。駅ビル事業(つまり「エキナカビジネス」)に使う電気を発電するため、水を奪い尽くされた信濃川と、鉄道部門から4割近い職員を削減してエキナカビジネスに振り向けた結果、安全が崩壊して乗客が死亡した羽越線事故。ここでも「利益第一の暴走とエキナカビジネス」というひとつの糸で2つの事象がつながった。ここにこそ問題の核心があるのだ。

今回の信濃川訪問を通じて、JRウォッチのメンバーからは「背景が複雑だった不正取水問題が、地元を訪問することでようやく理解できた」という声が上がった。パソコンやテレビの画面を見て理解できたつもりでいても、地方には実際に足を運ばなければ見えてこない問題がいくつもある。安全問題研究会としても、今後、国鉄「改革」がもたらした負の側面である地方切り捨て問題に積極的に取り組んでいきたい。

●ほくほく線の現状と将来など
今回の信濃川発電所訪問では、越後湯沢から第三セクター「北越急行」(ほくほく線)を利用した。この路線は、もともと国鉄北越北線として計画されたが、1980年、国鉄再建法施行に伴い工事が凍結となる(ほくほく線という路線名称は北越北線に由来する)。再建法施行当時、工事凍結線は私鉄か第三セクター等、JR以外の責任ある経営体が引き受け手とならない限り工事再開を認めないというのが政府の基本方針だった。この工事凍結で未完成線の多くが開通の日を見ないまま消えていったが、阿佐海岸鉄道、智頭急行、そしてこの北越急行の各線は第三セクターが引き受け手となることで工事が再開され、開通へとこぎ着けた。

特急列車が在来線としては日本最高速度の160km運転を行うが、信号は新幹線で使用されているATCではなく、在来線と同じ地上信号とATS−P方式である。特急列車に130kmを超える高速運転を認めるときは、2つの青信号(青+青)でそれを指示する。運転士は、青信号が1つのときは「進行」と喚呼するが、2つの青信号が表示されているときは「高速進行」と喚呼する。高速走行中に青が1つだけの信号を確認したときは、130kmまで減速しなければATS−Pにより自動的に減速される。このような運転方式を採っているのは全国でもこの北越急行だけであり、きわめて珍しい形態である。

ところで、北陸新幹線が2014年に長野から金沢まで延長開業すれば、ほぼ並行して走るほくほく線は新幹線に客を奪われ、経営危機が深刻化するだろう。そのとき、長距離輸送は新幹線、地域輸送はほくほく線という棲み分けがきちんとできればよいが、新幹線と第三セクターが併走する「並行在来線」の実例から見ても、そうした棲み分けが成立する可能性はきわめて低いと思われる。これだけの高規格路線を造りながら、20年足らずでスクラップ同然にしてしまうこの国の鉄道政策とはいったい何なのだろうか。地域密着のローカル線や公共交通を活かし、大切にしていく交通政策への転換が迫られている。そのとき、公共交通を守る闘いと信濃川をよみがえらせる闘いは、ひとつになるに違いない。

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黒鉄 好 aichi200410@yahoo.co.jp

首都圏なかまユニオンサイト
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