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LNJ Logo 木下昌明の映画批評「フツーの仕事がしたい」「トウキョウソナタ」
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●ドキュメンタリー映画「フツーの仕事がしたい」

どこにもある現代版「蟹工船」
たたかいは常にいまここから

 マイケル・ムーア以来、市民権を得たようにドキュメンタリー映画がよく劇場公開されるようになった。時として劇映画よりもこちらの方が、隠れた歴史や現実を掘り起こしていて刺激的だからだ。

 土屋トカチの「フツーの仕事がしたい」という70分の作品も、そういう一本に入る。「現代版『蟹工船』」と紹介される映画は、セメント輸送に携わる36歳のトラック運転手・皆倉信和が主人公だ。皆倉は長時間労働(1カ月になんと552時間も働かされ、家に帰る時間もないありさま)に悲鳴を上げ、このままでは死んでしまうとユニオンに入るが、そこから騒動が起きる。

 皆倉は画面で見ると小柄でおとなしそうで、ヤトラック野郎ユのイメージからは程遠いその彼は、一度は会社の強要でユニオンを脱退する。しかし、それにもかかわらずクビを宣告されたので、ユニオンをやめないと宣言する。

 土屋は、皆倉が弱々しい表情を浮かべつつ、事務所で社長と対峙するところからカメラを回し始める。皆倉自身のたたかいもそこから始まる。そんな折、皆倉の母が亡くなる。葬儀の日、やくざまがいの男たちが斎場にやってきて暴力を振るう。土屋はカメラをたたき落とされながらも、撮ることをやめない。

 土屋は一部始終をユニオンの立場に立って撮り続けた。だから、そもそも劇場公開用に作ったわけではない。だが、土屋がカメラを回し続けていくなかで、今日マスコミを騒がせている労働・貧困問題の「元凶」に正面から光を当てることになったのだ。

 その後、皆倉は倒れ、大手術を受ける。怒った仲間の運転手らは親会社の玄関先に映写幕を張り、土屋が撮ってきた映像を「下請けの実態」として上映する。映画は劇場で公開するものとは限らない。

 たたかわなければ生きていけない若者の命がけの姿がとらえられている。(木下昌明)

*映画「フツーの仕事がしたい」は10月4日から東京・ポレポレ東中野ほかで順次公開
*「サンデー毎日」2008年10月5日号所収

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●映画「トウキョウソナタ」

うれし都たのし都の花は枯れ
「東京」がゆっくり沈んでいく

「東京」をタイトルに付した映画は数あるが、いまだに小津安二郎の「東京物語」を超える作品に出合ったことがない。小津の「東京」は、1953年、日本が戦争の疲弊から立ち直り、高度経済成長へ向かっていた時代、地方に住む老夫婦が東京の息子娘夫婦を訪ねていく物語。

東京への一極集中化が始まり、どこへ行っても「家の狭さ」が強調され、核家族化が進みつつあった。そのなかで、美容院を営み利己的、打算的になっていく杉村春子扮する娘の性格と、戦死した次男の嫁に扮した原節子の、一人つましく生きながら他人を思いやる心やさしい性格が対照的に描かれていた。そこに興隆期の東京の特徴も見られた。

現代の東京の一面に光を当てた黒沢清監督の「トウキョウソナタ」が公開されるが小津作品には遠く及ばないものの、今年のカンヌ国際映画祭で審査員賞を受賞しただけあって、面白く見応えもある。

映画は、一見普通に見えるが、内実はもろく危うい4人家族を中心に描く。香川照之と小泉今日子が夫婦役で、大学生と小学生の息子2人がいて、線路際にある家で暮らしている。しばしば電車の騒音に包まれる環境は、一家の境遇をも表しているのか、その香川はドラマののっけからリストラされる。課長職もへったくれもない。そこにいまの企業の酷薄さが出ている。

それでも彼は毎日出勤するふりをしてハローワークの長い行列に加わったり、炊き出しにありついたり。高校時代の同級生と出会ったら、彼はしゃれた家に妻と娘で暮らし、身なりもきちんとしていたが失業していた。その彼が「俺ら、ゆっくり沈んでいく船みたいだよなあ」とつぶやく。

この映画には、サラリーマン生活から脱落してプライドを失い、存在感もなくしていく人々の悲哀がとらえられている。そこに衰退期の「東京」がみえる。 (木下昌明)

*映画「トウキョウソナタ」は9月27日から東京・恵比寿ガーデンシネマ、シネカノン有楽町ほか全国ロードショー
*「サンデー毎日」2008年9月28日号所収


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