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LNJ Logo 木下昌明の映画批評『ハダカの城』
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●『ハダカの城』

相次ぐ食品偽装事件の先駆け
「雪印」を告発した男のその後

 食品の偽装・不正問題が次々と世間をにぎわしている。もうけ第一の風潮がはびこり、食の安全が脅かされている。一方で、これを悪として内部告発する人々もいる。それには昨年施行された「公益通報者保護法」が大きい。

 5年前、外国産牛を国内産と偽った雪印食品を内部告発した事件があった。告発者は西宮冷蔵(兵庫県西宮市)の水谷洋一社長で、これを契機に「保護法」が生まれた。しかし、その後、西宮冷蔵と水谷社長はどうなったのか。その疑問に焦点をあてた柴田誠監督のドキュメンタリー映画「ハダカの城」が公開されている。

 告発した水谷社長も無事ではすまなかった。西宮冷蔵は雪印食品の崩壊とともに、食肉業界から取引を中止され、監督官庁の国土交通省からは雪印の指示とはいえ、うその在庫証明書を出したとして営業停止処分を受け、廃業に追い込まれた。

 映画は、すべてを失った水谷社長が、大阪の玄関口・梅田の広い歩道橋で本を売っている場面から始まる。背後には「まけへんで!! 西宮冷蔵」の幟が寒風にはためいている。水谷社長はひげを伸ばし、再建支援のカンパを募る。その姿を、柴田監督はさまざまな角度から撮っていく。

 カメラはまた、電気の通じない倉庫で息子、娘と暮らす水谷社長の生活もとらえる。

 圧巻は、懐中電灯の明かりの中で問わず語りに、なぜ告発に踏み切ったのかを打ち明けるシーン。それは“正義”のためだけではなかった。引き金は一本の短い奇妙な電話だった……そこから人間心理の不可思議さもうかがえよう。

 やがて水谷社長は会社再建に向けて動き出すが、妨害に遭い、再び歩道橋へ舞い戻る。そんななかから、一人の男が燃やす“再生”への執念も浮かび上がってくる。

 ラスト、フォークリフトを巧みに操る水谷社長の働く姿がさわやか。(木下昌明)

*『サンデー毎日』(2007/11/11号)を若干修正したもの。映画は、東京・ポレポレ東中野で11/9までモーニングショー上映中。


Created by staff01. Last modified on 2007-11-03 11:13:20 Copyright: Default

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