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「ニセ難民」を作る韓国政府、ハンスト27日目エジプト難民の絶叫

[ワーカーズ ルポ] 「安全に暮らせることを望むだけです」

チョン・ウニ記者 2018.09.12 11:18

「拷問に反対する活動をしていました」。 アナスが乾いたつばを飲み込みながら口を開いた。 彼がエジプトを出た理由はそうして始まった。 アナスの過去はエジプト政府と同じように曲がりくねっていた。 アラブの春の余波でこれまで3度も政府が変わった。 「韓国でもうひとつの苦痛が待っているとは思いませんでした」。 アナスの目がしらが赤くなった。 彼のハンストは27日に入った。

青瓦台に近い孝子治安センターの前。 アナスと難民三人がイチョウ一本を柱にして、人生をつかんでいる。 テントもない文字通りの野宿座り込みだ。

[出処:行進しているアナス氏]

生きるために断った食事

アナスは公正な難民審査を要求するために8月17日、ひとりで光化門の片隅でハンストを始めた。 臨月の妻の他には誰も知らなかった。 一人の男が彼のプラカードを壊そうと飛びかかったが、それ以外には特別な反応はなかった。 彼は杖を付いて歩いた。 働いて怪我をした膝がうずいた。 3日目からは青瓦台近隣孝子治安センターに場所を移動した。 彼の同僚、ザイードがハンストに合流した。 警察以外に人影は少なかった。 しかし彼のハンストがマスコミに載ると「自分の国に帰れ」というプラカードが集まった。 難民対策国民行動と済州難民対策道民連帯という名前が付けられていた。 SNSで「韓国はキリスト教徒が多いから自分の国で戻りなさい、 神様もお前たちを捨てた」というメッセージもあふれた。 9日目にはエジプトから「お前の首を刎ねるまで追う」という脅迫メッセージが飛んできた。 10日目に子供が生まれた。 韓国政府からはまだ何の反応もなかった。 ハンスト14日目にはムナと彼の夫ワリドが同調ハンストを始めた。 韓国の活動家、チョラもハンストを始めた。 17日目には人道主義実践医師協会所属の医者たちが座込場を訪ねてきてくれた。 医療スタッフの勧誘で4人とも緑色病院に一日入院したが、アナスは点滴を拒否した。 翌日、みんな座込場に戻ったが、この日の晩、アナスがショックでまた応急室に運ばれた。 約1時間後にムナも気を失った。 医療スタッフはアナスに急性腎不全症を理由にハンスト中断を薦めた。 これまでに体重の10%が減っていた。

アナスは同僚と共にハンスト闘争で、韓国政府が △すべての難民申請者に対して認定審査手続きを「専門的かつ公正」迅速にして、 2年以上決定が遅れている自分たちの難民申請に即刻答え、 △大多数の真の難民申請を組織的に歪めた法務部に対して深い調査を実施し、 △すべての難民に対する侮辱と蔑視を止め、人間らしく待遇すること、 そしてこれまで彼らに加えられた虐待に対して謝罪することを要求している。

▲4日アナス氏がショックで意識を失って応急室で移送された

▲ザイード氏が受け取ったヘイトメッセージ

こわれた頭蓋骨とつぶれた指

アナスは今年26歳だ。 エジプトのジャーナリストだった彼もエジプト蜂起に飛び込んだ。 最低135人が犠牲になった革命だった。 結局、政権は変わったが、変わったことはなかった。 彼はデモに参加し続けた。 そのうちに監獄で受けた拷問のために、アナスは出獄した後に拷問反対運動を始めた。 YouTubeには彼が「私は拷問に反対する」と発言する記者会見映像(2013年6月4日付)もある。 この映像でアナスはかたい表情で話しているが、顔は今よりはるかに若い。

当時のエジプトは、ムハマド・ムルシ大統領就任1周年を前にしていた。 蜂起後に選挙で執権した政府であった。 しかしすぐに軍部のクーデターと現アプテル・パタ・エルシシ政権の独裁が始まった。 国際人権監視機構(HRW)の2018年の世界報告書によれば、 エルシシ政府は抵抗勢力を全面的に弾圧している。 独立した結社を認めない非NGO法を導入して非常事態を再開した。 また保安軍が人権侵害を行っても「テロとの戦争」を口実に事実上、 絶対的な免責権を認めている。

▲エジプトで拷問反対記者会見をしているアナス氏

▲拷問でアナス氏の手の甲に残った傷

死を避けてきたが

今のアナスの顔はYouTube記者会見映像の時よりはるかに暗い。 彼が韓国に到着したのは2年前の7月だ。 アナスの初めての経由地はマレーシアであった。 しかしすぐ韓国行飛行機に乗った。 もっと安全な所だと信じていた。 妻と彼はもちろんビザがなかった。 そのため仁川空港に3日抑留された。 難民申請はここで直ちに行った。 その後、韓国政府から臨時滞留ビザ(G-1)を受けた。 6か月間、韓国政府は40万ウォンを支援してくれた。 とても運が良かった。 昨年だけでも難民申請者の約3.2%しか支援金を受けられていない。

法務部は20か月後に難民審査の結果を送ってきた。 拒否通知であった。 ハングルで15行の内容は、もちろんアナスがきちんと理解できなかった。 しかし知人を通じて英語に翻訳してもらった後も、その内容を理解できないのは同じだった。 法務部は彼が臨機応変に常識外の陳述をしたと主張した。 それ以外にも政治団体に加入して活動した事実がなく、難民と認定できないと説明した。

アナスは法務部にデモの前歴や動画や、裁判を立証する書類をすべて出したが、きちんと評価されているのか疑わしかった。 エジプトは韓国のように電算化されておらず、この点を利用して脱出に成功したわけだが、 これもまた無視されたようだった。 アナスが感じるには、法務部は彼が物事を理解できない人であるかののように侮辱しているだけだった。 アナスの夫人はまだ難民申請審査も受けていない。 彼の子供は生まれてもう半月経つが、まだ国籍もない。 アナスは「韓国は国際難民条約に加入した国です。 韓流のためにイメージも良かったし、それで先進国のようにシステムもきちんとしていると考えました。 もっと人間的だと期待しました」とし、虚しいといった。 アナスは韓国政府の決定のとおりにエジプトに戻れば、 自分は最低7年、妻は最低2年の刑を受けると予想している。 もちろん殺害されなければだ。

▲記者会見中、ムナ氏がチョラ活動家を抱きしめて泣いている。ムナ氏とチョラ氏はこの日同調ハンストを始めた。

本当の難民を防ぐ「ニセ難民」のレッテル

法務部の難民審査の過程を理解できないのは他の難民も同じだ。 アナスとともにハンストをしているザイードも、 難民申請が不許可になった理由に納得できなかった。 法務部は、彼がエジプトで脅かされておらず、 安全に出国したなどの理由で難民の地位を認めなかった。 だがザイードは2011年のエジプト蜂起に参加し、 2012年に司法府に対する抗議デモをして逮捕された後、 2014年、結局懲役5年の刑を受けるなど、政治的迫害を受けてきた。 ザイードは監獄に行けば死は避けられないと考え、 アナスと同じように行政手続きが長くかかる点を利用して韓国に逃げて身を守った。 彼が韓国で難民認定を待ちはじめて、すでに2年5か月が過ぎた。

法務部はアナスとムナが気を失って応急室に運ばれると、立場は出した。 当時の状況を報道した4日付のチャムセサン記事(「ハンスト エジプト難民2人、ショック、意識不明に応急室運ばれる」)に対して法務部は翌日、 説明資料を出して「難民審査の迅速性と専門性強化のための難民審査インフラ構築を積極的に推進する計画」と説明した。 しかし難民の闘争を支援する活動家は、説明というよりも弁解だと見た。 即刻の対策は何もないためだ。

韓国政府の難民認定率が低いことはすでによく知られる事実だ。 昨年も4.1%に留まった。 難民人権センターによれば、支援予算も凍結している。 しかし同じ期間に難民申請者は2400人増えた。 難民支援予算の約8億ウォンは政府が韓国に居住する移住民に外国人登録証発給手数料として 昨年受けた139億5千5百万ウォンの5.85%に過ぎない。 また難民審査担当公務員は全国に37人だけだ。 ひとりが約270人の難民審査を引き受けなければならない。

しかも難民審査の過程では虚偽通訳の問題も起きた。 難民人権センターによれば、虚偽通訳が特定面接官と通訳人により組織的に行われていた。 幸い、裁判所が相次いで難民不認定処分を取り消せという判決を出し、 資法務部が一部改革措置を出した。 これにより法務部はほぼ同じ時期に面接した事件を全数調査して、55件を再処理した。 しかし難民人権センターは問題になった面接官と通訳人が行った審査だけで数百件あるのに、 法務部は特定の時期に調査を制限して事態を密封していると批判する。 虚偽審査で責任を取ったり処罰を受けた人はいなかった。

その上、政府の難民政策は逆行している。 7月、難民反対請願に71万人が署名し、政府はこれを口実に難民法改悪案を出した。 パク・サンギ法務部長官は8月1日、青瓦台SNS放送「11時50分青瓦台です」に出て 「難民審査時間を現在の2〜3年から1年以内に短縮し、 本当の難民は保護するが虚偽難民申請者は迅速に選び出す」と明らかにした。 またSNSアカウント提出義務化や身元検証を強化し、 迫害の事由はもちろん、麻薬検査、伝染病、凶悪犯罪などの審査を進めると説明した。 難民を犯罪化する統制だけ強化するということだ。 政府はまた昨年の初夏にイエメン難民が問題になると、 制度を悪用するという理由で6月1日からイエメンをノービザ(ビザなしで一か月間滞留できる)対象国から除外し、 8月1日にはエジプトも除いた。 国会では権七勝(クォン・チルスン)(共に民主党)、 金鎮台(キム・ジンテ)(自由韓国党)議員などが 政府の難民審査拒否権限を強化する難民法改悪案8件を発議している。

こうした政府と国会に対し、難民当事者と人権活動家は嫌悪勢力の態度とあまり違わないと指摘する。 難民人権センターのコ・ウンジ活動家は 「政府や国会がイエメン難民状況を経て乱用のフレームで難民の正当な権利要求を問題視している」とし 「政府は一貫してニセの難民と難民の犯罪の可能性を憂慮する。 しかし犯罪に対する憂慮は、イルベや嫌悪勢力が作った。 難民や移住民増加は犯罪との相関関係が全くない。 むしろ難民の場合、犯罪を行えば即刻追放される程、彼らの制度的統制は強い」と批判した。 彼はまた「政府は難民に対するフェイクニュースや、根拠のない恐れを国民が解消できるように、 制度と事実を国民に説明しなければならないが、 パトロールを強化するだとか難民を犯罪者と前提にする措置を出して、 むしろ不安を大きくしている」と批判した。

8日間同調ハンストをしたチョラ社会変革労働者党社会運動局長も 「国民対難民、本当の難民対ニセ難民の構図が最大の問題だ。 まるで犯罪者が難民の地位を利用して韓国人に害を与えるためにくるという発想」とし 「政治的迫害から逃げてきた彼らは、難民としての尊厳と生存権がある。 労働権問題も当然ではないか? 金を稼ぐために来たと非難するが、生存のためには金も稼がなければならない。 だが難民を韓国社会最末端の非正規職として使い捨て、むしろ彼らを加害者と見るのが韓国社会の現実」と批判した。

こうした韓国政府に対し、難民当事者たちはあきれるばかりだ。 ザイードは「われわれは罪のない人だ。 難民であることを立証する責任を私たちに押し付けることからして無礼だ」とし 「2年以上韓国にいた。 難民として認定されることを願いながら平和に暮らしてきた。 こうした私たちをテロリストだというのは悪意の扇動でしかない。 本当のテロリストは私たちを攻撃する嫌悪勢力だ。 私たちを政治に利用するな」と話した。

「安全に暮らせることを希望するだけです」

アナスは怪我をして2か月経ったが、まだ杖をつく。 何日か前にはある建物に杖をひっかけて大変な目にあうところだった。 ある老人が折って悪口を言って行ってしまった。 彼は安山にある繊維工場で働いて労災にあった。 高さ3mのバルコニーで繊維の束を頭の上で受けて渡す仕事だった。 彼は「未登録移住労働者も忌避する職場です」と説明した。 アナスは事故後、直ちに病院に行ったが、診断書はとんでもない内容だった。 彼は頭と足を怪我したのに病院はその理由が「詳細不明の失神」と記録した。 臨時滞留ビザを受ければ政府が認める事業場で最大3か月まで働ける。 だが人員の出入りが多いので申請する事業主はあまりいない。 そのため難民の労働条件は劣悪になりやすい。 ムナの夫ワリドも仕事をしていて腰を傷つけた。 それでもアナスは「重要なことは、難民申請手続きの問題です」とし、話が広がることを望まないというかのように首を振った。 ザイードは「ヘイト勢力が主張するように、『本当の難民』ではなく金を稼ぎに来た『ニセの難民』というフレームに巻き込まれるのを望まず用心している」と説明した。

「妻と子供が苦労せずここで暮らせればいい。 どんな事も関係ありません。 韓国で安全に暮らせることを望むだけです」。 アナスは半月前に生まれた子供の名前がアラビア語で「モタセム」にした。 彼はまだ公式な記録がない赤ん坊をなだめるかのように、 赤ん坊の名前をハングルに一文字、一文字、書いてくれた。 ハングルでは「抵抗」という意味だ。

難民を支援して韓国政府の即刻対策を要求してきた人権団体は、 来る16日午後2時ソウルの普信閣で「問題は難民でなく難民嫌悪だ」というスローガンで難民とともにする行動の日を準備している。 チョラ局長は「嫌悪勢力は罪のない彼らを特定の宗教や民族性を理由に テロリストとレッテルを貼り、 政府と公権力は彼らを幇助、味方している」とし 「良心を持つ人なら、そしてこの社会の主体が民衆で被抑圧民であることに同意するの人なら、 一緒に連帯して対抗しよう」と訴えた。[ワーカーズ47号]

付記
エジプト難民とのインタビューの通訳を支援してくれたチョラ社会変革労働者党社会運動局長とクレア、ハム映画プロデューサーに感謝申し上げます。

原文(ワーカーズ/チャムセサン)

翻訳/文責:安田(ゆ)
著作物の利用は、原著作物の規定により情報共有ライセンスバージョン2:営利利用不可仮訳 )に従います。


Created byStaff. Created on 2018-10-05 02:03:43 / Last modified on 2018-10-09 01:00:44 Copyright: Default

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