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民主党の「如意棒」、最低賃金を叩く

[ワーカーズ・イシュー]最低賃金改悪…国会の詭弁、民主党の急変

キム・ハンジュ記者 2018.06.25 11:20

「すべての人を幸せにする『如意棒』があったらうれしい。 しかし私たちが持っているのはそんな如意棒ではありません。 今ある状況でどうすればせめて次上位所得までを保護できるか悩んだ末の案です。」 (民主党韓貞愛議員、5月28日国会本会議)

涙の重さは改悪された最低賃金ほどに軽かった。 5月28日国会本会議。 共に民主党の韓貞愛(ハン・ジョンエ)議員は「最低賃金法改悪案」が通過すると涙を流した。 周辺の同僚議員が慰める姿も見られた。 ある議員は環境労働委員会の民主党幹事で、ずっと改正案通過を訴えて主導してきた人物だ。 この日の在席議員198人中160人が賛成し、 民主党議員は90人中76人が賛成、 改正案は「無事に」通過した。 彼女が流した涙は罪悪感だったのか、さもなくば安堵と喜びだったのか。

政府と民主党が結局、使用者の願いをかなえた。 企業が昨年から最低賃金引き上げが負担になるとし主張してきた最低賃金の算入範囲拡大を本格的に受け入れたのだ。 政府は6月5日に閣僚会議を開き、改正案を議決した。 文在寅(ムン・ジェイン)大統領は労働者が青瓦台の前で何日も集会を開いても黙々無返答を続けた。 労働者の賃金を「与えて奪う」文在寅大統領と160人の国会議員。 彼らは相変らず最低賃金法改正は「改悪」ではないと声を高める。 「ワーカーズ」が彼らの声を十分に調べてみた。

国会が持ってきた算入範囲の議題…最賃委のせい?

「これまで最低賃金委員会が最低賃金改善TFを作り、算入範囲を議論してきたが結論が出せませんでした。 それで環境労働委が、国会が国民の代議機関として責務をつくすために算入範囲調整の問題を放置できませんでした。 最低賃金委員会に持っていってもここで合意できなければ、最低賃金の算入範囲は来年に調整もできません。 最低賃金委員会に任せてくれというのは傲慢です。」 (自由韓国党申普羅議員、5月28日国会本会議)

自由韓国党の申普羅(シン・ボラ)議員と民主党の韓貞愛議員はこの日の本会議で、 最低賃金委員会が結論を導き出せないので国会が処理したと主張した。 彼女ら言葉のように、最低賃金委が議論を放棄して、国会が動いたのか? 正確に事情を調べよう。 最低賃金委専門家TFは昨年12月、定期賞与金を最低賃金に算入すべきだという勧告を発表した。 福利厚生費算入には合意できなかった。 「含む」と「含まない」、「現金支払い性の福利厚生費だけを含む」の三つの意見が残った。 当時、勤労者委員だった民主労総のキム・ジョンイン副委員長は 「最低賃金引き上げ効果を無力化し、賃金自体を下降平準化しかねないので 算入範囲の調整は受け入れない」という立場だった。 こうした渦中で国会が労使当事者の同意なく議論を持ってきたのだ。 労働界はもちろん、経営界も当惑した。 特に、最低賃金委労働者委員である民主労総は 「当事者が排除されたまま国会が一方的に処理しようとする状況を糾弾する」という声明を出した。

また最低賃金委TFは算入範囲だけを勧告案としたのではない。 最低賃金の決定構造と構成改編、業種地域別区分適用方案、遵守率向上、世帯生計費計測方法など6種類の内容を入れた。 最低賃金算入範囲のように他の争点も労働界と経営界は意見を異にしていた。 だが国会はこの中で経営界が最も必要とする算入範囲議題だけを処理した。 正義党の李貞味(イ・ジョンミ)議員は5月21日、環境労働小委員会で 「最低賃金委TFは六つの議題を扱っていた」とし 「すべての議題を共に議論して国会に来ているのに、 算入範囲だけをまた議論するのは不適切」だと指摘した。

低賃金労働者保護? むしろ銃口を向ける

「月157万ウォンの最低賃金で生活する労働者を保護する方法を探すために出された案が、 最低賃金対応賞与金300%(月25%)、福利厚生費7%です。 157万ウォンを基準にすれば、今年は2500万ウォン程度になります。(…) 絶対に最低賃金を受ける労働者の最低賃金を削減するのではありません。 むしろ彼らを保護し、次上位階層を保護するために作り出したのです。」 (韓貞愛議員、5月28日国会本会議)

年2500万ウォンと「25%」、「7%」が出てきた背景はこうだ。 民主党の徐炯洙(ソ・ヒョンス)議員は中位所得の2500万ウォンに達しない拡大で、 労働者は算入範囲の拡大で被害を受けなければ良いといった。 同時に福利厚生費は昼食費などの非課税所得10万ウォンを考慮したという。 今年の月最低賃金は157万3770ウォンの7%が約10万ウォンだ。 これを加えれば167万3770ウォン。年間にすれば2008万5240ウォンになる。 中位賃金の2500万ウォンまで約491万4760ウォンが残る。 この時、賞与金が年300%なら、これに近い472万1310ウォンが出てくる。 また300%を12か月に分ければ25%という数値が出てくる。 2500万ウォンを強引に合わせるために「25%」と「7%」が決まったという推測が可能だ。

年俸2500万ウォンが「高賃金」と「低賃金」の労働者を分ける基準であるのもいぶかしいか、 「25%」と「7%」が果たして低賃金労働者を保護できるのかも疑問だ。 民主労総によれば、1年目の学校非正規職労働者は年俸約2359万ウォンを受ける。 国会議員が話す代表的な2500万ウォン未満の低賃金労働者だ。 彼らの給与は基本給164万ウォン、福利厚生費19万ウォンなどから構成される。 2019年の最低時給が16.4%(前年同一)上がった8760ウォンなら、 福利厚生費の7%超過分6万1841ウォンが最低賃金に算入される。 現行の通りなら、約202万ウォンを受け取るべきなのに、 最低賃金算入で約195万ウォンしか受け取れない。 2024年までに段階的に賞与金と福利厚生費が全額算入されると、 今後6年間に受ける損失額は約928万ウォンにのぼる。 雇用労働部もまた最低賃金の引き上げに対する期待収益が減る年所得2500万ウォン以下の低所得労働者は最大21万6千人に達すると推定した。

「高賃金労働者」が最低賃金引き上げの恩恵?

「『最低賃金の大幅引き上げ』の流れに反発する使用者が 『基本給は少ないが、手当てまたは賞与金が多い労働者』を言い訳にして最低賃金の引き上げに抵抗する問題が現れています。 もし彼らの抵抗で最低賃金引き上げ率が低くなれば、 実際に最低賃金制の直接の対象者で、賃上げの必要性が相対的に強い労働者は さらに大きな被害を受けるでしょう。」 (民主党朴柱民議員、6月2日自分のFaceBookで)

国会と使用者は「高賃金労働者」を統制するという理由を上げた。 基本給は最低賃金だが、賞与金はこれよりはるかに多い高賃金労働者が最低賃金大幅引き上げで「不必要な恩恵」を受けるという主張だ。 算入範囲を拡大すれば、彼らの賃金上昇を統制できるという意味だ。 政府もこうした主張に力を貸す。 最低賃金委員会は2016年基準、上位20〜40%労働者のうち5万1千人が最低賃金対象者だと明らかにした。 金栄珠(キム・ヨンジュ)雇用労働部長官は6月15日の労働部政策諮問委員会で 「最低賃金制度の改編は定期賞与金と福利厚生費など、実際に支給される賃金が(最低賃金に)反映されるようにして、 高賃金労働者まで最低賃金値上げの恩恵を受ける不合理性を除去」できると話した。 しかし労働部が明らかにした最低賃金算入範囲で期待収益が減少する低賃金労働者は21万人だ。 高賃金労働者5万人の賃金上昇を防ぐために最低賃金労働者21万人の賃金を削るということだ。

全国不安定労働撤廃連帯のキム・ヘジン活動家は 「朴柱民議員が話した高賃金労働者は、年俸が高い事務職や言論従事者のような人ではなく『製造業労働者』だが、 彼らの賃金体系は非常に歪んでいる」とし 「企業は労働者に残業特別勤務をさせながら、手当ては少なくするために基本給を低く策定した。 2013年の大法院全員合議体判決で 『賞与金などを通常賃金に含めるようにしろ』というので企業も混乱に陥ったのだ。 それで今回、賞与金を算入範囲に入れて、急激な賃上げを防ごうとしている。 今回の最低賃金改悪の名分は高賃金労働者全体ではなく、 賃金体系の歪曲で損害を受けた労働者たちの急激な賃上げを防止する目的」と説明した。

小商工人も保護できない改悪

「急激な最低賃金引き上げは、小商工人と零細中小企業の人件費負担による雇用縮小につながる恐れがあり、 現行の最低賃金算入範囲の再調整が必要だという意見がある。」 (河泰慶議員など10人、2017年12月発議した最低賃金法一部改正法律案提案理由より)

国会は最低賃金引き上げによる零細商工人の負担を強調してきた。 一方、算入範囲拡大が最低賃金引き上げ効果をなくす改悪だという世論が強まると、 国会は賞与金25%、福利厚生費7%超過分だけを算入するという『保護装置』を作った。 これを逆に見れば、ほとんど低賃金労働者を雇用している小商工人には何の影響も及ばないという結果が現れる。 零細商工人が雇用している労働者のほとんどは賞与金、福利厚生費がなく、 最低賃金ぎりぎりの基本給しか受け取っていないからだ。 だが零細商工人対策の核心である大企業の加盟手数料、賃貸料などへの言及はない。 零細商工人の処遇を改善しなければならないが、 大企業には触れないので、労働者の賃金だけを削減したわけだ。

最低賃金算入範囲拡大が通常賃金制度化を助ける?

「今回の最低賃金改正案は何よりも複雑な賃金体系改編の信号弾になります(…) また、最低賃金に算入される賞与金が通常賃金から除外されるという不条理を直すためにも役に立つでしょう(…) 最低賃金に賞与金が含まれたので、通常賃金にも賞与金を含めなければならないという主張には一貫性があって説得力も強いです。 制度改善に肯定的な影響を与えるように活用すれば、 明らかに多数労働者の処遇改善に役に立つ部分です。」 (朴柱民議員、6月2日自分のFaceBookで)

最低賃金算入範囲拡大は、賃金体系の改編ではない。 今回の改正は、賞与金と福利厚生費を基本給に「溶かし込むこと」ではなく、 最低賃金の範囲に「含めること」だ。 企業の立場としては、労働者に払う各種の給与はそのままにして、 追加の支出を減らす余地ができた。 朴議員は改正案が通常賃金算入範囲拡大にも助けになると主張する。 最低賃金が賞与金、福利厚生費まで入れれば通常賃金に各種の手当てを含めることにも力付けられるという論理だ。 通常賃金はこれまで労使が鋭く対立してきた議題だ。 労働界は賞与金などの手当てを通常賃金に含めるようにと主張してきた。 超過勤務手当、休日手当てなどが通常賃金により決まるからだ。 だが使用者は通常賃金に賞与金を含めてはならないという立場だ。

キム・ヘジン活動家は 「通常賃金と最低賃金は同一に作用しない」とし 「『賃金』を分けて、延長手当てなどをきちんと支払わないことを防ぐための『通常賃金』の概念と、 労働者の最低賃金を保障するための法は完全に目的が異なっている。 立法目的が異なる2種類をなぜ一致させなければならないのか、誰も説明していない。 労働者の立場でも、賞与金が通常賃金に含まれたとしても、 残業特別勤務をしなければあまり関係がない。 残業をする労働者がさらに手当てを受け取っても、 改悪による賃金削減分より大きくはない。 労働者たちにより各々効果が違うが、通常賃金に手当てと賞与金を含めるために、 なぜ最低賃金に含めなければならないのか説得力を持ちにくい」と指摘した。

韓国をさまよう最低賃金改悪という幽霊

すべての論争の出発点は「過度な最低賃金引き上げ」という視点だった。 2020年に最低賃金1万ウォンになれば「国がほろびる」という大げさな態度が算入範囲拡大の契機になった。 これでも足りず、金・ドンヨン副総理は最低賃金速度調節に言及した。 根拠のない最低賃金の流言飛語が労働者から賃金を奪っている。 民主労総の改悪阻止闘争は、まだ圧迫効果は目立たない。 国民の3分の2が最低賃金改悪に反対しているという世論調査もあるが、 国政支持率は相変らず高い。 政府と労働者が共に叫んだ「最低賃金1万ウォン」のスローガンは、 片方の翼を失ったまま漂流している。 労働者たちはまたキャンドル政権から無視された。(ワーカーズ44号)

原文(ワーカーズ/チャムセサン)

翻訳/文責:安田(ゆ)
著作物の利用は、原著作物の規定により情報共有ライセンスバージョン2:営利利用不可仮訳 )に従います。


Created byStaff. Created on 2018-07-17 20:28:11 / Last modified on 2018-07-17 20:32:46 Copyright: Default

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