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コメント工作の政治経済学

[ワーカーズ99%の経済]

ホン・ソンマン チャムセサン研究所 2018.05.08 14:30

犯罪の生産性

「犯罪者は犯罪を生産するだけでなく、刑法を生産しながら、したがって刑法を講義する教授も生産する…。 泥棒がなければ今日のような錠前は完成できただろうか? もし貨幣の偽造者がいなければ、今日のように銀行券の製造が完成されただろうか?」 [1]

マルクスは資本主義生産関係の下ですべての職業、それが犯罪だとしても生産的な役割になるということを示した。 一般的な犯罪もだが、最も極端な場合である国家間の犯罪、 戦争の資本主義的な効用は非常に大きい。 年間数百兆ウォンにのぼる兵器市場で資本蓄積を拡大することができ、 大恐慌を克服した第二次世界大戦のように過剰資本と生産施設を破壊することにより蓄積の新しい条件を作ったりもする。 戦争で労働者が死ぬので過剰労働力を一定解消し 「有用な職業部門に活路を開く自然的な均衡化のひとつを実現する。」

そして戦争で勝利できれば過剰生産物を敗戦国に押し付けることができ、 敗戦国の物資と人員も事実上略奪することができ、 戦勝国の資本蓄積にとってこれほど得なことはない。 資本主義国家の間で大小の戦争が絶えないのは政治的な理由だけではない。 「国民的犯罪なしで世界市場が成立するだろうか? それなしで民族自体が発生することができるだろうか? そして果たしてアダム以来の罪悪の木は同時に知恵の木ではないのか?」 [2] 戦争が持つ生産性ほどに人類が支払うべき血の代価は途方もない。 資本は犯罪と倫理を区分しない。

コメント操作、コメント部隊は資本主義的な生産という側面から見れば非常に生産的だ。 オンライン空間での世論操作はさまざまな形態で進められる。 オンラインカフェやコミュニティの会員が気に入らない記事や意見に対してインターネットサイトのアドレス(url)を打って、 集団で反対のコメントを書くのは一度や二度ではない。 これが表現の自由なのか世論操作なのかはここで重要ではない。 重要なことは、この関係は前資本主義的な関係においてそれだけ非生産的という点だ。 こうした活動は余暇を過ごすように消費する時間であり、 ほとんど生産的な価値(!)を作り出すものでもない。

しかし国家情報院、サイバー司令部などのコメント部隊は、 オンラインカフェの会員の行為とは違う。 工作金として金を払って人々をコメント部隊に臨時雇用し、 大規模にコメントを付けた。 いわゆる賃金労働関係が形成され、この時から資本主義生産様式の中にコメント部隊が軌道に乗った。 またオンラインカフェ会員の自発的な無料労働を資本主義的な賃金労働関係に転化させ、 資本を蓄積できる市場になるということを見せた。 ビットコインの採掘と同じように、初めは個人が自分の時間で仲良くやっていたが、 専門的な採掘会社ができるとここに雇用された人々が数十台のコンピュータを回して短時間で採掘するようになるように、 コメント操作を専門的に遂行する業者ができると商品を取り引きする市場が形成された。 今ではコメント部隊は臨時雇用を越えて、常時雇用体制を整えて進化する。 家内手工業の形態で1人当り数十個をいちいち書き込んでいたコメントを 機械制大工業の形態であるマクロという自動プログラムを使って一気に操作できるシステムに進化した。 これがまさに「ドゥルキング事件」だ。 この市場の商品価値はたいへんなものだ。 小さくは商品のバイラル・マーケティング領域に限定されるが、 大きくは一国家の権力を左右することができる。

世論操作市場

この市場は単に韓国だけではない。 2016年のフィリピン大統領選挙では、自動プログラムの「ツイッターボット」のアカウントがドゥテルテの選挙運動を無作為に進めた。 同年に行われた米国大統領選挙でも、ロシアが背後と推定されるトランプ支持の「ボット」の活動があった。 最近、タイ、ベトナム、ミャンマー、マレーシアなどの東南アジア国家や 香港、台湾など一部の東アジア国家、 スリランカをはじめとする南アジアでも選挙の前にツイッター・アカウントが急増している。 「ボット」による選挙運動が疑われている状況だ。 [3]

アンドレ・セプルベダは、この10年間、南米9か国で米国の資金支援を受けて、 すべて右翼側に選挙を操作したと明らかにした。 2006年のコロンビア大統領選挙と総選挙、2012〜2013年のベネズエラ大統領選挙、 メキシコ大統領選挙をはじめ、 ホンジュラス、ニカラグア、パナマなど9回の大統領選挙に介入した。 セプルベダは3万余りのツイッターとFaceBookアカウントを作って世論を操作し、 電話の盗聴はもちろん、コンピュータ・ネットワークとEメールアカウントに侵入して関連情報を暴き、世論操作に活用した。 [4]

圧巻は2016年の米国大統領選挙だった。 先立ってツイッターボットのトランプ支持活動だけでなく、 FaceBookを利用したトランプ支持キャンペーンがひそかに行われた。 最近、FaceBookのザッカーバーグCEOが議会の聴聞会に呼ばれた事件でもよく知られているが、 この事件は単に5000万人のFaceBookアカウントの個人情報が流出したことがこの事件の全てではない。 情報分析会社であるケンブリッジ・アナリティカ(Cambridge Analytica)は、 FaceBookのアプリを使って個人情報を確保し、人工知能でFaceBook活動を分析して政治指向を確認した。 その後、アナリティカは特定の人だけが見られるダークポスト(dark post)を送り、 トランプに有利な文をタイムラインに投稿したり、 広告のように見えないように設計された広告メッセージである「ネイティブ広告」を露出させ、トランプ支持が大勢であるかのように見えるようにした。 有権者に対して一種の洗脳工作を繰り広げたのだ。

このように、過去の政治家のファンダム、または特定の支持集団が自発的にしてきた事が、 今では機械を使って大規模に、国際的に事業を進めている。 「世論操作市場」の形成で、大規模な資本と人員を雇用して資本主義生産関係を拡大させている。

頭脳労働という商品

皮肉にも、この市場において生産者の最も重要な軸は、他でもないまさに国民一人一人だ。 FaceBookの利用者は21億人、YouTube13億人、インスタグラム7億人、ツイッター3億3千万人だ。 YouTubeは韓国内だけでも2443万人が使い、ネイバーは2238万人だ(2018年2月基準)。 これらの人が書き込む文、写真、映像だけでなく、訪問するページ、滞留時間、 いいねとよくないねを押す対象と内容、コメントはもちろん、 関心を持つ広告まで、 使用者が生成したすべての個人情報に基づいて金を稼いでいる。

こうした市場は基本的に資本主義生産様式が肉体労働中心の物質商品の生産から頭脳労働を基盤とする非物質労働商品の生産まで拡大したことで可能になった。 以前にも詩、小説、音楽、美術品などの頭脳労働の生産物がないわけではなかったが、 今では意識、情緒、選好、感情などの頭脳労働の一般的生産物までを商品にして取り引きする市場が生まれた。 頭脳労働は、使用価値を持つ多様な生産物を生産する。 ここで使用者たちはプラットホームを利用する条件として、自分の生産物を代価なく企業に譲渡する。 労働者が工場の機械や事務用コンピュータを使う条件として、自分の労働を代価なく提供することはない。 だがプラットホーム企業では(明らかに)生産手段を利用する使用者の労働を何の代価もなく持って行く。 ただ、使用者が生産したこれらの生産物は、企業の約款(知識財産制度)により、 使用者がいかなるコンテンツに対しても本人の所有や統制を主張することができず、 排他的に企業の所有に転換される。 いわゆる「労働の疎外」が発生している。 [5]

使用者たちはほとんどが自発的労働、つまり「自由(無料)労働」をしている。 そうした点で、今のところ、正常な資本蓄積を行う関係と言うのは難しい。 [6] だが競争により、こうした「自由労働」も次第に「賃金労働」に転換している。 先のコメント工作もそうだが、YouTube、Steemitなどはコンテンツ生産者(使用者)に広告収益を分配する。 YouTubeはアフリカTVの星風船と同じように、スーパーチェックを販売して収益を配ったりもする。 この中にクリエーターを専業として暮らす(労働力を再生産する)人々が生まれている。 ただし、ウーバータクシーやAirBnBのような共有経済プラットホーム企業に現れる労働関係のように、 明示的な労働契約が存在せず、 自営業と既存の労働者の中間形態を帯びる。 一種の特殊雇用だ。 [7]

世論操作の生産性

頭脳労働の商品化と結びついた世論操作市場は技術的にも防止できない。 アナリティカとドゥルキング事件で見られるように、 技術障壁を越える世論操作はいつでも可能だ。 たとえばネイバーでいいねコメントを付けさせず、アウトリンク方式に変えたとしても、取り繕いでしかない。 「いいね」、「よくないね」を押さなくても政治的指向を分析し、 世論操作を越えて洗脳まですることができる多くの方法が今でも開発されている。

選好、評判、意識といった頭脳労働の産物を商品にする構造を防がなければならないが、 一度商品にされて市場が形成されれば、それをなくすのは不可能に近い。 資本主義市場経済で政治と民主主義を金で取り引きされたからといって、貨幣取り引きを禁止することはできないように、 問題が起きればその時に事件化して防ぐことで対応するほかはない。

オンラインコミュニケーションの発達で、デジタル民主主義が称賛された時があった。 贈り物を送り、金を撒いて、独裁が幅をきかせる政治と選挙で、FaceBook革命、デジタル民主主義の勝利を謳歌したりもした。 だが今、確実なことは、過去よりも大きな費用をかけることなく、 さらに多くの大衆を相手に世論操作、洗脳工作が可能になったという点だ。 これがいかにものすごい資本主義的転換なのか。 デジタルとは、これほど生産的だ。

このように、デジタル転換にもかかわらず、 現在の政治と代議制民主主義に対する懐疑と不信はさらに積み重なるだろう。 そして人々は新しい代案を見つける試みを続ける。 これが世論操作が持つ決定的な生産性ではないか。

  • [1] マルクス、剰余価値学説史1冊、アチム
  • [2] Ibid、同上
  • [3] http://www.yonhapnews.co.kr/bulletin/2018/04/05/0200000000A KR20180405109200009.HTML?input=1195m
  • [4] http://www.newscham.net/news/view.php?board=news&nid=100787
  • [5] Christian Fuchs, "Digital Labour and Karl Marx", New York: Routledge, 2014
  • [6] しかしさらに高度な搾取関係であることは明らかだ。奴隷と農奴は賃金労働関係ではなかったがさらに直接的な搾取関係に属していた。一例としてグー、FaceBook、ネイバーなどのSNSとプラットホーム企業の利益率は30%程度で他の業種より非常に高い。一般的に製造業の利益率が10%を越えれば大ヒットと言われる。プラットホーム企業の特徴である独占の効果もあるだろうが、使用者が生産する情報を代価なく商品化し、収益をあげるからだ。
  • [7] イ・ハンウ、「自由/無料労働の貨幣的補償」、経済と社会、2015年秋号

原文(チャムセサン)

翻訳/文責:安田(ゆ)
著作物の利用は、原著作物の規定により情報共有ライセンスバージョン2:営利利用不可仮訳 )に従います。


Created byStaff. Created on 2018-05-17 05:32:53 / Last modified on 2018-05-17 05:32:54 Copyright: Default

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