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安全社会での約束、われわれはあの日が生々しい

[ワーカーズ ルポ]九宜駅惨事2周年…市民と地下鉄労働者は安全ですか?

パク・タソル記者 2018.05.06 01:01

地下鉄2号線九宜駅スクリーンドアを修理していた19歳の青年、キム君が亡くなってから2年が流れた。 彼のカバンには手垢がついたペンチと手袋、マスクがあった。 一緒に入っていたカップラーメンと割り箸に両親は嗚咽した。 窮屈な業務のためにその質素な食事も食べることができず、彼は命を失った。 2人1組の勤務マニュアルは規定だけで、時間制限とそれによるペナルティ、 人員不足による圧迫はキム君にそのまま転嫁された。 死亡の次の日が誕生日だったキム君の話は、圧縮された青年非正規職労働者の叙事であった。 市民は悲しみと怒りを黄色いポスト・イットに書いて九宜駅に貼り付けた。

すでに2年経ったが地下鉄労働者たちはまだその時の怒りをしずめられないまま、毎日ソウル市庁前で1人デモをする。 ソウル交通公社(前都市鉄道公社)が100%出資して作った子会社、都市鉄道エンジニアリング(都市鉄道ENG)所属の労働者たちだ。 彼らは地下鉄駅舎内の消防施設、衛生と給水施設、冷房、換気施設を点検して維持補修する仕事をする。 九宜駅死亡災害市民対策委真相調査団(真相調査団)の2次調査の結果によれば、 「過度に少ない人員」で「規定による業務を遂行するのも難しい状態」の中で働く労働者たちだ。 彼らは「安全の外注化」を止めろと、九宜駅惨事以後にソウル市とソウル交通公社がした約束を守れと言って戦っている。

運良く今回の冬を無事に越した

唯一寒波が多かった今回の冬、地下鉄内の施設も寒さに対応できなかった。 常に水が満ちているスプリンクラーはあちこちで凍って破裂した。 D駅では消火栓も破裂し、スプリンクラーも破裂したため一週間、水を抜いて保守しなければならなかった。 地下鉄の保守規定上、48時間以内に補修工事を処理しなければならないが、 事故はこんな事情を考えてくれるわけではない。 作業者は眠りながらも火災が出ないことを望みながら心を痛めた。 水を止めた状態で火災が起きれば、大惨事になるのは明らかだった。 地下鉄の消防施設を保守する都市鉄道ENGの労働者たちは、当初の設計に問題があったと誰もが話す。 「凍って破裂しそうな所に保温材、熱線を設置しなければならないのに、できていません。 地下は暖かいから駅にはボイラーがありません。 しかし乗り場が凍るという判断ができないのでしょう。 現場の声を聞かないからなのです。」

こうした設計上の問題が発生したのは雇用システムのせいが大きい。 乗り場のスプリンクラーの設計に子会社に所属する労働者の意見が反映されるわけがない。 間接雇用はこのような形で危険を生んだ。 真相調査団もこの点を指摘していた。 2016年12月「2次真相調査結果市民報告会」で、真相調査団は人員不足が市民の安全を脅かすとし、 大規模な人員補充と共に直営化を推進するようにと明らかにした。

真相調査の時に都市鉄道ENGは都市鉄道5678号線の157の駅と6つの車両基地、 庁舎などの消防施設、衛生および給水施設、冷房・換気施設、暖房(車両基地、庁舎)等を点検して、 維持、保守する業務を公社から委託されて遂行していた。 平均4.2箇所の駅を1人の消防人員が維持、点検、保守まで処理しなければならなかった。 冷房・換気の場合は1人が7つの駅の責任を持たなければならなかった。 人員が足りず、2人1組の規定は無用の物になった。 今も状況は大して違わない。 事故が起きれば労働者が疑われるが、これもどうしようもない。

ソウル都市鉄道公社が発注した用役研究でさえ、人員不足が問題になった。 2016年12月に出てきた研究結果は 「現在、都市鉄道ENGは換気を除く3種の課題すべてで適正人員より少ない人員を維持していて(労働者たちは)業務進行に困難を訴えている」と明らかにした。

老朽化したり部品がない設備が更新されず、市民の安全を威嚇しているという指摘もあった。 これも間接雇用システムに主な原因がある。 保守作業は都市鉄道ENGの労働者たちの仕事だが、 設備の供給と交換の権限は公社にあり、 資材が必要なときは公社に要請し、承認され、支払いまで受けなければならないなど、 さまざまな手続きを取らなければならない。

「スコップ作業」が続く理由

都市鉄道ENGが遂行するいくつかの作業は流行語で「スコップ作業」と同じだ。 駅内の待合室を水清掃すると床の誘導灯に水が溜まる。 水が溜まる漏電して、自動的に灯りが消える。 そのたびに子会社の職員が出動してこれを直す。 水清掃するたびに床の誘導灯を解体して水を抜いて、止めて、修理する過程を繰り返す。 清掃労働者は彼ら本来の業務の清掃をするだけで、 彼らは自分の用役課題を遂行するだけで、くやしくてもどうする方法もない。 子会社の労働者たちにとって合理的な方法を提案する権限は与えられない。

都市鉄道ENGの労働者たちは労災にも露出している。 都市鉄道ENGのユン・ドンイク事務局長は 「人員が不足しているので2人1組で作業することも難しく、 作業環境も劣悪で暗いところで倒れたりはしごから落ちる事故がたびたび発生する」と話した。 こうした負傷にも労災を請求する人はめずらしい。 ユン事務局長は「作業現場が天井の中など、狭く暗いところがほとんどで、 飛び出した物体で切ったり腰を負傷することも多い。 それでも秒単位で動くので、自分が休めば同僚がそれだけさらに苦しむと思って 自分も(労災処理を)敬遠して、公社に押されるかと思ってそのまま個人が適当に治療する」と説明した。

市民と労働者の安全が危ないということをソウル市が知らないはずがない。 九宜駅惨事以後、すばやく動いて安全社会への大転換を宣言したソウル市であった。

約束の開始

九宜駅惨事以後、ソウル市はす早く対策を発表した。 2016年6月7日、九宜駅惨事に対するソウル市立場を発表する席で朴元淳(パク・ウォンスン)ソウル市長は腰を90度に曲げて謝罪を繰り返した。 朴市長は「危険の外注化」に言及して、市民の生命、安全に直結する業務を直営化する方案を推進するといった。 惨事の正確な原因を知っていた。 「外注化の中での元請-下請間の甲乙関係による無理な作業指示、 劣悪な下請企業の労働条件から来る無理な労働強度、 長時間労働に追いやられていても低い賃金、 多段階管理監督による管理者の責任意識不在、 これらすべての中で、働く人の安全と生命は考慮されなかった。」

事実、朴市長の2014年の再選公約は「安全特別市」で、その中で「安全地下鉄」は核心政策だった。 地下鉄の安全を強調して当選した市長はさまざまな対策を注文した。 △官民合同真相究明委員会構成による事故の経緯と原因の分析、 △責任者の処罰、 △市民の生命・安全に直結する業務、危険な業務の外注化に対する段階的直営化、 △外注化形態で運営されるすべての安全分野に対する全数調査、 △公社退職者と新規採用者間の不合理な賃金テーブルの全面修正、 △地下鉄安全システム革新などだ。

都市鉄道ENGの労働者たちは、朴市長のこの日の演説文を印刷して持ち歩く。 蛍光ペンでひいた市長の言葉が彼らにとっては太い綱であり、藁でもある。 「朴元淳市長の言うとおりにすれば良いのに、それさえすれば良いのに…。 大事故が起きれば私たちの言葉にも耳を傾けてくれるのでしょうか?」 都市鉄道ENGの労働者たちが2年間、関係者を追いかけて訴えたのは、 新しい要求でもない、ただ世の中の外で吐いた約束を守れということだった。

続く約束

2016年11月9日、ソウル特別市、ソウル・メトロ、ソウル特別市都市鉄道公社とソウル地下鉄の3つの労組は 2017年の統合公社の発足を控えて職級体系、勤務形態、賃金および処遇を協議した。 「市民の安全に直結する安全核心業務は直営化を推進するものの、 細部の事項は労使間で別途に合意する」という案が出てきた。 業務職および子会社職員の処遇に言及して勤続対応正規職水準で改善し、 その制度改善方案を作るといった。

2017年5月21日の第19回労使政代表者協議体会議ではもう少し進展した案が提示された。 安全分野の直営転換対象は、駅の消防設備・電気・換気・冷房とするという合意が導き出された。

2017年の最終日、ソウル地下鉄無期業務職を全面正規職(一般職)変わる労使合意書が出てきた。 ソウル市の「労働尊重特別市ソウル2段階発展計画」によってソウル交通公社とソウル地下鉄労組、 5678ソウル都市鉄道労組、ソウル・メトロ労組はソウル交通公社内の無期業務職を一括正規職(一般職)に転換するということだった。 しかし「消防、電気、冷房、換気直営転換は別途に労使合意する」という内容がその他の事項に挟まれた。 合意の過程で正規職に転換された業務職からも、都市鉄道ENGの労働者たちは排除された。

都市鉄道ENG労組のチョ・ウォンギ委員長は 「労使合意の翌日『次に別途合意することにしました』という携帯メッセージがきた。 当事者を排除した合意も問題だが、業務職と分離して処理するというのは直接雇用を無期限に放置するということ」と批判した。 チョ委員長は「公社の職員も不足した設計人員では死んでも仕事ができないというのに、 この設計人員をまた修正しないというのは私たちに働いて死ねということでしかない」とした。

ソウル交通公社の社長は彼らを「都市鉄道ENGの正規職」と呼んだ。 彼の発言に対し、都市鉄道ENGの労働者たちは「掌で雨をふせげない」と怒った。 さる2月26日に開かれたソウル市交通委員会の会議で ソウル交通公社の金台鎬(キム・テホ)社長は、 都市鉄道ENG労働者に対する公社直接雇用の約束を守れというある委員の指摘に 「あの人たちはENGの正規職だ。性格がちょっと違う」と答えた。 都市鉄道ENGの直営化の議論はどの程度進んだのかという質問には 「『親会社にこうして入ってくるより、子会社にいても親会社に準じる処遇になれば良い』という意見をあちら(都市鉄道ENG)が出してくれて、 労使協議が進められており、今、処遇改善策と同等な報酬案を用意している」と話した。 しかし都市鉄道ENG労組のユン・ドンイク事務局長によれば、 「私たちの最初の要求事項は相変らず消防、冷房、換気業務の公社での直接雇用」だと言う。 金台鎬社長はソウル市の正規職化事業が進められる状況で、彼らを2年間放置してはいけないという指摘に対し、 結局「(1〜4号線の)職級や報酬、処遇などが3月1日で定められる、 どの程度違いが生じるのかはっきりすれば処遇を改善して(公社の正規職と)同等な待遇をするか、直接雇用したり(する)」と話した。 できるだけはやく方案を見つけたい」と付け加えたが、議論を終わらせるための修辞であった。

解決すべき問題が2倍に増えた

去る4月1日付で1〜4号線の用役労働者が都市鉄道ENGに転換された。 1〜4号線の用役労働者たちも同じ安全業務を遂行しており、直営化の対象だった。 使用者側は用役契約が満了するのでまず都市鉄道ENGに転換した後に議論を続けようと言った。 都市鉄道ENG労組は「大きくなった規模を口実にして永遠に子会社にいさせようとしている」とし、 1〜4号線の外注委託安全核心業務分野の労働者を交通公社に直営転換しろと主張したが、効果がなかった。 何回も不足だと指摘された5〜8号線の消防設備・電気・換気・冷房分野の人員が基準になったのも問題だ。

去る4月中旬、都市鉄道ENGの所属になった1〜4号線の労働者たちと会った。 ある労働者は「20人TOという話を聞いたが13人で調整された。 必要な消防点検はほとんどできなくなっていて、維持補修を中心に仕事をしている。 目に見えることだけをしていて、これ以外のことは放置している」と話した。

6・13地方選挙が目前に近付いてきた。 公約はまた翻されるだろう。 最近、朴元淳市長は他の二人の候補を抜いて、共に民主党ソウル市長候補になった。 彼はまたどんな約束を出すのだろうか。 地下鉄労働者の声が市長に届くためには、事故がおきなくては不可能なのか、 労働者たちはみじめなだけだ。〈ワーカーズ42号〉

原文(ワーカーズ/チャムセサン)

翻訳/文責:安田(ゆ)
著作物の利用は、原著作物の規定により情報共有ライセンスバージョン2:営利利用不可仮訳 )に従います。


Created byStaff. Created on 2018-05-17 05:29:22 / Last modified on 2018-05-17 05:29:24 Copyright: Default

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