本文の先頭へ
LNJ Logo 韓国:夜明けに考える〜コルテックのイム・ジェチュン氏ハンスト35日目
Home 検索
 




User Guest
ログイン
情報提供
News Item 1555943237334St...
Status: published
View


夜明けに考える

[ヨンジョンのバカみたいな愛](98)コルテックのイム・ジェチュン氏ハンスト35日目、交渉の日

ヨンジョン (ルポ作家) 2019.04.16 18:01

からかったことの罰を受けているようだ

「清潔にしなければ」

4月15日午前、 ソウル市江西区登村洞のコルテック本社前の コルテック支会(民主労総金属労組大田忠北支部所属)座込場に行くと、 キム・ギョンボン氏がテントの前に立って爪の手入れをしている。

「今日、やっていなかった洗面もした」

コルテック交渉の1時間前、 ギョンボン氏の姿は敬けんで真剣だ。 コルテック支会のイ・イングン支会長にどんな夢を見たのか尋ねた。

「私は夢を見ないよ」

交渉を控えて緊張して眠れなかったのではないかと尋ねると、そんなことはないという。 つまらない夢を見ず、ぐっすり眠ったのなら幸いなように見える。

ハンスト35日目のイム・ジェチュン氏は、 テントの中で修道女など連帯訪問に来た人たちと話を交わしている。 体重45kg、骨だけにやせた黒い顔には疲労感がいっぱいだ。 めまいと不眠症も彼を疲れさせる要因だ。 昨夜もきちんと眠れなかったといった。

「他の人たちがハンストする時に からかったことの罰を受けているようだ。」

10日前、心配する筆者に対してかすかに笑いながら話したジェチュン氏、 今は笑う気力もないように見える。 日々悪化するジェチュン氏の健康ために、最低の休息のために面会制限を開始した。 長期間食物を摂取できない状態で、睡眠も十分にとれないことが心配だ。

「他の人はハンストするとよく眠れるというが、私は眠れない。 夜明けに早く起きる。 規則性はない。4時に起きる時もあって、5時に起きる時もある。」

ある日はおよそ2時間間隔で起きる時もあるという。 色々と考えながらあちこちかき回して、日が昇れば顔を洗って8時に会社の前でプラカードを持ち、朝の宣伝戦で一日が始まる。 それでも鍼を打ってもらった日は良く眠れるというので幸いというべきか。 この前は艶がない両頬に赤い斑点までできたが、幸いなくなったようだ。

▲ハンスト35日目、連帯訪問者と話をするイム・ジェチュン氏[出処:ヨンジョン政権作家]

そうしている間に世の中が腐っていった

チョン・ヤンヒ詩人は〈夜明けに考える〉という詩で、 夜明けに独りで目覚めると 「恋人の所に行くのに、はやく行きたくて30分ごとに馬夫にチップを与えたというバルザック」を思い出し、 「とても孤独で、自分の顔を描くことしかすることがなかったというゴッホの自画像」と 「座右の銘は、真理は具体的」だといったブレヒトも思い出すという。 自分の骨と肉を焼いて、眠りに入れないジェチュン氏は、夜明けに独りで起きてどんなことを考えるのだろうか?

「色々なことを考えます。 心配ですね。 この闘争がどうなるだろうか? 国がどうなるだろうか? これから後輩に何を譲らなければならないのか? そんなことを考える。 なぜ国がこれほどまでになってしまったのか...」

ジェチュン氏はコルテックの問題も心配だが、 政府の誤った雇用政策により、最近の若い人には夢がないと心配する。 ジェチュン氏は闘争を始めて、世の中は虚しい感じだという。

「こんな世の中だが、なぜわれわれは金を稼ごうとばかりしていたのだろうか? 国に言われるまましたのに、そうしている間に世の中がこんなに腐っていったんだ。」

交渉があるこの日も夜明けに眠れず、近くの公園をふらふらしたという。 ジェチュン氏は明け方、散歩をしながら整理解雇された 2007年を回想した話をSNSに上げた。

「韓国の労働者を整理解雇して中国、インドネシアで年間100万台を生産すると自慢する。 『果たしてそのギターは名品なのだろうか?』と考えてみた。 昔の韓国のギターがみんな消えていて本当に残念なだけだ。」

故郷にいる家族とコルテック闘争、韓国社会の現実、 自分のつらい過去とハンストまでしている現在、 そして約束できない未来... ジェチュン氏の朝は始まりも終わりもない考えでいっぱい満たされる。

ジェチュン氏のその話を聞いた後、夜明けに眠れず、あちこちかき回すときは、 その時に考えているジェチュン氏を思い出す。 そうして彼の黒い顔が浮かび、深いため息と嘆きの声が聞こえてくる。

▲交渉前の労働組合立場言論ブリーフィング場面[出処:ヨンジョン作家]

「最後という覚悟」と「原則的対応」の間

ジェチュン氏を座込場に残し、 イ・イングン支会長とキム・ギョンボン組合員など 労組側の交渉団が交渉場所(韓国ガス公社ソウル地域本部)に出発する。

交渉に先立ち、交渉に臨む労働組合の立場を共有する言論ブリーフィングをする。 交渉団代表の1人である金属労組のイ・スンニョル副委員長は 「今日が最後という心情で交渉を用意した」と言った。 そして解雇者の名誉に関する復職問題が必ず先行させなければならないので、 使用者側は必ず解雇者に対する名誉な復職方案を出してくれと訴えた。 また、今日直ちにどうなるのか大言壮語が難しい イム・ジェチュン組合員を考慮して、 この日、遅くなっても 朴栄浩社長が参加した場で 交渉を終わらせたいといった。

「この問題が解決できるように、 これまでの怒りと不信は残して、私たちは最後だという覚悟で交渉場に入ります。 この扉が再び挫折の扉ではなく、希望の扉になることを私たちは希望します。」

イ・イングン支会長も、 この交渉が最後だという姿勢で交渉に臨むという点を強調して、 使用者側の決断を切実に訴える。

その間、コルテック使用者側が交渉場所に入った。 記者たちは労組側のブリーフィングが終わり、 使用者側の立場を聞くために交渉場所に行った。 使用者側では朴栄浩社長と イ・ヒヨン常務など3人が参加した。 記者の質問に対し、朴栄浩社長が短く回答する。

「どんな気持ちで交渉に臨みますか。 ひと言お願いします?」

「会社で原則通りに 対応しています。」

「労組側では復職を最も重点的に 話すといいましたが。」

「可能な話は互いに合意してしますが、 可能でないことは会社にもどうしようもない状況も多いです。」

「どんな点が不可能だと考えますか?」

「後で労組とまた話します。」

「今日中に終わらせられそうでしょうか?」

「そうなると良いですが、 それは互いが相談で決める問題でしょう。」

コルテックの朴栄浩社長が 交渉に臨む態度は、労働組合側と差異があった。 朴栄浩社長は 最後という言葉も、最善を尽くすという言葉もなかった。 何か緊迫したり切実なものも感じられなかった。 労組の交渉代表らが入り、使用者側と握手をして席につく。 朴栄浩社長が イ・イングン支会長などと握手をして 「ご苦労さまです」という挨拶する。 暫くして、交渉場の扉が閉められる。 イ・イングン支会長の言葉通り、あの扉は「希望の扉」になるだろうか?

▲交渉テーブルに座ったコルテック労使[出処:ヨンジョン作家]

11時に交渉が始まってから10分も経たずに、交渉場から高声が聞こえてきた。 朴栄浩社長の声のようだった。 高声が消えるかと思うと、すぐに昼休みで会議を中断する。 午前の交渉が終わり、マスクをした男性がどっと押しかけてきて、 朴栄浩社長を取り巻いて護衛する。 朴栄浩社長は彼らに 「今日はご苦労さん」と話しかけ、黒いベンツに乗って交渉場所から離れた。

イ・スンニョル副委員長が、労組側の要求を使用者側に伝え、 朴栄浩社長は 自分は高齢なのであえて交渉に参加しなくても良いと思うと言って 今後の交渉には参加できないかもしれないという内容の簡単な交渉経過を記者に伝えた。

▲午前交渉が終わって護衛を受けて交渉場から出る朴栄浩社長[出処:ヨンジョン作家]

強く見せるべきだ

午前の交渉が終わり、コルテック前の座込場に来て昼の宣伝戦をしている。 多くの人が同調ハンストをして、一緒に宣伝戦をして、 イム・ジェチュン氏のそばを守っている。 イム・ジェチュン氏もプラカードを持って立っている。 座ってやったらどうかと言うと「強く見せるべきだ」と言う。 骨ばかりにやせこけた体で、強く見せるべきだという言葉に胸が痛くなる。 ジェチュン氏が交渉について聞くと、知っている内容を話してくれた。 朴栄浩社長が今後の交渉に 参加できないかもしれないという話に、ジェチュン氏の黒い顔は灰色になる。

朴栄浩社長が出てこなければ、 交渉はこわれるのではないか? イ・ヒヨン常務は何の権限もない。」

余計なことを言ったようで、話をしたようで朴栄浩社長が 交渉に出てこなくても直接関与して進めるいう話で慰労してみるが、 ジェチュン氏の顔の失望の表情は晴れない。

▲コルテック本社前で昼の宣伝戦ピケッティングをするイム・ジェチュン氏[出処:ヨンジョン作家]

▲4月15日、昼宣伝戦場面[出処:ヨンジョン作家]

昼の宣伝戦が終わる頃、 「コルテック闘争勝利のための共同対策委」の活動家が ジェチュン氏をテントの中に入って休ませる。 この日、7時間の交渉にもかかわらず終わらせることができず、 翌日交渉を再開することにしたという知らせを聞く。 ジェチュン氏はまた夜明けに起きてずいぶん考えるだろう。

疲れた一日に対する甘い休息の睡眠は、意識を下ろすという点で死に比喩されたりもする。 死と似た睡眠は、今日という事件とその時間を生きた「私」を消滅させ、 明日という新しい今日と会える体にセッティングするのだ。(アン・ドギュン、〈養生と治癒の人文学東医宝鑑〉)

▲コルテック ハンスト場に貼られたジェチュン氏の休息時間案内文[出処:ヨンジョン作家]

こうした面で眠れないジェチュン氏は、35日間、新しい今日に出会えないまま、 昨日と同じ今日、その今日と同じ明日を生きている。 コルテック解雇労働者すべてが整理解雇された2007年から13年間、 そんな生活を送ってきたのかもしれない。 あるいは彼らの時間は2007年に止まったのかもしれない。 ジェチュン氏が「私たちには明日がある」という題名の本を書いたが、 解雇の人生が終わらない限り、 コルテック支会の組合員たちには完全な今日と明日があるのか疑問だ。 道路で闘争するすべての人々の心情は似ているだろう。

4月16日、ジェチュン氏がハンストを始めてから36日目になる日。 また交渉が開かれたが、コルテック使用者側は謝罪と復職慰労金、 どれ一つ労働者の要求を受け入れず、 2時間も経たずに交渉が中断されたという知らせを聞く。 全く新しくない今日だ。

ジェチュン氏に生きていて幸せだった記憶を尋ねた。 初めはそんな記憶が殆どないと言っていたが、後で話してくれた。

「働いている時が良かった。 働いてご飯を食べて焼酎一杯すること?」

そんな日には熟睡できただろう。 有難くて申し訳ない春の日だ。

夜明けに独りで目覚めていれば、最後にミシェル・トゥルニエの墓碑銘を思い出す。 「私があなたを称賛したら あなたはそれより百倍も多くのことを私に返したんだ ありがとう私の人生よ」 ―チョン・ヤンヒ詩人の詩、「夜明けに考える」より

原文(チャムセサン)

翻訳/文責:安田(ゆ)
著作物の利用は、原著作物の規定により情報共有ライセンスバージョン2:営利利用不可仮訳 )に従います。


Created byStaff. Created on 2019-04-22 23:27:17 / Last modified on 2019-04-22 23:27:18 Copyright: Default

関連記事キーワード



世界のニュース | 韓国のニュース | 上の階層へ
このページの先頭に戻る

レイバーネット日本 / このサイトに関する連絡は <staff@labornetjp.org> 宛にお願いします。 サイトの記事利用について