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韓国:サムスン作業環境測定報告書が核心技術と言えない理由
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サムスン作業環境測定報告書が核心技術と言えない理由

[企画連載]サムスン作業環境測定結果報告書非公開裁決批判(4)

ユン・チュンシク(ソウル大学校保健大学院) 2018.10.11 11:46

[編集者の言葉] 去る8月23日、中央行政審判委員会がサムスン電子など3つの系列社が提起した 「作業環境測定結果報告書情報公開決定取り消し請求」行政審判事件のうち、 主要争点事案をすべて非公開と決定したことでまた問題になっています。 しかし法律専門家、産業保健専門家、パノルリムの活動家らはこうした行政審判の結果は不当であり、 営業秘密よりも生命健康権の情報への知る権利が優先されるべきだと要求します。 そのためチャムセサンはなぜサムスンの安全情報が公開されなければならないのか、彼らの声を4回にわたり連載します。 今回の企画連載はOhmyNews、プレシアン、民衆の声にも共同掲載されます。

[連載順序]

  1. サムスンの私益より知る権利…「知る権利は生きる権利だ」 |イ・サンス(パノルリム常任活動家)
  2. 労働者の生命を放棄した中央行政審判委員会|シム・ジェソプ弁護士(民主弁護士会労働委員会)
  3. 安全保健情報は秘密にできない|コンユ・ジョンオク(職業環境医学科医師)
  4. サムスン作業環境測定報告書が核心技術と言えない理由|ユン・チュンシク(ソウル大学校保健大学院)

[出処:チャムセサン資料写真]

大韓民国社会は幸せでない

一般的に国民所得が一万ドル以下の時の国民の幸福は、経済成長と密接な関連がある。 しかし国民所得が二万ドルを超えると国民の幸福は、 社会の透明性、信頼性、言論の自由、または社会対立の要因(例えば貧富の格差、地域対立、労使対立、環境問題)などによって決定される。 その間、われわれは国民所得が一定水準まで向上するまで、 多くのことに耐えて政府や社会の指導層が提示するフレームを疑わずに、 いや疑ってもそのまま受け入れてきた。

しかし不幸にも韓国政府も社会も、一万ドル以下の時代に作られた各種のフレームをまだ強要しようとしている。 そのフレームの一つは政府主導と財閥グループの社会的影響力の極大化だ。 最近起きた例として、 国家的には朴槿恵(パク・クネ)政権の失政、 社会的にはセウォル号と加湿器惨事、 財閥グループではサムスンの問題がある。 サムスンの事件は継承問題、労組設立妨害、そして今年、産業保健分野で表面化した作業環境測定報告書の国家核心技術に関する議論だ。

こうしたサムスンの事件は、一貫してサムスンという財閥が政府と密接に関連し、 社会を、そして国民を欺瞞する共通のフレームを如実に見せた。 そのフレームはすべて過去の独裁政権のときのような旧時代的なフレームで、 現代社会ではもはや通じないが引続き突きつける。 しかし韓国国民の暮らしに対する要求と権利は今や過去のフレームを超える社会になった。 そのために韓国社会は対立して不幸だ。

作業環境測定報告書の議論―三星が最初のボタンを掛け違えた

サムスンは作業環境測定報告書の議論が進行中だった去る4月25日、 自らのニュースルームで 「現在問題になっているのは判定機関ではなく『労災申請者』が本人が働いていた所だけでなく、事業場全体の数年分の報告書を公開しろと要求』したり 『作業環境と無関係な』第三者の報告書全体を要求する場合です」ともっともらしく報道する。 しかし次の図が示すように、作業環境測定報告書の公開可否は結局、 政府が公開するべきか、核心技術かという事についての議論がある。

▲作業環境測定報告書公開議論の経過

サムスンの主張のとおりに労災申請者(被害者)がサムスンに要求すれば、 測定報告書を労災申請人に公開していたとすれば、 あえて政府を相手に被害者が政府公開を要求しなくても良かった。 しかしサムスンは徹底的に被害者にも非公開にした(図1段階)。 すると被害者は職業病の判定を受けるために、やむを得ず政府が保管している資料の公開を要求する(図2段階)。 しかし政府も資料公開を拒否するばかりか、さらに裁判所で職業病と認定し、サムスンの肩を持ち、 職業病認定が不当だというサムスン側の立場を代弁し、 被害者を対象として職業病認定取り消し訴訟を出したりもする(2段階)。 一方、被害者の多くは作業環境の資料を知らず、労災申請に困って政府が持っている資料の情報公開を要求するに至り、 2月に大田高等法院で最低の秘密を除き公開しろと決める(3段階)。 そしてこの公開決定により、裁判所は情報公開がどれほど妥当か、 そして法的(情報公開法)に符合するかを論理的に説明した。 しかし過去のフレームに馴染んだサムスンは、多くの労働者の疾病と痛みを無視して新しいフレームを探す。 それがいきなり出てきた作業環境測定報告書は国家核心技術にあたるので公開しないということだ(4段階)。 これを最初に判断したのは産業通商資源部(産業資源部)だが、 当時の産業資源部は専門家の意見をまとめて報告書に核心技術が含まれるとした。 この時、専門家はすべて半導体技術の専門家だったが、 作業環境測定報告書を一度も見たことがない学者だった。

結局、サムスンが最初から労災申請者の権利を認めていれば、 初めの段階で解決するものだった。 しかしサムスンは過去に政府と結託していた財閥の姿から踏み出すことをしなかった。 そしてこれは、前述した労組設立妨害、経営権不法継承、 そして最近の二酸化炭素による協力業者職員死亡事故の対応過程とも似ている。

作業環境測定報告書を公開すべき理由

過去のフレームに馴染んだサムスンの主張に対し 労働者の人権よりも経済成長を主な任務とする産業資源部が動いたのも皮肉だ。 産業資源部は中国の半導体攻勢により、国家の基幹産業である半導体産業の社会的危機意識に便乗する外見を取った。 作業環境測定報告書が国家核心技術に該当すると主張し、 中央行政審判委員会も特別な悩みなく(連載2編参照)、 この報告書には国家核心技術が含まれているので公開してはいけないと判断した。 しかしこれは次のような理由で妥当ではない。

第一に、国家核心技術と指定されている項目自体が非常に包括的なので、 具体的に何が核心技術なのか特定できない。 現在、指定されている半導体関連の核心技術は30ナノ以下級に関する半導体技術はすべて核心技術に指定している。 簡単に比喩すれば、ある会社でとても特別な豆腐を製造する時、 一般的な豆腐の製造工程は似ているので核心技術ではないが、 その会社だけが使う特定工程の特定製造方法が核心技術であろう。 しかし現在の核心技術は非常に包括的なので、豆腐の製造工程全体が核心技術だと言うようなものだ。 一般的な半導体製造工程は、教科書を読んだりウェブを検索すれば簡単にわかる部分だ。

第二に、公開をしてはならない営業秘密と核心技術は次元が異なる問題だ。 会社の権益保護のために一般的に営業秘密という制度があり、これは非公開が原則だ。 しかし核心技術自体は営業秘密ではない。 もちろん一部の核心技術は営業秘密に属することがある。 こうした場合はサムスンが営業秘密に該当するという技術項目をあらかじめ指定べきだが、 作業環境測定報告書はそうしなかった。 また営業秘密でも、労働者の生命に直結すれば利害当事者に公開するように法的に定められているが、これを無視している。

第三に、生命権と知る権利は核心技術や営業秘密に優先する憲法的基本権だ。 作業環境測定報告書に核心技術や営業秘密の内容が含まれると仮定しても、 労災申請人の情報公開の権利(知る権利)と同等な概念ではない。 労災申請人の生命に関する権利(健康権)は人間の尊厳権に当たり、 知る権利は請求権的基本権に該当するが、 どれも憲法が保障する最も基本的な権利だ。 こうした憲法上の基本権的な権利は私的な法益である非人格的利益より、 はるかに上位の価値を持ち、優先権的な価値だ。 ともに健全な国民の監視と牽制のために、 情報公開法では国家が持つ情報を個人のプライバシーを侵害しない限り、 すべて公開することになっている。

第四に、作業環境測定報告書には政府やサムスンが主張するような国家核心技術は実際に含まれていない。 国家核心技術が問題になった時、 サムスンや産業資源部が主張する核心技術要素として工程概要図(測定位置も)をあげた。 工程図を見ると中国企業に技術が流出しかねないと国民を糊塗した。 しかし労働部が保管している報告書には工程の概要図がない。 作業環境測定機関が報告書を作成する時は、 どこで有害因子が測定されたのか、どんな勤労者を対象に測定したかを表記するために工程図を作成するが、 実際に政府に報告する時には工程図が含まれない。 また報告書に記述された各工程名を見ると技術流出の可能性があるというが、 これらの工程はすでに教科書やインターネットで簡単にアクセスできる公開された工程だ。 半導体チップが作られるまでの数百種類の工程で、 それぞれ特定の技術と化学物質が使われるが、 測定報告書は教科書的に圧縮して表現した10程度の名称で表わす。 また各工程別の投入人員も核心技術だと言うが、 半導体産業は急激な自動化で工場内の人員が毎年急激に減少している。 したがって、過去の測定当時の作業環境測定報告書が公開されても、 現在の実状を知ることはできず、 記載された人員もすべて表記されているのではなく一部の人員(工程、設備エンジニアおよび協力業者職員脱落など実際と違う)にあたる。 専門家の立場から見て、産業資源部が主張する技術流出について一部分同意できる部分はただ一つ、 工程に使われる化学製品に関する部分だ。 しかしほとんど化学物質は工程別に知られていて、 化学物質そのものの名称で表記されているためこれにあたらない。 単に特定の工程で特定の製造会社の製品が書かれた情報が含まれているかもしれないが、 これが心配なら該当製品の商標名を隠して公開すれば良い。 この他には測定報告書に核心技術情報や営業秘密が含まれていると見るのは難しい。

サムスン自らも決断せよ

上のようなさまざまな理由で、行政審判委員会が下した決定は間誤っている。 大統領は変わっても、不幸にも政府はそのままだという言葉が真実のように聞こえる。 もう過去の政府や過去の財閥が持っているフレームが通用しない社会が到来したのに、 相変らず「ああ! 昔よ!」と叫んではいけない。 サムスンはこれまで職業病に関して多くの努力を傾けてきたが叱責を受けてきたし、 問題解決に失敗し、今年の8月にパノルリムとの劇的な合意で調停案を無条件に受け入れるといった。 それと共に、また国家を動員して異なるフレームで被害者の権利を圧迫しようとしている。 サムスンはこれ以上、過去のフレームで政府を動員し、 被害者の要求を無視しないことを望む。 サムスンがこの社会に垂らした影を自ら取り払う時、 究極的には健全で、市民にそして労働者に愛される企業になるだろう。

最後に、作業環境測定報告書に関して筆者は次の意見を主張する。 まず、事業主が公開する時、利害当事者(被害者および代理人)には営業秘密とは別にすべてを公開するべきであり、当事者は秘密遵守義務を守らなければならない。 二つ目は、政府が保管している作業環境測定報告書が営業秘密を含んでいる場合に、 当事者には事業主が公開する原則を同一に適用すれば良く、 第三者(これは情報公開法の権利である)が要求する時は営業秘密情報(例えば測定された化学製品の商品名)を隠して公開しなければならない。 しかし営業秘密が含まれていなければ、 利害当事者はもちろん、第三者にもすべて公開しなければならない。 こうした原則は憲法が保障する基本権の充足、 情報公開法の趣旨と知る権利を同時に満たし、 市民の監視と牽制も可能にする。

結論として、作業環境測定報告書を隠す理由はない。 しかし半導体産業が主張する中国の半導体攻勢に対する憂慮、 半導体事業の技術的格差の維持などの社会的な必要性により、 特定の半導体技術を保護する必要もあるだろう。 そして万一、作業環境測定報告書がそのような非公開にされるべき事項を含んでいるのなら、 これは該当の部分を正確に指摘して、その部分を隠して公開することが望ましい。

原文(チャムセサン)

翻訳/文責:安田(ゆ)
著作物の利用は、原著作物の規定により情報共有ライセンスバージョン2:営利利用不可仮訳 )に従います。


Created byStaff. Created on 2018-10-11 08:58:27 / Last modified on 2018-10-12 06:53:41 Copyright: Default

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