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大衆と遊離した政治支配層の危機

[寄稿] フランス労働法反対闘争をどう見るか?

シン・キソプ (ジャーナリスト)

フランスで大規模な大衆の反乱が起きている。契機は右派政府が「初回雇用契 約法」(CPE)という悪法を議会で「強行通過」させたことだ。連日全国でデモ が行われ、労働組合もゼネストに同意した。

韓国の左派は「労学連帯、労働法改悪阻止闘争」という点に特に大きな関心が あるだろう。ところがこの事態をどう見るのかを整理することは、それほど簡 単ではない。事実関係と過去の事件との脈絡をまとめ、事態を見る視角も整理 しなければならないからだ。この文の目的は、1.事実関係、2.最近数年間の事件 との関係、3.政治的文脈、4.見解の整理などに役に立つものなどを整理するこ とだ。

1. 事実関係

1)法の内容:簡単だ。26才以下または未満(どちらなのかよくわからない)の労 働者が21人以上の事業場に初めて就職する場合、最初の2年間はいつでも何の 理由もなく解雇できるということだ。これについて知るべき内容は、1)20人 以下の事業場の場合、昨年すでに同じ権利が付与されていたという点(「新雇 用契約法」すなわちCNE、Contrat Nouvelle Embaucheが昨年8月に施行されて いる)2)現行のフランス労働法は、1ケ月以内には何の理由もなく解雇できる ようになっているという点(簡単に言えば、1ケ月を2年に延長したわけだ)だ。 しかしもう一つ、3)57才以上の高齢労働者の場合「期間固定雇用契約」(CDD、 Contrat a duree determine)期間を最大2年(または1年6ケ月)から5年に延長す る法も、今回同時に通過したという点にある。(CDD部分は情報があまりなくて 正確だという自信がない。この点を考慮して、そのまま真の高慢だ。)

2)法通過の過程:事態を理解するために重要な部分だ。初回雇用契約法はそれ 以前はともかく最小限今年の始めからはだいぶ論議になったし、学生は強く反 対した。この反対の波は3月7日には100万人がデモに参加する程になった。と ころが右派政府はこうしたデモの渦中に上院で法案を強行通過させた。法案を めぐり、議員の討論を十分に行う伝統を無視して憲法に規定された特別手続き、 すなわち「討論終結」を発動し、夜中に押し通したのだ。討論終結ということ で、討論なくしゃにむに押し通したという批判が出てきている。

3)フランス経済の現実: 実質国内総生産(GDP)成長率(2004年2分期現在):フラ ンス2.8% アメリカ4.8%、英国3.6%、ドイツ1.5%、日本4.3%、ベルギー2.7%、 スペイン2.6%、イタリア1.2%、オランダ1.4% 失業率(2004年9月現在):フラン ス9.6%(25才以下22.0%) アメリカ5.4%(11.8%)、英国4.6%(12.1%)、ドイツ 9.9%(11.4%)、日本4.6%(-)、ベルギー7.7%(19.6%)、スペイン10.6%(21.6%)、 イタリア8.5%(26.8%)(2003年現在)、オランダ4.7%(7.9%)

2.最近数年間の事件との関係

最近数年間、フランスは右派政府にしても左派政府にしても、持続的に規制を 緩和する措置を取ってきた。少し長く見れば、1994年に今回と似た労働規制緩 和の試みに抗議するデモがあった。95年には年金改悪闘争があった。97年から 2002年までは、左派のリオネル・ジョスパンが総理だったが、この時も似た規 制緩和措置が続いた。これに対抗する闘争はあまり成功的ではなかったし、 2003年に右派総理がまた年金改悪を試み、反対闘争があったがこの戦いも失敗 した。社会党、共産党、緑色党などいわゆる「多数の左派勢力」(Plural Left) のうち最も勢力が強い社会党はこの戦いを支持しなかった。

このように、フランスの大衆はこの10余年間、左右を問わず新自由主義的政府 の政策をほとんど阻止できなかったし、そのために人生は日ごとに不安になっ た(もちろん、不安とはいえ韓国とは比較にならないだろう)。このように積もっ た不安と不満が最初の政治的勝利につながったのが、まさに昨年5月29日のヨー ロッパ憲法承認のための国民投票否決だ。大衆はヨーロッパの強化が結局自分 たちの経済的困難を加重させると認識した。

選挙結果がこれを明確に語る。結果は55%対45%だったが、細かく結果を見ると、 階級的な投票の様相が明らかだった。肉体労働者の79%、失業者の71%、一ケ月 の収入が1500ユーロ(187万ウォン程度)以下の世帯の66%が反対した。反面パリ 中心地域では賛成率が66%で、一ケ月の収入が4500ユーロ以上の人々は74%が、 パリの富裕層地域の賛成率は82.5%に達した。

これにまけないほどに重要なことは、右派政府はもちろん左派の社会党さえ、 ヨーロッパ憲法に賛成したという点だ。マスコミは言うまでもなく、左右の代 表新聞のルモンドとル・フィガロをはじめリベラシオン、月刊ル・ヌーベル・ オプセルバトゥールまで、多くのマスコミが賛成キャンペーンに参加した。そ のうえハーバーマスとギュンター・グラスなどの有名なドイツの知識人11人が 賛成投票を訴えたが、大衆は断固として「反対」を叫んだ。この事件は、執権 右派はもちろん左派を代表する社会党にも大きな政治的打撃をこうむらせた。

そして10月から11月初めに移住民の暴力デモ事態が全国を覆った。2人の若者 が警察に追われて死んだことを契機として始まったこの事態は、移住民の劣悪 な生活条件に対する怒りの表出だった。事態が緊急に展開し、強硬鎮圧を主導 したニコラ・サルコジ内務長官は窮地に追い込まれた。そして事態収拾はドミ ニク・ドビルパン総理に渡された。彼は貧民地域経済対策、特に青年失業対策 を出すと約束した。

今回の法案は、ほとんど全面的にドビルパン総理が主導した。彼が主張してい るのがまさに貧民地域青年失業緩和対策という点だ。それで今回の事件は長期 的にはフランス支配階層の「新自由主義政策路線」の文脈にあるが、短期的に は「貧民層青年失業対策」の文脈とも見られる。もちろん当事者は対策ではな く状況を悪化させるだけだと主張している。その上、移住民の暴力デモを傍観 したエリート青年層さえ立ち上がった。ソルボンヌ大学に象徴される相対的に 条件が良い学生たちが今回の事態を主導している。

このように、今回の事件は昨年のヨーロッパ憲法否決を主導した大衆の不満が 「投票場」から出て「通り」に出てきたという意味を持つ。だから今回の戦い は、今後のフランス政治「ヘゲモニー」がどちらに傾くかを決める意味を持つ とも言える。

3. 政治的文脈

この事件の政治的脈絡は上述のヘゲモニー主導の問題に直結する。政治的文脈 を理解するためには、まずこの法に賛成する側の態度と反対する側の態度を確 認しなければならない。

1)賛成側:執権与党はこの法案を主導的に通過させた。特にこの法は事実上、 ドビルパン総理の作品だ。右派新聞ル・フィガロの古参政治記者フィリップ・ ゴリオ(Phillippe Goulliaud)はこう評した。「ドビルパンは自身の個人的未 来を今回の改革にかけた。この2ヶ月間、事実上彼が単独でこの仕事を進めた。 彼は今回のことを自分の大統領選挙キャンペーンの踏み台にしようとしてい る」。ジャック・シラク大統領の側近であるドビルパンは、昨年ヨーロッパ憲 法国民投票否決以後の政局を突破するためにシラクが登用した人物だ。彼の最 大の任務は、10%に達する失業率を低下させるなど、経済状況の改善だ。右派 政府の指導層にとって今回の事件は、2007年の大統領選挙と密接に関連する。

こうした文脈で、ドビルパンよりさらに深刻な右派で右派連合内のもうひとつ の有力大統領候補であるニコラ・サルコジ内務長官に注目する必要がある。彼 は昨年の移住民のデモで苦境に立たされており、今度はこの法を公開的に支持 する発言は慎んでいる。ドビルパンと距離をおくという戦略と解説できよう。 ただし、彼の政治的指向を見せるように、今回のデモの暴力性を浮上させるこ とには熱を上げている。

当然、規制緩和が好きな経営界も、今回の事件に対しては少し留保する態度を 見せる。ここにはドビルパン個人の企画という認識が作用する。

2)反対側:反対勢力の主導層はもちろん学生だ。特にソルボンヌに象徴される エリート学生たちだ。彼らの政治的指向は簡単に断定することはできないが、 経済状況があまりにも悪いという点により、反政府的指向がかなり強いものと 判断される。

他の勢力は、最初は概して留保的だった。移住民が集まる貧民地域の情緒は 「われわれは今でも死ぬ思いだ。これより悪くなることがあるだろうか」とい う雰囲気がある。この法に反対しないのではなく、自分の境遇とデモを主導す る学生との境遇の差から来る乖離感を感じていると見るべきと考えられる。

左派政治勢力は、概して今度は積極的に介入するものと見られる。社会党も明 らかな反対の意思を表明しているが、彼らは昨年のヨーロッパ憲法賛成で失っ た支持を回復する機会だと考えているようだ。労働界もまた最初は留保的だっ た。最大の労組組織で、共産党系の労働総同盟(CGT)は、ゼネストに留保しつ づける態度を見せながら、対話を強調してきた。

状況が広がり続け、学生への圧迫が激しくなり、ゼネストを決めたものの、そ れでもしばらく後の28日にした。それで「労学連帯」という言葉は真実とはい い難い。学生が作った時に一歩遅れて足を漬ける程度と理解するのが正しいと 思う。もちろん、個別には労働者もデモに積極的に参加するものと見られる。

3)政治的文脈:フランスは来年に大統領選挙を控えている。執権与党はもちろ ん、野党もこれを意識して今回の事件の波紋を計算しているだろう。社会党は 今回の機会に失った影響力を回復しようと試みるだろう。執権層もあらゆる計 算をするだろう。ただしデモ隊は右派も左派も信じられないという批判的見解 が結構あるようだ。この10年間の状況を見れば、これはあるいはあまりにも当 然だ。「政治家はどいつも信じられない」という雰囲気が、恐らく大衆的反乱 の原動力だろう。

4. 見解整理のために

こうした事実と変化の要素を総合して把握すれば、今回の事件を見る基本的な 視点をまとめるのはそれほど難しくないと思う。単に「新自由主義反対大衆闘 争」、「6・8精神の復活」といったように、簡明にスローガン式で整理しよう とすると、これらの変化の要素は面倒だったり無視したいことかもしれない。

まだ明快に事態を誘って突き抜ける分析は出ていないようだ。フランス語の文 章にはどんなものがあるのかはわからない。ただし英語で書かれた文のうち、 今までで最も明らかな見解を見せているのはロシアの知識人ボリス・カガルリ ツキー(Boris Kagarlitsky)が書いた「1968 Vice Versa」だと思う。彼の主張 を要約すれば「今回の事件は大衆と遊離した政治支配層の危機を見せる。われ われは今、政治と生活の矛盾を見ている。この事件は、新自由主義時代に多く の民主主義国家で行われるほかはない葛藤の序幕でしかない。フランスは再度 マルクスの表現を借りれば、政治闘争の『古典的な国』だということを示す」 ということだ。

最後に一つ、1968年との違いに言及する必要がある。カガルリツキーは、1968 年には学生たちははるかに急進的だったが、大衆からある程度孤立していた。 だが今はあまり急進的ではないが、幅広い社会運動の一部門だと主張する。ま た、当時は左派政治勢力が強く、影響力も今よりは大きかったが主流を代弁し ていなかった反面、今は「真摯な政治」領域の中に左派勢力が存在しないと主 張する。社会党は名前だけという。それでも社会は当時よりさらに左派的指向 を見せているという。

ここに一つ付け加えれば、その原因は経済と無関係ではないと考える。1968年 にはこれまでにない西洋の経済好況が終わりに達することはあっても相変らず 豊かな中で状況が悪くなると感じた時期だとすれば、今は不況の極に達し、こ れ以上耐えられないと感じている時期だ。それで当時「沈黙する多数」は静か にドゴールに票を入れたが、今の大衆は「どの勢力も信じられない絶望感」を 感じていると考える。

シン・キソプ様はハンギョレ新聞記者で、この文はシン・キソプ様の進歩ブログから転載した。

2006年03月22日16時07分

原文(チャムセサン)

翻訳/文責:安田(ゆ)
著作物の利用は、原著作物の規定により情報共有ライセンス:営利利用不可・改変許容仮訳)に従います。


Created byStaff. Created on 2006-03-25 13:20:04 / Last modified on 2006-03-25 13:20:05 Copyright: Default

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