本文の先頭へ
韓国:われわれはなぜ密陽に連帯するのか
Home 検索

エネルギーは平等ではない

[寄稿]われわれはなぜ密陽に連帯するのか

カン・ムンシク(全北労働連帯) 2013.05.30 15:56

密陽送電塔闘争を体験し、韓国社会にエネルギー民主主義への省察が提起されている。連帯も広がり、地域を越えた脱核希望バスが密陽送電塔の建設現場にも行った。密陽送電塔がUAEの核発電所建設契約とからんでいるというマスコミの報道からもわかるように、エネルギー問題は、ある小さな田舎の村で発生した問題だが、エネルギー問題全体と関係がある。また核、電気、石油などのエネルギーの形態とは無関係に、全てのエネルギー生産と消費を貫く大きな流れが存在し、これを具体的に理解するためにはエネルギーが誰のために生産されるのかを確認することが必要だ。

資本主義「搾取」経済がそのまま反映される「エネルギー」

2008年に米国の人口は全世界の人口の4.56%(3億500万人)に過ぎないが、エネル ギー消費は18.6%(26600TWh)を占める。一方、アフリカとラテンアメリカ人口を 合計すれば14億4千6百万人で、世界の人口の21.6%に達するが、エネルギー消費 は10.1%(14400TWh)に過ぎない。国家別GDPと1人当りのエネルギー消費量がほぼ 比例するという事実も多くの研究と統計によって明らかになっている。しかし こうした統計は、裕福な国で多くのエネルギーを消費すると解釈するのでは、 半分の真実しか見ていないことになる。

▲人口当たりエネルギー消費量の図。色が濃いほど1人当りのエネルギー消費量が多い。[出処:BP Statistical Review of World Energy]

韓国は、GDP成長率とエネルギー消費成長率がほとんど同じで、これはどの項目 が原因なのか結果なのかが分離できないほど相関関係が高いことを示している。 経済学では、投入された単位エネルギーあたりの生産への寄与を示すエネルギー 生産性(GDP/エネルギー)という指標があり、韓国生産性本部が発表した資料に よれば韓国/米国/日本とも経済成長率が低いほどエネルギー生産性も低かった。 これは経済成長率が低い年にむしろ経済成長率よりもエネルギー消費増加率が 高かったことを意味する。家計の所得は増加しなかったのにエネルギー消費が 増えたのは、その増加分が生産に投入されたことを示唆する。ここに2008年、 世界で使われたエネルギーの51%が産業(生産)に使われ、家庭で使われたのは 18%しかなかったという事実を結合させれば、エネルギー消費の増加は生産の 拡大による結果と言う方が正確だという点が分かる。

▲このグラフは世界エネルギー機構で2006年に発表した世界エネルギー統計に基づいて作成された。[出処:ウィキペディア]

[出処:チャムソリ]

エネルギー消費の増加を導くのは、絶えず拡大再生産しなければならない資本 主義経済において、資本主義社会で第1世界国家の富が第3世界での労働力搾取、 資本収奪に基づいている点を思い出せば、こうしたエネルギー消費の偏差も 資本主義が作り出した不平等の結果だということを簡単に察することができる。

利益創出のためには飢えて死ぬ人が増えてもよい?

この不平等の野蛮はここで終わらない。視野を野に、山に、もう少し広げてみ よう。工場を運営するにはさまざまなエネルギーが必要だが、必ず投入しなけ ればならないのが人間の労働力だ。そしてその人間が生命を維持し毎日労働力 を提供できるように再充電するためには、口に入るエネルギー、つまり食糧が 必要だ。地球全体のエネルギー消費が不公平なように、この食糧もまた極端に 不公平に消費される。

現在、世界で9億人が飢餓に追いやられており、20億人が栄養失調に苦しんでい る。地球の一方では誰かが飢えて死んでいても、その反対には道路ごとに捨て られた食べ物があるのを目撃し、人々は世の中の不条理を嘆くかもしれない。 だが問題は、道路に捨てられた食べ物を見て、飢えた人々を思い出すだけでは なかなか変わらない非常に大きく強固な構造があることにある。

2008年にはBSEをめぐる大きな議論があり、この時にBSEの原因として工場式の 畜産が指定された。工場式畜産をエネルギーの面から見れば、悲劇はさらに恐 ろしい。地球上で食用として飼育される牛は、13億頭程度で、これらの牛をは じめとする家畜は世界の穀物の40%程度を消費する。世界で生産された小麦の 20%、とうもろこしの65%ほどが飼料として消費されるが、穀物を牛に食べさせ て、その牛を食べるのは穀物を直接食べるより、約10倍程度広い農地が必要だ。 そして飢餓で苦しむ9億人のうち毎年4〜6000万人が飢えて死亡する。

では肉類の消費を減らせば飢餓人口は減るだろうか? 逆説的だが、飢餓という イメージが重なるアフリカの多くの国々は食糧輸出国で、すでに世界の総食糧 生産量は全人口を扶養するのに充分だ。問題は、食糧エネルギーがその他のエ ネルギーと同じように利益創出のための生産としてまず投入されるというとこ ろにある。そしてこの食糧も私たちが暮らす世の中では、もはや天が与えてく れた大切な食べ物ではなく、屋根のない工場にエネルギーが投入され、生産さ れた結果だ。現代農業は、化学肥料、農薬、農機械の投入がなければ不可能で、 この原料・機械を生産運行するために莫大なエネルギーが投入されるなど農業 の石油依存度は非常に高い。

最近はさらに、代替エネルギーを作るという名目で、バイオディーゼル事業が 脚光を浴びている。バイオディーゼルは軽油に代わる植物性燃料だが、とうも ろこしや豆などの食糧エネルギーを利用して油を生産するということだ。2007 年、米国でバイオ燃料生産に投入されたとうもろこしは813万トンで、米国のと うもろこし生産量の25%を記録した。これは2002年の13%にから12%増えた。 2006年以後、世界の穀物価格が30%以上急騰したのは、バイオディーゼル生産 拡大が原因の一つと指摘されている。この穀物の暴騰で世界の飢餓人口は、少 なくとも1億人以上増加したと集計されている。

石油エネルギーから食糧エネルギーへ、またバイオディーゼルエネルギーへと、 こうしてエネルギーは循環を続ける。エネルギーの形態とは無関係にこうした エネルギーの生産と消費の循環を貫く一貫した原則がある。利益を上げるため に商品が生産され、エネルギーもそれに合わせて投入されるという原則、この 生産の利益は、社会の多数ではなく少数の手に渡り、生産をめぐる多くの関係 から発生する問題は、その少数を除いた社会全体の責任になるという原則だ。 その少数は、肉、バイオディーゼルの生産のために飢える人が発生することを 無視し、自分が使うエネルギーのために核発電所と核廃棄物の危険に人々が露 出することを無視する。その上、核発電所の部品を偽ってまで、自分の利益を 増やす。

密陽送電塔が彼・彼女たちだけの戦いになってはいけない理由

都市の人々による過度な電気の使用が問題だとか、電気消費を減らそうという 提案にしばしば接する。だが第1世界国家の労働者が第3世界国家の労働者より 享受できる富が大きいとしても、これは生産の規模が大きくなり、餅の量も増 えたにすぎない。これについて第1世界国家の労働者が第3世界国家の労働者を 搾取しているとは言えない。同じように、エネルギーもまた生産の規模が大き い第1世界の国家に集中し、そこで暮らす人々が餅を得ているだけだ。

都市の人々が電気を多く使うから、密陽のお年寄りに加えられる暴力の共犯に なるのではない。金持ちがさらに多くの金を持つために暴力を行使する野蛮の 構造を直視せず、そして私が使っている多くのものに誰かの血の涙が含まれて いるという事実を直視しなければ、共犯になる。この構造には、人を紙コップ を捨てるように使い捨てる整理解雇があり、金が惜しいと言って同じ仕事させ ても少ない金しか払わずに人間的な侮蔑をあたえる非正規職もあり、構造自体 を支えるための戦争や武器生産もある。この世を直視して変えるための第一歩 として、密陽送電塔の闘争に連帯しよう。

原文(チャムセサン)

翻訳/文責:安田(ゆ)
著作物の利用は、原著作物の規定により情報共有ライセンスバージョン2:営利利用不可仮訳 )に従います。


Created byStaff. Created on 2013-06-03 16:48:39 / Last modified on 2013-12-17 09:44:15 Copyright: Default

関連記事キーワード



世界のニュース | 韓国のニュース | 上の階層へ
このページの先頭に戻る

レイバーネット日本 / このサイトに関する連絡は <staff@labornetjp.org> 宛にお願いします。 サイトの記事利用について