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LNJ Logo 太田昌国のコラム : 「ファルージャ」を再論しつつ、同時に希望の萌芽も見つける
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 ●第78回 2023年4月10日(毎月10日)

「ファルージャ」を再論しつつ、同時に希望の萌芽も見つける

 先月の当欄では、米国海軍の次期強襲艦が「ファルージャ」と名づけられることに触れた。
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 http://www.labornetjp.org/news/2023/0310ota

 20年前の2003年3月にイラク攻撃を開始した米軍が、占領軍への抵抗が最も激しいファルージャで、翌年の4月と11月に包囲・侵攻作戦を実施した。合わせて2700人の人びとを殺害したその行為は、世界的には「ファルージャの虐殺」として知られている。だから、虐殺した当事者側がその地名を次期強襲艦に名づけることには、「驕り」と「独善性」があまりに顕わで、イラクの人びとのみならず、一般的にもひとの心を逆なでする。そのことを書いた。

 その一週間後、米ブラウン大学ワトソン国際公共問題研究所が、「ブラッド アンド トレジャー:2003〜2023年/20年間にわたるイラクとシリアにおける戦争での、米国の予算上の費用ならびに人的犠牲者数」と題する報告書を発表した。もちろん「開戦20年」に合わせての分析である(3月18日付けの「しんぶん赤旗」に大要が掲載)。
    ↓
  The Costs of War in Iraq | Costs of War (brown.edu)

 イラクの犠牲者数は28万人〜31万5000人、シリアでは26万9000人、合計55万人〜58万人と推計されている。イラクの死者のうち66%は民間人と推定されている。「イラクは大量破壊兵器を隠し持っている」という、米国政府自身が最終的には虚偽であったことを認めざるを得なかった「理由」によって始められた戦争で、これだけの人びとが命を奪われた事実を改めて留意しておきたい。一方、米兵+傭兵の死者数は8000人とされている。

 戦費は2兆8900億ドル(380兆円相当)だが、注目すべきはその5分の2を、2050年会計年度までかかる帰還兵対策費が占めていることだろう。この戦争に派兵された米兵のうち3万2000人が負傷したが、PTSD(心的外傷後ストレス障害)に苦しむ元兵士が多く、それは実に4半世紀後有余までの国家予算に計上しておかなければならないほどの費用を必要とするということなのだ。今は沖縄に住む政治学者にして平和活動家(さらに付言すれば、1960年には海兵隊員として沖縄に駐留する一兵卒であった)米国人、ダグラス・ラミスが言うように、外国ばかりを戦場にして絶えず戦争をしている米国にも、「戦争が帰ってくるのだ」。帰還兵によるむごい銃犯罪の多発や家庭内暴力、そしてPTSDという形で。


*写真=反戦イラク帰還兵のホームページより

 米国がようやくにしてアフガニスタンから撤退してまもなく、ウクライナへの侵攻を開始したロシアをもまた、20年間「対テロ戦争」を愚かにも続けた米国と同じ結果が待ち受けていることだろう。今時戦争の無謀さを歴史的に考えると、否応なく、19世紀なかば、帝政ロシアがオスマントルコならびに後者に加担したイギリス・フランスとの間で繰り広げたクリミア戦争(1853〜56年)の故事を思い起こさずにはいられない。敗戦後のロシアは、前世紀来の度重なるトルコとの戦争で獲得した「戦果」を放棄せざるを得なくなり、バルカン半島の領土も黒海での艦隊維持の権利も剥奪された。無謀な戦争の財政負担にも耐え切れなくなって、ロシア領だったアラスカを米国に売却までした(1867年)。

 2つの超大国のこれらの愚行には、これを食い止めることができない私たちの無力さも痛感して、胸が塞がれる。

 だが、同じ時期に読んだ次の記事には、歴史の流れを確実に変革できる道筋を読み取ることができて、力を得た。「しんぶん赤旗」(党機関紙ゆえ選挙記事の過剰さには閉口するが、外電欄には、植民地問題と戦争を考える上での重要な記事がたびたび掲載される)3月18日号は、「旧植民地国への文化財返還 欧州で拡大」と題する大型記事が載った。当コラムは、ここ数年来、オランダにおける植民地主義克服の努力の重要性にたびたび言及してきた。
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 http://www.labornetjp.org/news/2021/0310ota などを参照。

 北ヨーロッパの植民地帝国として有力な存在であったオランダが、ここ数年来、同国の美術館・博物館(写真)に展示されてきた世界各地の旧植民地から略奪してきた文化財の返還に取り組んでいる。美術館のキュレーターたちが発案して、植民地主義的意識に満ちた歴史上の時代区分用語の変更まで行なっており、それは。略奪品に取り囲まれて装飾し生活してきた王族構成員たちの意識をすら変えている。当該記事は、これら一連の動きを先駆的に提唱してきたオランダ自由大学研究員、ヨス・ファンビュールデル氏に対するインタビューで構成されている(ユトレヒトで、桑野白馬特派員)。

 氏が強調するのは、この動きが旧植民地にルーツを持つオランダ人の努力によって開始されたことである。「足を踏まれてきた」側の怒りや嘆きが出発点であり、それにヨス氏のような白人オランダ人が呼応することで、運動の広がりが獲得されてきたことがわかる。その背景には『力をつけた原産国からの返還要求が圧力となり、変化を生み出してきた』。2020年に米国で広まった「ブラック・ライヴズ・マター」(黒人の命は大事だ)運動も、「過去の植民地支配が現在に続く影響に光を当て」た。自国の暗い歴史を認めることは現在の私たちの重要な責任であり、「例えば日本軍はアジアを侵略し、残虐な行為をした」が、「おそらく多くの日本人が思っているよりも、海外の人たちはこの事実をよく知っている」。

「過ちを認めることは道徳的な力の表れ。二度と繰り返さぬよう注意を払えば、国際的な信用も高まる。逆に歴史を否定すれば、国際的な信用を著しく傷つける。隠すことは『弱さ』であり、意味のない重荷を背負う」ことだ(大要)。

 自ら作り出してきた現実に裏打ちされた氏の言葉は示唆的だ。それは、歴史修正主義的言動が溢れかえっている日本社会の、そして「ファルージャの虐殺」を「栄誉」にまで捏造してしまおうとする米国社会の――双方の欺瞞をも射抜く言葉として作用する。私たちが努力を向けるべき方向性も、そこには示されている。


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