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LNJ Logo 太田昌国のコラム:「ファルージャ」と名づけられる米国海軍次期強襲鑑
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 ●第77回 2023年3月10日(毎月10日)

「ファルージャ」と名づけられる米国海軍次期強襲鑑

 米国海軍高官は、去る3月1日の記者会見で、「米国海軍は、次世代の水陸両用強襲艦を、イラクのファルージャにおける第一次ならびに第二次戦闘を顕彰して、『ファルージャ』と名づけることを決定した」と語った。「このふたつの戦闘を勇敢に戦い、自らの命を犠牲にした海兵隊員、兵士、同盟国軍兵士たちを記念するこの措置は、国家にとって大きな名誉である」→ US names new warship 'Fallujah,’site of civilian massacres in Iraq (aa.com.tr)

 米国内からも、これはゲルニカ爆撃や広島への原爆投下の後で、加害者側が新しい軍艦に「ゲルニカ」や「ヒロシマ」と命名するに等しい行為だとの批判が生まれている。「ファルージャ」とは、いったい、何だったのか。それを振り返ることから始めたい。

 私は、米軍によるファルージャ包囲・殺戮作戦が行なわれた2004年4月、この事実は一刻も早く世界に知られなければならないと考え、熱心な翻訳者とともに、次の書物を急遽編集・刊行した。

 『ファルージャ 2004年4月』(現代企画室、益岡賢・いけだよしこ=編訳、2004年6月)である。緊急出版のために、米軍がいう「第一次戦闘」(04年4月)しか扱っていない。著者は、自国がイラクで行なっている戦争を憂い、批判活動を展開していた米英の4人のジャーナリスト・研究者である。この本に依拠して、簡潔に事態をふりかえってみる。

 2003年3月、米英軍を主力とする多国籍軍がイラクに対する一方的な軍事攻撃を開始した。(2023年3月にこれを書いているからには、多国籍軍にはウクライナ軍も参加していたことに留意しておきたい)。フセイン大統領下のイラクが「大量破壊兵器を隠し持っている」というのが理由だった。核兵器をはじめとする大量殺戮兵器を保持し続けているのは、どこよりも米英を含む国連安保常任理事国の5カ国なのだが、これらの大国は多くの場合、自ら「範」を示して軍備の縮小に努めたり、過去に自ら仕掛けた戦争を反省したりすることは、ほぼない。それでいて、他国の、とりわけ「小国」のふるまいには過剰に口出しする。

 03年3月、イラクに対する侵略攻撃を開始した米軍は、バグダード、モスルなどの主要都市をいち早く「陥落」させた。そしてバグダードの西60キロ、ヨルダンに至る要路に位置するファルージャにも大隊が侵入し、これに抗議する非武装の住民に発砲して、15人を殺害した。以後も占領軍は住民に対する懲罰的な作戦を日常的に重ねたために、住民およびレジスタンス勢力と占領軍との間では、日々緊張した関係が続いた。一年後の04年3月、米国の傭兵会社ブラックウォーター社の社員4人が乗った車が何者かに襲撃され、その焼死体がユーフラチス川の橋に吊り下げられた。米軍は「犯人を必ず殺すか拘束する」と宣言して一週間を経ずしてファルージャを包囲、実質上封鎖して、陸空から住民への攻撃を開始した。一時停戦に至るまでの半月間で、女性・子ども・老人など700人が殺された。これが「第一次戦闘」である。

 その後もイラク各地では占領統治に対する抵抗闘争が繰り広げられるが、ファルージャはそれがもっとも果敢に展開された土地だった。イラク国民議会選挙と米国大統領選挙を間近に控えた04年11月、米軍はイラク国家警備隊も動員して再度ファルージャを包囲したうえで侵攻し、病院やモスクに対する攻撃もためらうことはなかった。後日発見された遺体の状況からすると、白燐弾やマスタードガスが使用されたと推定されている。暫定政権と米軍の推定に基づけば、当時ファルージャに残っていた住民はおおめに見て6000人で、死者は2000人に上ったという。これが「第二次戦闘」である。

 米軍主導のイラク戦争は、結果的には、攻撃を命じたブッシュ大統領の下で国務長官を務めていたパウエル自身が「避けることができた」と悔んだ戦争だった。開戦理由が根拠のないものだったことを認めたのである。この「間違った」戦争の開始から20年目を迎えたいま、米国が無謀なイラク戦争を開始しなければあり得なかった「ファルージャ戦闘」を顕彰する名称を次期強襲鑑に付けるというのである。ファルージャの名は、21世紀初頭に米軍による「民間人無差別殺戮」の軍事作戦が展開された地名として、先行して米軍の猛爆撃を受けてきたアフガニスタンのいくつもの地名とともに、世界中の人びとの記憶に生々しく残っている。「間違った」戦争に対する真の反省は、米国社会、少なくとも軍人の世界には浸透していないのであろう。

 残念だが、これはありふれた事態ではある。去る3月6日に韓国大統領府が発表したところによれば、いわゆる徴用工問題に関して、「韓国は、傘下の財団が賠償を肩代わり」し、「日本は歴代政権の『反省とお詫び』を継承することで対応」するという政治決着を図ることを明らかにした。加害の側の政府も当該企業も社会全体も、「加害の痛み」を敗戦後78年の今なお感じてすらいないのに、被害の側の政府と財団が「ありうべき」賠償金を負担することで、「両国間の関係が最悪である」事態を収拾するというのである。これは、取りも直さず、前者の社会に生きる私たちの責任を改めて自問するほかはない事態だと言える。

 2年目に入ったロシア軍のウクライナ侵攻を見ても、政治力・経済力・軍事力などにおいて他国(相手国)に優越する国家が、過去ならびに現在の己の過失を自ら進んで認め、謝罪・補償などの償いを行ない、もって両者(両国)の間に新しい関係性を築く道をたどることは、いかにして可能になるのか。帝国内部からの批判がもっとも肝要なことは、言うを俟たない。


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