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毎木曜掲載・第268回(2022/9/1)

縁の下の力持ちに光を当てる

『検察審査会〜日本の刑事司法を変えるか』(デイビッド・T・ジョンソン、平山真理、福来寛・著、岩波新書、860円+税、2022年4月)評者:黒鉄好

本題に入る前に、まず検察審査会の説明から始めなければならない。検察官が行った不起訴処分について再考を求め、時にはみずから強制起訴にもできる権限を持った組織で、地方検察庁(地検)のある全国各地に置かれている。有権者名簿の中から無作為抽出された11人の審査員で構成される。

戦争反対者を弾圧した戦前の思想検察の解体・民主化を進めようとするGHQは、当初、検察官公選制の導入を試みた。だが、当然ながら司法官僚の激しい抵抗に遭う。最後は、過半数の審査員の賛成で「不起訴不当」議決を出せるが、議決には強制力がないというところまで骨抜きにされてしまう(この歴史的経緯は、黒川検事長問題についての拙稿を参照されたい。http://www.labornetjp.org/news/2020/1589724866213zad25714)。

転機が訪れたのは2009年。司法制度改革の一環として、審査員の4分の3(8人)以上の賛成で「起訴相当」の議決が出せるようになった。起訴相当議決後、検察が再び不起訴にしても、「起訴相当」の議決が再び出れば、事件は強制起訴となり刑事裁判が始まる(起訴議決制度)。お飾りだった組織に新たな力が与えられることになった。

本書は、被害者や市民が厳罰を望んでいるのに不起訴になる実例が特に多い分野として企業ホワイトカラー犯罪(企業幹部の経営判断上の過誤によって起きる事件事故)を挙げている。過失と結果(事故、不祥事など)との因果関係の証明が難しく、世界共通の課題だという。日本におけるこのような企業ホワイトカラー犯罪の事例として、多くの人々が真っ先に思い浮かべるのはやはりJR福知山線脱線事故、東京電力福島第1原発事故であろう。

本書は「いったん起訴されれば有罪率99%」といわれる日本の刑事司法制度問題の背景に、確実に有罪にできる事件しか起訴に持ち込まない検察当局の姿勢があるとしている。それゆえに「本書では、無罪判決が出たからといって、検察審査会による起訴判断が間違っていたことにはならない点を示すつもりである」(序文)としているが、評者が見る限り、本書のこの目的は実現しているといえる。

評者は、JR福知山線脱線事故の強制起訴裁判に関わり、東京電力福島第1原発事故の強制起訴裁判には今なお関わっている。福島原発事故をめぐる裁判では、東京地検は強制捜査を行わなかった。行われたのは任意の事情聴取、資料提出のみである。しかしその過程で集められた膨大な証拠は法廷に提出され、隠されていた多くの事実が明らかになった。国会、政府、民間、東電と4つの事故調査委員会が作られ、報告書も出されたのに、今ではそれに誰も目を向けないほど、刑事裁判は多くの事実を明らかにしたのである。

最近では、企業犯罪に関しては検察を当てにせず、検察審査会を通じて強制起訴を勝ち取り、真相究明すればよいというムードさえ市民の間では出てきている。次に注目されるのは、1回目の起訴相当議決が出た関西電力の不正マネー還流事件だろう。その専門性、特殊性から本書は決して万人向けとはいえないが、検察審査会が市民司法として明らかに影響力を増しつつある今日だからこそ、1人でも多くの市民にお勧めしたいと思う。

*「週刊 本の発見」は毎週木曜日に掲載します。筆者は、大西赤人、志水博子、志真秀弘、菊池恵介、佐々木有美、根岸恵子、黒鉄好、加藤直樹、わたなべ・みおき、ほかです。


Created by staff01. Last modified on 2022-09-01 17:20:14 Copyright: Default

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