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徹底した少年の目線〜映画『異端の鳥』を二度観て

堀切さとみ(レイバーシネクラブ)

 『異端の鳥』。あまりに残酷すぎて、途中退場する人も多かったというこの映画を、この年の瀬に二度観に行った。

 ナチスの迫害から我が子を守るため、親はよかれと思って疎開させるのだが、少年は行く先々でこれでもかというほどの体験をする。その多くが、戦争の匂いを感じさせない田舎町での、いかにも普通の人たちによる驚くべき行為なのだ。

 少年は自分が虐待されるだけではなく、さまざまなものを見させられてしまう。嫉妬にかられた主人が、使用人の眼球をスプーンでえぐったり、性に奔放な娘を、村の女性たちがリンチして殺してしまったり。

 ここまでやるかという大人たちの行為が脳裏に焼き付く。少年でなくても許容量を超えている。最後、少年は父親と再会するのだが、どれほどのトラウマを抱えたことだろうか。

 けれど、そんな不安を超えた力がこの映画にはあると思った。それが何だったのか確かめたくて、もう一度映画館に足を運んだ。

 二度みてよかった。人物の表情をつぶさに追いかけることができた。可愛がっていた動物を焼き殺され、涙をこぼす少年がやがて言葉を忘れ、ユダヤと罵る大人を撃ち殺すまでに変わってゆく。だから差別やいじめはいけないのだというような、そんな話ではない。

 この映画は少年の目線で描かれていた。大人たちによって少年は傷つくが、生き物たちに心を重ね合わせ、キラキラした川面の光や木漏れ日を浴びて元気になる。死もあきらめも、少年からは遠い場所にある。媚びることも仕返しすることも、ただ生きることだけを考えた結果だ。感情むき出しの大人たちの行為でさえ、少年は肥やしにしたように思える。

 自分を棄てたかにみえた父。その皮膚に押された数字の烙印をみて、少年はすべてを悟った表情になる。それはただ生きるだけでなく、尊厳を持って生きることを模索した旅の結果だったのだ。

 外に出ると映画と同じような鳥の群れ。見ようとしてこなかったものの何と多いことか。

*『異端の鳥』は「本厚木映画館」で上映中。また12月のレイバーネットTV映画特集で取り上げられ、永田浩三さんはベストワンに推薦していました。→アーカイブ録画


Created by staff01. Last modified on 2020-12-30 13:15:30 Copyright: Default

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