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アメリカにおける共謀罪と社会運動のお話



 共謀罪は犯罪集団だけに適用される・・・・・・なんてわけはない。治安警察法で労働組合をぶっつぶし、治安維持法で左翼政党さらに宗教やただの反体制的言論人をぶち込み、あげくファシズムを作りあげたこの国にあって、こういう治安立法が民主的な社会と両立するというほど寝ぼけた話はない。些末な修正をすれば安全になるような代物でもない。

 共謀罪はそもそも労働組合つぶしの原点だった。まだ労働組合の法的権利が全く認められていなかった19世紀のアメリカで、労働者の初期の組織化をたたきつぶしたのが共謀罪だ(この時代は判例法)。1806年、フィラデルフィアの靴職工たちがクローズドショップの組合 (Philadelphia Journeymen Cordwainers) を作ったとき、賃金を人為的に引き上げて市場の競争原理を妨害しようとしたとして、組合リーダーたちは独房にぶち込まれた。まさに労働組合自体が共謀罪に問われていたわけだ。そして19世紀後半は独占禁止法の適用を論拠に、共謀罪は形を変えて労働運動を苦しめた。

 20世紀には共謀罪の法制化が進む。アメリカの共謀罪の適用例を知ろうとネットサーフィンしてみたら、いろいろ見つかった。偽造通貨を手に入れた友人に一カ所でまとめて使わない方がいいよと示唆しただけの人への適用から、共産主義者への国家的弾圧まで、共謀罪に関するエピソードは実にバラエティに富んでいる。

 中でも興味深かった話が、1968年シカゴセブン事件(またはシカゴエイト事件)だ。この年、シカゴの民主党大会に抗議しようと他州からやってきたヒッピー、ブラック・パンサー、ベトナム反戦組織、ラディカル学生組織(SDS)のメンバーらが、暴動の共謀容疑で逮捕された。無論、彼らは実際に暴動行為に及んだわけではない。この時期南部のレイシストたちは、公民権活動家が南部にやってきて黒人労働者を組織化したりすることにむちゃくちゃ苛立っていて、そうした活動家をターゲットにした共謀罪を法制化していた。

 被告達(Chicago 7)の弁護人ウィリアム・カンスターは、別の州に行くときに彼らが抱いていた「思考」およびその実現に向けた言論行為(話し合ったり書いたり、あくまで暴動そのものではない)を取り締まる法律は違憲であると訴え、全米のラディカルな若者達のヒーローとなった。この裁判で被告の一人の若者が権威的な裁判官にドラッグの使用を勧めたのは、カウンターカルチャー界では英雄的なエピソードだ。

 またこのケースは、共謀罪というものが国家による盗聴・通信傍受の濫用とセットでなければ成り立たないという事実を暴露している。このケースでも原告である政府は、「国家の安全」にかかわる事態だったから盗聴は合法だと主張した。国家は盗聴を実に簡単に正当化できるわけだ。しかし盗聴のターゲットを決める段階で権力者は政治的に中立ではない。したがって共謀罪も中立な運用はありえない。

 多くの人々が抗議したこの裁判では、最終的に共謀罪は適用されなかった。暴動示唆という同様に問題のある有罪理由も上訴で覆され、最終的に法定侮辱罪のみが被告の一部およびカンスターに下された。1969年から72年まで争われたこのシカゴ共謀裁判 (Chicago Conspiracy Trial) は、不当な共謀罪適用に対する人々の勝利の記憶となった。

 愛国者法は国家がテロに関わる可能性を一方的に認めれば何でもありの恐ろしい体制を作った。時の権力者がやっていることに反対・抗議することは、権力者から「暴動」や「テロ」とレッテル貼りされるリスクを必ず伴う。歴史は、共謀罪が労働運動や体制を批判する人々を弾圧する法理になることを証明している。成立して10年か20年したら確実にそうなる。しかし共謀罪が絶対に適用されない人々もいる。それは他国を侵略したり支配するといった国家的犯罪の共謀者たちだ。

 シカゴセブンの支援者たちはこう言って被告達を励ましていた。「もしも戦争を終わらせる共謀があるのなら、もしも文化的革命への抑圧を終わらせる共謀があるのなら、自分たちもその共謀に参加しなければならない」。もしも共謀罪を廃案にする共謀があるのなら、もしも憲法9条改悪を阻止する共謀があるのなら、私たちはその共謀に参加しなければならない。

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