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LNJ Logo 「ジェンダー・フリー」の何が問題?〜都知事に抗議へ
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ジェンダー研究者の呼びかけで、都知事・都教育委員会に抗議文:上野千鶴子さんの 国分寺市「人権に関する講座」委託介入に対する抗議の意思表示のお知らせ

 1月10日の毎日新聞夕刊によって、東京都教育庁が、国分寺市が都の委託事業とし て計画していた人権学習の講座で上野千鶴子・東大大学院教授(社会学)を講師に招 こうとしたところ、「ジェンダー・フリーに対する都の見解に合わない」などとし て、委託に介入していたことが公になりました。

 報道によりますと、委託拒否の一因として、上野さんがその講 演において「ジェンダー・フリ−という言葉を使うかも」という危惧があったことが あげられています。ひとりの学者/知識人がその専門的知見において、その著書また は講演のなかでいかなる用語を用いるかは、学問・思想・言論の自由によって保証さ れています。まして、その講演が開催され実際に発話されたのではないにもかかわら ず、その用語が発せられるだろうという「憶測」によって、前もってその言論が封じ られたとことに、ジェンダー研究者とジェンダー研究に関心をもつ私たちは、民主主 義社会の根幹が揺らぐ危機を覚え、言論・思想・学問の自由の侵害として抗議しま す。

抗議は文書にし、意思表示は、(1)来る1月27日(金)11:50に 代表者が東京都庁総務部教育情報課(第二本庁舎27階第4会議室)に赴き責任者にこ れを手渡すこと (2)1月27日(金)13:00から都庁記者クラブにおいて大小メ ディアに対して記者会見し、広く社会に公表すること (3)ウェブサイト (http://www.cablenet.ne.jp/~mming/against_GFB.html)などを通じ、私たちの抗 議にさらに多くの賛同者を募ることによって行います。


国分寺市「人権に関する講座」委託介入に対して「東京都に抗議する!」抗議文

東京都知事         石原慎太郎 殿
東京都教育委員会 教育長  中村 正彦 殿
東京都教育委員会 各位

抗 議 文

上野千鶴子東大教授の国分寺市「人権に関する講座」講師委託への介入について、 これを「言論・思想・学問の自由」への重大な侵害として抗議する

1 言論の自由の侵害について

 報道によれば、今回の介入の一因として、同教授がその講演において「ジェンダー・ フリ−という言葉を使うかも」という危惧があった故だとされている。ひとりの学者/ 知識人がその専門的知見において、その著書または講演のなかでいかなる用語を用いる かは、学問・思想・言論の自由によって保証されている。学問・思想・言論の自由は、 民主主義社会の根幹であり、なんぴともこれを冒すことはできない。

 まして、その講演が開催され、実際に発話されたのではないにもかかわらず、その用 語が発せられるだろうという“憶測”によって、前もってその言論を封じたということ は、戦前の「弁士中止」にまさる暴挙であり、民主憲法下の官庁にあるまじき行為であ る。

 このような愚挙がまかり通れば、今後、同様の“憶測”、”偏見 ”に基づいて、官 憲の気に入らぬ学者/知識人の言論が政治権力によって封殺される惧れが強くなる。日 本が戦前に辿ったこの道を行くことをだれが望むであろうか。それが日本の社会に住む ひとびとの幸福な未来を描くと、誰が思うであろうか。

2 学問と思想の自由の侵害について

 ジェンダー理論は国際的に認知された思想・知見・学問である。現在欧米及びアジア の主要大学において、ジェンダー理論の講座を置かない大学はなく、社会科学、文化科 学の諸分野でジェンダー理論を用いずに最新の研究を開拓することは困難である。

 いっぽうでは、それは1975年、第一回世界女性会議以降、世界のいたるところで 太古から実行されてきたあらゆる種類の女性への差別を撤廃し、人間同士の間の平等を 実現するという国際的な行動と連動し、その理論的な基盤を提供してきた。学問と社会 的改良とは両輪となって人類の進歩に貢献してきたし、これからもそうである。

 しかしながら、「ジェンダー理論」は、同時期に国際的に認知された「ポストコロニ アル理論」と同様に、3〜40年の歴史しかもっていない。したがって日本の人々のあ いだにその用語および理論への理解が定着するにはまだまだ時間がかかるであろう。

 しかし、それは喧伝されているように「日本の伝統に反する」「外国製の」思想では ない。なぜならば、すでに明治時代からわれわれの先輩たちは、女性もまた参政権を得 るために、また女性としての自立権を得るために血のにじむ努力をしてきたからである 。この人々は新憲法によってその権利を保証されるまでは、弾圧と沈黙を強いられてき た。いまだに、在日朝鮮人をはじめとする外国籍市民は、参政権すら得ていない。日本 の、また世界のひとびとが平等な権利を獲得するための、長い旅程の半ばにわれわれは いる。

 そのようなわれわれ自身の知見と努力の歴史の上に、国際的な運動のうねりと学問の 進歩によって、われわれは国際的な用語としての「ジェンダー」とその問題を解明し、 解決することをめざすジェンダー理論を獲得したのである。思えば、日本社会に生きる われわれは、常に有用な智恵を世界に学び、これを自己のうちに内在する問題と融和さ せ、独自のものとして実践してきたのではなかったか。そこにこそ日本の社会の進歩が あった。女性学・ジェンダー研究者は、今まさにそのために研鑽、努力している。その 教えをうけた無数の学生、教育現場で実践する教師、地域で活動する社会人は、グロー バルな運動の広範な基盤をなしている。上野氏はその先駆的なひとりである。今回の事 件についてわれわれは強い危惧の念を覚えている。先人の尊い努力によってようやくに 獲得できた思想、学問、行動の自由の息の根を止めさせてはならない。

3 ジェンダーへの無理解について

 ジェンダーは、もっとも簡潔に「性別に関わる差別と権力関係」と定義することがで きる。したがって「ジェンダー・フリー」という観念は、「性別に関わる差別と権力関 係」による、「社会的、身体的、精神的束縛から自由になること」という意味に理解さ れる。

 したがって、それは「女らしさ」や「男らしさ」という個人の性格や人格にまで介入 するものではない。まして、喧伝されているように、「男らしさ」や「女らしさ」を「 否定」し、人間を「中性化」するものでは断じてない。人格は個人の権利であり、人間 にとっての自由そのものである。そしてまさにそのゆえに、「女らしさ」や「男らしさ 」は、外から押付けられてはならないものである。

 しかしながら、これまで慣習的な性差別が「男らしさ」「女らしさ」の名のもとに行 われてきたことも事実である。ジェンダー理論は、まさしく、そうした自然らしさのか げに隠れた権力関係のメカニズムを明らかにし、外から押し付けられた規範から、すべ ての人を解放することをめざすものである。

 「すべての人間が、差別されず、平等に、自分らしく生きること」に異議を唱える者 はいないだろう。ジェンダー理論はそれを実現することを目指す。その目的を共有でき るのであれば、目的を達成するためにはどうすべきかについて、社会のみなが、行政を もふくめて自由に論議し、理解を深めあうべきである。

 それにもかかわらず、東京都は、議論を深めあうどころか、一面的に「ジェンダー・ フリー」という「ことば」を諸悪の根源として悪魔化し、ジェンダー・フリー教育への 無理解と誤解をもとに、まさに学問としてのジェンダー理論の研究および研究者を弾圧 したのである。このことが学問と思想の自由に与える脅威は甚大である。

 以上の理由をもって、われわれは東京都知事、教育庁に抗議し、これを公開する。

2006年1月23日

呼びかけ人  若桑みどり(イメージ&ジェンダー研究会・ジェンダー史学会・美術史学会・歴史学研 究会)  米田佐代子(総合女性史研究会)  井上輝子(和光大学・日本女性学会)  細谷実(倫理学会・ジェンダー史学会・関東学院大学)   加藤秀一(明治学院大学)


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