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続報NYUスト:躊躇する大学、耐える非常勤
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ニューヨーク大学(NYU)はストライキを続ける院生非常勤への雇い止めを含む懲戒の決定に踏み出す期限を、当初12月5日としていました。5日、院生委員会(学生組織)がスト参加者への懲戒期限の延期およびストを一時停止して院生委員会を通じて話し合うことを提案。ジョン・セクストンNYU学長は期限の2日間延期に合意、しかし院生非常勤ユニオンを認知しない、スト参加者を次期セメスターから雇い止めするという基本的立場を変えていません。ユニオン側は院生委員会の提案は、院生非常勤が労働者ではなく学生だという大学側の主張の範囲内にあるもので到底受け入れられないとしてこれを拒否。非常勤たちは、大学がユニオンを認知して交渉に応じるまでストライキを続けると決議しています。7日になり大学側は、誰がストライキを続けているのか判定しなければならないと懲戒に踏み出す姿勢を見せつつも、今後この問題に解決があった場合は「柔軟」に対応するという慎重な発言もしています。(過去の経緯はこちら

大学側が直ちに懲戒決定に踏み出すことを躊躇しているとすれば、その理由は予想を超えた抵抗の広がりにあると思います。

今回のNYU非常勤ストライキでは、アメリカ労働運動の中心的リーダーが熱心に彼らをサポートしていることが話題を呼んでいます。追い込まれた1000人の院生非常勤たちをジョン・スウィニーら大物ユニオニストたちが支えているような構図ですが、協約なき賃上げをちらつかせられながらスト参加者への雇い止めの脅しを受け、にもかかわらずユニオンなくしてクラスなしという決然たる姿勢を示し、情熱とユーモアで1ヶ月間ものストライキを乗り切ってきた非常勤たちの若さが、ここ数年明るい話題に乏しかった労働運動に新たな希望を感じさせているようにも見えます。院生非常勤組織委員会(GSOC)のマイケル・ポウム議長いわく、「NYUは組合や労働運動とは何ら関係ないと主張している、大学院生のGSOCとの間の問題だけだと。しかし今日集まった労働組合は、レイバーがNYUに異議ありと言っている。」(Washington Square News, Dec 5, 2005. by Daniel Bogdanov より引用)

何人もの市議会議員が非常勤側を支持する立場を表明して支援にかけつけています(NYUのいくつかのプログラムは市の公的資金を受けている)。現在のNYU当局をNLRBを変質させたブッシュ政権の労働政策におけるエージェントと見なす声も聞かれ、対NYU包囲はブッシュ政権への広範な不満にも結びついているようです。

学外からもNYU非常勤ストへの連帯の声が高まっています。イェール大学・ニューヨーク市立大学(CUNY)大学院・ラトガース大学など、他大学からの支援者が多数ピケに参加しています。セクストン学長にユニオンとの交渉に応じるよう求める教官有志呼びかけのオンライン署名(主として学外者対象)には、アメリカ国内はもとより、カナダ、ケベック、イギリス、フランス、オランダ、ドイツ、アイルランド、スイス、イタリア、ノルウェー、オーストリア、ポルトガル、トルコ、スリランカ、エクアドル、南アフリカ、シンガポール、中国、台湾、日本など世界中から、わずか数日で約6000(12月8日現在)もの署名が寄せられています(現在も署名実施中)。この署名に対して大学側広報官ジョン・ベックマン氏は、「一面的なものの見方を生み出すのがユニオンだ」と発言(Washington Sq News, Dec 7, 2005 より引用)。こうした分かりやすい反ユニオン姿勢は、彼が一面的だとする署名の主張を裏づけるものになっています。

学長・理事会サイドにとって何より深刻なのは学内的な抵抗、とりわけ人文社会系教授会の抵抗です。大学が懲戒実施を決めた場合、ストライキに中立な姿勢を決議している研究科(社会・歴史・言語など)は処分実行を行わないとしています。そのためこれら教授会役員の処分問題にも発展しかねないからです。また大学側はストを続ける非常勤と学部学生との分断を煽ってきましたが、実際の学生世論は真っ二つに分かれていて、学部学生の中にもスト参加者支援グループが結成されました。さらに多数の教員(教授・非院生非常勤)がピケをつづける院生非常勤に連帯するため、ここ数週間学外で授業をおこなっているという事実、Faculty Democracy というグループを組織する約200人の教授が懲戒実施の場合の成績判定業務等サボタージュを決議している(5日には教官によるデモもおこなった)ことは、大学内の鋭い分裂を示しています。懲戒実施を強行した場合、学内に大きな禍根を残すことは避けられない状況です。



歴史学部教授会決議(2005年12月1日)---------------

学部長宛の事務長指示(11月28日)は、当学部(研究科)の教員ととりわけその役員に擁護しがたい立場をとるよう指示している。それは、学業良好な大学院生に対する懲戒的行為に当学部が参加することを求めることで、確立された学問的評価の手続きを蹂躙している。それは、当学部カリキュラム編成において学業良好な大学院生にティーチング資格を付与するための確立された手続きを蹂躙している。そしてそれは、学部内に混乱を生じさせる行為を引き起こすことを、そしてストライキの際の中立的姿勢という当学部の立場を踏みにじることを、学部役員に要求するものとなっている。

よって、歴史学部は以下確認する。(1)当教授会はストライキ参加の学生たちに敵対的な通知者となることを拒否する。(2)当教授会はストライキ参加の学生たちに対するティーチング資格の取り上げやフェローシップの無効化などを含むあらゆる制裁の強制実施を拒否する。(3)当教授会はストライキ行為の自己申告を拒否する者たちを排除した春セメスターのティーチング計画を作ってスト参加学生に制裁を加えるということをしない。

以上、決議 -------------------

同様な決議が、歴史学の他にも、社会学、言語学、東アジア研究、比較文学、英語、スペイン語、シネマ、演劇の各学部教授会により決議されています(詳細はこちら)。

経済学者ウィリアム・グリーン教授いわく、「もしもあの中に私のところのTAがいたら二度と使うつもりはない。学生をやめるというなら、もう用はない」。他方、学部三年のイレン・ウォルコットさんは、「彼ら(スト参加者)はNYUをより民主的にするリーダーだと思うから支持します」と語る。(Yale Daily News, Dec. 7, 2005 より引用)

スト参加非常勤のうち雇い止め処分があった場合にとくに厳しいのは留学生です。大学での雇用を前提に銀行などからローンを得てきた者は、雇用を失えばローンも喪失し、留学計画が破綻しかねないからです。



New York, Dec. 7, 2005
JNK
この記事に関する質問:jnkny @ ホットメール.com


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