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第10話 1校去ってまた1校の巻  新戸育郎

 (2008年5月18日掲載・連載の一覧はこちらへ。毎週日曜日更新)

 いよいよ金福学園での仕事がなくなってきた。もちろん生業(なりわい)を安易に手放すわけにはいかないが、捨てられるものなら捨ててみたいという気持ちであるのも確かだ。新戸センセのココロは揺れる‥‥。

《ちぐはぐな派遣会社》

 いつものとおり塚崎スクールへ行ったら、専任たちが妙な顔をして私を見る。どうしたのかと思って尋ねてみると、「きょうは先生の予定ではないんですが‥‥」という。
 きょうは専任がやることになっていたのに、何かの手違いで私が来てしまったということらしい。休みを取る予定だった来週と勘違いされているのかと思ったが、そうではなく、今週からずっと専任に変わるとのこと。
 (株)ゼニコに連絡を入れてみると、「本部のミスで、申し訳ありません。きょうの分の給料は払いますのでお引き取り願えますでしょうか」と。
 給料が支払われるならまぁとりあえず文句は言わないことにする。しかしこの調子ではこの仕事やばいなぁ‥‥と思っていたら、その矢先またゼニコのMから電話があった。
「小5の理科は今度で最終です」と。
 1週間前に室長と今後の進め方などの話をしていたから、まさかあと1回で終わりになるなどとは考えていなかった。中学部で手が空くから、その先生が小5に回るということらしいのだが。
 しかしもちろん、当初からいちばん苦労をし、辞めたくてたまらなかったクラスだ。今度で終わりだと聞いてアリガタイっと思ったのは事実。そしてほんとに仕事がなくなってしまうぞとヤバい気持ちになったのも事実。
 最後の授業でも、そのクラスは相も変わらず腹立たしいくらいうるさかった。人の話などまったく聞かない。おとなしく勉強している女の子がかわいそうだ。
 しかしきょうが最後。まぁいいさ‥‥、と思いながら、「残念だけどきょうで最後なんだよ」とお別れの言葉をいう。
 と、クラスでいちばん落ち着きがないS(以前、地球は動いているのになぜ感じないのかなぁ、などと言って来た楽しい男の子)が私のそばに寄って来て、
 「先生、ほんとは嬉しいんでしょ」
 そういうことはよくわかっている。

 ある日また(株)ゼニコのMから電話。今度は一体なんだよ〜と思う。
 「実はですねセンセ」
 と切り出した口調は、いつも以上に慇懃だ。何だろうと思っていると、
 「きょう塚崎校へ行かれますよね、センセ。あのー、そこでうちの岩谷を見かけても、声をかけないようにしていただきたいんで‥‥」
 はぁ?と思って聞いてみると、こういうことだった。
 きょうの塚崎校での授業を担当する派遣講師が、どうしても行けなくなってしまった。当然代行を探したがあいにく一人もいない。そこでやむなく、(株)ゼニコの職員である岩谷氏を講師に仕立てて送り込もうということになったのだそうだ。
 もちろん派遣先の金福学園には内緒なので、岩谷の顔を知っている新戸先生から
「やぁ、こんなとこで何してるの?」なんて声をかけられたりするとモロバレだ。「全然知らないということで、口裏を合わせておいていただきますように」とのこと。
 ふ〜ん、そういうこともあるのか‥‥とその時は何も考えなかったが、電話を切ったあとで、しまった、口止め料を請求すればよかったと思ったのであった。

《今度は高校生相手!》

 結局そうやって、ダイワゼミナールもなくなり、金福学園も最後の1つがなくなり、あるいは金福学園の新設校での仕事が生徒が集まらないとの理由で中止になるなどして、とうとう派遣講師も終わりか‥‥と思った時、ゼニコからまた新しいオファーが入った。
 今度は高校生対象の、大学受験予備校だという。科目は英語。
 英語はやりたい科目であるとはいえ、今までと違って大学受験だ。自分自身いちばん弱い文法をどうすればいいのか、まともにやっていけるかどうか不安だった。しかも場所は我が家から片道1時間半以上かかる。
 しかしこれを断るとあと仕事があるかどうかわからない。まったく自信はないまま、ここがチャレンジというか虚勢というか、受話器に向かって「できますよ」と言ってしまった。
 月曜と水曜の2回。高1、高2と高3の文法を2クラス。
 高1、高2はともかく高3ともなると受験対策としての英語だから、まず自分が勉強をやり直さないと始まらない。かくて、生徒と競争の英語のお勉強が始まったのであった。

 文法というからには、最初は例の5文型というやつ。誰しも面白くない思いで嫌々覚えたのではないだろうか。教えるのだってクソ面白くもない。でも時は待ってくれない。
 初授業までのわずかな期間、文法書を買い直して、必死になって勉強した。
 しかし不思議なもので、今までの漠然とした知識を参考書をもとに整理して行くと、だんだんと興味が湧いてくる。5文型というのも、SVだかSVCだかVSOPだか訳が分からないと思っていたが、人に教えるつもりになって読み直してみると意外と頭に入る。
 受験によく出てくる lie と lay の違いなんていうのも、この時になってやっとわかった。

 さて、大学受験予備校『新進セミナー』というのが初出勤の学校である。ここでは講師は白衣を着ることになっている。理科実験をするのでもあるまいに、このあからさまな権威付けは何だ、と思わず笑ってしまう。
 どこから突っ込まれても大丈夫なようにと入念な準備をしていった高1、高2、高3の英文法。初日の授業でガックリきた。
 教科書の問題をやらせたところ、ほとんどの生徒が「わかりません、わかりません」の連発なのだ。いきなりずっこけてしまった。5文型のSVOがどうの、SVOCがどうのというようなレベルではなく、どうやら疑問文の作り方とか不規則動詞の変化といったような、基本的なところでつまづいているようなのだ。
 そこで次の回には、どこまでわかっているのかを確認しようと、中2(高2ではない)の問題集を中心に練習問題を集め、若干アレンジしてテストしてみた。
 結果を見てため息が出た。2クラス受け持っている高3の成績が、高1、高2より悪いのだ。どのクラスも、学年に関係なくすべて同じ問題をやらせた結果、そういうことになった。
 高2までならばまだ基礎をやり直す時間的余裕がある。が、高3となると、彼らは大学受験のためにこの授業を受けに来ているのだから、のんびりと復習をやるわけには行かない。大学受験レベルのたくさんの知識をこれからどんどん詰め込まなければならないというのに。
 もちろんこの中学レベルの問題をそこそこクリアしている生徒もいる。しかし満点はなかった。う〜む、大丈夫なのかなあ。できない子には個別対応で宿題を出すなどしなければ駄目だなぁと、頭が痛くなって来た。

 高3のクラスにいるYという男子生徒は、そういったどうしようもない高校生の典型だった。予習を必ずやってくるように(そうしないととてもついて行けないから)と言ってもまず絶対やってこない。教科書の内容は彼にはあまりに高度すぎてできないので、中学レベルの宿題を出して「これだけは最低クリアしないとだめだ」と言ってもそれもやってこない。「え〜、宿題ってありました?」‥‥とこんな調子。
 授業では、当てると「先生この単語の意味、なに?」と自分で調べる意思はまったなく、尋ねる。挙げ句の果て、「わかりません」。
 で、必ずといっていいくらい遅刻して来て、持ってくるものといったらスケボー。そんなに勉強したくないんなら来なくていいよ、とここまで出かかるところを今はとりあえずちょっと抑えて、もうちょっとだけ様子を見ようか、という状態が続く。
 下手なことを言うと「じゃやめます」となって、塾から私の方へ変な言いがかりを付けられるかもわからないから。何しろ前科(第5回参照)があるもので‥‥。


Created bystaff01. Created on 2008-05-17 11:12:06 / Last modified on 2008-05-17 11:18:29 Copyright: Default

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