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LNJ Logo 韓国:[ワーカーズ書評]旭非正規職支会「野花、公団に咲く」
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闘争は生存と実存の問題

[ワーカーズ書評]旭非正規職支会「野花、公団に咲く」(ハンティジェ、2017)

ペ・ソンイン(韓神大) 2017.07.06 14:19

1987年に封切られた映画「バグダッドカフェ」の背景はイラクではなく、 資本主義の象徴カリフォルニアのモハーベ砂漠地帯、ラスベガス終端国道66号線高速道路上に位置したところだ。 砂漠地帯にあるだけに人跡もまれで訪れる人も多くない。 砂漠は行けども行けども限りなく遙かで、砂嵐の荒涼とした絶望の空間と認識される。 だから砂漠の中間のオアシスはとても疲れたことをしばらく忘れさせ、 生活の絶望を希望に転換させる魔術のような場所だ。

現代資本主義社会の華麗さの裏には非正規職労働者をはじめとする 社会的弱者が砂漠に囲まれて挫折と欠乏、そして疎外の日常を続けている。

「旭硝子の工場に初めての出勤した日、昼休みに食堂まで10分歩いて行った。 食堂のあたたかい食事はとてもおいしかった。 毎日そうして昼食をすると思った。 10分歩いて行くことがとても遠いように思えた。 しかし翌日出勤してから工場から追い出されるまで、 もう二度とその食堂に行くことはなかった。」(42ページ)

現実はコメディーのような地獄だ。 以前、孫鶴圭(ソン・ハッキュ)が「夕べがある暮らし」を幸福の尺度だと主張したが、 旭の労働者は「昼がある暮らし」さえ難しい。 だから彼らにとって労働組合と民主労組運動は、オアシスの別名だ。 それでも労働組合がすべての問題を解決する万能の宝剣ではない。 労働組合ではなく別の方式で労働者の権利を得ることができないので、 労働組合は作るほかはない必要条件だ。

だが労働組合を作る過程は非常に険しい。 それは優先的に労組を建設する主体形成がカギだからだ。 民主労組運動や労働組合に関心がある労働者はそれほど多くはない。 現在、韓国の労働組合の組織率が10%内外であることを考慮すれば、 現実的な問題は非常に深刻だ。 労組に対する社会的認識は偏見と先入観でぎっしり埋まる。 反共主義で一致団結した保守勢力が解放から60数年支配してきたのだから、さぞ大変であろう。 労組が建設されれば使用者側の労組破壊工作や整理解雇は基本だ。 懐柔や脅迫などもおなじみの方式だ。 映画「カート」のように、労組委員長を刺激して事故を起こさせ、 労組を弱化-瓦解させたりもする。

労働組合は社会変化の主体

だから非正規職が労働組合をなんとか作っても、うまくできるのか懐疑を感じるのは当然だ。 金属労組旭非正規職支会が2015年5月29日、初めて亀尾工業団地に非正規職労働組合を作ったが、 138人で始めた組合員は今は22人しか残っていない。 彼ら自身さえ「元請にもない労働組合を下請非正規職が作れるだろうか?」(10ページ)と躊躇したが、 労組設立に対して「ときめきと希望」(91ページ)を感じた組合員もいたから可能だった。

だが、わずか2年にしかならない新生労組なので、どこでも名刺を差し出すのは難しかった。 5-6年は基本、10年は経たなければ長期闘争事業場だといばることもできる。 それでも彼ら22人の労働者が闘争の過程と所感を一冊の本に作り出したのは、 2年という時間は決して短くないということを物語ってくれる。

2016年4月21日、亀尾市庁前の座込場で行政代執行があった日 「仲間たちは五時間も雨に打たれながら頑張っていて、 雨で見えない車窓の外を見守りながら、怒りをなだめ」(94ページ)た。 彼らに見えないのは、希望に満ちた未来の展望だったのだろう。

だから労働組合をいかに維持するのかが重要だ。 組合員の意識から闘争方式などは実に多様で、 意欲を持って組織的-体系的に闘争しようと準備すると、 仲間はなく旗だけが翻るのが常だ。旗だけ翻ることも幸いだ。

資本は労働者より二三手の先を見通す。 そして電光石火、す早く動く。 だからいつも弱者である組合員が途中で放棄する数字は増えるほかはない。 資本をはじめとする支配勢力に「人間的」を期待することは、木に登って魚を探すようなものに過ぎない。

新自由主義が全面化されて競争が激しくなり、資本の回転率が速まり、 それだけ労働強度も強くなった。 韓国の支配勢力は認知距離が自分の周辺までしかないので、 認知距離の外には気を遣わない。 彼らの認識はほとんど「利益」に合わせられているので、 自分の利益に反するものはすべて反対する。 労働者の人権、福祉向上が自分の利益に反する結果をもたらすと認識するのだ。

だから彼らにとって労働者は商品以上でも以下でもない。 特に非正規職に対しては、流通期限がくれば捨てる消費品と認識する。 「資本が作った自動化と単純労働に組まれた枠組みで、 自分の才能が何かわからないまま消耗して生活の時間をすべて消費」(131ページ)するのだ。

こうした認識が労働者を疎外させる主な原因だ。 映画「火車」の主人公ソンヨンが他人の名前、年齢、家族などの人生を盗んだのは疎外のためだった。 ソンヨンが疎外された時、周辺に誰もいなかったためだ。 非正規労働者の疎外がそうだ。 だから関心と連帯が貴重だ。

連帯は闘争の原動力であり勝利のカギだ。 それは闘争の過程で切実さをさらに感じさせる。 連帯は「闘争して労働問題だけでなく、 社会問題に大きな関心を持つようになったが、 あちこちの団体に電話をして初めて聞く名前も多く、 これらの団体がどんなことをする所なのか心配になった」(123ページ)と始まる。 連帯は今のヘル朝鮮において、私たちすべての生存のための必要充分条件になった。 今は各自渡世・各個躍進をする時ではない。 これはまさに実存の問題でもある。

このように、労働組合は主体、意志、戦略、連帯などどれ一つとして重要でないものはない。 労働組合は砂漠を横切ってその向こう側の新世界に会わせてくれるオアシスのような空間で、変化の主体だ。 労働組合を作ると「奴隷のように働いていた空間が『現場』に変わった。 われわれは工場で初めて解放感を感じた」(11ページ)という発言が的確だ。

「労働が尊重される世の中を作るために、あきらめずに最後まで戦いたい」(39ページ)というある組合員の言葉のように 「闘争しなければ権利を得るのが難しい」という普遍妥当な真理をもう一度考える。[ワーカーズ32号]

原文(チャムセサン)

翻訳/文責:安田(ゆ)
著作物の利用は、原著作物の規定により情報共有ライセンスバージョン2:営利利用不可仮訳 )に従います。


Created byStaff. Created on 2020-06-19 08:41:07 / Last modified on 2020-07-09 00:01:51 Copyright: Default

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