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キム・ヨンギュンと緑色政治

[緑色ストライク]

キム・ソンチョル(独立研究者/エネルギー労働社会ネットワーク政策委員) 2020.02.17 10:04

24歳の若い非正規労働者、キム・ヨンギュンの死亡の消息を聞いたのは米国だった。 また一人の残念な話。 長くため息をつきながらも、そこまでで、この話もただ多くのヘル朝鮮の 「事件事故」の中に埋もれてしまったようだ。

そのうちに昨年の冬に韓国を訪問した時に世宗文化会館にかけられた 「泰安火力24歳下請労働者故キム・ヨンギュン様の冥福を祈ります」 と書かれた巨大なバナーを見て、 数日後にまた光化門の前を通ると清渓川入口で偶然に集会と出会った。 キム・ヨンギュン死亡事件真相究明と再発防止、非正規職撤廃を要求する集会だった。 その場に立ってキム・ヨンギュンの同僚と彼のお母さんの発言を聞いた。 近くで見たお母さんの涙は今でも忘れられない。

その日、宿舎に戻り記事を探し始めた。 多くの記事の中で作業現場と事故当時の状況を詳しく描写した 時事ジャーナルの記事に長く視線が留まった。 記事は「黒い石炭の粉が、降りしきる雪のように」飛ぶ暗い作業場で、 一人で携帯電話のライトに頼って休むことなく機械が動く 70メートル深くの作業場に一人で上がっては下りたキム・ヨンギュンの姿を 加減なく描き出していた。 10時になる深夜に事故がおきたのに、 夕食も食べることができずに働いて受けた辱め。 「移動動線と時間帯を確かめると彼は少しも休まずに働いたと見られる」 と明らかにした警察発表の前で閉口した。

韓国社会で働いて死ぬ労働者の話は絶えない。 機械に挟まれて、建設現場で墜落して、地下鉄駅スクリーンドア整備をして、 世界有数の半導体会社で毒性化学物質を吸って、そしてクレーンが崩れて…。 そうして人々は腕と脚が切り取られ、絶えず死んでいく。 移住労働者と現場実習の高校生に至るまで。 そしてどこかで会ったかもしれない、韓国で共に暮らす人々の死は、 「労災」という統計上のデータに転落してしまう。

去年の初冬に私は20年以上暮らした米国を離れてソウルに引っ越し、 ニュースを通してのみ接した韓国のものすごい微小粒子状物質も直接経験するようになった。 偶然でなくもキム・ヨンギュンの1周年追悼式が開かれた12月10日は、 微小粒子状物質まで加勢した最悪の天気だった。 視野を妨げ、呼吸を困難にする微小粒子状物質の中を歩きながら、 私はキム・ヨンギュンが吸い込んだ黒い石炭の粉を思い出していた。

黒い石炭の粉についての記憶はまたある。 大学時期の友人のお父さん。 彼は太白の鉱山で長く働いたが、その黒い石炭の粉を大量に吸い、 塵肺症で苦しんでいた。 大学時代、ずっと友人は病院にいるお父さんを訪ねて行った。 人が使うエネルギー源を採掘する過程で人が疲弊する逆説だ。

「安定したエネルギー供給」というスローガンの下で、 如何に多くの人々の人生がこわれてしまったのだろうか? 60年代以来「奇跡的な経済発展」を実現して経済先進国になった21世紀の 大韓民国国民の経済状況はどれほど先進的になったのだろうか。

成長第一主義の旗の下で全てを利益創出の道具として、 経済成長の手段としてだけ見てきたこの資本主義システムで、 被害を受けるのは人間だけではなかった。 あちこちの炭鉱を掘り、油田を作り、自然は破壊されて非正常的な侵食がなされる。 環境が変化し、生態多様性は脅かされ、採掘過程で出る化学物質で水と土壌は汚染される。 キム・ヨンギュンが吸ったの黒い石炭の粉は病んだ地球が吐きだす咳だったのだろう。

さらに大きな問題はそうして得られた化石燃料を焼いて熱を出す過程で排出される温室ガスで地球がとても熱くなったということだ。 地球温暖化は北極グマを威嚇するだけではない。 気候変動による農作物の被害は直ちに食糧不足につながり、 2011年から始まったアラブ地域の難民事態を触発した。 海水面上昇はすでに多くの太平洋島国住民を難民に追いやっている。 2年前、済州道より五倍も大きな島、プエルトリコを焦土化した超大型台風や、 数か月にかけて韓国の土地よりさらに広い面積を燃やしたオーストラリアの山火事も、 温暖化による異常気流のせいだった。 20〜30年以内に核戦争に次ぐ気候危機が到来すると予告される中で、 われわれは超大型の自然災難がますます日常化される現実を暮らしている。

しかし気候変動による被害を誰もが同等に分け合うと考えるのは大きな誤算だ。 温暖化で夏の異常高温現象が続いても、金持ちはエアコンで暑さを避ければそれだけだ。 苦しむのは換気もできない狭苦しい部屋で夏の暑さに耐える貧困層、 野外の炎天で働いて、その暑さを体で受け取める労働者たちだ。 映画の寄生虫で描写されるように、 途方もない夕立ちが降り注いでも、金持ちは余裕をもって雨を楽しむ。 雨水で一杯になった半地下の家から追い出されて難民の身分になるのは、 いつも貧しい者の役割だ。 病気にかかった地球が吐きだす咳で真っ先に病気にかかって死んでいく人々は、 結局韓国社会のキム・ヨンギュンである。

九宜駅惨事やキム・ヨンギュンの死がただ経済的効率だけのために、 法が明示する安全規則遵守さえ守らない「人権無視」の結果だったように、 今日、私たちが当面する気候変動と災害は、 経済的効率の極大化のために生命の根源であるべき環境を無視した結果だ。 凝視すべきことは、これら二つが別物ではないという点だ。 労働権と人権がしっかり守られる所では、 気候環境政策も相対的によく樹立されている。 しかし労働後進国の大韓民国は、気候政策でも最も後進的だ。 人を、生命を重視しない社会が気候と環境にきちんと配慮するのは皆無だ。

2人1組の安全規則遵守を遵守していれば、 キム・ヨンギュンのような事故は防げただろうと誰もが話す。 しかし私たちが答を知らないから今も一日に三人が労災で死んでいくのではない。 同じように今日、温室ガスの排出を最小にするために、 私たちが何をすべきかを分からずに地球の気温がますます上がるのでもない。

すでに韓国水準の経済力を持つ大部分の国は、 安全規則遵守を義務化して、違反した時は強力な処罰をしている。 同じように1月末現在、26か国の1200以上の中央-地方自治体政府は、 気候非常事態を宣言して温室ガス削減を第1の目標とする政策を推進している。

しかし韓国の現実はどうか? 多くの労災事故に対する問題提起と省察にもかかわらず、 労災事故はさらに増えている。 「脱核・脱石炭」を宣言した現政権で、 石炭火力発電所7基が追加で建設され、 その上、2020年経済政策とやらで環境規制を緩和して、 蔚山と麗水に大規模な石油化学工場を作るという。 これが大韓民国の現在、『共生』、『包容』、『緑色』の現実だ。

しかしどうして政府だけを恨めるだろうか。 安全な労働を保障して温室ガス削減対策を立てた他の政府も、 結局はそこの市民が作り出したものだからだ。 だからわれわれは戦わなければならない。 さらに行くところもない社会の不平等と気候危機という人類文明の総体的な危機を生んだこの貪欲な資本主義を越えるために、 そして人間と人間、人間と自然間の平等で正しい関係を新しく確立するためにだ。 キム・ヨンギュンと緑色政治は別物ではない。

原文(チャムセサン)

翻訳/文責:安田(ゆ)
著作物の利用は、原著作物の規定により情報共有ライセンスバージョン2:営利利用不可仮訳 )に従います。


Created byStaff. Created on 2020-02-17 16:38:11 / Last modified on 2020-02-22 04:24:18 Copyright: Default

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