金融化の影、新しい支配階級の誕生

［ワーカーズ］イ・ジョンフェコラム

イ・ジョンフェ 2019.10.11 09:59

韓国道路公社料金所料金受納労働者は、料金所キャノピーでの座り込みに続いて金泉韓国道路公社本社占拠座り込みを始めた。大法院は彼らを正規職だと判示したが、韓国道路公社は訴訟当事者だけを受け入れると卑怯な手を使っている。女性労働者たちは警察の侵奪に脱衣で抵抗し、断電・断水を押し切って終末闘争を固守している。韓国道路公社社長の李康来(イ・ガンネ)は、金大中(キム・デジュン)大統領の時に政務首席を歴任し、国会議員と院内代表まで歴任した民主党の代表選手だといえる。それでも労働者たちは朴正煕(パク・チョンヒ)政権時期と変わらない闘いをしている。

7月3日には韓国社会で初めて非正規職労働者が連帯全面ストライキを行った。初日に5万人の非正規労働者たちは「非正規職撤廃、差別解消、処遇改善」を掲げて同盟全面ストライキを始め、 4日と5日には地域別ストライキ大会で闘争を続けた。 2003年の盧武鉉(ノ・ムヒョン)政権の時に烈士政局で焼身したイ・ヨンソク烈士が叫んだ「非正規職差別撤廃」のスローガンが、非正規職全面ストライキでよみがえったようだ。料金所料金受納労働者たちも連帯したが、全面ストライキの中心には学校非正規職と公務職労働者、民間委託労働者たちがいた。彼ら女性非正規職労働者たちこそ、 1997年にIMFと合意した整理解雇と派遣制、そして新自由主義の「小さな政府」の犠牲者だ。

金融資本の巨大なジャングル

1997年の外国為替危機以後、韓国社会の所得分配集中度は増加してきた。この格差は経済不平等程度を示すジニ係数を見ればひと目でわかる。 9月21日付ニュース1の「ジニ係数、20年でIMF水準」という記事によれば、 1995年の2分期までジニ係数は25～27の間に留まっていたが、 IMF外国為替危機の翌年に30を越え、1999年には30.83を付ける。 2000年に入るとまた落ち着く様子を見せるが、 2008年の外国為替危機とともにまた29.87に上がる。ジニ係数はその後また回復傾向を見せて2015年には26.93とIMF直前の水準まで下がるが、文在寅(ムン・ジェイン)政府になった直後の2018年、また30を越えて30.69を付ける。 2019年には30.64と0.05%ポイント下がり、小幅に改善されたが、 2分期基準で30を越えたのはIMF以後初めてだったという。

所得の不平等は、一次的には労働所得分配率が低下したためだ。その主な原因は非正規不安定労働の無差別な量産、雇用なき成長、低賃金、圧倒的に高い年間労働時間を上げられる。[1] 外国為替危機以後、財閥は独占資本中心の構造調整を経て急成長し、資本集中力はさらに上がった。その結果、財閥の社内留保金1500兆、家計負債1500兆時代に入った。労働所得は減り、資本所得はそれだけ増えた結果が生んだ現象に対し、イ・テヒョンは次のように分析している。

「民間貯蓄は主に家計貯蓄で形成されるのが正常だが、外国為替危機以後は企業貯蓄が民間貯蓄の大部分を占有し、家計貯蓄はきわめて少なくなるという歪んだ構造が現れた。外国為替危機直前の1996年には民間貯蓄において家計貯蓄が占める割合は55.7%だったが、 2009年にはその割合が21%と急激に低下した。民間貯蓄の空席を企業貯蓄が埋める珍現象が起きている。このような現象は外国為替危機以後、都市銀行が企業融資よりも家計に対する不動産担保融資を中心として営業戦略を変えた結果、家計の債務が急増し、家計が金融資金の供給者役割を果たす代わり、金融資金に対する需要者の役割を果たすようになったことで起きた現象だ」。[2]

外国為替危機直後、金大中政府は変動為替レート制度導入を始め、 5つの銀行の退出を含む金融部門構造調整を敢行した。その後、バンカシュランス[3]を開始したのに続き、 2009年には資本市場統合法を施行する。それと共に銀行と株式、そして保険を一つに統合した後、世界最大級の金額の年金基金を市場に投入して金融部門の図体を大きくする。合わせて何回の外国為替自由化措置などで大幅な資本自由化と開放政策を施行した。結局、韓国は資本の輸出入が自由な世界金融のATMという皮肉を聞くに至り、この過程を経て金大中政府はあれほど望んでいた「先進金融技法」を韓国に移植した。マルクスの言葉のように「何の(生産)過程なく貨幣を生産する貨幣、自ら価値増殖する価値を持つようになる」金融的収奪構造が構築されて拡大し、韓国社会は巨大なジャングルになった。

新自由主義金融化と彼らの蓄財

文在寅政権と共に登場した張夏成(チャン・ハソン)青瓦台政策室長の申告財産は、世の中を驚かせた。 93億1962万ウォンという財産の大きさも大きさだが、本人と配偶者の株式保有金額が54億ウォンに近いという事実のためだった。彼は1997年、参与連帯経済民主化委員長、 2001年に参与連帯経済改革センター運営委員長になり、財閥グループの支配構造問題を提起してきた張本人だ。「資本主義の方式で資本主義の問題点を解決」する運動として、小額株主運動で「財閥狙撃手」、「サムスン狙撃手」役を果たし、名を知らせてきた。当初、外国為替危機直前の1996年に金泳三(キム・ヨンサム)政府は「新財閥政策」を発表した。[4] 「11位以下の財閥に対する与信制限を解いて 6大以下の財閥が保険会社株式を買収したり保有できるようにしたが、財閥を牽制する社外重役制、小額株主権強化、外部監査制度の導入はすべて延期する」という措置だった。その後、外国為替危機が迫り、それから小額株主運動は財閥改革の代名詞になった。

張夏成は小額株主運動に続いて韓国企業支配構造ファンド (いわゆる張夏成ファンド)を作り、投機資本の世界に飛び込む。「各種の年金基金、保険会社などの機関投資家がする役割」だが「市民団体次元の支配構造改善運動」が必要だという趣旨だった。共に「参与連帯経済改革センター」をした金尚祚(キム・サンジョ)は、小額株主運動と法・制度改善運動をさらに専門的に遂行する「経済改革連帯」の所長として役割を分担する。

一方、張夏成はキム・ギファンが会長をしていたソウルファイナンシャルフォーラムの会員でもあった。キム・ギファンはIMF外国為替危機の時に経済協力大使として米国を訪問し、「IMFプラス [5] 」の合意を斡旋した人物だ。その直後には1999年にゴールドマンサックスの顧問に就任した。ソウルファイナンシャルフォーラムは、主要銀行、証券会社、保険会社、前現職官僚、教授などと外国系銀行最高経営者などを包括している。こうした人々が「韓国を金融システムの先進化と自由化、金融市場の国際化、金融会社の国際化を通して、世界金融資本を誘致して金融産業を核心成長動力として育成することを目標にする東北アジアの金融ハブ」を推進してきた。 [6]

しかし経済民主化運動としての小額株主運動を含む従業員持ち株制度などは諸刃の剣だった。財閥系列会社の循環出資や帝王的縁戚経営の禁止と株主の権利の保護、そして財閥の持ち株会社の資格要件強化などを目標にするが、当時も韓国経済を「株主資本主義という新自由主義体制への転換」を試みているという批判があった。最近、2012年にケインズ主義者のチャン・ハジュンをはじめ、チョン・スンイル、イ・ジョンテとともに「何を選択するのか」を出し、小額株主運動などの経済民主化運動を批判した。イ・テジョンもまた「企業が非正常的な規模で社内留保金を貯め込む表面的な理由は、外国為替危機以後に不確実性が高まり、これに備えるための方策の一つとして流動性資産を備蓄することだという。だが、もうひとつの理由は、企業の株式保有率が非常に低い財閥一家が企業の経営権と支配力を維持する手段として流動性資産を備蓄していることからも見られる」 [7]

しかし文在寅政権は初期に青瓦台政策室長に張夏成(チャン・ハソン)を、公正取引委員長には金尚祚(キム・サンジョ)を任命した。今は金尚祚が青瓦台政策室長だが、政策の基調が変わったわけではない。財閥体制は維持され、経済集中力はさらに強くなった。そして最近、金尚祚青瓦台政策室長はサムスンをかわいそうだと庇護 [8] さえした。

この前、進歩的な国際人権法研究会所属の李美善(イ・ミソン)憲法裁判官候補者も、財産として35億の株式を申告し、苛酷な申告式を行った。そして最近では曺国(チョ・グク)法務部長官が一般的な常識では、金の流れでも何が問題なのかさえ理解し難いファンドを申告し、情勢が揺れ動いている。分断体制を支えるしんばり棒だった検察をめぐる政治的な小競合いの一部として見ることもできる。しかし一方では97年以後、新自由主義構造調整を経て韓国社会の金融化がその主導的な陣営の金融的な蓄財とともに深化してきたことを確認できるような項目だ。

新しい階級戦線

労働者たちがベルトコンベアで急いで部品を組み立てた後に残る時間にたまには宣伝ビラや新聞を読んでいた時期があった。今では多くの労働者はその時間に携帯電話で株式取り引きをする。そして賃金団体交渉で株式を受け取り、喜ぶ労働者が生まれて久しい。反面、別の労働者たちは生活の絶壁に追いやられ、 2019年になって1970年代の民主労組闘争を繰り返しながら険しい崖の上に危なかしく立っている。

ヨーロッパでは1994年にヨーロッパ連合(EU)が発足し、市場が完全に開放されて規制が緩和され、賃労働者を保護する法案が廃棄された。他方で資本と商品は「単一市場」内で自由な移動が可能で、国家間地域間格差の利点を利用できるようになった。そのような新自由主義世界化の地形で形成された不安定労働者は、 2008年の世界恐慌以後に集中した広場闘争の真中に立っていたし、新しい政治構図を作った。米国もあまり違わない。ところが韓国の不安定労働者と共に単一の隊伍を形成し、ゼネストを構築し抜いた事例は少なくとも今まではない。そのような点で西欧の不安定労働者の政治的座標も不安定だったが、韓国の不安定労働者の階級性はさらに特別なものにならざるをえない条件にある。

新自由主義資本蓄積体制、特に金融化により誕生した支配階級と不安定労働者の闘争は、ジニ係数ほどに対照的だ。現在、制度政治圏の保守と自由主義陣営の緊張とゼネストという非対称的な状況を越えて、新しい階級戦線への再編が目前に迫っている。

[1] 財閥の社内留保金本来「私」のものではない! 労働者階級政党推進委員会財閥社内留保金還収運動本部(準)

[2] イ・テジョン、〈統計指標で見た外国為替危機以後韓国社会の構造変化〉、《外国為替危機以後韓国社会の変化》、ハヌルアカデミー、2014、38-39ページ

[3] Bancassurance. 証券、銀行など金融機関が保険会社と提携して、保険商品を開発、販売するサービス

[4] チュ・ジュヒョン、《韓国新自由主義の起源と形成》、チェクセサン、2011、150ページ

[5] 『合意』と書いて『搾取』という粘り強い新自由主義、経社労委、チャムセサン

[6] チュ・ジュヒョン、《韓国新自由主義の祈願と形成》、前掲

[7] イ・テジョン、前掲

[8] 金尚祚「4年前のサムスン発言、おおげさな態度ではなかった…韓国経済の躍動性落ちる」、中央日報、2019.09.19.

［ワーカーズ59号］

原文(ワーカーズ/チャムセサン)

翻訳/文責:安田(ゆ)
著作物の利用は、原著作物の規定により情報共有ライセンスバージョン2:営利利用不可（仮訳）に従います。

Created byStaff. Created on 2019-10-03 11:48:42 / Last modified on 2019-10-17 20:46:48 Copyright: Default

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