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性暴力に負けない方法を学んだ124日間のストライキ

[ワーカーズ チャムセサンの話]職場性暴力に対抗した蔚山ガス安全点検女性労働者、その勝利の記録

ユン・ジヨン記者 2019.09.26 16:22

[出処:公共運輸労組]

9月17日午後6時30分。 蔚山のキョンドン都市ガスで働くガス安全点検女性労働者3人が 蔚山市議会の屋上に上がった。 しっかり覚悟をして服とテント、横断幕まで荷物をまとめて市議会に向かったが、 屋上に上がる前に市庁の職員にすべて奪われた。 何も持たずに逃げるようにして上がった市議会の屋上は、 思ったより高く風が強かった。

一息つく暇もなく、市庁職員と警官たちが集まった。 蔚山市庁は彼らに退去命令を出した。 屋上の下からは、警察と戦った人たちが連行されたという知らせが聞こえてきた。 座り込みをしている姉さんたちに服を渡すと叫ぶ組合員の声も聞こえた。 阿鼻地獄の騒動が過ぎると、いつのまに空は真っ暗だった。 寒く不安な夜が長く続いた。

高空籠城に上がったキム・ジョンヒ、クォン・ミスン、イ・シンジャ組合員は、 労組で一番古参の女性労働者だった。 性暴力対策を要求するストライキが121日間、長期化していたが、 会社は問題解決の意志を見せなかった。 その日の交渉でもキョンドン都市ガス社長の姿は見えなかった。 その代わり、何の権限もないセンターの社長が参加して、 労組にA4用紙1枚を渡した後、自分の決定事項ではないと言って どこかに電話をかけに行った。 秋夕過ぎに合意しうとした会社は、 いつそんなことを言ったかというかのように無誠意だった。 これ以上、約束のない時間だけを送るわけにはいかなかった。 十数年間彼らを困らせてきたあらゆる性暴力の問題に終止符を打たなければならなかった。 後輩が性暴力に苦しんで自殺を試みることなどは、もうなくさなければならなかった。

9月18日朝。 夜が明けるやいなや、蔚山市議会ビルの周辺が騒々しくなった。 警察が鎮圧を準備しているという知らせが聞こえた。 警察機動隊3中隊と婦人警官1梯隊など300人ほどの警官が市議会を取り囲んだ。 午前8時が過ぎると、警察が1次解散を命令した。 一時間も経たないうちに、2次解散命令が下った。 そしてあっという間に鎮圧作戦が始まった。 数十人の警察が女性労働者3人を襲った。 からだにロープが巻かれ、手首には手錠がかけられた。 からだを動かすたびにロープと手錠が肉に食い込んだ。 ジャンパーが破れる音も聞こえた。 ロープにしがみついて連行される間、彼らはかっと押し寄せる羞恥心を何度も飲み込んだ。

女丈夫のようにたくましいので労組女性部長を引き受けたキム・ジョンヒ氏は、 羞恥心を払いのけることができず一日中泣いて、また泣いた。 2日経っても彼女らのからだに刻まれた青いアザは消えなかった。

古くなった性暴力の記憶

クォン・ミスン氏の太ももにもロープのアザが残った。 くやしくて苦しかったが、以前のように何もしないよりも良かった。 自分と全く同じでことを体験している後輩のことを考えればそうだった。

クォン氏は今年で11年目をむかえるガス点検労働者だ。 同僚の間では有数の古参労働者だが、 彼女は相変らず家のベルを押すのが難しい。 4年前の事件は、重ね重ね頭の中に残り、彼女を萎縮させた。

2015年のある日、クォン氏はいつものように顧客の家を訪問した。 ベルを押すと、ちょっと待てという男の声が聞こえた。 顧客が準備している間、先に隣りに立ち寄ることにした。 隣りの安全点検を終えてまた戻り、ベルを押した。今回はドアが開いた。

ドアをあけた男は裸のからだに真っ赤な前かけだけをかけていた。 あわてたがそれでもまさか下衣は着ているだろうと思った。 クォン氏が家の中に入ると、男が体を回した。 瞬間、男の裸体があらわれた。 その刹那、さまざまな悩みが頭の中を駆け回った。 そのまま逃げるべきだが、入るべきではないのだが、 そうするとノルマをこなせなくなるだろうし、 ノルマをこなせなければ月給が削られるが、 それでも果たして逃げるべきなのだろうか。

結局、クォン氏は何も見なかったかのように、何もなかったかのように仕事をした。 ぷるぷると震えるからだを隠そうと努めた。 それでもなかったことになるわけでは決してなかった。 仕事を終えて急いで家を出るとすぐ、クォン氏の自尊感は崩れ落ちた。 下の階で暮らしているおばあさんを見て涙があふれた。 おばあさんを捕まえてしばらく泣いた。 いったい私をどれだけ蔑視して、女性労働者をどれだけ無視して、 あんな行動をするのだろうか。 羞恥心は簡単には消えなかった。 これでも君が仕事ができるか? 男はいつの間にかクォン氏にそう言っていた。 だがクォン氏は結局その暴力的な時間を粘って耐えた。 そのノルマのためだった。

その後もたびたび似たような経験をした。 こっそりと近付いてきて肩をたたく顧客もいたし、 酒を飲んでからかう顧客もいた。 鏡の前でズボンの中に手を入れている男を見て、 発作を起こしたように驚いて逃げて出すこともあった。 パンツだけで扉を開ける顧客を見ても、今はたいしたことではなくなった。 運が悪かったのだろうと思いながら、時間と共に流せばそれだけだと考えた。

われわれは皆が被害者だ

そのうちに紛争が起きた。 去る4月16日、入社2年にもならない後輩が、 労組組合員の会で性暴力被害の事実を打ち明けた。 11日前、あるワンルームに監禁されて、醜行されるところだったという話であった。

翌日、労組が被害者と一緒に警察に通報した。 精神科の医師は、被害者に長期治療を薦めたが、 会社は2週間の短い治療期間まで公傷として処理した。 その事件があった後、労組は性暴力被害の事実を集めた。 その時、始めて知った事実は、 被害者がこれまで何と3回の性暴力被害を経験したということと、 組合員のほとんどが似たような被害を経験していたということだった。

そして被害者が業務に復帰して2週間も経たない5月15日。 安全点検に出て行った被害者が、またパンツだけの男性と会う事件が発生した。 そして2日後、被害者は組合員の団体対話室に 「姉さん、私は本当に大変でした」というメッセージと、 「姉さんを楽にして上げたい」という通話を残して連絡を切った。 しばらくうわさをたよりに捜した末、 組合員たちは妹の家で着火炭の煙に包まれて意識を失っている彼女を発見した。

「私たちはとても鈍かったようです」とクォン氏が話した。 彼女だけでなく、他の組合員たちも似たような自責感を感じていた。 鈍って平気になったとしても、暴力から抜け出せるわけではなかった。 再び何もなかったかのように働けるのではなかった。 被害者は私の過去であり、未来であり、すべての同僚の姿でもあった。 組合員たちは私たちすべてが被害者だと定義した。 そして2日の週末を送った後、ストライキに突入した。 要求事項は2人1組の運営と個人割当制の廃止だった。

そいつの97%のために

その渦中にも事件はずっと続いた。 被害者に代わって業務に投入されたアルバイト労働者が、 訪問業務中に裸の男と出会うことが起きた。 それでも会社は完全な2人1組の導入を受け入れなかった。 蔚山と慶南梁山の都市ガス供給を独占し、 年間340億ウォンの純利益を上げながらも、 2人1組導入の予算26億ウォンはすぐに出そうとしなかった。

今まで多くの性暴力に苦しんできた女性労働者は、 彼女たちを被害者と認めようとしない会社と長い戦いを始めた。 幸い、意識を取り戻した被害労働者は組合員のストライキ闘争を見て 申し訳ないと思った。 「申し訳なくて泣きました。 私のために4〜5か月間、月給も受け取らずに戦うのを見て。 ですからそんなことはしないでくれといいました。 私たちみんなが体験することだから。 ノルマの97%を満たすというような問題で鈍ったのは私たちでしたから」。 キム・ジョンヒ氏が話した。

キム氏は労働者たちが性暴力を受けてもきちんと対処できなかったのは 「個人割当制」のためだったと話した。 会社はガス点検労働者1人当り1か月に1200世帯を配分した。 そして実点検率97%達成を強要した。 達成率を満たせなければ1%当たり5万ウォンずつ賃金が削減された。 労働者たちは留守中の顧客と会うために何度も同じ家に通い、 顧客が可能な時間ならいつでも駆けつけなければならなかった。 男がパンツだけで出てきても、さっとからだを触っても、 点検率97%を満たすために我慢して耐えた。

ノルマを満たせないたびに侮辱を受けるのも苦役だった。 キム氏は1か月に1回、会社がビームプロジェクトの画面に 実点検率未達の労働者の名前を載せるたびにストレスに苦しんだ。 最低賃金水準の基本給174万5150ウォンから抜け出すには、 業務量を増やさなければならず、夜も休日も働かなければならなかった。 それで労組は4月の1か月間、1日8時間の正常勤務をしてみることにした。 その結果、基本給の10%と交通費、夜勤手当、休日手当てなどが全て削減された。 正常勤務後に通帳に印字された月給明細書には、多ければ先月より60〜70万ウォン減っていた。

[出処:ユン・ジヨン記者]

安全の不平等

それでも性暴力が発生した時の対処マニュアルがきちんと備わっているわけでもなかった。 働いて10年を越えるキム・ジョンヒ氏も、クォン・ミスン氏も、イ・シンジャ氏も、 誰一人、業務マニュアルを見たことがないといった。 彼女らが会社の業務マニュアルを読んだのは、 とんでもないマスコミの報道を通してだった。 「性的羞恥心およびセクハラ」の時の行動指針に書かれたマニュアルを読んで、 彼女たちは舌を打った。 顧客が茶一杯しようという時は 「顧客様の気持ちを抱いて、さらにがんばります」と、 わい談を言う時は聞ことなかったふりをしたり、 「顧客様、聞かなかったことにします」と答えろという行動指針だった。

「刑事さんも2人1組でしょう。私たちもそうしてくれということです」。 高空籠城中、強制鎮圧されて警察署に連行されたキム・ジョンヒ氏は、 警察に向かって大声を張り上げた。 何の安全装置もなく、知らない家を歩き回らなければならない女性労働者たちにとって、 2人1組勤務は生死の生存の問題だった。 「1人でも私がどこにいるということを知っていれば、 とても大きな慰めになりそうです」。 キム・ジョンヒ氏が小さい期待を表わした。

事実、ほとんどが女性である安全点検労働者たちは、 安全にも、労働条件にもいつも差別を経験する。 公共運輸労組蔚山地域本部のイ・ジャンウ本部長は、 キョンドン都市ガスで配管検査をする男性労働者たちはすべて 2人1組で作業すると話した。 1人は配管検査をして、もう1人を安全を点検する役割だ。 「事実、配管検査よりも家のガス安全点検の方が危険です。 密閉された空間でガスが漏れる方がはるかに危険ですから。 女性一人で家の中に入らなければならないのも、 外で働くより危険負担が高いのです。」

キョンドン都市ガス子会社のサービスセンターに雇用されると、 本社正規職と賃金や労働条件で差別を受けたりもする。 その上、高空籠城までも差別をしたのではないかという冗談半分・真実半分の話も出てくる。 イ本部長は「現代重工労働者たちが100日以上、 蔚山市議会の屋上で高空籠城をした時は手も出さなかったのに、 今回は1日も経たないうちに無理に強制鎮圧をした」とし 「人権弁護士を自称するソン・チョロ市長がなぜ唯一強硬姿勢に出たのか理解できない」と話した。

鈍らさせない法を学んだ124日間のストライキ

9月20日。 蔚山キョンドン都市ガス安全点検員の労使間で合意した。 合意書には「弾力的2人1組」の運営と、 「件数成果制廃棄」、 「感情労働者保護マニュアル用意」といった文句が入れられた。 会社が今回の性暴力事件による組合員の治療費用に責任を持つという付属合意もなされた。 ガス安全点検女性労働者がストライキを始めてから124日目の成果であった。

組合員たちは、今回の合意が持つ意味も、そして限界も明確に知っている。 完全な2人1組勤務ではないので、業務量が多い時は運営が難しいこともあるということも、 実点検率は廃止されても業務量はあまり変わらないということも知っている。 それでも彼女らはガス安全点検労働現場で初めて2人1組を導入する礎石を用意した。 似たような困難を味わう全国のガス安全点検労働者たちと、 多くの世帯訪問労働者にとって希望になる点だった。

高空に上がったイ・シンジャ副分会長、キム・ジョンヒ女性部長、クォン・ミスン組合員は、 この頃「女性労働者」についてよく考える。 124日間のストライキ期間中、彼女らは鈍らされない方法を学んだ。 「ストライキ期間に国会で開かれた世帯訪問労働者証言大会に参加したことがあります。 その時、世帯訪問労働者がとても多く、多様だという事実を知りました。 私たちよりもっと劣悪な条件で働く女性労働者も多い。 まだ社会は女性の労働をとても軽く見ているようです。 たとえ今はわれわれ組合員だけに2人1組勤務が適用されるとしても、 これからはもっと多くの女性労働者がより良い環境で働けるようにするべきです。」[ワーカーズ59号]

原文(ワーカーズ/チャムセサン)

翻訳/文責:安田(ゆ)
著作物の利用は、原著作物の規定により情報共有ライセンスバージョン2:営利利用不可仮訳 )に従います。


Created byStaff. Created on 2019-10-03 11:48:42 / Last modified on 2019-10-03 11:51:14 Copyright: Default

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