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韓国:トランプ移民政策の野蛮と強まる抵抗
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トランプ移民政策の野蛮と強まる抵抗

[INTERNATIONAL]川に流され砂漠に埋もれて消えた夢を記憶しよう

チョン・ジユン(もう一つの世界に向けた連帯) 2019.08.12 10:40

[出処:ジャコバン]

先日、米国とメキシコ国境のリオ・グランデ川で、 ある男性と彼の首に腕を巻きつけたままの小さな女の子が共に死亡した。 この姿は世の中を大きな衝撃と悲しみに陥らせた。 二人は摘発を避けて川を渡り、米国に行こうとしたが、 急流に巻きこまれたエルサルバドル国籍の父親と23か月の娘だった。 こうして今、中南米では貧困、暴力、失業を避けて、 多くの移住者が米国-メキシコ国境に集まっているが、 彼らを待っているのはたいていは希望と安息所ではなく絶望であり、 はなはだしくは死であることも多い。

今、そのような絶望と死を呼び起こしているのはまさに米国大統領トランプだ。 トランプ自分は百万長者の出身ではあるが、 彼の政治的基盤はウォールストリートや大企業と考えるのは難しい。 2016年の大統領選挙でトランプは銃器協会から集めた金が一番少なかった候補の一人であり、 オバマほどに「スモールマネー(小額後援支援金)」をたくさん集めて選挙運動をした。 トランプの選挙戦略はいわゆる「M&M(Muslim & Mexican)」戦略だった。 民主党のエリートらの自由主義と自由貿易、世界化が米国人に 被害と苦痛をもたらしたというのが彼の論理であった。 彼はここに中東から来るムスリム難民とメキシコ国境を越えてくる移住者を テロ、麻薬、性犯罪などと連結させて 「われわれの雇用と税金、福祉を盗み出す彼らの侵入を防がなければならない」 と主張した。 国境を強化して米国産品を優先的に購入し、 米国人を優先的に雇用して(アメリカ ファースト)、 米国をさらに偉大にするということだった。

こうした形で彼はラストベルト(衰退した工業地区)と 南部の貧しい郊外で白人を結集させた。 自分たちがむしろ性少数者、女性、移民者により逆差別されているという被害意識をあおった。 そうした地域で貧困と疎外に苦しむ人々に食い込んだのは福音主義教会で、 トランプ式の嫌悪扇動だった。 そうした扇動がどのようにして高まり、 どんな考えと人々を結集させたのかは2016年の米国大統領選挙の出口調査の結果を見ればわかる。 これを見ると、女性、性少数者、黒人、ラティーノ、アジアンの多くは クリントンに投票した。 だがトランプはその反対側の人々から大きな支持を得た。 トランプに投票した人々の84%は「不法移住民を追放すべき」で 86%は「メキシコの国境を強化すべき」と答えた。

▲米国に向かう南米移住民[出処:DemocracyNow!]

こうして権力の席についたトランプの就任初期から、ヘイトクライムは急増した。 オルタナ右翼とネオナチのような極右人種主義者がこうした条件を利用して、 さらに簡単に結集して成長した。 昨年末には前大統領のオバマ、CNNなどに郵便爆発物を送る事件もあったが、 後で逮捕された容疑者はトランプの情熱的な支持者であることが明らかになった。 トランプは近付いてくる大統領選挙を狙って、 今も民主党所属のムスリム、多人種女性下院議員に 「本来国に帰れ」という低劣な人種主義の扇動をしている。 こうしたトランプが執権3年間に行ってきた反移民政策は、 公開、発表されるたびに衝撃と反発を呼び起こした。

まずトランプは就任するとすぐ、 2017年初めにムスリム入国禁止行政命令を発動した。 テロの危険を口実としてイラン、イラク、シリアなど7か国で暮らす 1億3千万人を対象として米国への入国を遮断するということだった。 2017年の秋にはダカ(DACA)と言われる 「未登録青少年追放猶予プログラム」を廃止すると発表した。 2018年の春には国境を越える移住者は無条件に密入国容疑で法廷に立たされ、 それとともに子供は両親と隔離して収容すると発表した。 叫びながら両親から強制的に分離された子供たちは、 両親から数百マイル離れた移民拘置所などに収容された。 中南米から数千キロを行進して米国国境に到達したキャラバンを迎えたのは 国境守備隊と催涙弾ガスであった。 今年の初めには自分が公約した「米国メキシコ国境障壁」の設置予算 57億ドルを確保するためにシャットダウン(連邦政府業務停止)を35日間続け、 議会を圧迫して国家非常事態を宣言することさえした。

トランプのこうした移民政策は非寛容政策と呼ばれる。 書類が不備な未登録移住者も犯罪者として起訴して投獄追放し、 青少年や移住者の幼い子供たちにも寛容はないということだ。 そのため逮捕・追放される移住者の数は急速に増加した。 こうしたトランプの移民政策は、明らかにオバマの時期より大幅に後退するものだ。 だがオバマの時期にも移民者の暮らしはとても苦しかった。 例えばオバマ政府の時期、高位要人がトランプの家族分離を批判して 「国境保護所で抑留された二人の少女が冷たい床に寝ている写真」を共に上げたことがある。 しかしその写真はオバマ政府時期の2014年に撮影されたと発表された。 つまりオバマの時期にも国境、摘発、追放はあった。 民主党は交代で米国資本主義を管理してきた二大政党の一つである。 そして米国の歴代政府の移民政策は、 根本から米国資本主義と国家の蓄積と覇権のための必要の観点から分析されなければならない。

▲米国に到着した移住民[出処:DemocracyNow!]

経済危機と失業の犠牲

事実、米国は初めから移民者が作った国であり、 ヨーロッパから新大陸に渡ってきた移住民は先住民の土地と権利を強奪して、 自分たちの自由な移民と定着の権利を擁護した。 移民に対する抑制が本格化したのは大恐慌と第二次世界大戦を経てからだった。 経済危機と失業に対する犠牲が必要だったのだ。 新自由主義世界化時代になり、移民の規制はある程度緩和された。 米国資本主義は労働の柔軟性を拡大し、 移住労働を低賃金不安定労働力の貯水池として活用した。 北米自由貿易協定(NAFTA)が締結された後、 未登録移住労働者の数は急速に増えた。 民営化、公共サービス破壊、土地収容の中で押し出された小農と貧しい移住者は、 境界地域のマキラドーラ産業団地で押し寄せ、 続いて国境を越えて米国の労働市場に大挙進入した。 米国の移民政策は未登録移住労働者を大挙流入させながら、 同時に国境を越えることを犯罪視するものだった。 それと共に、米国とメキシコを経て、全体的に労働者の実質賃金は削減され、 労働時間は延び、労組は弱まった。

新自由主義的蓄積が限界に直面し、経済、金融危機が頻繁に起きるようになり、 移民政策の方向はまた少しずつ変化した。 1990年代初めの民主党のビル・クリントン政府の時から国境障壁が作られ、 共和党のジョージ・ブッシュ政府は国境障壁をさらに強化していった。 2008年の世界金融危機の中で執権した民主党のオバマ政府は ブッシュ政府よりさらに多くの移民者を摘発追放した。 そして強制追放は移住労働者の流入を完全に防ぐのではなく、 彼らを「人種差別的不安定」の形にして、劣悪な労働条件を素直に受け入れさせることに目的があった。 再生産過程の費用負担を避けることができ、 人種による分裂と労組の弱化などにも悪用されるという点で、 移住労働力は米国資本主義にとって何重もの利益を提供した。

しかも中東と中南米で多くの人々が移民を決心させた原因も、 実は米国がまき散らした新自由主義政策と帝国主義的対外政策にあった。 人口の多くがムスリムである中東地域は、 まさにこの数十年間、米国が石油と覇権のために帝国主義軍事介入を繰り広げた国々だ。 米国が行った爆撃、侵略と占領で彼らが暮らしていた イラク、アフガニスタン、リビア、シリアは生き地獄になり、 多くの人々が生活の基盤を失った。 中央アメリカとラテンアメリカもそれほど違わない。 米国は19世紀末からラテンアメリカ地域に何と50回を越える軍事的侵攻をした。 北米自由貿易協定(NAFTA)が代表するように、 米国がこの地域に輸出した新自由主義政策は貧困と二極化を生んだ。 故郷を離れて数千キロを歩き、米国国境へと向かうエクソダスの行列は、 それによって作られたのだ。

そしてトランプはもう国境障壁をさらに増やし、高くして、 両親と子供を生き別れにし、 青少年も強制追放する方向に進んでいる。 それと共にトランプは最近 「家族という理由だけで永住権を与える制度を大幅に縮小し、 能力と技術を備えた移民者を優待する」方向を発表した。 つまり、未熟練下位職種の移民は大幅に減らして高熟練労働力を大きく増やすということだ。 これは、トランプの移民政策が既存の政策の毒性をさらに強化しながら、 新しく、さらに危険な毒性を付け加える理由を説明してくれる。 低成長と緊縮の時代において、 米国資本主義は新自由主義的成長を可能にする低賃金不安定移住労働者を 犠牲とし始めたのだ。 今やそれらの労働者をさらに不安定で劣悪な境遇に追いやっている。 同時に米国資本主義は米中の覇権戦争の中で、 必要な高熟練労働力を再生産する過程で必要な 教育、福祉などの費用も負担しないようにする。 これは故障した資本主義は野蛮に突き進みつつ、 最も脆弱な人々を犠牲にするということを改めて証明する。

▲米国移住民拘禁施設[出処:DemocracyNow!]

急進化と運動の成長

しかし、トランプ執権3年と移民政策は、単に野蛮の記録だけではない。 それはまた抵抗と連帯の記録だった。 トランプがムスリム入国禁止を発表した時、 即刻多くの人々が米国全域の空港に集まって、 自分で作ったプラカードを持って「難民と移民者を受け入れろ!」と叫んだ。 米国30都市の主要空港で反対デモが行われ、 米国連邦裁判所は行政命令を臨時延期する決定をした。 家族分離政策の時も泣き叫びながら生き別れる移民者家族の姿は強い反発を呼び、 乗務員労組は生き別れた移民者を運ぶ飛行を拒否した。 トランプの夫人まで異論を表出し、 結局トランプは隔離収容政策を撤回した。 今年の初めにトランプのメキシコ国境障壁建設のための史上最長期の 延長政府「シャットダウン」を中断させたのも、 単に民主党の反対ではなかった。 政府閉鎖は200万人にのぼる公共部門と関連企業労働者とその家族の反発を呼び、 乗務員、操縦士、航空管制官労働者が抗議とストライキの準備に入り、 トランプはシャットダウンを中断した。

この過程で民主党の役割は大きくはなかったものの、何もしなかったわけではない。 民主党所属の州知事、市長は所属公務員と警官に対し、 悪名高い移民税関摘発局(ICE)と税関国境保護局(CBP)の 不法移民者摘発追放作戦に協力するなという命令をするなどの態度を見せた。 シャットダウン事態の時にはトランプの障壁予算の配分要求を拒否し、 結局、当初の要求(57億ドル)の4分の1にも満たない規模(13億ドル)で合意した。 また民主党は最近、来年度の国土安保部予算案に障壁建設費を反映させないことにした。 だが民主党が国境の維持と強化、移民に対する統制と摘発追放そのものには反対しないという問題は依然として残る。

▲米国移住民拘禁施設[出処:DemocracyNow!]

これは単に民主党だけの問題ではない。 民主党に依存してきた米国の大型主要労組の問題でもある。 事実、米国の労働運動の沈滞の中で、製造業の白人(男性)労働者たちの中で 「米国人の雇用を守るために米国人が作った米国製品を買え」(buy american)は、 経済民族主義と保護貿易主義が影響してきたのは事実だ。 しかしこの数年間、抵抗の成長と急進化の中で、こうした雰囲気も変わっている。 すでにオバマの時期から「黒人の命も貴重だ」(black lives matter)運動が成長し、 トランプ就任直後には彼の女性嫌悪に対抗して巨大な国際女性行進が行われた。 それは#metoo運動につながり、 何よりも昨年、ウェストバージニアで始まった教師ストライキは米国全域に広がり、ずっと続いてきた。 ストライキ参加者数が数十年ぶりに最高水準に達し、労働運動の復活が語られている。 目立つのは多人種女性と青年たちの急進化と主導性だ。

これは昨年末の中間選挙の結果にも政治的に反映された。 アレクサンドリア・オカシオ・コルテスをはじめとする 米国民主的社会主義者(DSA)グループ所属の多人種女性候補が 史上最多で当選(ピンクウェイブ)したのだ。 彼女らの急進的な主要政策には、 雇用保障制、公立大学登録金廃止だけでなく、 移民制限撤廃、ICEとCBPの廃止なども含まれていた。 こうした流れの中で、米国労働総同盟(AFL-CIO)の指導者の中でも トランプの移民政策と摘発追放を批判する声があがり始めた。 すでに公共、サービス、教育部門では、 女性、移民、多人種労働者が雇用の多くの部分を占めていたりもする。

▲トランプ大統領の移民政策に反対するデモ[出処:DemocracyNow!]

2020年の大統領選挙を控えて、 また吹いているバーニー・サンダースの「民主的社会主義」の風と、 民主党所属の多人種女性下院議員の声は、 まさに彼らの熱望を反映している。 民主党の一部では越境の犯罪化を終わらせようという主張まで出始めた。 もちろん、民主的社会主義者(DSA)所属の民主党の政治家による「社会主義」は、 ニューディール式福祉国家の水準だ。 したがって、社会主義が当面の代案として登場したかのように誇張することも、 彼らも民主党なのだから結局は違わないと引き降ろすこともやめなければならない。 重要なことは、民主党の内外を越えて起きている 急進化と運動の成長の中に介入して、学び、何かを作り出すことだ。

資本主義において、労働力を再生産して供給する国際的な過程はジェンダー化され、 人種化された関係に依存して展開する。 したがって、人種主義、性差別主義そして政治的不平等に対する問題を提起せざるをえない移民者の闘争と それに対する連帯は、 労働階級政治の核心にならざるをえない。 絶望の中で希望を求めて立ち上がった彼らを待つのは、 堅く閉じられた国境の門と国境障壁であり、 多くの人々が希望の土地を踏むこともなく川に転落して死に、 砂漠で渇いて死んでいった。 絶叫しながら死んでいく瞬間に、 彼らの頭の中をよぎった夢を考えてみよう。 その夢のために闘争して連帯する時だ。[ワーカーズ57号]

▲トランプ大統領の移民政策に反対するデモ[出処:www.npr.org]

参考資料

http://edition.cnn.co/electio/results/exit-polls/national/president

http://socialistworker.org/2017/04/25/whats-driving-trumpsimmigrant-bashing

http://rs21.org.uk/2014/12/01/historical-materialism-2014-migration-the-labour-market-and-social-reproduction/

https//www.jacobinmag.com/2018/06/trump-immigrationchild-family-separation-policy
Susan Ferguson&David McNally、"Precarious Migrants:Gender, Race and the Social Reproduction of a Global Working Class"、Socialist Register(2014)

原文(ワーカーズ/チャムセサン)

翻訳/文責:安田(ゆ)
著作物の利用は、原著作物の規定により情報共有ライセンスバージョン2:営利利用不可仮訳 )に従います。


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