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韓国:不動産の金融化、相変らず一攫千金を狙う
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不動産の金融化、相変らず一攫千金を狙う

[ワーカーズ]連載

イ・ジョンフェ 2019.07.10 10:41

韓国銀行が金利引き下げのシグナルを送った。 もうひとつの世界景気低迷の兆しと米中貿易戦争という二重苦の中で、 景気浮揚措置が必要だという判断なのだろう。 韓国銀行のシグナルに最も早くうごき始めたのは不動産景気だ。 これに対して政府は新しい不動産措置を出すと脅した。 実際に文在寅(ムン・ジェイン)政府は就任以後、 総合不動産税、譲渡所得税、住宅担保融資などを強化する 9・13不動産対策と首都圏住宅供給拡大対策などを出した。 最近では「首都圏住宅30万戸供給方案による第三回新規宅地推進計画」も発表した。

臨界点に至った不動産市場

現在の不動産関連の指標は、韓国の不動産市場がすでに臨界点に至ったという事実を示す。 上位10人が保有する住宅数は4599軒で、1人当り560軒にのぼる。 上位1%の個人が所有する住宅は合計90万6000軒で、1人当り平均6.5軒を保有している。 経済正義実践市民連合(経実連)によれば、 この10年間の法人が保有する土地は80.3%増加した。 特に上位1%の法人が保有する土地はこの10年間で2.4倍増加した。 [1] しかし住宅保有率が100%を越えたとしても、自家居住の割合は57.7%に過ぎない。 首都圏は49.9%でさらに低い。 地下、屋根裏部屋、考試院などでクラス最低住居基準未達世帯は5.7%、 104万人にのぼる。

不動産融資による家計負債も急増している。 昨年4分期基準、家計負債は家計信用基準1534兆6310億ウォンで、 前年度より5.8%増加した。 2013年の家計負債1000兆ウォンを越え、5年で1500兆ウォンを突破したわけだ。 国際決済銀行(BIS)によれば、昨年末のGDP対比家計負債割合は97.7%で、 1年前より2.9%増えた。 その家計負債の70%はまさに住宅担保融資による借金だ。 これは朴槿恵(パク・クネ)政権の時期に、 「金を借りて家を買え」という政策の結果でもある。

こうした中で、市中銀行は「私一人の好況」を享受している。 今年1分期、4大都市銀行は2兆9694億ウォンの営業利益を達成した。 利子収益も昨年同期より6273億ウォン(9.9%)増えた6兆9457億ウォンを記録して、 利子商売で腹を肥やしている。 最近3年間の米国金利引き上げによる金利格差にもかかわらず、 韓国銀行がすぐに金利を上げられない理由がまさに家計負債のためだった。

資本の排出口だった不動産市場

韓国の住宅問題は、韓国の資本主義の歴史と共にする。 初期に元手なしで始まった韓国の産業化は、 日韓基本条約による対日請求権資金、 ベトナム戦参戦による資金、 中東特需で流入した資金などで成長した。 しかし政府が基本的な産業化戦略として積極的に活用したのは、 家計貯蓄による資本動員戦略だった。 政府はこのようにして集めた金を産業部門に優先的に配分し、 国家主導の財閥中心経済体制を構築していった。 こうした官治金融体制では、資本を住宅部門に投与する余地はなかった。

その後の急激な産業化と都市化は、慢性的な住宅不足事態を引き起こし、 清渓川をはじめとする河川周辺と郊外周辺の尾根には、 無許可の掘っ立て小屋の村ができた。 71年の光州大団地事件を始めとし、都市整備による大規模移住に反発する撤去民の闘争が絶えなかった。 そして80年代の3低景気を経て過剰蓄積された資本の排出口として、 大規模アパート団地が建設され始めた。 特に86年のアジア競技大会と88年のオリンピックを契機に その後の盧泰愚(ノ・テウ)政権の「住宅200万戸建設」を経て、 集中的に再開発・再建築が行われた。

当時までは、国家の社会的支出拡大は月の国の話だった。 政治的正当性を確保する次元で国民福祉年金制度や医療保険制度が導入されたが、 社会政策は形式的な水準に留まっていた。 しかし低い所得税負担と家計貯蓄に対する多様なインセンティブは、 家計の家族主義的な生存戦略を支える最低限の物質的な基礎だった。 そのため公的福祉の代わりに家計貯蓄を基盤とする生活保障体系が形成され、 「賢い家一軒」は福祉を担保する生活保障の手段になった。

一方、外国為替危機以後に整理解雇・派遣制が導入されて不安定労働が普遍化し、 福祉の必要性が増加し始めた。 これに伴い国民年金の全国民拡大適用、医療保険統合、 雇用保健課労災保険の全事業場拡大適用、国民基礎生活保障制度などといった 福祉制度が導入された。 だがこれも労働福祉、参加福祉などのように、 新自由主義的福祉制度の限界により相変らず住宅は資産増殖と財テクの重要な生存戦略として活用された。 [2]

都市再開発による資本の吸収

1848年に最初の資本主義恐慌にぶつかった皇帝ナポレオン3世は、 過剰資本を解消するためにパリの近代化計画を出した。 これを通じ、パリには人為的な権威と伝統が作られ、 これはニューヨークをはじめとする主要都市のモデルになった。 デヴィッド・ハーヴェイは著書「反乱する都市」で 「(こうした)都市再編の過程は階級的性格を帯びる。 貧しい人々、特権を享受できない人々、政治権力から疎外された人々が 真っ先に深刻な苦痛を受ける」と書いた。 当時パリの市長だったジョルジュ=ウジェーヌ・オスマンが 公共利益を実現することを名目として土地収用権を行使してパリの貧困地域を解体し、 労働者階級とその他の不満分子をパリ中心部から追い出したという。

デヴィッド・ハーヴェイは同じ著書で 「資本主義の下での都市形成過程の核心には、排除と略奪が本質的に存在する」とし 「これがまさに都市再開発による資本吸収のもうひとつの側面」と規定した。 [3] 韓国社会において産業化、都市化以後に行われた土地収用権をめぐる 撤去民、賃借人の闘争は、こうした定義から一寸も抜け出さない。

ドキュメンタリー「上渓洞オリンピック」の背景になったコバンの町は、 1984年に都市の美観を名分に再開発された。 この過程で撤去専門のならず者用役が法の保護を受けて暴れ、 罪のない死が続いた。 5人の撤去民が火炎で虐殺された2009年の竜山惨事の後も、 再開発・再建築は相変らず一攫千金の機会であった。 「略奪による蓄積」は、搾取というもうひとつの収奪の一典型になった。

一方「都市空間の形成は過剰資本の吸収で決定的な役割を果たし、 地理的規模を絶えず拡大する。 だが代価が伴う。 都市大衆から一切の都市権を剥奪する創造的破壊過程が進行」するという デヴィッド・ハーヴェイの言葉のように、 地下鉄の線路は増え続けている。 都市権を剥奪された人々は、増えた地下鉄路線と時間の戦いをしながら、 毎日毎日戦争をしている。

不動産の金融化

「100年に1度の恐慌」と呼ばれた2008年の世界経済危機は、 米国のサブプライムローン事態から出発した。 2000年代初期、ITバブルが崩壊して米国は景気浮揚のために超低金利政策を施行し、 これは不動産価格を上昇させた。 不動産バブルが激しくなると、また政府は金利を上げ、 これは低所得層の貸出者を対象とするサブプライムローンでの回収不能状態を引き起こした。 結局、2007年に米国第2のサブプライムモーゲージローン会社の ニューセンチュリー・ファイナンシャル(New Century Financial)が破産を申請し、 これを始めとしていわゆるサブプライムモーゲージローン事態が起きた。

住宅貸金業体のローン会社だけが潰れたのではなかった。 証券化したモーゲージローンを購入した金融会社、証券会社はもちろん、 AIGのような保険会社まで危機に陥った。 結局、不動産バブル崩壊により投資銀行のリーマンブラザーズが破産し、 これは金融危機につながって世界恐慌に広がった。 新自由主義金融化の本質があらわれた経済危機は、 資本主義の危機につながることになった。

韓国も外国為替危機を経て金融化体制への再編を試み、 これにより不動産金融化がなされた。 これは住宅担保融資の証券化を通じ、 住宅担保付証券(Mortgage Backed Securities、MBS)という新しい形態の証券を発行して証券市場を浮揚させる方式だった。 証券化のためには、これに適合しない短期・変動金利・一時償還住宅担保融資ではなく、 証券化に適する長期・固定金利・分割償還を活性化させなければならなかった。 そのため住宅投機を規制するのは政府としても重要な課題であった。 こうした流れから 「李明博政権の住宅政策目標も、盧武鉉(ノ・ムヒョン)政権と同じように 住宅投機を規制して、実需要者の住宅取り引きを促進することだった」 というイ・ジウンの論文は示唆的だ。 [4]

デヴィッド・ハーヴェイは 「土地は通常の意味の商品ではない。 未来の地代への期待により派生する資本の擬制的形態」だと規定した。 このようにして形成された不労所得は、実にすごい。 2016年の不動産不労所得規模は374.6兆ウォンで、GDPの22.9%に達する。 [5] このような労働者に対する二重搾取を取り払うにあたり 単に不労所得還収を目標にするのは難しい。 また保有税を上げて公共賃貸住宅を建設し、賃貸料を下げる方式では、 新自由主義金融化された不動産市場を克服するのに限界がある。 パリコミューンの当時、2種類の布告令のうち 「一つはパン、工場の夜間労働撤廃で(労働問題)、 もう一つは賃貸料支払い停止命令(都市問題)」だったように、 都市を基盤とする階級闘争が必要だ。 すでに遠くドイツでは超国籍巨大不動産企業 ドイッチェ・ボーネン(Deutsche Wohnen AG、DW)を没収する闘争が行われている。 [6] 韓国でも西村で、新水洞で、そして全国のあちこちで、 収奪に反対するもうひとつの「竜山闘争」が続いている。[ワーカーズ56号]

[脚注]

[1] 消えない竜山惨事10年と不動産独占の時代、イ・ウォノ、「ワーカーズ」50号

[2] なぜ不動産所有が福祉の代わりをすることになったのか?、キム・ドギュン、チャムセサン、2015.5.12

[3] 《反乱する都市》、デヴィッド・ハーヴェイ、エイドス、2014

[4] 住宅金融化の展開とチョイノミクスの本質、イ・ジウン、チャムセサン、2014.9、24

[5] 不動産不労所得、いかに遮断するか?、チョン・ガンス、黄海文化、2019春

[6] ドイツの不動産企業没収運動 … 「皆のための社会化を!」、ワーカーズ 55号

原文(ワーカーズ/チャムセサン)

翻訳/文責:安田(ゆ)
著作物の利用は、原著作物の規定により情報共有ライセンスバージョン2:営利利用不可仮訳 )に従います。


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