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新政府は非正規職の救援者になれるか

[ワーカーズ]私を探して

カンフ 2017.07.11 11:26

経済学教科書の最初に必ず書かれている文句に見られるように、 資本主義は人間の利己的な本性を前提にしています。 そして資本主義こそ、この利己的本性に符合すると教えます。 各自の利己心による行為が社会の発展の原動力になるとし、 スミスの言葉を借りて利己心を称賛します。

しかし利益の追求において利己心を神様のように大切にするこうした態度は、 労働者たちに向かう時には急変します。 もっといい食事をして、もっといい家に住み、もっと余裕がある生活をできるように賃金を上げてくれと言うと「利己主義」なんです。 一日で携帯メッセージ一本で解雇される蝿の人生ではなく、 永遠に差別される2等人生ではなく、 同じ仕事をすれば非正規職から正規職に転換して処遇を改善してくれと言えば 「欲張りすぎ」だということです。 一人では社長の前で臆するほかはなく、同僚と一緒に労組でも作れば「剛性、貴族」のレッテルを貼ります。 社長は利己的でもいいが、労働者は利己的ではいけないのでしょうか? あまり一貫性があるとは思えません。

非正規職の正規職化の問題が連日話題になっています。 ところで就任直後、大統領は仁川空港の非正規職労働者と会った席で 「労働者も一度ですべてを得ようとするな」と話しました。 ある新聞は青瓦台関係者の話を伝えながら 「労組もちょっと欲を捨てろと訓戒する雰囲気」だったと書きました。 経済人総連をはじめ、経済新聞やマスコミはこれでも足りず、 正規職化は「弊害」だと説明しようとしています。 20年前、政府と資本は整理解雇制と派遣制を一気に押し通して、遠慮なく欲を表わしました。 すでにこの国の雇用の半分は非正規職で満たされた今日、新政府は非正規職の救援者になることができるのでしょうか。

Aタイプ:光州型中規職

われわれは学校に通っている時から「対話と妥協」で問題を解決しろと学びます。 互いに一歩ずつ譲歩すれば、どちらも利益を享受できるという、美しい「ウィン・ウィン」モデルです。 しかしこのモデルには深刻な欠陥があります。 現実に対立している当事者はたいてい同等の位置にはいません。 例えばサムスンの李在鎔(イ・ジェヨン)副会長とサムスン電子の修理技師労働者が同等な権力を持っているとは誰も考えません。 世の中が美しくなることを夢見ても、とにかく利害関係がぶつかる現実の中で、ロマンなどはないのです。 「ウィン・ウィン」と言ってもその実状を開けてみれば、「誰が利益を享受するのか」、そして「誰が損害を受けるのか」が出てきます。

「ワーカーズ」は今回の号で「光州型雇用」を集中的に取材しました。 ある人は費用を下げて利益を得ても、ある人は生活の条件を放棄しなければなりません。 「中規職」、盧武鉉(ノ・ムヒョン)政権の時に流行し始めたこの言葉は 「正規職だけはだめだ」というかたい意志の表現です。 正規職になることが欲張りで特権になってしまったように感じられるほどの今日この頃。 大統領がモデルとして提示した光州型雇用は誰のための妥協でしょうか。

Bタイプ:無期契約職

「短く太く生きるか、あるいは細く長く生きる?」 二者択一のフレームの前に立つ瞬間、われわれはこの状況を「与えられたもの」としてに受け入れて、 二つのうちどちらの方が良いのかを悩むようになります。 「太く長く生きるということ」は解答にならないといいます。 われわれは問い直してみる必要があります。 なぜ必ず二つのうち一つだけを選択しなければならないのかと。

派遣、請負、下請、特殊雇用…非正規職が全面導入されてから20年、 非正規職の類型は多様に増えて、名称も複雑で多様です。 時には不法を避けるために、時にはまるで非正規職ではないかのように装う用途で使われます。 「無期契約職」、期間の定めがない契約職を意味する言葉です。 ありのままに表現すれば「一生非正規職」でしょう。 日常的な解雇の威嚇は減りはしますが、賃金も削られる場合は珍しくありません。

九宜駅スクリーンドア死亡事件以後には安全業務の外注化の問題が争点に浮上しました。 ソウル市は直接雇用すると言いましたが、実状は無期契約職採用でした。 労働条件がさらに悪化したキム君の同僚は職場を辞めました。 処遇改善か、雇用安定か。 選択の強要を拒否した時、はじめて私たちは別の道が見えるのでしょう。

Cタイプ:子会社転換

一回ぐらいはKTXに乗った人は多いと思います。 KTXで制服を着て乗客の案内する乗務員も見たでしょう。 この乗務員はKTXを運営する鉄道公社の職員でしょうか? 会社はこの乗務員は自社の職員ではないといいます。 「コレイル観光開発」という鉄道公社の子会社職員だというのです。 当然、鉄道公社の職員との差別があり、鉄道公社も雇用責任から抜け出します。

大統領が就任直後に仁川空港を訪問して「公共部門非正規職ゼロ時代」を明言した後、 仁川空港公社は素早く対策作りを始めました。 その「対策」として有力に議論されているのがまさに非正規職労働者を子会社の職員に転換する方案でしょう。 仁川空港の非正規職労働者たちは、今まで働いてきた経歴も認められず、 逆に賃金が削られるこの子会社転換を不安に思わざるをえません。
民間企業も同じです。 SKブロードバンドは子会社を設立してインターネットとIPTVの設置・修理技師を採用すると言い、LGユープラスも似た手順を踏むようです。 通信業界の労働者たちは数年間「本当の社長が出て来い」と叫びながら、 直接雇用を要求しました。 やっと「お前たちはうちの職員ではない」といったも同然です。 一度社長の顔を見るのもこれほど難しいのです。

Dタイプ:非正規職差別縮小

「非正規職撤廃」と「非正規職差別撤廃」。 1文字の違いですが、その意味は質的に変わります。 非正規職制度そのものをなくすのか、あるいは制度は温存するが正規職との格差を減らすかの問題になることでしょう。 事実、非正規職自体が労働者たちの間に差別をおき、使用者が費用を削減し、 さらに簡単に解雇できるようにするものです。 つまり、「非正規職差別撤廃」は成立しない言葉であり、 差別を「完全に」撤廃するのではなく一部調整する水準で終わるしかありません。 非正規職制度をどのような水準であれ容認した瞬間、それは差別を認めることになるのです。

正規職と非正規職間の差別と格差はもう誰も否定できない事実であり、 保守言論もこの格差を減らさなければならないと言うほどに深刻です。 問題は、その格差が「誰の責任で、なぜ生まれ、どう解消するのか」でしょう。 しかし非正規職全面化の信号弾を打ち上げた派遣法を通過させ改悪した政治家たち、 誰よりも率先して不法も辞さずに非正規職を量産した財閥は、ここからすっぽり抜け落ちます。 そして犠牲の祭壇に正規職が上がります。 「格差解消」ではなく「下降平準化」、 資本の「ビッグ・ピクチュア」に労働者の未来は一瞬もあったことはありません。

Eタイプ:非正規職をもっと拡大するべき

「労働の終末」。 「第4次産業革命という幽霊が徘徊している」と言っても良いほど、誰もが新技術と人工知能についてひとこと言う世の中です。 それとともに「xx年後には人間の雇用のxx%が消えるだろう」など、ついに労働の終末が近付いてくるという黙示録的な主張が毎日のように新聞にのっています。 事実、機械と技術が発展して以来、労働に対する終末論的な予言がなかったことはありませんでした。 初めから産業革命初期の労働者たちは機械が雇用を奪うと考えて、機械破壊運動を行ったりもしたからです。

雇用が減るのではなく「利益創出に不要な雇用」が減るというほうが正確な表現でしょう。 なぜ利益が必ず蓄積されなければならないのか、 その利益を誰が持っていくのかについては尋ねることも確かめることもないままです。 そして雇用が減るという威嚇と共に「硬直した正規職雇用」を減らせという声が上がります。 経済新聞にはドイツ、オランダ、日本などの各種の「モデル」に言及しながら 「多様な雇用」という美名の下で時間制、超短期、柔軟勤務などの非正規職を増やせという主張がのっています。

技術の発展で機械がさらに多くの人間の労働に代わることはできます。 では、われわれはさらに少ない努力で皆がさらに多くのものを享受する世の中を想像してみることもできるでしょう。 何人がその多くものを一人占めして、他の多くの人々を失業者にするディストピアではないもう一つの世の中です。

Fタイプ:正規職化/非正規職撤廃

紆余曲折の末にこの道探しの一番奥に到達したあなた、 まともな正規職転換はこれほど難しいのです。 20年前には誰もが当然に思っていた正規職、今は羨望の対象であると同時に既得権の烙印を押されています。 すでに全体雇用の半分に減った正規職雇用は無期契約職、子会社職員、中規職、時間制など、 各種の「代替雇用」が乱舞して、まったく絶滅しそうな雰囲気です。 そういえば、「非正規職ゼロ」といっただけで「皆を正規職に」という約束はありませんでしたね。 正規職転換ではなく、非正規職の名称を変える新種の技法の真実は、近いうちに当事者が皮膚で感じるほかはないでしょう。

正規職を貴族だとののしりながらも、正規職になることを希望する、悲しい矛盾の時代です。 ただ資本のイデオロギーだと片付けるには、正規職特に労働組合がある正規職に対する視線は冷たいです。 「連帯を求めて孤立を恐れず」という有名なスローガンがあります。 しかし現実を見れば、時には「連帯を捨てて孤立を恐れず」ではないのかと考えたりもします。 新政府が非正規職対策の発表を控えている今、正規職の時間はあまり残っていません。

Gタイプ:非正規職は自己責任

学校で働く非正規職労働者たちが闘争に立ち上がれば、当然こうした「誹謗中傷」が出てきます。 「試験も受けずに簡単に公務員なろうとする」。 時には個人が能力がなく、非正規職になったのだという人身攻撃水準の反応が出てきたりもしますね。 しかし一度考えてみましょう。 公共機関で働く労働者たちを公共機関が責任を持って雇用しろということは誤った要求でしょうか? 公共機関が率先して雇用を減らして外注化を増やしたことが問題なのであって、 非正規職労働者たちが公務員の職を奪ったのではありません。 彼らがしている仕事は公共機関の業務であり、彼らは本来、公共機関の労働者であるはずです。
正規職の雇用を半分に減らしておいて、正規職になれない人に「無能だ」と言えば、 それはレッテル貼りに過ぎないのではないでしょうか? 千万人に達する韓国の非正規職労働者たちがすべて「無能」な人なのであれば、 それは無能だから非正規職になったのではなく、 非正規職の人々に「無能な人」というレッテルを貼ったのではないでしょうか? 資本主義が強要する労働の現実を批判したある本の題名のように、 「何が私たちを無能にさせるのか?」という質問を投げてみます。

Hタイプ:企業に対する規制緩和

私は個人的にこの類型を見て「気候変動は存在しない詐欺」だといった米国のトランプ大統領が思い出しました。 あなたはあるいは非正規職問題が「存在しない」だとか、 あまり深刻ではないか、 あるいは企業がもっとたくさん金を儲ければ自然に解決すると考えるかもしれません。 経済新聞を読みふける愛読者かもしれません。 「正規職化」という単語が出てきさえすれば神経質な反応を示して「企業の規制をまず緩和しろ」と主張する姿が簡単に見られるからです。

要点のみを述べることして、まさにその「規制緩和」の結果が今日、あふれる非正規職の現実を作ったという点だけ指摘しておきます。 その上、政府が規制を緩和しなくても財閥は「悪法は破る」という精神で不法判決にもかかわらず非正規職を増やしました。 大法院判決さえしらっと無視する鄭夢九(チョン・モング)現代車会長が代表的と言えます。 これでも足りないのか、前の朴槿恵政権の時には派遣法を直して、まったく合法的に非正規職を増やせるようにしてくれと請願しました。 「規制は企業にとって毒」だという認識は、今もあまり変わっていません。 問題は「規制緩和」という肯定的な語感の包装紙に、働いて暮らす私たちへの毒が含まれているという点でしょう。[ワーカーズ32号]

付記
カンフ|社会運動に関心が多い

原文(チャムセサン)

翻訳/文責:安田(ゆ)
著作物の利用は、原著作物の規定により情報共有ライセンスバージョン2:営利利用不可仮訳 )に従います。


Created byStaff. Created on 2017-07-15 11:25:54 / Last modified on 2017-07-15 11:27:04 Copyright: Default

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