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政府の「光州型雇用」が狙うもの

[ワーカーズ イシュー]政府のお気に入り、「光州型雇用」が疑わしい(1)

キム・ハンジュ・ユン・ジヨン記者 2017.06.19 14:54

大企業完成車工場で年俸4000万ウォンをもらって正規職として働けたら? なぜか興味をそそる提案だ。 今のような就職難ではさらにそうだ。 後先も考えずに飛びつきたい良質の雇用という感じ。 一瞬、就職の欲望を呼びさます魅力的な条件。 じっくり考えなければ魅力がある。 まさに「光州型雇用」がそうだ。

だが魅力は一瞬。 じっくり考えるほど、後味が妙だ。 一例として、光州には起亜車という大企業完成車工場がある。 ここの生産職の初任給は7千万ウォンほど。 平均的には9千万ウォン以上の賃金を取る。 もし光州にできた新しい起亜車工場で年俸4千万ウォンをもらえたら? これまでの半分の賃金で働く形になる。

「光州型雇用」とは、「雇用創出」、「雇用安定」等の代価として既存の賃金を譲歩する雇用モデルだ。 すでに準備期間だけで4年目になったが、知る人よりも知らない人の方が多い事業でもある。 2年ほどかけて特別な進展なく空転しただけのこの事業が、 最近になってかなりホットな事業として浮上し始めた。 新政府が「光州型雇用」を雇用政策の核心事業として持ち出したためだ。

[出処:資料写真]

企業投資と賃金削減をバーターした「ビッグディール」

文在寅(ムン・ジェイン)政府は大統領選挙前から光州型雇用に関心が高かった。 共に民主党は大統領選挙公約集で、光州型雇用モデルを全国に拡散させるという抱負を明らかにした。 大統領選挙期間に文在寅キャンプの雇用委員会は、 光州起亜車工場で「光州型雇用」拡散方案の討論会も開いた。 そして当選後。 大統領直属の雇用委員会は就任後100日間、優先的に進める「雇用100日計画」を発表した。 ここには「労使共生型雇用モデル(光州型モデル)拡散方案」を作るという野心に充ちた計画が含まれていた。

光州型雇用は尹壮鉉(ユン・チャンヒョン)光州市長が主導するプロジェクトだ。 労使民政大妥協により、企業は投資を、労働界は労働条件を譲歩して新規雇用を創り出そうという意図だ。 2015年、光州市は傘下に社会統合推進団を発足させて光州型雇用事業を続けている。 推進団長には起亜車労組のパク・ピョンギュ前光州支会長を迎え入れた。 同年、韓国労働研究院は光州型雇用創出モデル構築研究用役報告書を出した。 労働市場の不平等解消による雇用創出が光州型雇用の核心目標であった。

「光州型雇用は労使民政大妥協により、企業は投資を、労働界は賃金を譲歩して、新規雇用を創り出す」

当初、光州型雇用モデルは現代起亜車のような国内完成車工場を地域に誘致することが目標にしていた。 ただ、独立法人設立、つまり子会社形態の工場設立が前提条件だった。 単に追加工場を設立する場合、既存の現代起亜車の団体協約を適用しなければならないからだ。

企業が新規投資で雇用を創り出す代わりに、労働者は既存の完成車工場正規職より低い水準の賃金を受ける。 いわゆる社会的協約により「適正賃金」を算出するということだ。 当時、労働研究院は1次部品メーカー新入社員年俸水準の約4000万ウォンを「適正賃金」に提示した。 企業は賃上げの自制と勤労時間柔軟化を前提として、資本投資と雇用水準維持を協約する。 労組は賃金と労働時間柔軟化、労働強度などの譲歩交渉を前提として、雇用安定と経営参加(労働理事制など)等を保障される。 また、適正賃金による企業のコスト削減分は、元下請の不平等構造の改善に活用するという計画だ。

光州市はこうした計画に基づいて自動車100万台生産基地造成を推進している。 産業団地を造成し、40万台規模の新規完成車工場と部品メーカーを誘致して、 約1万人の新規雇用を創出する目標をたてた。

光州型雇用が狙っているもの

光州型雇用がベンチマーキングしたモデルは、ドイツのヴォルフスブルク地域のAuto5000プロジェクトだ。 フォルクスワーゲンがドイツのヴォルフスブルク地域に新規工場を設立する条件として、 ドイツ金属労組が大規模な譲歩交渉を行った事例だ。 労使交渉が難航すると、ドイツ首相が仲裁して交渉を妥結させたが、 これは代表的な社会的協議モデルとして広く知られている。 この交渉で、労組は既存のフォルクスワーゲン労働者より20%低い賃金と成果給中心の賃金体系、柔軟勤務制などを受け入れた。 使用者側は独立法人を作って5000人の失業者を採用した。 労使が賃金減少と雇用創出をバーターした戦略的ビッグディールだった。 光州市と韓国労働研究所は、このモデルを「革新的自動車工場の事例」として打ち出した。 労使共同の成功的プロジェクトにより、労使不信が激しい韓国ではさらに必要なモデルだと強調した。

光州市がベンチマーキングしたもうひとつのモデルは、ドイツの「雇用保障と競争力強化労使協約」だ。 これも労働界の譲歩を担保として企業が整理解雇を一定期間先送りし、 ドイツの現地投資を拡大する方式の協約だった。 労働界では賃金ピーク制の導入、短時間勤労制の拡大、延長勤労時間が適用されない土曜勤務制の導入、 延長手当てを休暇に変えるなどの譲歩協約を受け入れなければならなかった。

事実、「社会的協約」雇用を代表する光州型モデルは労働界、 特に正規職労働者の譲歩を前提としている。 彼らが主張する「適正賃金」は現在の完成車正規職賃金の「非正常」を根拠にする。 非正常な資本を規制する代わりに労働者の賃金を抑制する方式だ。 半分に削られた賃金は「適正賃金」という名前のガラスの天井になる可能性が高い。 実際に光州型雇用では賃上げ自制のために職務給形態の賃金体系導入や、賃金決定公式の設定などの方案も提起された。 これは今後、既存の完成車直接雇用正規職の賃金を抑制する「社会的圧力」として作用する可能性も高い。 Auto5000で行われた譲歩協約が結局、既存のフォルクスワーゲン労働者の労働条件悪化につながった事例がそうである。

「光州型モデルは正規職労働者の譲歩を前提としている。非正常な資本を規制する代わりに労働者の賃金を抑制する方式だ」

百歩譲歩して、賃金費用削減分を不公平な元下請構造改善に活用しようという提案に焦点を合わせてもいい。 だが今の光州型雇用モデルでは、元下請の構造改善、つまり下請労働者の雇用条件改善に対する研究と議論は見られない。 光州型革新工場に部品を納品する1、2次部品メーカーの労働者の雇用形態は、正規職なのか、彼らも適正賃金を保障されるのかは、誰も知らない。

研究者も、光州市も、投資を約束した完成車会社も、 「同一労働・同一賃金の一括施行は難しい」だとか 「機構で議論をすべきだ」、 あるいは「まだ具体的な話はない」という調子の回答だけだった。

「包装紙」だけで「中身」はない

推進過程での実務的な問題もかなりある。 まったく実体がわからない事業だという評価も相次いでいる。 光州市議会をはじめとして、地域労働組合、過去光州型雇用モデルを研究した研究者までが「実体のない事業」だと誰もが話す。 光州市議会では「夢のような美辞麗句ばかりで具体的な実行方案を見つけるのは難しい」という指摘もあった。 具体的な研究過程や事業計画なく、広報だけに熱を上げているという批判もある。

昨年、光州市傘下の社会統合推進団-社会統合支援センターの間の内紛もここから始まった。 光州市は光州型雇用の両翼として、社会統合推進団と社会統合支援センターを設立した。 パク・ピョンギュ団長を中心とする推進団は事業の総括企画を、 キム・サンボン全南大教授を中心とするセンターは研究と事業推進の役割を受け持った。 だが昨年6月、キム・サンボン教授をはじめとするセンターの研究陣は光州市と推進団の事業方式を問題にして、集団で離脱した。 当時センターを辞めた研究員のA氏は 「光州市は内容は作らずにセンターが広報業務だけをすることを望んだ」と述べた。

「光州市議会をはじめ、地域労働組合、過去光州型雇用モデルを研究した研究者も『実体のない事業』と誰もが話す」

光州型雇用が目標にした国内の完成車工場誘致も全く無消息だ。 やむなく海外に視線を転じた光州市は、インドに出張に行きマヒンドラグループの会長に投資誘致を泣いて訴えた。 だが「今後、韓国で電気車の生産工場を建設する時は光州を最優先に考慮する」というお世辞を残しただけで、 今までマヒンドラから特別な知らせは聞こえてこない。 幸か不幸か、光州市は昨年3月に中国の完成車工場として知られる九龍自動車と投資意向協約を締結した。 新しくできるビッグリン産業団地に年間10万台規模の完成車生産工場を設立する協約だった。 当時、光州市が発表した計画によれば、九龍自動車は今年から電気乗合車2000台を量産しなければならない。 2016年から2020年までに約2500億ウォンの投資もしなければならない。 だが現在までの進行状況は、資本金1億ウォンの韓国法人が設立されただけ。 これさえ中国の九龍とは無関係のペーパー会社だという疑惑が提起された。

現在、光州市は光山区と全南咸平郡一帯に122万坪規模の「ビッグリン産業団地」造成を推進している。 ここを光州型雇用モデルと連係した未来型自動車産業バレーとして構築するという構想だ。 だが光州型雇用のための社会的議論機構である「もっと良い雇用委員会」は、中途半端な議論の構造から抜け出せない。 地域の労働界さえ議論機構に入れられないからだ。 光州地域の民主労総は「抽象的で雲をつかむような光州型雇用の議論に入る理由がわからない」という立場だ。

状況を知ってか知らずか、文在寅政府はひとまず光州型雇用拡大ドライブをかけた。 来る8月までに光州型雇用モデル拡散方案を用意するという。 中央政府まで一肌脱いだこの事業は、果たして雇用創出のブルーオーシャンなのだろうか、 あるいはただ中身のないモチになるのだろうか。 光州型雇用の推進主体や利害当事者と会って、もう少し具体的な話を聞いてみた。[ワーカーズ32]

原文(チャムセサン)

翻訳/文責:安田(ゆ)
著作物の利用は、原著作物の規定により情報共有ライセンスバージョン2:営利利用不可仮訳 )に従います。


Created byStaff. Created on 2017-06-23 20:20:35 / Last modified on 2017-06-23 20:20:39 Copyright: Default

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