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韓米FTAは借刀殺人計だ

[ワーカーズ情勢]反世界化は独占資本の世界化に対する反対

ホン・ソンマン(チャムセサン研究所) 2017.04.02 13:29

韓米FTAをめぐり、どれほど米国への輸出が増え、いくらを輸入が減ったのかを問うのは無意味だ。 2008年の世界金融危機以後、米国は現在回復傾向にあるとしても、まだ世界では景気低迷とデフレーションが横行している。 世界の資本主義がまだ不況のトンネルをさ迷っているのに、FTAでこれまでうまく行かなかった貿易が活性化すると期待するのは心の迷いというものだ。 また、後でまた言及するが、核心技術特許が米国企業に集中していて、製品を売れば売るほどさらに多くのロイヤリティーを米国企業に支払わなければならない。

その上、グローバル供給チェーンで原産地規定も不明瞭になっており、交易量で経済効果を比較するのはあまり意味がない。 たとえば、米国のアップル社のiPhoneは米国産製品ではない。 iPhoneの部品はさまざまな国家の部品メーカーから調達しており、ほとんどが台湾企業であるフォクスコンの中国工場で組み立てされるので中国製だ。 このiPhoneを米国に売っても中国の輸出物量になる。 だが利益のほとんどはアップル社に入り、フォクスコンに回るのは製造原価の3.6%程度といわれている。

[出処:資料写真]

こうした事情は韓米FTAでも同じだ。 韓国の米国製自動車の輸入額は2011年の3.5億ドルから2016年には16.8億ドルと5倍近く増えた。 同じ期間に米国車の韓国市場占有率も9.6%から18.1%へと二倍近く増加した。 ところが、韓国には米国の自動車がたくさん走っているのを見たことがない。 ほとんどの外車はトヨタのような日本車か、BMWやフォルクスワーゲンのようなドイツ車だ。 それほどたくさん輸入された米国自動車はすべてどこに行ったのか? 調べてみるのと、トヨタ、BMW、フォルクスワーゲンの商標を付けて走る車は、ほとんど米国製の自動車だ。 米国の工場で作られ、韓国に輸出された車だ。

このように、グローバル供給体である現地工場と原産地規定、特許権料など多くの争点を後にして、 輸出入物量だけで比較する経済効果は役に立たない。 それでも政府が韓米FTAを経済的に成功したFTAだとして、政治的な功績として打ち出しているので、今回の機会にきちんと調べよう。

韓米FTAで対米輸出が増加した?

産業通商資源部が3月15日に出した「韓米FTA、相互ウィンウィン(win-win)効果示現」によれば、 韓米FTAが締結された2012年から5年間で対米輸出の増加は自動車(12.4%)、自動車部品(4.9%)、半導体(4.2%)等が率いた。 特に2016年全体輸出のうち24.1%が自動車だとまつりあげた。 ところが韓国自動車の米国関税は4年間延期され、2016年1月1日付で2.5%関税をなくした。 つまり、自動車の対米輸出で韓米FTA効果が現れたのは2016年からせいぜい1年間だ。 だがこの5年間の自動車輸出増加分も、韓米FTAの政治的功績に当然含まれている (皮肉にも自動車関税が撤廃された最初の年の2016年には2015年よりも自動車輸出が11%も減った)。

半導体とIT製品もすでに米国では非関税製品だったので、韓米FTAとは無関係の非恩恵品目だ。 韓米FTA発効1年目の2013年3月、政府は韓米FTA恩恵品目と非恩恵品目を区分して、 恩恵品目は14%以上輸出が増加したと政治功績をならべた。 だが翌年からこれを区分して公表しなかったのは、非恩恵品目の輸出成長の勢いがそれ以後、さらに高くなったためだ。

このように、韓米FTAの対米輸出増加効果は事実殆どない。 米国が昨年から金利引き上げをしたように、数年前から米国の消費需要が少しずつ復活し、輸入量が増えている。 2011年の米国の輸入額は2兆2070億ドルだったが、(韓米FTAが発効した)2012年から2016年までの輸入額は年平均2兆2653億ドルで、以前より2.6%増えた。 韓国はそれより若干高い3.4%水準で、その上に韓米FTAとは無関係の非恩恵品目の輸出増加傾向になった。

「65億 vs 6兆5000億」…知的財産権料は400倍に

1000倍まで多く支払い、それでも政府は韓米FTA以後に米国との商品交易でずっと黒字をあげたと強調する。 対米貿易収支は2011年の116.4億ドルから2016年の232.5億ドルと、黒字が増えた。 これは事実だが、韓米FTAの隠された真実はサービス交易部門に含まれている。 韓国の対米サービス輸入は自由貿易協定発効後に平均9.2%増加し、 これは主に知的財産権(42.3%)、通信サービス(38.8%)の輸入増加に起因する。 2015年度について比較すると、サービス交易だけで韓国は140.9億ドル(約16兆ウォン)の赤字だ。 この中で最大の部分は旅行サービスで67.2億ドルの赤字だ。 米国に旅行すると関税が賦課されるわけではないので、旅行サービスは韓米FTAとは直接関連がない。 問題は知的財産権使用料だ。

韓国銀行が明らかにした対米知識財産権収支は32.5億ドル(2011)から51.8億ドル(2012)、58.7億ドル(2013)、50.5億ドル(2014)、66.8億ドル(2015)、49.3億ドル(2016)の赤字で、 韓米FTAが施行されるとすぐ赤字幅が急増し始めた。 ほとんどがスマートフォンなどの電子装備に関連した特許権料(ロイヤリティー)で、 知的財産権使用料全体の74%を越えるので、輸出すればするほど知的財産権使用料が雪だるまのように増える。

韓米FTA発効直前の2011年8月、 対外経済政策研究院など10の国策研究機関が共同で出した「韓米FTA経済効果再分析」で、 サービス交易を分析して知的財産権保護期間延長による追加費用だけを計算した。 2016年までの5年間に毎年平均64.7億ウォンを追加で支払っていると展望した。 しかし実際の知的財産権使用料では毎年平均55.4億ドル(約6.5兆ウォン)の赤字が出た。 予想値の65億ウォンより1000倍も多い6兆5000億ウォンを支払った。 2011年の32.5億ドルと比べ、毎年23億ドル(2.7兆ウォン)ずつ追加で支払ったことを考慮しても、予想より400倍も多い。

しかし政府は商品交易で258億ドル黒字(2015年)をあげたので、その程度の特許権料は多く支払ってもいいという調子だ。 だが製造業の営業利益率がまだ10%にもならないという点を考慮すれば、 純利益は30億ドル(3.5兆ウォン)にもならない。 ただ使用許諾さえすれば原材料やその他の費用がほとんどかからない特許権料で、 二倍も多い66.9億ドルを米国に支払いながら、これがいい商売だと言い張れるのかわからない。

韓米FTAが狙う刃先の方向

韓米FTAの発効で国内の79本の法令と、規則などを制定・改正した。 ほとんどが規制を緩和して米国式に変えるという内容だ。 韓米FTAはちろん、すべてのFTAは締結以後に交易の拡大という経済的効果より、 各国内資本の規制を撤廃する目的の方が大きかった。 たとえば、韓米FTAが発効するまで、政府は労働市場の規範を国際水準に合わせて適応しなければならないとして労働柔軟化をさらに拡大強化してきた。 韓米FTAが発効しても、これを契機として規制フリーゾーン特別法を作ろうとし、 一般解雇と成果年俸制を法律の改正なく労働部の指針で変え、 派遣業種を拡大する試みが絶えずなされた。

規制が緩和され、市場が開放され、外国資本が内国民待遇を受けても、 その国特有の規範と慣行が存在する。 海の向こうの米国の大資本より、近くの韓国財閥の方が規制緩和とFTAをさらに歓迎するほかはない。 誰がなんと言っても、韓国で民営化の最大受恵者は財閥であり、 市場開放と労働柔軟化、規制緩和などすべての政策における最大の受恵者は財閥だ。 FTAも例外ではない。 韓米FTAはラチェット(ratchet、逆進防止)条項があるので一度開放した市場、民営化した部門は戻せない。 また、国内では反発により決してできなかった営利病院の許容と遠隔医療、医療保険改編なども韓米FTAにより、 経済特区と新金融サービス導入という迂迴路でこれを実現する道を作った。 これは単に米国資本だけに道を開いたのではなく、韓米FTAを口実に韓国財閥に匙を握らせたわけだ。 孫子の兵法にある「刀を借りて人を殺す借刀殺人計」が正に韓米FTAだ。

反世界化は独占資本の世界化に反対すること

「韓米FTAになればすべての経済主権を奪われて、米国の植民地に転落する」という話は結論から言えば間違いだ。 FTAを民族問題として、「韓国対米国」の問題で見ることは、交易量や収益のようなFTAの量的なものだけを問題にする。 そして韓米FTAが何を狙っているのかが正確にわからなくなる。 こうした方式で、米国ではトランプが、フランスではルペンのような極右主義が反世界化を自国中心主義に置換し、 労働者の雇用を守ろうと言って保護貿易主義と人種差別主義を助長してきた。

米国は、すでに資本に一番有利な方式で法制化された国だ。 アメリカ化するということは、米国に有利に変えるというよりも、 資本、特に米国と韓国の大資本にとって有利に変えるということだ。 韓米FTAにおいてISD(投資家-国家訴訟制度)を特に憂慮したのも、 米国だけでなく韓国大資本の掌握力が拡張することを憂慮したからだ。 したがって、韓米FTAは米国の経済従属国になったり、財閥という買弁資本が国を売り飛ばすというような話ではない。 たとえば、FTA発効以後に韓国の対米直接投資は、57.2億ドル(2012年)から129億ドル(2016年)と120%以上上昇したが、 米国の対韓国直接投資は36.7億ドル(2012年)から38.8億ドル(2016年)と、あまり増加せず、 金額も韓国よりはるかに少ない。 その上、ほとんどの米国直接投資は韓国の大資本、すなわち財閥によって行われたという点にも注目しなければならない。

韓米FTAはこのように米国と韓国の大資本の利害と密接な関連がある。 資本規制を緩和して労働柔軟化を拡大する方便として、 国内法と自国内の反発を無力化する手段として韓米FTAが存在する。 これは米国でも大して違わない。

原文(チャムセサン)

翻訳/文責:安田(ゆ)
著作物の利用は、原著作物の規定により情報共有ライセンスバージョン2:営利利用不可仮訳 )に従います。


Created byStaff. Created on 2017-04-05 10:33:09 / Last modified on 2017-04-05 10:33:10 Copyright: Default

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