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父の人生は幸せだったのだろうか?

ドキュメンタリー『土方』準備中の金ミリェ監督

イム・ジョンエ/ネットウォーカー

eddyim@jinbo.net

彼女に会ったら、なぜ『労働者』なのかを訊ねたかった。世の中にはいろいろ な人がいるのに、なぜ、わざわざ建設労働者なのか。日が昇り、沈むまで毎日 夢を見なければ生きられない韓国の労働者、労働者たち。彼らに同行してその 人生をデジタルムービービデオで記録する人がいる。最近建設現場の大工とし て働く父の人生を素材にした『土方』という作業に熱中している独立ドキュメ ンタリーの金ミリェ監督(http://mi-re.com)に「ネットワーカー」が会った。

イム・ジョンエ:最近はどんな撮影をしていますか?

金ミリェ:昨日、一昨日はダンプ連帯のストライキに付いて回りました。 撮影し続けているのは、『土方』です。主に労働現場、闘争現場で起きること をカメラで撮っています。

イム・ジョンエ:カメラを持ち始めたのはいつ頃ですか?

金ミリェ:それはおそらくIMFが始まったばかりなころでしょう。その時、家庭 の主婦だったのですが独立しました。私としては独立宣言だったのでしょう。 その時、数年間積もっていたことが一度に爆発しました。これまで見ることが できなかった映画をすべて見ました。一人で鍾路や大学路の映画館をうろつい て「私の友人の家はどこなのか」といった映画を見たんです。そのうちに夢を 見ました。映画を作りたいという... そしてシナリオの習作を始めました。 喉を締めていた抑圧が解けるようでした。ハハハ... 初めはホームビデオを 持ちました。その頃、デジタル化が始まったばかりの時期でした。その時に映 像装備がずいぶん安くなり始めたんです。直接編集装備を購入して、映像作業 をしたいと思いました。初めは、青い映像や労働者ニュース製作団に行って映 像装備を借りて、編集していました。思えばその頃は本当に幸せでした。

イム・ジョンエ:撮影後にコンピュータでどんな作業をするんですか?

金ミリェ:主に編集作業です。全体のストーリーラインを触ります。ソースを キャプチャーして、絵を付けていって話を作ります。多重編集やCG作業のよう な高度な技術が要求される作業は私にはできません。外部の専門家に頼みます。 私の作業室にあるコンピュータでは、カット編集、話の流れだけをきちんと作 ります。これだけでも、実際、かなり時間がかかります。そして作業をしなが ら、どんなことがあるのかを調べるために、チャムセサン速報をサーフィンし たりもします。

イム・ジョンエ:ドキュメンタリー『土方』を始めたのは?

金ミリェ:父が大工なので、建設現場で働かれる方々の言葉を入れたかったん です。いわゆる『土方』という労働をする人たち、社会の最底辺にいる人たち、 少しそんな人たちの話をしたいと思いました。私は、彼らはとても善良で誠実 で賢いように思います。でも社会は彼らには良くない認識を持っていて、そん な認識の根幹には社会的差別があると思います。その差別はどこから来るのか、 それを明らかにするための作業です。現在、90%程度撮影が終わったのですが、 撮影量が多すぎて、多少整理に時間がかかりそうです。

イム・ジョンエ:お父さんをカメラで撮るというのはどんな感じなんですか?

金ミリェ:父はいつも同じです。家ではいつも酒に酔っているか、疲れて帰っ てきても他人に嫌味一つ言わない善人です。現場では言われるままに熱心に働 く人。本当に誠実な人。きちんと言うことはできなくても、少し酒でも飲めば 悪口も一言言う人。働く父のそんな姿を撮りたかったのです。そのまま、あり のままのひとりの人間で、社会でバカにされ過小評価され、悲しむ一人の老人。 そして今は歳を取り、現場を離れなければならない老いた父。『土方』の姿で あり、老いた父の姿...... そうしたことを一度まとめみたかったのです。父 は自分の人生が幸せだったのだろうか。この時代、一生建設現場の大工として 暮し、もうこれ以上何もできず、遠くないうちにこの世を去らなければならな い自分の人生が、果たして幸せだったのだろうか。その悲しみと恨は何だった のだろうか。そうしたことを反問しながら父にも質問をします。

イム・ジョンエ:お父さんはきちんと返事をしてくれましたか?

金ミリェ:私がカメラを向けて質問すると「何だ、そんな質問をして!」、「悲 しいよ!」、「これ以上何だ、おれには学がないんだ!」そう言います。それで 私は「それがなぜお父さんのせいなんですか? 勉強できなかったことが、なぜ お父さんのせいなんですか? 社会構造の問題です...」と言います。優しくて 善良な人々なのに、勉強することができなかったということを恥じるのは間違 いだと思います。そんな社会の矛盾を映像にして、そうした認識を破りたいの です。全てを破ることはできませんが、一つ一つ、変化させていくことができ ると確信します。ハハハ....

イム・ジョンエ:なぜ、わざわざ労働者を選択したのは?

金ミリェ:進歩ネットの人たちは、なぜ金にもならないそのことするんですか? ハハハ... 「現場のオルグに、なぜ労働運動をするのか?」と尋ねるのと全 く同じでしょう。とにかく私は最初から農夫の娘として生まれ、なぜかソウル に上がってきました。父は生活のために土方の世界に飛び込んで大工をして、 私はそんな父の娘として学校に通って。そうして成長して、当然こうした考え を持つしかなかったのでしょう。

イム・ジョンエ:撮影でつらかったことは?

金ミリェ:実際、建設現場を撮影すること自体が大きな壁なんです。おじさん たちは嫌いでありません。問題は、現場管理者たちなんです。撮影できないよ うにしますね。後でその理由を知ったのですが、カメラを突きつけると、それ がみんな告訴、告発に使われるんです。入口からしてきちんとできたことは一 つもありません。鉄筋とコンクリートの基準値未達、不十分な工程過程など。 現場の外から見るだけでも多くの問題があります。墜落防止の安全網もなく、 足場も二段にしなければならないのに一段にしたり、踏み台を設置しないこと さえよくあります。またドキュメンタリーは一般の放送とはとても違います。 放送は必要な部分を決めて撮すので、あまり仕事は多くありません。ところが ドキュメンタリー作業はその人の中にある本当の話がにじみ出てくるまでカメ ラを回し続けなければなりませんから。その部分が大変です。

イム・ジョンエ:現場の労働者の人たちは撮影によく応じてくれますか?

金ミリェ:ストライキ現場でカメラを向けると、おじさんたちはKBSかMBCかと 聞きます。「放送局ではありません!」と言うと、撮るなといいます。そこで 私は「おじさん、これはもっと重要です。おじさんのくやしさ、こうして何千 人も集まること、これは容易なことではありません」と説得をするんです。撮っ ていると、暴力的な場面もあります。そこにカメラを向けるのは、もっと嫌が られます。なぜこんなものを撮るんだと。それで、「おじさん! 戦わないで勝 てますか?」と問い直します。私がちゃんと処理するから心配せず闘争を続け てくれと言うんですよ。ハハハ... これは一種の信頼のようなものです。自 信のようなものでもあります。それはおそらく、私はあなた方の味方だ、私を 信てくれと言うことでしょう。そして私も自信があるから。絶対あなた方の害 になったりあなた方が悪いと思わないから...

イム・ジョンエ:独立ドキュメンタリーを選択した契機は?

金ミリェ:派手で劇的なものより、シンプルで、長く感情を引き出せるものが 好きです。撮影しながら悩むんです。私が意図した話をどこかに隠し、人々が 見て考えることができる何かを埋め込むべきなのか。それとなく入れておいて、 うまく感情を引き出せる何か、その何かとは何なのか。まだそれが見つからな いのですが、現実をありのままに見せ、意図するものを入れて、話を作るべき だといつも考えています。

イム・ジョンエ:何からの独立でしょうか?

金ミリェ:既存のイデオロギーからの独立でしょう。既存のニュース報道のや りかたが気に入らないから。そのような形で話してはいけないということです。 労働者の言語で話すことが必要です。なぜなら社会の大部分は労働者だからで す。貧しい労働者たちが本当にたくさんいます。それらの人々はとても多いの に、世の中のメディアは彼らのことを話しません。

イム・ジョンエ:この前の非正規職撤廃のための映像プロジェクトチームを 提案したのは?

金ミリェ:作業していると、こういう悩みが浮かびました。私一人だけの作業 にするのか。それを私の作業にするよりも、全体が共に参加できるほうがいい と思いました。そして私がこうした作業をするのは、現実の不当さを知らせ、 いかに現実を変えていくかに関心を持って行う作業なんです。だから社会的問 題や政治的問題にはどうしても反応せざるをえず、一人よりも多くの人とやる ことが、もっと力になると考えました。

イム・ジョンエ:オンラインでの独立映画上映館については どう思いますか?

金ミリェ:とにかく、そこで発言する少数の声を記録することに意味があります。 今はあまり人々が関心を持っていなくても、いつかはきちんと積み重ね、本当 に必要な瞬間に良い資料になると思います。実際、あまりにも多くの真実が歪 曲されています。真実を明らかにする作業は進め続けなければなりません。

イム・ジョンエ:もっと撮りたいものは?

金ミリェ:次は女性の話をしたいです。この社会が女性に要求するイデオロギー、 慣習、くびき。それらを話したいです。このへんで一応、父、父と娘としての この話は終わらせて...... ハハハ!

原文

翻訳/文責:安田(ゆ)


Created byStaff. Created on 2006-02-23 11:24:26 / Last modified on 2006-02-23 11:24:26 Copyright: Default

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