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非正規労働、誰も責任を取らなければ…

[インタビュー]差戻し審理の判決を前にしたKTX列車乗務支部長キム・スンハ

〈女性主義ジャーナル イルタ〉ナラン

今から10余年前の2004年、 コレイル(旧韓国鉄道公社)に直接雇用を要求して4年間も座り込みを行ったKTX女性乗務員たち。 韓国の社会に公共部門外注化の問題の深刻性と雇用差別問題を提起した乗務員たちの闘争は、 その後、法的訴訟に方向を転換して多くの人々の脳裏から忘れられていった。 しかし彼女たちは今も闘争を続けていた。

さる2月、大法院はKTX女性乗務員34人がコレイルを相手に提起した勤労者地位確認訴訟で乗務員の実質的な使用者がコレイルであると認めた1審と2審判決を破棄し、 コレイルの主張を認めた。 事件はまたソウル高等法院に送還され、11月27日の破棄差戻し審理宣告公判を控えている。

大法院判決により、KTX女性乗務員は自分の職場にもどれなくなっただけでなく、 1審と2審の判決により4年間支給された賃金に加えて訴訟費用を入れると、 ひとりあたり1億ウォン近い金を支払わなければならない境遇に置かれた。 3月にはある乗務員がこのような境遇を悲観して命を絶った。

乗務員たちはこの状況をどう解決していくべきだろうか。 途方に暮れた気持ちで全国鉄道労働組合ソウル地方本部事務室でKTX列車乗務支部のキム・スンハ支部長と会った。

▲全国鉄道労働組合KTX列車乗務支部キム・スンハ支部長(c)ナラン

-破棄差戻し審理宣告公判を控えて、組合員たちの雰囲気はどうですか?

「11月7日に総会を開きました。 総員33人のうち27人が集まりました。 大法院判決が出され、もう法的にはこれ以上できることはないと予想しています。 それぞれがどう思っているのか意見を交わし、これから強力な闘争をしようと総会で覚悟と意思を確かめ合いました。

総会には鉄道労組の委員長が来られました。 私たちが2006年にストライキを始め、それによって解雇されたわけでしょう。 今まで私たちが勝手にやったのではなく、鉄道労組の指針に従って鉄道労組の組合員として活動してきたのです。 今、1人当り8640万ウォンという借金ができたのではありませんか。 それを個人的に負担するのは不合理だと考えます。 鉄道労組が共に戦うべきだと思うのですが、鉄道労組の委員長さんはあいまいな話をされます。 組合員はかなり失望しました。 「最後まで一緒にして、私たちが責任を取る」という確答を聞きたかったのに、全くそんな言葉はなかったのです。

私たちが2004年に闘争を始め、4年間戦い、訴訟になって、相当忘れられてしまったのは事実です。 4年間、誰にも負けないほど必死に戦いましたが、忘れられるのはあっというまでした。 鉄道組合員内でもKTX女性乗務員の戦いについて、あまり共感されていない状況です。 だから鉄道労組の組合員たちと交流する活動をしようとしています。」

-容易ではない状況のようです。最後まで戦って訴訟を提起した34人のうち1人は亡くなり、残る方々も全国に散らばっている状況でしょう?

「主にソウルと釜山にいますが、海外にいる組合員も二人いて、京畿道、忠清道などに散らばっています。 結婚した人が多いので、子供もいて夫もいて、本人の意志だけで戦いを押し通せる条件ではありません。 後で強制執行されれば、自分は戦うとしても、家族がどう出てくるかわかりませんし、不安なことは事実でしょう。 事実、一昨日の総会で泣き出して大騷ぎになったんです。 ある組合員が言いました。 死んだ組合員には娘がいるのですが『私たちがどう戦うのかによって、その子の未来が変わると』。 集まればその人の話をしないわけにはいきません。」

-その人は3月に命を絶たれたと理解してますが、世の中には遅れて知らされました。何か理由があるのですか?

「私たちも1か月半後に知りました。 遺族の方々が知らせなかったのです。 ある日、その人がいきなり潜伏してしまったのです。 連絡先の電話は不明な番号になり、突然すべてが切れました。 何かあったのか、と噂をたよりに捜した末に、その友人のお姉さんの連絡先を知って連絡してみました。 その時も『病気で事故になって死んだ』といったような形で話して、正確な死亡の原因はよくわからなかったのですが、後で明らかになったんです。 遺族には労組に対する願みがあって、娘の名前が議論されること自体を嫌っていました。

遺書もありません。 その友人は鬱病だったわけでもなく、一番悩んでいたのが大法院判決以後のお金の問題だったんです。 他の人に被害を与えることを嫌って、一人でそうするうちに…。 この前、夫の人が殉職者弔意金を受け取りに来ました。 鉄道の組合員がお金を集めて差し上げた時の言葉ですが、 三歳の娘がお母さんにもう会えないことをどうして知ったのか、探さなくなったんだそうです。 何か感じていたのでしょう。 しかし最近になって、また、お母さんが戻ってこないかと期待しているように見えるんだそうです。 子供がお母さんの死をどう受け入れているのか、まだよくわからないといわれました。」

▲1人デモをしているキム・スンハ支部長。(c)鉄道労組KTX列車乗務支部提供

-大法院判決以後、破棄差戻し審理を控えて、乗務員たちが1人デモもよくしていらっしゃいます。市民の反応はどうですか?

「とても昔のことだからか、『その時すべて解決したのではなかったの? またこんなことをしてるの?』と驚く反応が多いです。 KTXはずっと運行されていて、乗務員たちもその中で働いているから、 すべてうまく解決して働いているのだろうと考えられているのでしょう。

冷淡な反応が多いです。 皆暮らしが苦しくて、世知辛くて自分のことばかりで、他人のことを気にしていられません。 しかし青年、大学生や就業戦線に飛び込んだ人々が、私たちを誤解しているのを見て驚きました。 『非正規職であることを知って入ったのに、駄々をこねれば正規職なれるのか?』と考えているのです。 衝撃的でした。」

-大法院の判決の話です。『列車チーム長は安全業務を、乗務員は乗客応対業務を各々独自に遂行したと見られる』と言って、核心業務の安全業務を担当しない乗務員はコレイルが『直接雇用』する義務がないと判断しました。大法院は『乗務員が火災鎮圧や乗客待避などの活動をするのは異例的な状況だけ』と言いますが、現実はどうですか?

「コレイルが乗務員の不法派遣を正当化するために『列車チーム長は安全業務、乗務員はサービス業務』と分離をしたのです。 同じ列車の中で働く人に『お前たちは他社の人だ、互いに挨拶もしてはならない』といった言葉まで出てくるようになりました。 業務マニュアルを全面改正して、乗務員業務マニュアルから安全業務を全て削除しました。 火災鎮圧、非常はしご設置訓練のようなものはなくなりました。 しかし乗務員は安全業務をしなければならない状況なんです。 目の前に乗客の安全に関することが発生したら、どんな乗務員も『私の業務ではない』と傍観していられますか? 急病患者も治療して、必要な措置を取って、火災も鎮圧した事例があります。」

-昨年、KTXのトイレで火事になった時、女性乗務員が消火器を使えないはずなのに『業務マニュアルに反して』直接火を消したのですが、この人をコレイル側が表彰したという話も聞きました。

「そのとおりです。 業務マニュアルに反して(安全業務を)したわけです(笑)。 今『コレイル観光開発』(外注業者)の所属で働いている女性乗務員が鉄道労組に加入して、コレイル観光開発支部で活動しています。 加入する時、アンケート調査をしたのですが 『産業安全関連教育を受けた経験があるか』という質問に75%近くが 『実際の教育なく資料だけで教育をした』と答えました。 本一冊でサインしたわけです。

非常はしごは列車の5号車、14号車にあります。 しかしきちんと教育を受けなければ、非常はしごがあるということだけは分かっても、 どこにあるのか、どうすれば取り出せるのか、わからないのです。 列車の外にかかっているのですが、客室の中で非常はしごを探していて…。 だから安全事故になった時、迅速に動けなくなるしかありません。」

-現在の状況はまさに乗客の安全問題に直結するという点で、非常に危険ですね。

「そうです。 KTXの列車の長さは380メートルで、座席は929席です。 自由席も無制限に発行されます。 満杯になれば千人以上が搭乗することもあります。 その列車に公式に安全業務を遂行する人は、列車チーム長1人です。」

-それでは列車チーム長が列車の前にいて、後方で事故がおきればどうなるんですか?

「だいたい十分後の対応になります。 人をすり抜けてドアをあけて行って、またドアをあけて行って…。 全力疾走できる状況ではないので、遅れるほかはありません。 事故がおきれば時間が命に直結しています。 しかし『今まで大きな事故はなかったから大丈夫ではないか?』そんな安易な考えがとても多いようです。 安全業務には経歴や経験も必要で、非常時に対処するにはそれだけきちんと訓練もしなければなりません。 ところが大法院判決のとおりなら、『異例な状況で誰でも消火器を使える』と言って、安全業務を軽視するようになります。

KTXでは事故が多いです。 まだ大きな事故はありませんが、ささいな事故は絶えず毎日のように起きています。 列車チーム長さんは鉄道の中ではかなりの経歴がある人々です。 だから事故にもきちんと危機対処ができますが、いつ大きな事件が起きるかもわからない危険な状況です。 KTXが2004年に開通してから10年を超えましたが、その時はフランスで作られて10年経った列車がきたのです。 列車自体も20年以上の老朽車両で、不安な状態で運行されているのに…。 わかりません、大事故が起きれば正気を取り戻すでしょうか? セウォル号もそうしてやり過ごしてきたのに、どれくらいの人が犠牲になれば正気を取り戻すのか。」

-女性乗務員の業務を外注化した後、コレイルは人員を外注化し続けています。線路転換維持補修業務と車両中整備などの安全関連の業務も外注化したと聞きました。ここに来るときに電気業務を外注化することに反対する鉄道労組の横断幕がかかっているのを見ました。

「はい。列車検修業務も外注化されています。 前は一週間に一度列車検修をしていたとすれば、ますます周期が長くなるんです。 頻繁にすれば経費が多くかかるからです。 それだけ安全性は下がります。 来年開通する水西発KTXは、運転する運転手を除き全部門がほとんど外注化されるものと予想しています。 外注化されて給与も下がるので、経歴が長く経験のある人々は出て行ってしまって、 人はばらばらになり、初心者だけが入ってくるようになります。

また、外注委託子会社と(元請会社の間に)互いに業務交流があれば、不法派遣で法にひっかかるので、 それを避けるために互いによくコミュニケーションもせず、事故の危険はますます大きくなります。 2014年の上往十里駅の追突事故も、列車信号システムが外注化されて混乱したことで事故がおきたのです。 すべてが統合的に運営され、有機的に形成されなければならないのに、ここは別、あそこは別、そうしてるのですから。」

▲大法院の判決を批判してコレイルに直接雇用を要求してデモをする乗務員たち. (c)鉄道労組KTX列車乗務支部提供

-大法院の判決以後、また全国各地の乗務員たちが結集しましたが、長期間戦いを続けていく動力は何でしょうか。

「前もそうでしたが、一緒にしている友だちがいるからやめられないのです。 誰も、闘士だとか何かの使命感で『この闘争をしなければならない』という人は一人もいません。 私たちの主張が正しいということから出発しましたが、それだけでは頑張れません。 同じ目標に向けて戦う同僚がいるからです。 いつもそばに誰かがいて、その人を無視して自分一人で足を伸ばしては眠れません。 単純な職場の同僚ではありません。

350人で始めて34人が残っていますから10%が残ったわけです。 90%がやめたのですが(彼らを)背信だと思いません。 ある人はこれ程度は耐えられ、また別の人はこの程度までは耐えられるという差でしょう。 それに、まだ体力がある人が残っているようです。(笑)」

-2004年当時、KTX女性乗務員の闘争は公共部門の外注化と雇用差別に対する象徴的な戦いでした。10年経って、今はほとんど正規職雇用がない世の中になりました。それでこの事件をよく知らない青年は『なぜお前たちだけ正規職にしてくれと言うのか?』と言って乗務員が特典を望んでいるかのように歪曲されるかもしれません。読者への言葉があれば。

「闘争というのは騒々しくして、気にさせて、誰かを困らせることでしょう、率直に。 それで私たちを批判する人たちもいますが、少し知ろうとする努力をしてくれれば嬉しいと思います。 最近、『ソンゴッ(錐)』というドラマがあって良いようです。 それを見て考えたという人もいます。 戦っている人たちがうまくいけば、皆さんの家族が、子供がうまくいき、韓国社会がうまくいって、窮極的にはあなたも幸せになる一歩になるのだということを認めてほしいですね。

同じように「私だけ違えば良い」と、私だけが何か持っていて、私だけが幸せだったとしても、 自分の周囲の人がみんな不幸だったら私一人が幸せになることはできないでしょう。 この社会に良い雇用が増えればパイが大きくなり、私にも良い雇用が増えると考えてほしいですね。」

原文(女性主義ジャーナル・イルタ

転載禁止:この文章は「女性主義ジャーナル・イルタ」の許諾により、レイバーネット日本に翻訳・掲載しています。

翻訳/文責:安田(ゆ)


Created byStaff. Created on 2015-11-23 21:27:22 / Last modified on 2015-11-23 21:27:24 Copyright: Default

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