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韓国:MERSが飲み込んだ病院、その中に放置された労働者たち
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MERSが飲み込んだ病院、その中に放置された労働者たち

長時間労働の看護師も人手不足、非正規職は安全死角地帯に放置

ユン・ジヨン記者 2015.06.18 19:34

MERS拡散の震源地は病院だった。 患者と病院の労働者、そして医療スタッフまでが感染に露出した。 多くの医療スタッフが動員され、死闘を繰り広げているが、 ウイルスの拡散を防ぐには力不足だった。 MERS患者の発生から1か月。 すでに23人が死亡し、隔離された人は1万人を越えた。 MERSの温床になった病院は「恐れ」という名のウイルスをまき散らした。 そして病院の労働者たちは、その恐ろしい空間に残って戦争のような毎日を送らなければならない。 政府の無能な対処、そして粗雑な病院の医療体系が残したウイルスの塊りの処置はすべて労働者の役割になった。

だが病院は相変らず変わらない。 慢性的な人手不足に苦しむ病院にできることは、 労働者たちの労働強度を強化するだけだった。 まともな安全教育さえ受けられないまま現場に派遣された看護師らは、 人手不足でくたくたに疲れている。 安全管理の対象からまったく排除された看病、患者移送、清掃労働者などの非正規職労働者たちは、ウイルスに無防備にさらされている。 「MERSによって金儲け競争に追いこまれた韓国の社会医療体系の素顔が天下にあらわれました」。 6月18日、国会前で開かれた病院労働者当事者証言大会に参加した民主労総公共運輸労組のイ・ジョンヒョン医療連帯本部長はこう声を高めた。

教育も受けられずに投入された看護師、
隔離病棟で一日12時間の長時間労働...消耗する人員

国家指定隔離病床を運営しているソウル医療院。 そこで看護師として働くキム・ギョンヒ氏は、一日12時間を隔離病棟で過ごす。 MERS発病の初期、病院はサーズのようにすぐに終わると考え、11人の看護師しか専門担当人員にしなかった。 だが感染者が増えたため、看護人員が足りなくなった。 病院は一般病棟を閉鎖し、各病棟から任意に看護師を抽出して隔離病棟に配置した。 キム・ギョンヒ氏も保護服着用の練習をしただけで、すぐMERS専門病棟に配置された。 「病院で働いていても、MERS発病前まで専門病棟がどこにあるのかも知りませんでした。 MERSが長期化し、看護師が専門病棟に派遣されましたが体系化された人員はいません」

人員削減で利益を極大化してきた病院は、MERS発病のような緊急状況に対処する準備を全くできなかった。 緊急に配置された看護師は、12時間の長時間労働をしながら毎日粘っている。 労働者たちは病院に臨時の措置ではなく、看護人員に対する十分な安全対策、休息、教育などを要求したが受け入れられなかった。 「専門病棟に動員された看護師は12時間の長時間労働をしています。 長時間患者と接触すれば感染の危険が高まります。 それで看護師と医療スタッフの3次感染を防ぐように宿舎を用意してくれと病院に要求しました。 しかし受け入れられませんでした。 病院内の一部の職種はMERSに関する具体的な教育も受けられませんでした」。 キム氏はますます病院のすべての人員が消耗しつつあるとし、みじめさを隠さなかった。

ソウル大病院の看護師、キム・ギョンエ氏も5月31日の夜の勤務からMERS患者を見始めた。 突然投入されたため、保護服の着用法の訓練も受けられなかった。 確診患者が入院していたが、指針やマニュアルもなかった。 「病院はただ絵を見て保護服を着用しろといいました。 結局、看護師が休み時間に自主的にマニュアルや対応方案を作りました」。 医療スタッフへの感染を防ぐために宿舎を用意してくれと要求したが、 『一般人のようにふるまう』、『オーバーだ』という皮肉を受けなければならなかった。 しかし、二人の子供がいる家に帰ることはできなかった。 荷物をまとめて一人暮らしの友人の家で過ごすこともした。 結局、労働組合の問題提起で宿舎が用意され、キム氏をはじめとする看護師は宿舎生活を始めた。 労働時間はそれでもソウル医療院よりは短かった。 キム氏は8時間勤務をしている。 だが看護師の不足で労働強度が強まることはどうしようもない。

「少なくとも患者一人に看護師1人、週末には二人の看護師が必要です。 保護服を着ると、湿気が高く、よく見えないゴーグルをつけたまま、 抵抗する患者の世話をして体位を変更するなどの仕事をするのは容易ではありません。 30分で頭痛とむかつきが激しくなります。 しかし患者の状態により、外に出ることもできません」。 隔離病棟で毎日死闘を繰り広げているが、病院は医療スタッフへの不安感だけをあおる。 「病院は保護装具が高価で、国内にはいくらも残っていないと話します。 それで一度(病棟に)入ると、すべてを解決してから出ようとしますが、患者の状態によって変わります。とても不安です」。 人員は足りないが、患者は増えていて、いつも迅速な対処をするのは難しい。 看護師は今の人員と対応体系では不足していることを感じながら、毎日を粘っている。 キム氏は二人の子供と離れている時間が無駄にならないように、 患者治療だけに集中できるよう、人員の補充と安全な保護装備が提供されていたら良いという望みを伝えた。

MERSの温床になった病院で放置された非正規職労働者たち

病院内の非正規職労働者たちは、MERSの死角地帯に放置されている。 彼らは安全管理の対象から除外され、何の安全教育も、保護装備も提供されていない。 すでに7人の看病労働者がMERS確診判定を受け、その中には症状が発生してから10日ほど経っても何の措置もなく放置されていた労働者もいる。 サムスンソウル病院の患者移送労働者も、症状が発生してから9日間も仕事を続けなければならなかった。 不安感のため患者のそばを離れる看病労働者も増えている。 看病労働者のチェ・ジョンナム氏は 「患者は不安に思って介護人は仕事を止めている。 だが介護人が仕事をしないと言うのは当然だ」と口を開いた。

「病院も政府も、MERSに対する情報を何も介護人に与えません。 予防対策、管理対策もありません。 どうも政府と病院は、介護人がMERSにかかろうがかかるまいが、関係ないのではないかと思います」。 最低の安全装備であるマスクさえ、自費で購入しなければならない。 介護人が感染した時、政府と病院がすることは、責任転嫁しかない。 労災保険も適用されず、治療費も自分で解決しなければならない。 「政府は私たちを労働者と認めず、病院は所属職員ではないと言って責任を回避します。 まるで透明人間のようです」

患者移送労働者も状況は似ている。 ポラメ病院の患者移送労働者、パク・ヨンボク氏は 「サムスンソウル病院の患者移送非正規職労働者がMERS確診判定を受けたという知らせに不安を隠せない」とし 「特にMERSウイルスに関する具体的な情報も教育も受けられず心配だ」と吐露した。 サムスンソウル病院の患者移送労働者が確診判定を受けて初めて、 病院はパク氏に体温計と問診票、そして簡単なパンフレットを渡した。 自分で体温を記録して状態をチェックしろということだった。 その他には何の教育や安全対策もない。 「もしMERSの症状を感じても、自分から検診を受けられるでしょうか。 私たちは最低賃金で働く非正規職労働者です。 隔離でもなれば生計問題を考えなければなりません。 症状を感じても、生計が心配で検診を躊躇するほかはないのです」。

6月17日、大邱慶北大病院に初めてMERS陽性患者が運ばれてきた。 病院の非正規職清掃労働者たちは、病院側にMERS予防教育を要求したが受け入れられなかった。 予防教育をする人がいないという理由だった。 病院は使い捨てマスク一つ支給しなかった。 慶北大病院の清掃労働者、イ・ケオク氏は鬱憤を爆発させた。 「使い捨てマスクでもくれと言ったが病院は用役会社にこれを押し付けます。 用役会社は『マスクが売り切れで買えない』とし、自分で買うなりうまくもらって使えって」。 病院と用役会社が責任転嫁をしている間、労働強度は毎日強まった。 清掃をはじめ、病院の消毒まで清掃労働者の業務になった。 結局、数日前に保護服を着て消毒をしていた清掃労働者が倒れる状況まで発生した。 「選別診療所が外に設置されているので、そのテントを消毒しているとき1人が失神しました。 暑い陽光の中で保護服を着て消毒をしなければならないので、疲れて倒れたのでしょう」

MERS事態を契機として、病院労働者の労働条件と安全、公共医療体系の体質改善を要求する声が高まっている。 病院の利益のために無理に進めてきた外注化が、医療サービスの不良と労働者安全に致命打を抱かせたという指摘だ。 公共医療の拡充と医療体系の再確立に対する要求も続いている。 公共運輸労組医療連帯本部は「病院非正規職の拡大が国民の健康と安全を威嚇するという事実があらわれたのだから、 病院業務の外注化を中断し、間接雇用非正規職労働者に対する安全措置を強化しなければならない」とし 「一足進んで公共病院を拡充し、公共病院から地域保健所へ、地方医療院、国立大病院間の診療依頼、協力体系を整備し、 医療伝達体系を構築しなければならない」と強調した。

原文(チャムセサン)

翻訳/文責:安田(ゆ)
著作物の利用は、原著作物の規定により情報共有ライセンスバージョン2:営利利用不可仮訳 )に従います。


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