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邪魔な労働者の健康権、軽い人間の尊厳

[連続企画]サムスンが捨てたもう一つの家族(5)

ヒジョン(執筆労働者) 2010.11.09 12:00

人々と会って、サムスン半導体白血病被害者の話をすると、よくこんな言葉を聞く。

「それで彼らはたくさん金をもらっていたんじゃない?」

何百パーセントにもなるというサムスンの成果給についての言葉だ。その言葉を 聞くときは、私は逆に訊ねたくなる。

「いくら金をもらえば、自分がガンにかかって、身体障害者になって、子供の 先天障害の可能性を甘んじて働きますか?」

そう思う一方、彼らの言葉も理解できる。数年前より著しく低下した賃金と作 業環境のためだ。この前、九老工業団地で会った40代の中年女性は、携帯電話 工場で12時間働く。3か月の短期派遣職なので、彼女は大黒柱だがアルバイトと 呼ばれる。携帯電話の部品は2秒ごとにベルトで運ばれてくる。初めはアザがで きた爪が3か月後にははがれてしまった。そうして1ヶ月働いて彼女が受け取る 金は100万ウォンちょっとだ。

こんな事情なので、150万ウォンを受けとる労働者は腕が折れてもよく、200万 ウォン以上の労働者は何か大きな病気になってもいいと思われるのではないだ ろうか。悪くなった労働環境を考えてみる。

それで彼・彼女たちに尋ねた。サムスン半導体でどのように働いていたのか、 どんな作業環境で働いていたのかを。果たしてサムスンでは、自分の残りの人 生を抵当に入れる程いい待遇を受けてきたのかだ。

人に有害なクリーン産業

人々はしばしば『半導体工場』で白い服を着た人々が働く実験室のような風景 を思い出す。すべてが白く清潔に見える。実際に半導体のクリーンルームは、 清浄だ。どんなホコリも許さない。

「ホコリをパーティクル(particle)と言いますが、普通半導体クリーンルーム のパーティクルは、2クラス程度です。2クラスとは、1mの範囲内にホコリが一 つです。これはホコリが一つもないということでしょう。」

サムスン半導体工場で設備エンジニアとして働いていたキム・ギヨン氏(彼はウェ ゲナー肉芽腫という貴重病にかかり、今年5月に労災を申請した)が作業環境を 語ってくれた。ホコリは半導体製品にとって致命的なので、作業場内のホコリ は徹底して統制される。労働者はクリーンルームに入るためにエアーシャワー をあびて防塵服で身を包む。

クリーンルームで半導体ウェハーは「清浄」になる。しかし働く人々にとって クリーンルームは『クリーン』ではない。

「ウェハーにとって清潔とはホコリがない、少ないと判断しますね。それはウェ ハーが基準です。ウェハーを薬品に漬けるのですが、その薬品は硫酸、フッ酸、 そんなものが多いです。ウェハーは、人の立場から見ればとても汚いのです。 化学薬品にウェハーを漬けたり出したりするので、化学反応を起こしますが、 それを吸入するのは人です。」

半導体製造は化学薬品産業だ。半導体を作るために使われる化学薬品がは一工 程だけで99種類だという(ソウル大諮問報告書で明らかになった器興工場5ライ ンで使われた化学薬品数に基づく)。化学薬品といえばよく知っているベンゼン、 アセトン、塩酸、硫酸なども有害性を持っている。半導体工程で使われる数百 種類の化学薬品に、どんな危険物質があるのかもわからない。

しかし半導体工程のオペレーター(生産職)の女性たちは、危険物質について話 を聞いたことがない。管理者がきて受けもしない安全教育をしたという内容の 書類に印鑑を押せと言われ(チョン・エジョン、器興工場)、安全教育の時間に 生産量と新製品についての話を聞いた(イ・ユンジョン、温陽工場)。

サムスン電子温陽工場で6年間働いて、脳腫瘍にかかったハン・ヘギョン氏に尋 ねた。

「一度も危険だとは思いませんでしたか?」

「サムスンは良い会社だから、当然そんな(危険な)ものは使わないだろうと思っ ていたようです。」

オペレーターの労働者たちは、安全についての教育も受けられず、化学薬品に ついての情報も知らなかった。彼女たちはほとんどがやっと高校を卒業した二 十才序盤の女性たちだ。若い彼女たちは無知の中で働いていた。

そして『理由なく』病気にかかった。

労災ということを知りながら…

「3ラインで女子社員二人が死んだでしょう。白血病かかって。その作業場は、 化学容器の液体にウェハーを漬けます。化学容器には蓋がありません。それが 恐ろしいということは分かりますが、その状況で使わないことはできません。 硫酸やフッ酸のようなものは『あれに近づくとインポになる』みたいにエンジ ニアどうしが話していました。それでもあれが危険だ、あれには蓋が必要だな んて話すことはできませんでした。設備を変えるのにかかる金は安くありませ ん。危険だろうと思いながら、会社が使うのだから安全だ、みたいに考えてい たのです。」

キム・ギヨン氏が言う3ラインで働いて白血病にかかった女子社員二人は、 故ファン・ユミ、イ・スギョン氏だ。

「それではエンジニアはユミ氏とスギョン氏の死が労災ということを知ってい たんですか?」

彼はそうだといった。しかし彼らを恨むことはできなかった。彼らは危険なと ころで働かざるを得ない単なる労働者だった。工程から化学ガスが漏れたり設 備工程が問題を起こすたびに投入されるのはエンジニア、彼らだった。

ガスが漏出した時は、鼻でにおいをかいで見つける

9月、サムスン半導体ガス漏出問題がソウル大諮問報告書で明らかになった。報 告書によれば、6か月間一本のラインで46回もガス検知器警報が鳴った。しかし 実際の問題はこれよりさらに深刻だという。器興工場で工程エンジニアとして 働いていた李スヒョク(仮名)氏に話を聞いた。

「(ガス漏出が)もっとよくあります。上から問責されるかと思って隠すことも 多いです。ささいなことは報告もしません。」

「どれくらいの頻度でしたか?」

「それはとてもわかりません。一日に何回もそんなことがあったりもしました し。正確にはわかりません。ラインも古くて設備も長く使っていますから。車 も同じでしょう? 10年以上転がせばポンコツでしょう。引っ張っていくことも できません。全く同じです。いくら管理しても、老朽化は防止できないんです。 初めはいいんです。ところが使っているとゴムなどが腐食して、隙間ができる でしょう? それで漏れるんです。機械が古くなれば。半導体機械はものすごく 高いでしょう。ですから止まるまで使うんです。」

「ガス漏れを止めるのにどれぐらい時間がかかるんですか?」

「時間は特定できません。実は一日中においがしていても、そのままにしてお くこともあります。女子社員(オペレーター)が電話で『先輩、何かにおうんで すが、ここではないでしょうか』、それで『何の臭いか』と聞きます。そうす ると、向うで想像力を働かせて説明します。それで『こちらではないみたい?』 ということもあります。ところが後になって、ここだった、そんな場合もよく ありました。一日中放置されていたり、そんなことが多かったんですよ。」

「ガス警報機が鳴らないのですか?」

「あるにはあるんですが。すべてのガスで警報機が鳴るわけではありません。 簡易ディテクター(detector)のような検知器があります。可燃性物質や、毒性 ガスなどは測定できますが…その中でも測定できないものがあります。本当に 困るんです。においがすれば、かえってありがたいのです。『ああ、ガスが漏 れているんだ』と分かるでしょう。ところが無色無臭、臭いがないことがあり ます。そんな時は答がありません。」

「ガス漏れを点検する時、保護装備は着用するんですか?」

「保護装備ですか? つけていたマスクも下ろして見つけます。ほとんど直接、 においをかいで探さなければなりませんから。」

「からだに害になるガスもあると思うんですが?」

「あります。ディボランやホスフィンのようなものはよく使っていました。ホ スフィンなどは、昔、2次世界大戦の時にアウシュビッツで使った毒ガスがある でしょう? それです。ディボランも有害で(呼吸器刺激、肺水腫、肺炎、気管支 に影響する毒性物質で、反復して露出すると神経系中毒が現れる)。それでなく とも、副産物で出てくるガス成分はわかりません。互いに混ざっているから、 どんな成分なのかもわかりませんよ。」

「漏れたとき、点検しに入りたくなかったでしょう。」

「そんなところに入りたい人がどこにいますか? 私たちがマルタかよ、と私た ちの間で言っていました。それでも問題が起きれば、とにかく解決をする人が 必要ですから。またあまり頻繁に起きると無感覚になるんです。初めはショッ クを受ますよね。ところがショックを受け続けると、そのうち『当然そうじゃ ないの?』こうなるんです。」

「安全規則遵守の話はなかったんですか?」

「事故対策みたいなことを考えることはします。規則遵守を変えて新しくした りします。することはあるのですが……。」

彼は言葉を切った。しばらく何かを考えているようだった。

「すべてのことがみんな生産、生産をどうするか、この言葉でご破算になりま す。こんな形で手続きを複雑にすると、生産が遅れますから。根本的な問題は、 あまりにも生産性を上げようとすれば危険があってもそのままやり過ごすこと になるんです。問題が起きても『静かにして、静かにして』といいながら、適 当にするんです。」

『ナノ』より軽い労働者の健康な権利

成果給で生産量を上げようとする管理者、壁に貼り出された組別生産量比較表、 設備が止まりでもすればエンジニアを探して、あちこちを飛び回るオペレーター の姿がよぎる。このすべてはサムスン半導体白血病被害者が情報を提供した内 容だ。

サムスン器興工場で10年働いたチョン・エジョン氏が話した。

「成果給や人事考課は、どれだけたくさん捌いたかで決定されます。ところが 作業は機械でするので、マニュアルのとおりにやれば、誰が早いということは ありません。ですからマニュアルのとおりにできませんよ。装置が止っても手 動で解除して、機械が止っていないのに製品を取り出して。そうすれば同僚よ り一つでも物量を捌けますから。」

管理者の制裁はなかった。むしろ管理者は物量を催促し、これを容認した。彼 らは危険について口を閉ざした。生産量を上げるために邪魔になることは除外 された。開閉装置、保護装備、安全規則遵守が除外された。結局、邪魔だとい う理由で除外されたのは、労働者たちの健康だ。

彼・彼女らは頑張って働き、人事考課で良い点数を受けただけだ。会社が知ら せないことは知らず、危険だと知っていても他人の金を受け取る境遇では、好 き嫌いを言えなかった。そして白血病、ルー・ゲーリック病(筋萎縮性側索硬化 症)、脳腫瘍、黒色腫にかかった。死んで、病気にかかって、残された人生に耐 えている。

チョン・エジョン氏は社内カップルだった夫を白血病で失った。彼女が追慕祭 で言った言葉を思い出す。

「半導体清浄ラインの主演はウェハーで、助演は現場労働者です。ウェハーで 作業事故がおきれば原因を明らかにするために非常勤務に突入しますが、作業 者が怪我をしたり病気にかかれば隠すのに汲々とするだけです。」

330gもない半導体ウェハーよりさらに軽い彼・彼女たちの健康についての権利 はいつになれば尊厳の重みを獲得するのだろうか。

[パノルリム]半導体労働者の健康と人権守備 (http://cafe.daum.net/samsunglabor) サムスン半導体など電子産業で従事して予期できない疾病が生じる方々の情報提供を受けます。

原文(チャムセサン)

翻訳/文責:安田(ゆ)
著作物の利用は、原著作物の規定により情報共有ライセンスバージョン2:営利利用不可仮訳 )に従います。


Created byStaff. Created on 2010-11-10 16:57:42 / Last modified on 2010-11-11 09:28:46 Copyright: Default

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