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韓国:ウリ銀行、果たしてそれは‘正規職化’か?
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ウリ銀行、果たしてそれは‘正規職化’か?

[寄稿] ウリ銀行の措置を強調する政治的伏線

パク・チュニョン(公共連盟ソウル地域本部) http://blog.jinbo.net/冬/ 2006年12月22日19時22分

ウリ銀行、「3100人の正規職化に合意」

ウリ銀行は、労使が合意して約3100人の非正規職労働者を正規職に転換した と大騒ぎしている。今日の非正規職闘争事業場の集会に行ったところ組合員 に問われた。「ウリ銀行は非正規職を正規職にしてくれるのに、われわれは ...」という反応だ。そういえば昨日会ったある民主労働党の活動家も 「いいことじゃありませんか?」と聞いてきたことを思い出した。マスコミの 宣伝のおかげで、多くの非正規職労働者がこれを「非正規職の正規職化」だと 思っている状況だ。

マスコミの報道によれば、ウリ銀行のいわゆる「正規職転換」は次のような 内容を含んでいる。

マスコミは特に次の点に集中的に注目している。△正規職労組の合意で正規 職の給与を凍結し、福利厚生差別を撤廃する財源にした点、△政府の非正規 職法案が(主に肯定的な)「効果」を発揮し始めたということ。もちろん他の 銀行と経営界は深刻に「憂慮」しているという、例のイカサマ賭博は今回も また登場する。親切にも、銀行は独自の特性が強いので他業種への適用は難 しいという診断も付け加える。

すでに進行中の「職群分離制」

しかしこのようなウリ銀行の措置は全く新しいものではない。ウリ銀行のこ の流れはすでに昨年から準備し、導入された「職群分離制」に土台をおく。 ただし、政府の非正規法案によって手をつけなけばならない内容から先に手 をつけただけだ。いずれにしても2年以上雇用されれば無期契約に転換する か、解雇しなければならない。しかし銀行窓口業務は複雑で熟練が必要なの で、解雇して訓練し直すには多額の費用が必要になる。今回の措置はこうし た状況に置かれた銀行資本による極めて「合理的な選択」でしかない。 もちろん「資本の論理」での「合理」だ。

さて職群分離制とは何だろうか? 大部分が非正規職の業務について、既存の 正規職職制と異なる差別的な職制を新設し、ある程度、雇用は安定させても 賃金と処遇の差別は維持する制度だ。もちろんこれまでの正規職と同じよう に昇進が保障されることもなく、職群から抜けることもできない。

常時業務を担当する非正規職に差別的な職群を新設するという措置は、低い 賃金と差別を固定化した新しい分割線を導入することを意味する。つまり、 正規職に転換するという意味の既存の「正規職化」というより、正確には 「無期契約化」というほうが適切だ。期間制労働者の契約期間を特に定めな いように転換するという意味でしかない。こうした方式は、今年の8月に発 表された政府の公共部門非正規職総合対策に提示され問題になったもので、 非正規職差別を温存する便法だ。ウリ銀行の今回の措置が、政府の公共部門 非正規職総合対策とも一脈通じる点(期間制直接雇用については一部を無期 契約に転換するが、差別を固定化し、あとは外注化する計画)を確認させる ような項目だ。ここで、政府の非正規職政策が一貫性を持つということ、 政府が文字通り公共部門非正規職対策により、民間部門の対応を「先導」 しているということを確認できる。

低賃金と差別を固定化する策

一方、賃金でも深刻な差別は続くだろう。銀行側の主張によれば、現在は正 規職の70〜80%で、この水準を維持するという。ところがすでに賃金水準は 実際には40%程度だという問題提起が形成されている。したがって、これま での低賃金と賃金差別も維持されるものと見られる。今回の措置は、政府の 非正規法案が通過した状況でも、低賃金と差別を制度的に保障する方策だ。

特に、これらの措置は女性労働者に対する「合法的な」差別を半永久的に固 定させる。今回対象になる窓口担当や事務支援、コールセンターなどはほぼ 100%女性労働者で形成されている。こうした条件でも、主流女性運動陣営が 今回のウリ銀行の措置に歓迎の態度を示したのは理解し難い。一部の改良的 な非正規職関連単位、労働団体が賛成意見を出すことはあるだろうが、その 意味で女性運動団体は明確に反対の姿勢を示すべきではないだろうか。今回 の争点は、新自由主義に編入された市民団体と主流女性運動の限界を明らか に示す事例でもある。

今回の発表には詳しく出ていないため確認はできないが、今年の8月に問題 になったウリ銀行側の職群分離制施行計画草案には、業務非適合の警告3回 で解雇、C、D等級が2年以上続くと解雇など、非常に柔軟に解雇できる措置 が含まれていた(おそらくかなりの部分がそのまま維持されている可能性が 高い)。こうなると、あえて毎年契約を更新して振り落とさなくても、自然 に人材を整理することができる。

非正規職問題に対する資本のさまざまな対応方式

今回のウリ銀行の措置は、資本の性格により差別的な方式で非正規職問題に 対応するということを見せる。銀行業務と共に、一定の熟練が必要な業務に 対しては無期契約化の方法で完全な正規職化は避けつつ、低賃金を維持でき る労働市場分割戦略が使われることを見せてくれる。一方、経済人総連の 「憂慮」と共に、製造業ではこうした方式は適用されないだろう。熟練度が 低く、さらに柔軟な労働市場を望むため、外注化がさらに広がり続けるだろ う。(公共部門は業務特性により2種類が混在している。)

そして何よりも、ウリ銀行やいくつかの公共機関で無期契約への転換が行わ れるとしても、今回の法案が通過した後、△大部分の使用者が2年になる直 前に非正規職労働者を解雇するだろうという点、△派遣業種が拡大するだろ うという点、△派遣外注が広がるだろうという点などは全く変わらない。

ウリ銀行の措置を強調する政治的伏線

では、これほど非常に制限された領域でしか適用されない今回の合意が、 こうして強調される理由は何だろうか?

今回の件は、非正規法案を宣伝するために政府と資本が組んだ可能性が高い。 非正規法案が通過した直後の合意である点、これを非正規職問題解決の代案 としてマスコミが大々的に広報している点、大統領府なども肯定的に評価し ている点、事実上の「無期契約化」のような内容を「正規職化」と宣言し、 最大限の言論効果を狙った点などなど。韓国労総を使って「正規職労働組合 の譲歩による非正規職問題解決」という、おなじみの図式をはるかに具体的 に大衆に提示している。今、非正規職問題を解決するためには資本ではなく、 正規職労働者が譲歩すべきだと規定する。今回のウリ銀行の合意でも、福利 厚生差別を解消する財源は使用側の譲歩(「追加費用負担」と呼ばれる)は 全くなく、正規職の賃上げを譲歩した結果だと誇らしく宣伝されているでは ないか! 資本が追加負担しなくてもいい良い処方だということが彼らの終始 一貫した診断だ。

したがって、当事者にとって一定(期間制よりは)雇用が安定する効果がある という点を認めるとしても、これは決して非正規職問題全体の解決方法では ない。むしろ非正規職問題の原因を混同させ、解決の方法を歪曲させる。

非正規職撤廃の真の希望はどこにあるのか?

多くの非正規職労働者がウリ銀行の事例を見て「希望」を持つだろうが、 それは危険な希望かもしれない。自分たちの問題を自分たちの闘争で解決し ようとする意志よりも、正規職の譲歩が要求されるからだ。そして非正規職 労働者たちのこうした「要求」は、容易に保守政治屋どもと資本に活用され る。その譲歩が要求される対象は、民主労総の主要事業場になるだろう (しかし一方では、民主労総の正規職大工場事業場の労組がこうした批判に 対して非常にぜい弱にならざるをえない条件にあることを認めつつ、対応を 始めなければならない)。

したがってウリ銀行による、いわゆる「正規職転換」の問題と幻想を正確に 指摘すること、大衆的な批判が必要だ。そして、このような方式が非正規職 労働者にとって真の希望にならないとすれば、何が希望なのかを労働者運動、 社会運動が実践で明白に提示しなければならない (それができなければ、 「空しい希望」を批判する資格もない。すでにとても遅いのだが)。私たち がしばしば指摘する労働者運動革新の課題と、その具体的な行動計画を提示 すべきだ。それは、何よりも非正規職労働者自身の闘争と、その闘争への 既存の労組運動を含む労働者運動、社会運動の連帯と援護だけだ。

原文(チャムセサン)

翻訳/文責:安田(ゆ)
著作物の利用は、原著作物の規定により情報共有ライセンス:営利利用不可・改変許容仮訳)に従います。


Created byStaff. Created on 2006-12-27 02:11:06 / Last modified on 2006-12-27 02:11:07 Copyright: Default

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