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「アセンブリー」も無視した、障害者の「乙以下の労働」

「労働運動の外の労働」を叫ぶ人たちに伝えたい叫び

ハ・グムチョル記者 2015.07.23 11:14

解雇労働者を主人公にして先週から始まったKBSドラマ「アセンブリー」は、 今日の労働の現実を込めた場面が多数登場する。 特に1回放送分の屋台シーンは、労働者たちの世代間対立の一断面を鮮明に表わすとても印象的な場面だった。

大法院まで行った復職訴訟で結局敗訴した後、一人で屋台に来た造船所解雇労働者のチン・サンピル(チョン・ジェヨン)は偶然、 試験に落第して酒を飲んでいたキム・ギュファン(テギョン)と彼の友人の一行とケンカに和る。 分別がない若者たちが解雇による苦痛をバカにしていると思ったサンピルは 「お前は解雇が何なのか知っているのか? それがどんなにつらいことだったのか知っているのか、この野郎!」と怒る。 しかしこれに答えるキュファンの一言で、胸ぐらを掴んでいた双方の拳は力なく解けてしまう。

「解雇が何か教えてくれますか? 解雇、それは私たちのような人の願いです。 一度で良いから、そのくそったれな解雇、それをされることが望みです。 分かりますか?」

▲KBSドラマ「アセンブリー」の一場面

この場面は、恐らく「アセンブリー」の作家が注目している韓国の労働の現実における主な対立軸を象徴的に示そうとしたのだろう。 IMF以後に吹き荒れた整理解雇の激しい嵐は、多くの労働者たちに「スイートホーム」という、 一時は実現の可能性がかなり高く思われたロマンを奪っていってしまった。 サンピルはその粉々になった夢のかけらの上に一人で立っている中壮年・正規職労働者の肖像画だ。 だがキョファンはそもそも解雇もされない、否、あるいは解雇が生活の一部になってしまった青年世代の姿を描き出している。 昼は警察試験を準備する就職準備生、夜には代理運転をするアルバイトというキョファンの日常は、 彼に「労働をしているのに労働者ではない」という矛盾したアイデンティティを強要している。

これまで韓国の労働運動は、主にサンピルのような人たちが体験している問題、 特に正規職労働者たちの「整理解雇」の問題に集中していた。 しかしキョファンのような青年世代の「新しい」労働問題は、 最近の青年組織の熱情的な活動にもかかわらず、まだ労働運動の核心事案ではない。

偶然だろうか、最近、正義党の党代表選挙に立候補したチョ・ソンジュ候補は、 まさにこうした現実についての問題意識を自分の立候補宣言文に込め、世間の耳目を集めた。 彼は「第2世代進歩政治」を打ち出して、これまで敬遠されてきた青年世代の労働、 つまり「労働運動の外の労働」に注目しろと主張した。 チョ・ソンジュ候補は落選したとはいえ、 恐らく彼が提起した「第2世代進歩政治」、「労働運動の外の労働」という論題は、 これに同意するかどうかとは別に、これからの労働をめぐる韓国社会の議論で一番重要な討論の種になるだろう。

だが、「果たしてこの程度の議論で充分なのか?」という質問をしてみたい。 「日常になった解雇」、そしてこれを互いに異なる形で体験している「世代間対立」を中心とする労働に対する今の議論は、 韓国の労働の現実を十分に反映しているのか? この議論からさえ排除されている主導者はいないのか?

その上、ドラマの中でサンピルとキョファンは、その具体的な形態がどうであれ、 すべて近代的な雇用関係(甲乙関係)を確保するための労働だといえる。 つまり、この二つは形式的にはどちらも自分の意志で労働市場に飛び込んだのであり、 雇用契約が結ばれた時には、とにかく法的には「自由な主体」だ。 したがって、(生存の威嚇を押し切る勇気さえあれば)仕事を辞めるのは原則的には本人の自由だ。

では、韓国社会に存在する労働の形態はこの二つだけだろうか? 換言すれば、自分の意志ではないのに、労働に投げ入れられ、 劣悪な労働条件にもかかわらず、この労働から撤収する自由さえ付与されない 「前近代的」な労働ではないのかということだ。

まず、次の大邱地域のある障害者保護作業場が インターネットに載せた宣伝文句を調べよう。

「障害者の方々の生活を維持するために少なくとも役に立つため、 時間当たり最低賃金の50%を支払うなど、 保護作業場の中で最高の賃金を保障しています。」

彼らは最低賃金の半分しか払わないという事実をまるで誇りであるかのようにならべている。 その上、これが保護作業場で最高の賃金だとし、とても威張っている。 それもそのはず、2013年基準、保護作業場で働く障害者の月平均賃金は22万3千ウォンで、 同年の1人世帯最低生計費(57万2千ウォン)の半分にも至らない。 こうした実態の原因は、まさに最低賃金法第7条の「最低賃金適用除外」条項のためだ。 この条項は「精神障害や身体障害により勤労能力が顕著に低い者」や 「その他に最低賃金を適用することが適当ではないと認められる者」に対しては、 雇用労働部長官の認可さえ受ければ最低賃金を支払わなくてもいいと規定している。

国連障害者権利委員会はすでに昨年、韓国の「国連障害者権利協約履行に対する最終見解」で、 障害者を最低賃金適用除外の対象にする前述の条項と保護作業場の労働構造を改善することを勧告したが、 政府は相変らず不動の姿勢だ。 そのような中で多くの障害者が最低賃金にもならない無権利状態の「非-労働者」に分類されている。

こう反問する人がいるかもしれない。 こうした条件が気に入らなければ、 他の労働者たちのように自由意志で辞めれば良いではないかと。 しかし今日の障害者に、特に保護作業場従事者の多くを占める発達障害者に与えられた生活の条件を考慮すると、 これは本当に雲をつかむような言葉だ。 発達障害者にとって、成人になるということは職業世界に飛び込む挑戦の時期というより、 家庭と地域社会のどこも責任を取らず、収容施設に行くかどうかを決定する運命の時間でしかない。 こうした条件では、保護作業場に通うことは、あるいは発達障害者にとって「上位層」に属することを意味するのではないか。

では保護作業場の「保護」の中にも入らない多くの障害者はどう暮らしているのか? 私たちにはまだそれについての正確な統計さえない。 その代わりに時々伝えられるマスコミの報道を通じ、 とても断片的な実状に接するだけだ。 ソウルの真ん中にある食堂で、知的障害者が14年間「食堂奴隷」として暮らしてきたとか、 京畿道のある「犬牧場」で知的障害者が一日19時間強制労働をさせられても一銭も賃金を受け取れなかったなどの話がそれだ。 また、われわれは国内だけでなく、外信も驚かせた新安塩田奴隷事件をはっきり記憶している。

▲新安塩田奴隷事件は国内だけでなく、外信も驚かせた衝撃的な人権侵害事件だった。(写真:2015年1月米国CBSニュース画面貯蔵)

いっそ人身売買と呼ぶ方が適切なそうなこの「現代版奴隷労働」の事件は、 障害者が「保護」という美名の下、労働現場で無権利状態に置かれている現実を放置していることで可能だったのだろう。 彼らの労働はいつも労働そのものではなく、 誰かの「愛」と「奉仕」を受ける客体であり、 せいぜい職業訓練を受ける永遠の「実習生」でしかない。 この中で障害者の位置は、甲乙関係からさえも排除された「乙以下の人間」なのだ。 その上、大韓民国法が簡単に「意思無能力者」と烙印するこれらの「乙以下の人間」には近代的な意味の労働契約の自由など、事実上無意味だ。

多くの人々が韓国社会労働の矛盾を「世代論」で説明する。 チョ・ソンジュ候補の「第2世代進歩政治(-労働運動)」が注目された理由も、こうした雰囲気のおかげだった。 では「第1世代」の労働の矛盾があらわれる遥か前から存在してきた無権利状態の障害者労働は、いったい何と呼ぶべきだろうか? 「マイナス1世代労働」と呼ぶべきか? こうした「マイナス1世代労働」の現場である保護作業場で働く人の割合は、 15歳以上の就職知的障害者の19.6%、自閉性障害者の40.3%に達する。 それでもその他の人たちは、より良い雇用を持っていると考えるのは誤算だ。 前に話したように、保護作業場に通えるような人は、それでも良い方に属するためだ。

ところで、なぜこうした問題が常に時事番組のいやらしいゴシップネタとしてしか扱われないのだろうか? 進歩陣営と労働運動陣営において、この問題はなぜ一度も「労働」の事案sdw扱われないのだろうか? サンピルとキョファンがドラマの中だけでも、自分の問題を訴えている間、 舞台の外では自分の声をあげることも出来ない障害者はエキストラにもなれずに暮らしているのだ。

進歩政治が本当に閉じた場の扉をあけ、 「労働運動の外の労働」を語ろうとするのなら、 権利の論理の外に追いやられている障害者の労働についても、 積極的な関心を持つべき時ではないか。

付記
ハ・グムチョル記者はビーマイナーの記者です。この記事はビーマイナーにも掲載されます。チャムセサンは筆者が直接書いた文に限り同時掲載を許容します。

原文(チャムセサン)

翻訳/文責:安田(ゆ)
著作物の利用は、原著作物の規定により情報共有ライセンスバージョン2:営利利用不可仮訳 )に従います。


Created byStaff. Created on 2015-07-25 07:01:19 / Last modified on 2015-07-25 07:01:20 Copyright: Default

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