本文の先頭へ
LNJ Logo 韓国:[チャムセサン企画]文在寅100日を語る (1)労働
Home 検索
 




User Guest
ログイン
情報提供
News Item moon100_1
Status: published
View


文在寅政府の労働政策の向こうを夢見る時

[チャムセサン企画]文在寅100日を語る (1)労働

キム・ヘジン(全国不安定労働撤廃連帯常任活動家) 2017.08.21 09:51

[編集者 注]文在寅(ムン・ジェイン)政府の発足から100日、 キャンドル・デモに力づけられて発足した政府に対する期待はどのあたり留まっているのでしょうか? チャムセサンは「文在寅100日を語る」という企画で各界の社会運動専門家たちの声をのせます。 政府の成果と限界、そして運動陣営の課題に注目する今回の企画に読者の皆様の大いなる関心を望みます。

[連載順序]
労働 |キム・ヘジン(撤廃連帯)
朝鮮半島 |ペ・ソンイン(韓神大)
教育 |カン・ドンジン(フォーラム社会福祉と労働)
言論・メディア |クォン・スンテク(言論連帯)
文化 |パク・ソンヨン(文化連帯)
医療、福祉 |イ・ヒョン(全教組正しい教育研究所)
女性 |韓国性暴力相談所
政治 |イ・グァンイル(聖公会大)

[出処:パク・タソル記者]

文在寅(ムン・ジェイン)政府発足から100日が過ぎた。 当選後、恩師の日には「期間制教師の殉職認定」を指示し、 仁川空港を訪問して「公共部門非正規職ゼロ政策」を宣言し、 最低賃金を2020年まで1万ウォンに上げるといった。 また、労災で死亡した時の元請業者と発注者に対する処罰の強化を約束した。 新任雇用労働部長官は、やさしい解雇と就業規則不利益変更要件緩和という二つの指針を廃棄するといった。 文在寅政府100日記者会見では「労組組織率を向上させるために政策的努力を傾ける」とし、 「不当労働行為を強い意志で摘発・処罰する」と明言した。 これまで労働者たちが要求してきた多くの声が政府の立場として発表され、期待も高まる。 文在寅政府100日、労働者たちは新しい世の中を夢見られるようになったのだろうか?

文在寅政府の労働政策は雇用政策

文在寅政府の労働政策は「雇用」が強調されている。 文在寅大統領は就任後、[雇用100日計画]を発表して、100日間に推進する雇用関連の政策を提示した。 韓国社会は良質の雇用が減少して低賃金勤労者が拡大し、 正規職と非正規職の格差、大企業と中小企業労働者間の格差などが深刻になっているだけでなく、 4次産業革命の到来で産業と雇用構造が根本的に変わりかねないのでこれに対して先制的に備えていくべきだということが前提だ。 その点で「良質の雇用創出」を政策の最優先順位に置き、 「成長-雇用-分配」の好循環構造を復元して行くという。 そのためには大企業と既存の主力産業に依存してきた成長戦略を克服し、 良質の雇用拡大のために「公共部門が呼び水の役割」を担うと明らかにした。

朴槿恵(パク・クネ)政府も「雇用」に集中して「雇用率70%を達成する」と言った。 不安定な雇用を増やし、家族構成員全員が働くようになれば、 労働者の生計維持が可能になると判断したのだ。 それで短時間労働と派遣許容対象拡大など、不安定な雇用を増やすことに力を入れた。 そして労働市場の二重構造解決という美名の下で、正規職の労働条件を下げようとした。 就業規則の不利益変更と低成果者の解雇指針がそれだ。 しかしこの政策の結果、非正規職は増えて労働者たちの権利はさらに侵害され、 安定した雇用が減り、体感失業率は上がった。 そして朴槿恵政府は崩壊した。 問題は「雇用の数」ではなく、「不安定な雇用」と「労働者権利の侵害」だったのだが、 ただ「雇用拡大」だけで接近し、現実は悪化するだけだった。

これを反面教師として、文在寅政府は「下を押し上げる政策」を選んだ。 非正規職労働者の処遇改善と正規職化、最低賃金引き上げなどがその手段で、 政府は公共部門を呼び水にしようとした。 政府が使用者となっている公共部門で、この政策は少しずつ進められている。 それと共に、公共部門の非正規職労働者たちの期待と希望も高まっている。 ところで問題は公共部門ではなく、民間領域だ。 公共部門で非正規職を正規職化したとしても、雇用創出の効果は1.8%に過ぎず、 結局民間領域で良質の雇用を創り出して低賃金労働者の権利を確保することが最も重要な問題だ。 だが公共部門とは違い、民間部門では労働者の権利が増進する兆しは見られない。

大企業と正規職労働者ともに譲歩を要求

文在寅政府は民間部門で「良質の雇用」を作るため、 第一に中小企業競争力の強化と「創業」活性化で雇用を創り出そうとする。 新設された中小ベンチャー企業部がその役割を専門に担当することになるだろうが、 そのために金融と税制支援、創業資源資金支援、そして地域特化雇用創出事業で光州型モデルの拡散と社会的経済の活性化方案を用意した。 二番目の方案は、民間部門の雇用の質を上げるために差別関連の制度を改編して同一賃金の原則を適用し、 非正規職の乱用を防止するために使用事由制限制度を導入し、 雇用負担金制度を導入する。 そして最低賃金を2020年までに1万ウォンに引き上げ、勤労監督官を増員することにした。

現在、政付ができることはここまでと見られる。 文字通り制度的圧迫や支援により、民間部門での雇用創出と非正規職処遇改善を作り出そうとしているのだが、 それだけで民間大企業の協力を引き出すのは容易ではない。 そして低成果者の解雇および就業規則の不利益変更の二大指針を廃棄して労働界をなだめ、 労使協力に動けるようにする一方、 大企業には賃金体系改編等を通じて労働者の賃金を減らすから大企業も協力しろという意図も表わしている。 政府が中心的な大企業と組織された労働者の両方に「非正規職のため」というイデオロギーで譲歩を引き出す意と思われる。

文在寅政府の労働政策の限界

文在寅政府の労働政策は非常に順調に執行されている。 ただし、これが正しい方向かについては、さらに検討が必要だ。 今の低成長と労働の不安定性は非常に根源的な問題だからだ。 大企業中心の下請系列化、非正規職拡散の制度化、「効率」中心の公企業構造調整などが今の歪んだ雇用構造を生んでおり、 企業利益中心の政策的選択が、資本と労働の力の不均衡を招いた。 生計費に満たない最低賃金、労働の階層化と不安定性、そして団結権の侵害、財閥大企業中心の産業構造が変わらなければ 「ヘル朝鮮」と呼ばれる程歪んで深刻な現実の問題は、きちんと改善できない。

しかしところで文在寅政府は非正規職の雇用形態を根源的に変えようとしない。 公共部門非正規職ゼロ政策でも、子会社の正規職、あるいは無期契約職の形で労働者の差別を維持しようとして、 特定の人々に恩恵を与える方式で問題を扱っている。 非正規職を量産する期間制法と派遣法をそのままにして、 「生命・安全業務の正規職化」というとても狭い正規職化基準を語る。 個別の機関に正規職化を押し付けて、それらの機関には「費用」と「効率」の論理を相変らず突きつける。 最低賃金は生活できる賃金を受け取る「権利」だが、 中小零細事業場の問題を語りながら後退する兆しが見えており、 さらに深刻なことは賃金体系改編という美名の下で差別を制度化し、合理化する可能性も見られるという点だ。

文在寅政府は財閥大企業中心に歪められた産業構造をどう変えるのかについての悩みも深くない。 公正取引委員会の対応と「不当労働行為は強力処罰」といったカードを切っているが、 それによって絶対的な財閥権力を制裁するのは難しい。 特別な財閥規制なくして説得で雇用を作ったり、労働者の権利を保障することはできない。 短期利益にしがみつく資本主義体制で、非正規職制度を認めることにより非正規職を増やそうとする財閥大企業の欲求を認めながら、 説得により非正規職の使用制限が可能だと信じるのはとてもナイーブな考えだ。 その上、雇用創出方案にある「創業」や「社会的経済」も、「支援」で可能になるものではなく、市場を独占する財閥を規制する時にのみ可能になる。

さらに大きな問題は、労働者を主体とせず、対象化している点だ。 いくら良い政策を出しても、労働者が現場で主体になり、力を発揮しなければ、 企業を強制するのは難しい。 「100日記者会見」で文在寅大統領は労組の加入率を上げるために政策的努力を傾けるといったが、 ILO結社の自由協約はまだ批准していない。 そして非正規職労働者の組織化を遮る複数労組交渉窓口一本化や元請の使用者責任について、実効性ある対策を出していない。 損賠仮差押えをなくすという問題にも消極的だ。 産別協約や地域協約など、未組織労働者にまで権利の実効性を拡大する対策も、同じように進展がない。 労働者自らが権利の主体になる政策は進展していない。

文在寅政府の労働政策をはるかに超える権利意識と組織

文在寅政府にあまりに多くのことを期待しているのではないかと言われるかもしれない。 今のさまざまな政策は、自由主義政権の文在寅政府でできる最大値でもある。 そしてその結果、少しは労働条件が改善され、少しは組織率が上がり、少しは労働者の暮らしが良くなるかもしれない。 しかしこうした方向の政策が続いても、果たして労働者たちの暮らしは変わるだろうか? たとえ労働条件が少し改善されたとしても、相変らず現場で労働者たちは階層化されていれば、 権利がない非正規職が制度的に容認されていれば、 そして相変らず企業の権力が労働組合の力を越えていれば、 大企業の労働組合が社会的圧力のために非正規職と連帯するよりも企業に譲歩するのなら、 労働者が企業への統制力を持てなければ、 今の「ヘル朝鮮」は変わらない。

それで労働者に必要なことは、文在寅政府の労働政策をはるかに超える権利意識と組織化だ。 危機の時代、労働者たちが政府にどんな政策をしてくれと要請するのではなく、 さらに多くの労働者を組織化し、団結し、急進的な要求により、自分たちの力を確認し、 それを可能にする政治的な力を備えることだ。 キャンドルが新政府にもっと良い労働政策を選択するように強制したとすれば、 今はそれをはるかに超えて労働者の権利が完全に保障される世の中を作れるように、 私たち自身の力をつけるべき時だ。 その出発は、広範囲な組織化だ。 組織化を遮る各種の悪法と悪い制度を変えるために共に戦わなければならず、 さらに多くの労働者を組織するために、さらに多くの力と努力を傾けるべき時だ。

原文(チャムセサン)

翻訳/文責:安田(ゆ)
著作物の利用は、原著作物の規定により情報共有ライセンスバージョン2:営利利用不可仮訳 )に従います。


Created byStaff. Created on 2017-08-26 16:37:54 / Last modified on 2017-08-28 23:20:01 Copyright: Default

関連記事キーワード



世界のニュース | 韓国のニュース | 上の階層へ
このページの先頭に戻る

レイバーネット日本 / このサイトに関する連絡は <staff@labornetjp.org> 宛にお願いします。 サイトの記事利用について