| 〔週刊 本の発見〕『パレスチナを破壊することは、地球を破壊することである』 | |
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イスラエル国家と化石燃料資本『パレスチナを破壊することは、地球を破壊することである』(青土社、2025年8月、著者 アンドレアス・マルム、訳者 箱田徹)評者:根岸恵子
今回パレスチナ問題と気候問題を取り上げた本書のスタンスも前作と変わりなく、地球やパレスチナを破壊する者に対して、反撃もあり得るのだとこの本は示唆する。 パレスチナ問題と気候問題、共通性に疑問を持つ方もいるかもしれない。実はマルムは気候問題ではなく、最初に取り組んだのがパレスチナ問題だった。10代でヨルダン川西岸地区を訪れた。彼はそれ以来パレスチナの抵抗運動にかかわりながら気候問題に関心を持った。根っこにあるのは同じ問題なのだと。 私たちはパレスチナ問題を考えるときにまず「ナクバ」を思い起こす。1947年から48年にかけてシオニストの民兵により70万に及ぶパレスチナ人が自分たちの暮らす村と家を追われた。彼らは難民となり、ナクバは「悲劇」や「大惨事」といわれる。*写真下=映画「パレスチナ1948・NAKBA(ナクバ)」より
マルムはパレスチナの問題をイギリスの汽船が1940年に戦争に投入されたことと結びつける。産業革命は世界の戦争を変えた。蒸気機関は世界に輸出され、人類は化石燃料燃焼のスパイラスに引き込められ、地球の運命を崩壊へ導いてしまった。 イギリスは通商目的に汽船の圧倒的戦力によって攻撃を行い、中東での自由貿易ルートを獲得した。このときイギリス帝国はユダヤ人によるパレスチナの植民地化を初めて提案している。しかしこの時点でロンドンに暮らすユダヤ人が中東に行きたいかといわれればそうは思わなかったのではないだろうか。 しかしイスラエルは約100年後に建国した。新たに誕生したシオニスト国家は中東に対する西側諸国の利害と一致し、化石燃料資本へのイスラエルの関与が、パレスチナの破壊と地球の破滅へと向かう歩みとなった。イスラエル国家が化石資本の本源的蓄積にがっちりと組み込まれているまさにこの時、ジェノサイドが行われているのである。 ガザの破壊に大量の化石燃料が使われていることも見逃せない。戦争自体地球温暖化に大きな影響を与えている。気候正義の運動をしているスウェーデンのグレタ・トゥンベリさんがパレスチナ連帯を言い出した時、運動の転向かと疑った人も多かったと思うが、ガザを攻撃することは気候変動の加速につながると彼女はいち早く気付いたのかもしれない。 破壊され続けるガザだが、レジスタンスは続いている。最近翻訳の仕事で南アフリカのアパルトヘイトとガザを論じた記事を訳したが、植民地で起こる抵抗運動の精神は例外的なものはないということだ。本誌でも述べられているが、ネルソン・マンデラは1991年1月にガザを訪れ、パレスチナの政治家たちに「対立よりも平和を選びなさい。ただし前進できないとき、前に進むことができない場合は別です。そして、もし唯一の選択肢が暴力であるのなら、私たちは暴力を行使するのです」と述べたという。 パレスチナは闘い続けている。この闘いを共に闘うことで、私たちは地球の運命を変えることができるかもしれない。かつてステファン・エセルが『INDIGNEZ-VOUS(怒りなさい)』の中で述べていたように、パレスチナの闘いは私たちの闘いでもあるのだ。 聖書を物語のように読んでいる私たちにとって、神との契約とか約束の土地などということは荒唐無稽な人間が作り出した話に過ぎない。古代史に依拠した侵略はパレスチナの生活を奪い生命さえ奪っている。ならば、モーゼの十戒にある「殺してならない」「盗んではならない」という訓戒を無視しても構わないのか。だが、現実はもっとほかのところにある。古代史を利用した周到に考えられた力関係によって、あからさまな形で行われている殺戮は、もっと簡単な構図で見ることができるだろう。 パレスチナという眺望台に立てば、資本主義の真実の姿−人間以外のたいていの生命体にとっては周知のものだ―を、私たち人間もまた、見晴らすことができる。資本主義近代とは、クソいかれた〈ナクバ〉が次から次へと繰り返されることにほかならないのだ。 Created by staff01. Last modified on 2025-11-13 09:16:02 Copyright: Default | |