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〔週刊 本の発見〕『坊っちゃん』(夏目漱石) | ||||||
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いまも身近に生きる人たち『坊っちゃん』(夏目漱石 著、新潮文庫・岩波文庫・角川文庫等多数あり) 評者:志真秀弘
「冗談も度を過ごせばいたずらだ。焼餅の黒焦のようなもので誰も賞め手はない。田舎者はこの呼吸がわからないからどこまで押して行っても構わないという了見だろう。一時間歩くと見物する町もない様な狭い都に住んで、外に何にも芸がないから、天麩羅事件を日露戦争の様に触れちらかすんだろう。憐れな奴等だ。小供の時から、こんなに教育されるから、いやにひねっこびた、植木鉢の楓見た様な小人が出来るんだ。」 小説が発表されたのは明治39年(1906年)夏目漱石39歳の時である。徳川方が薩長連合に敗れて江戸城を追われ、大政奉還がされてまだ40年経っていない。日清戦争からは10年少し、そして日露戦争は終わったばかりである。*写真=愛媛県尋常中学校教師の漱石(1896年3月) 漱石は、この頃「ホトトギス」に『吾輩は猫である』を連載していて、完結し刊行されるのは翌年明治40年(1907)のことだ。連載の傍ら10日足らずで『坊っちゃん』を書きあげたとされる。「ホトトギス」に掲載されたのは執筆した年、明治39年だった。 活気と笑いに溢れているにも関わらず、しかしこの小説は思いがけない陰翳に富んでいる。
清が小遣いにと坊っちゃんに三円渡すくだりが小説冒頭にある。題名にもなっている「坊っちゃん」は、清の言葉の中に出てくるだけで、主人公(=語り手)は終始「オレ」と自称していて姓も名も不明だ。 主人公は「この三円は何に使ったか忘れてしまった。今に返すよと言ったぎり返さない。今となっては十倍にして返してやりたくても返せない」。物語を「オレ」が語っている時点では、清はすでにいないことがここで暗示されている。 「それを思うと清なんてのは見上げたものだ。教育もない身分もない婆さんだが、人間として頗る尊い。今まではあんなに世話になって別段難有い(ありがたい)とも思わなかったが、こうして、一人で遠国へ来てみると、初めてあの親切がわかる。越後の笹飴が食いたければ、わざわざ越後まで買いに行って食わしてやっても、食わせるだけの価値は充分ある。清はおれの事を慾がなくって、真直ぐな気性だと云ってほめるが、ほめられるおれよりも、ほめる本人の方が立派な人間だ。なんだか清に逢いたくなった。」 物語の底には清への純粋な愛情と喪失感が流れている。江戸弁の痛快な啖呵や派手な喧嘩騒ぎの奥に寂しさがあり悲しみが潜んでいる。 この小説について敗者の文学という見方がある。坊ちゃんは「元は旗本」、「瓦解の時零落し」た清、さらに山嵐は薩長に攻め落とされた会津の「会津っぽ」である。「維新」の波にのみ込まれ、敗れた人たちに相違ない。 作者はかれらを含め登場する人々を、深い愛情をこめて描く。かれらは、だからこそ今にも通じる。清と坊っちゃんはもちろん、山嵐もうらなりも赤シャツ、野だ公もいますぐにでも近隣に、そして職場に現われそうな人たちである。 物語の末尾、主人公は東京に戻り「その後ある人の周旋で街鉄の技手(ぎて)」になる。都市プロレタリアートになった「坊っちゃん」は内には大逆事件、そして外にはシベリア出兵と、時代の激流のなかを生きることになる。 そんな想像さえ生まれるような民衆像を創出した漱石とは、なんと感銘深い人だろうかと思う。 (筆者注*小説の引用部分にあったフリガナはつけることができていません) Created by staff01. Last modified on 2025-05-29 18:08:38 Copyright: Default |