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〔週刊 本の発見〕『いま、米について。』(山下惣一) | ||||||
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34年前に書かれた農村の「予言書」『いま、米について。』(山下惣一 著、講談社文庫、本体388円、1991年5月)評者:黒鉄好
菅野さんにとって、本書の著者・山下惣一さんは、やや大げさに言えば「師」と呼ぶべき存在だろう。山下さんは本書の中で、農業で食べていくことの難しさを考えれば、農家をやめるのなんて簡単にできると述べている。食べていけない、休みも取れない、後継者がいない、未来もない。多くの農家がそれでも農村に踏みとどまる理由を、山下さんは、海外から視察に訪れた学生を前に「墓」と「血縁」だと答えた(本書217ページ)。先祖代々、受け継いできた農地を自分の代で潰してはならないという意地だけが農家を支えている。自分たちの農産物を買えとうるさい米国、机の上だけで図面を引き、農地改良をはじめる農水省。「農業の生産性を上げるため農地を企業に渡せ」と迫る経済界。「お前らは選挙で票だけくれればいいんだ」といわんばかりの自民党――四面楚歌の中で、全国各地の篤農たちの「小さな意地」の集合体が、辛うじて食料自給率38%を支えてきた。 山下さんが55歳のときに送り出した本書は、令和の米騒動に揺れる今日の日本を見通していたかのようだ。政府、財界、メディア挙げての農業攻撃の先に待つのが地方全体の地盤沈下であることを見抜くだけでなく、彼らの目指す生産性の高い農業の正体を「食べることによって資本に食われるシステム」(本書229ページ)だと看破している。 「読者の世界観を変えてしまう書物」のことを仮に名著と呼ぶならば、「山下惣一氏のこの本は正真正銘の名著である」――作家・井上ひさしさんが執筆した本書巻末の「解説」に私は同意する。本書と出会ったことで、学生だった私は「常識」を疑うことを覚えた。地球の周りを太陽が回っていることを多くの人が自明と考えていたとしても、あえて地球の方が太陽の周りを回っている可能性を考えてみる。この思考法が身についたことで、それまで見えなかった多くのことが見えるようになった。世界観が変わった本だった。 山下さんは、農業は親に無理やり継がされただけで、好きで従事しているわけではないという。「多くの人にとっては、職業の選択の自由があるのではない。生きていくために選択せざるを得ない不自由があるだけだ」という山下さんの言葉を見て、私がとっさに思い出したのが「賃労働と資本」(マルクス)だった。真の意味での職業選択の自由が、資本主義経済下では存在し得ないと見抜いていたところに、私は山下さんとマルクスの共通点を見いだしていた。バブル崩壊によって私たちの世代は就職氷河期の入口に立たされたが、同級生たちと比べて私が冷静でいられたのも、生きていくための職業をやむを得ず選択する場が就職活動だと割り切ることができたからである。 山下さんは2022年、86歳の生涯を閉じた。もしご存命なら「食べることによって資本に食われるシステム」がもたらした令和の米騒動に重要な示唆を与えてくれたに違いない。本書をご紹介することで追悼の辞に代えるとともに、山下さんの意思を受け継ぎ、農家・消費者のどちらも幸せにしない現在の農政の転換を勝ち取りたいと考えている。 Created by staff01. Last modified on 2025-05-02 09:47:47 Copyright: Default |