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児玉繁信 : 「米国家安全保障戦略」から何がわかるか?
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「米国家安全保障戦略」から何がわかるか?
       児玉 繁信 (全労協全国一般 福山ユニオンたんぽぽ・執行委員〉

 2025年12月4日に米トランプ政権は、「国家安全保障戦略」(
National-Security-Strategy、以下:NSS)を公表しました。
これまでのアメリカの戦略に比べて、大きな変化があります。それらをどう評価するか?
は、アメリカと世界の変化を知るうえで必要なことです。NSSを見れば、今のアメリカと
世界、及びその関係が大きく変化していること、それをトランプ政権はどのようにとらえ
対応しようとしているか、がわかります。
 したがって、NSSを部分的に読むべきではありません。例えば、日本に関係するところ
だけ取り上げ批評するのはダメです。全体としてどう評価するかが重要です。
 日本政府、政党、日本の知識人、メディア、あるいは労働組合、市民団体のいずれも、
世界の大きな変化に「無関心」です。「アメリカの傘の下にいるので変わりない」ととら
えているからかのようです。

 まず、NSSの目次を下記きに示します。なお、以下の文中における「」部分はNSSからの
引用です。なお、NSSの翻訳は、小西誠さんが主宰するサイトなどにあります。
―――――――――――――――――――――
「国家安全保障戦略」(2025年12月4日公表)の目次
 序文 トランプ
I. 序論 ― アメリカの戦略とは何か?
1. アメリカの「戦略」はいかにして道を誤ったか? 
2. トランプ大統領の必要かつ歓迎すべき是正
II. アメリカ合衆国は何を望むべきか?
1. 全体として何を望むか?
2. 世界において、そして世界から何を望むのか? 
III. アメリカが望むものを達成するために利用できる手段とは? 
IV. 戦略 
1. 原則 
2. 優先事項 
3. 地域 
A. 西半球: モンロー主義に対するトランプの帰結 
B. アジア: 経済的未来を勝ち取り、軍事的対立を阻止する 
C. ヨーロッパ: 偉大さの促進 
D. 中東: 負担の転換と平和の構築 
E. アフリカ
――――――――――――――――――――

1)「アメリカの「戦略」はいかにして道を誤ったか?」
 「国家安全保障戦略」(2025年12月4日公表、以下NSS)は、「�欺�論」の冒頭に、「1. 
アメリカの「戦略」はいかにして道を誤ったか?」と題して書き始めています。
 これは、これまでの戦略が誤っていたと断じ、それからの転換を宣言しているのであり
、このことにまず驚かされます。
「冷戦終結以降のアメリカの戦略は、いずれも期待や望ましい最終状態の羅列に過ぎず、
的外れな結果しか出ていません。」
「我が国のエリートたちは、アメリカ国民が国益とは何の関係も見出せない世界的な負担
を、アメリカが永久に担う意思があるかどうかについて、大きく誤算しました。彼らは、
巨大な福祉・規制・行政国家と、巨大な軍事・外交・諜報・対外援助複合体を、同時に構
築するアメリカの能力を過大評価しました。」と書いています。
 この叙述が意味するのは、1991年の冷戦終結以降の戦略が誤っていた、すなわち1992年
ポール・ウォルフィッツ国務次官補が起草した戦略ドクトリンが間違いであると断じ、そ
れからの転換を述べているのです。
 ウォルフィッツの戦略ドクトリンは、ソ連を解体した後、アメリカ一極支配の時代とな
り、アメリカによる「覇権的な平和」(=アメリカ覇権による一極支配)という戦略を策定
しました。2002年にも安全保障はアメリカの覇権的地位の維持に依存していると繰り返し
ています。重要なのは、そのような時代がすでに終わったという事実であり、NSSはその
現実を認め戦略の転換を説いているのです。
 ウォルフィッツ起草の戦略は、反米的な政権には世界一の軍事力で軍事介入し、親米政
権に置き換える、東欧とロシアを支配すること、そのためにNATOに新しい意味を与え存続
させ、東方拡大し、ロシアは5つに分割し支配すると定めました。実際のところ、中東や
東アフリカに軍に介入し、反米政権を打倒しました。歴代アメリカ政権は、民主党共和党
にかかわらず、この戦略に従って政策を実行してきました。
 具体的には何を意味しているのでしょうか? この30年、アメリカは中東・東アフリカ
諸国に軍事介入してきました。アフガニスタン、コソボ、イラク、リビア、シリア、イエ
メン、スーダン、ソマリア、軍事介入し、政権を打倒し親米政権を打ち立てましたが、そ
れぞれの社会を破壊し悲惨な状態と混乱を作り出しただけであり、アメリカが獲得した明
確な利益もほとんどありません。
 また、ドイツ再統一時のロシアとの約束踏みにじりNATOを東方拡大し、1998年にはセル
ビアを爆撃しコソボを分離独立させ、東欧を支配下におさめました。2014年にウクライナ
でのクーデターを起こし、その後対ロシア戦争の軍事化を推し進めさせました。これがウ
クライナ戦争の直接の原因となりました。しかも現在に至っては、この戦争でウクライナ
は破壊され、アメリカ・NATO軍はロシアにほぼ敗北した結果となりました。
 この戦略の実行に、アメリカは莫大な軍事費と、反政府「市民団体」の支援・買収、言
いなりとなる政権への援助、アメリカに都合のいい情報機関の設置・維持など、あらゆる
面で莫大な支出を続けました。その結果、2025年現在、アメリカ政府債務は38兆�砲傍擇�
、なおかつ増え続けています。「このままでは破産してしまう!」という危機感がトラン
プ政権をとらえています。
さらにもう一つの要因があります。この30年間は、中国が世界の製造の巨人となり、アメ
リカ産業が空洞化していった過程でもありました。中国だけではありません。ロシアも産
業力を身に着けました。そのことが判明したのは、大規模な地上戦であるウクライナ戦争
において、です。ロシアはアメリカとヨーロッパを合わせた以上の兵器を生産しました。
例えば、欧米の約10倍の量の152�佶っ討鮴源困径海院�滑空爆弾、ドローン、超音速ミサ
イルなども、欧米よりも多く生産・供給し、戦況において圧倒しました。他方で、NATOの
兵器庫は兵器・弾薬が空となり、補充ができません。産業空洞化と世界中への下請け化に
より、兵器・弾薬の増産・供給ができませんでした。また、米兵器体系を決めたのは、国
防総省ではなく軍産複合体です。軍産複合体の利益を最大化するため高価な兵器体系にし
ました。それらの点からロシアに敗れたのは明らかです。その原因をNSS(トランプ政権)
は、「アメリカが脱工業化したからだ」と叙述しています。
 NSSは、アメリカがたとえ覇権的な役割を担いたくても、その力をもはや持っていない
、アメリカの軍事力が低下したという現実を暗黙のうちに認め、戦略の転換を唱えている
のです。米国防総省が現実を政権内に伝えているのでしょう。そこからの類推として、中
国と西太平洋で長期戦を行うことも難しいという判断も見えます。
 したがってNSSには、一定の現実主義、あるいは「手直し」があります。新しい世界の
現実を前にして、NSSは「冷戦以降のアメリカの戦略が失敗だ!」と評価し、このままで
はアメリカは破産してしまう、それゆえ、「戦略の転換」が必要だと主張しています。こ
れが第一の特徴です。

2)現実主義、ネオコンの排除
�,海譴泙任痢崟鑪�」では、現状秩序(アメリカの世界覇権)を脅かす「修正主義勢力」
として中国、ロシア、イラン、北朝鮮などが挙げられ、非難が重ねられていました。しか
し、NSSでは「悪魔化した敵への非難、善と悪の対立」というイデオロギッシュ的な叙述
はなくなり、アメリカの力の後退、多極化する世界を受けいれる現実主義が現れています
。ネオコン特有のイデオロギーがほとんど消えています。オバマ・バイデン政権の「伝統
的で理念的な価値観(ネオコン)に基づく国防政策」から、「現実的な国益を重視するリア
ル・ポリティクス」へと書き換えられています。要するに、「ネオコンの排除」です。

�∪こΔ呂發呂筌▲瓮螢�一極支配ではない、中国・ロシア・BRICSの力が増大している現
実を認め、より現実的な対応をとると主張しています。アメリカはもはや、「西半球」(
=南北アメリカ大陸)以外には、いつでもどこでも軍事介入はしない、「不干渉主義」を
とるとしています。これも現実主義でしょう。

�C羚颪肇蹈轡△侶从冦蓮Ψ鎧�力が強大であることを認めています。NSSは、アメリカの
軍事力が低下した理由は、米国が脱工業化したからだと説明し、そのために国内に製造業
を復活させるとしています。しかし、どのようにして製造業を復活させるのか?の具体策
はありませんし、実現性も乏しいと思われます。「戦略」ではなく「願望」が書かれてい
ます。

��NATOから手を引く、費用は負担しない。
 NSSは、ウクライナ戦争を終結させる、NATOはもはや「永遠の存在ではない」、「拡大
を続ける同盟としてのNATOを終わらせる」と断言しています。アメリカは「もはやアトラ
ス神のように世界秩序全体を支えることはなく、欧州にも自国の防衛負担のさらなる負担
を求める」と書いています。ウクライナ戦争でNATO軍はほぼ敗北した、必要な兵器・弾薬
を十分に増産できず、もはや巻き返しもできないという現実の認識がこの背景にあります
。思い知らされたのでしょう。アメリカは手を引く、NATOはヨーロッパが金を出せ!と書
いています。
 また、イスラエルを支持はするが戦争拡大はしない、アメリカは中東の戦争、対イラン
戦争には参戦しないとし、これも「不干渉主義」という言葉で説明されています。

3)そのうえで、「アメリカ合衆国は何を望み、何ができるか?」
3)−1:概要
 そのうえで、II章「アメリカ合衆国は何を望むべきか?」、III.章 「アメリカが望む
ものを達成するために利用できる手段とは?」、�絃蓮崟鑪�」と続けています。
 戦略的な文脈で注目すべき点は、アメリカはもはや全世界を覇権支配はできないとし、
地域的な優先順位を示していることです。これまでの「戦略」からの大転換です。ここで
本当に見えてくるのは、アメリカの優先順位が大きく変わってしまったことです。
 第一の優先は、アメリカ合衆国です。国際通貨ドルの地位を維持しなければならない、
国内の製造業を復活させなければならないと主張しています。裏返して言えば、中国の経
済力の脅威を感じています。
 第二位は南北アメリカ大陸です。ここはアメリカの勢力圏であり重要な国益だから、「
他の国(中国)には手を出させないと宣言しています。これを「モンロー主義」という標語
で表現しています。これも戦略というより願望です。
 第三位はヨーロッパです。アメリカは「欧州にも自国の防衛負担のさらなる負担を求め
る」、NATOの拡大は終焉だと書いています。
 第四位は中東です。この順番には少し驚きました。これまでイスラエルの戦争政策とア
メリカの外交政策は一体だったからです。アメリカは原油・ガスの輸出国に転化しており
、中東の重要性は低下しています。
 第五位はアフリカです。 

 ところでNSSには、ロシア非難の叙述はありません。手を出せないところ、すなわち中
国とロシアには「不干渉主義」、手を引きたいところ、すなわちヨーロッパにも「不干渉
主義」で行くと表現しています。
 この点でNSSは、アメリカ覇権の時代は終り、いまや「多極化した世界」であるとする
認識に立っていることがわかります。
この30年間、政権の中枢にいたネオコンが、中東、東アフリカ、ユーゴ、コソボ、ウクラ
イナやグルジア、モルドバなどで、反政府「市民」勢力に資金援助・育成し、情報機関を
配下に置き情報戦を仕かけ、政権を打倒する工作をやってきましたが、このやり方には莫
大な軍事費・軍事訓練費、CIAやUSAID,NED(全米民主主義基金)によるそれぞれの反政府
勢力への援助(=買収費)、NGOを通じた情報機関の買収など莫大な額の支出があり、なお
かつ増え続けてきました。すでに軍産複合体、金融資本、CIAやUSAID,NEDとその国外の
関連団体などの「特権」層ができあがっており、容易に止めることができません。アメリ
カ議会は、数々の支出を伴う議案は通しますが、いかなる種類の支出を止めることはあり
ません。軍事介入、新自由主義のアメリカは、このような政治的仕組みに変質してしまい
ました。
 アメリカ政府が財政破綻するのは目に見えており、トランプ政権は、「このままでは破
産する!」という危機感を抱いています。トランプは、ネオコンに比べれば、現実主義者
だということになるでしょう。ただ、トランプとて改革者ではありません、アメリカが崩
壊に向かう過程での過渡的な存在とみるべきでしょう。
 以上は、概要です。具体的・個別的に見ていきましょう。

3)−2:西半球重視、モンロー主義
 アメリカの勢力圏は「西半球」(=南北アメリカ大陸)であり、ここは死守する、そのた
めの標語として「モンロー主義」が持ち出されています。
 「モンロー主義」とは、モンロー第5代米大統領が1823年に主張しました。「英仏スペ
インなどの欧州帝国のアメリカ大陸に対する植民地支配を拒否する、その代わりアメリカ
はヨーロッパやその植民地には手を出さない」と宣言しました。そこには、「反植民地主
義」と「相互主義」という積極的な原理が含まれてはいましたが、「新興アメリカのテリ
トリーである南北アメリカには手を出すな!」という帝国的な宣言でもありました。
 では、現代において「西半球に手を出すな!ここはアメリカの勢力圏だ」と、誰に向か
って言っているのでしょうか? 主たる対象は、明らかに中国です。ロシアも少し含まれ
ます。中国の経済力の大きさは無視できないレベルに達しておりすでに中南米にも経済的
影響が及んでいる現実を、トランプ政権は認識しています。その上で、中国に「手を出す
な!」と宣言しています。NSSは、同地域における中国とロシアとの同盟関係、および投
資を標的としています。
 しかし、これは宣言だけであり、どのようにして、中国の影響力の浸透を阻止しアメリ
カが影響力を確保するのかについては、何も書かれてはいません。やることは、ベネズエ
ラへの軍事介入、脅しがアメリカの戦略に基く行動ぐらいのようです。

3)―3: 中国が最大のライバル
 NSSは、中国の大きさを認めています。以下に記述を引用します。
 「インド太平洋地域は、購買力平価(PPP)ベースで既に世界のGDPのほぼ半分、名目
GDPベースで3分の1を占めています。この割合は21世紀を通じて確実に拡大するでしょう
。」
 「中国の国有企業および国営企業は、物理的インフラとデジタルインフラの構築に優れ
ており、・・・」
「中国の低所得国への輸出は2020年から2024年の間に倍増しました。・・・・・中国の低
所得国への輸出は現在、米国への輸出のほぼ4倍に達しています。・・・・・・今後、私
たちは米国と中国の経済関係のバランスを取り戻し・・・・・・、米国の経済的自立を回
復していきます。」
 そのためには、アメリカは以下のことを止めなければならないと書いています。
 「略奪的な国家主導の補助金と産業戦略。・・・・・、雇用の破壊と産業空洞化、鉱物
や希土類元素を含む重要資源への米国のアクセスを脅かすサプライチェーンへの脅威、・
・・・」
 また、「米国が台湾海峡の現状の一方的な変更を支持しません」、(中国の軍事的脅威
を抑止するために、)「日本や韓国などの同盟国は、集団防衛のために、より一層の支出
と、・・・・・より多くの行動を求めます。・・・・同盟国は自国の防衛費の増額し、・
・・侵略抑止のための能力への投資を強く求めます。」と書いています。
 ここで特徴的なのは、まず中国の経済力の大きさを認め、更に中国の軍事力強化も意識
していることです。
中国の経済力が「低所得国」に浸透し影響力を高めている現実を認めていますが、これに
対抗する具体策は書かれていません。

3)−4: ヨーロッパからは手を引く
 NSSはヨーロッパについて3頁しか書いていません。重視していません。
そこには「アメリカはヨーロッパに永遠にとどまるつもりはない」とはっきりと書いてい
ます。だから、ヨーロッパ諸国首脳や大手メディアからは、NSSに対する反発と批判の声
が上がり、また悲観的な見方も出ています。
 NSSは、ウクライナ戦争を終わらせる、アメリカはNATOから手を引く、NATOはもはや「
永遠の存在ではない」「拡大を続ける同盟としてのNATOを終わらせる」と明記しています
。
 一方で、ロシアに対しては非難の言葉はありません。それどころか「ヨーロッパはロシ
アと安定した関係を築くべきであり、それがとるべき政策です」と述べ、「ヨーロッパの
指導者たちが、トランプがヨーロッパを救おうと試みた努力に反発しました」と書いてい
ます。
 本質的に、「アメリカはウクライナ戦争から手を引く、今後はヨーロッパ諸国に責任を
押しつける」ことになります。これほど明確に断言していることに驚きます。

3)−5: 中東:負担の転換と平和の構築 
 これまでアメリカの中東政策はイスラエル政策と一体であり、外交政策の大きな部分を
占めていましたが、NSSは、これからは中東への関与と負担は減らしていくと書いていま
す。イスラエルは不安に駆られているでしょう。
 「中東がアメリカの外交政策を長期計画と日常的な実行の両面で支配していた時代は、
ありがたいことに終わりました。」
「半世紀にわたり、米国の外交政策は他のどの地域よりも中東を優先してきました。・・
・しかし状況は変わりました。・・・エネルギー供給は大きく多様化し、米国は再びエネ
ルギー純輸出国となりました。・・・・アメリカが中東に重点を置く歴史的な理由は薄れ
ていくでしょう。」

4)傲慢と暴力のトランプ帝国
 NSSには、戦略の転換がある、現実主義があると評価しましたが、アメリカの傲慢さと
暴力が消えたわけではありません。
全体の叙述は、アメリカの一方的な利益と傲慢で軍事介入も辞さないアメリカ帝国の論理
で貫かれており、この点は従来と変わりません。余裕がなくなったからか、より露骨な表
現になっています。ですから、これまでの米政権と比べて、どちらがマシか?ではありま
せん。

�.▲瓮螢�は地球上で特別な国であり何をしてもいいという傲慢さで書かれています。
国連・国際機関や国際法遵守、互恵主義は、アメリカの利益と「主権」を阻害するものと
して、その時々において当然のように軽視・無視する態度は変わりません。これらの点は
、オバマ、バイデン政権などこれまでと同じです。言葉がトランプ風に乱暴で露骨です。

�▲▲瓮螢�は自分の都合で国連憲章や国際法を破っても何ら問題はないが、アメリカが
非難を必要とした場合は、他国は国連憲章や国際法を破ってはならないとしています。こ
の点も、オバマ、バイデン政権と同じです。
他国をアメリカの利益のために操るべき道具とみなしているからです。「シマが狭くなっ
た暴力団本部が直参の組から上納金を増やす」かのように、同盟国である欧州・日本、あ
るいはアセアン、インドなどに関税を課し、米国内への投資を強要しています。
中国に対しても、2025年4月に関税を発動しましたが、報復関税をかけられ困ってしまい
、10月30日には関税は10%に下げ、中国のレアメタルの輸出規制を1年延期してもらいま
した。
 NSSは、「アメリカと他国が相互利益のためにどのように協力するかではなく、市場、
金融、技術、安全保障におけるアメリカの影響力をいかに活用し、他国から最大限の譲歩
と利益を引き出す」と、率直な、あるいは露骨な表現で叙述しています。

��CIAと軍を利用するアメリカの軍事介入・暴力的行為は相変わらず主張し、実行してい
ます。NSS公表から数日後、公海上でベネズエラ漁船を攻撃し、またベネズエラ産原油を
積載するタンカーを、厚かましくも拿捕しました。

�ば�慢と暴力のアメリカ帝国はこれまでと変わりませんが、アメリカ帝国の力の後退は
隠しようもありません。1992年にネオコンのポール・ウォルフィッツ国防次官補が起草し
た戦略ドクトリンと比べてみれば大きな「後退」であり、様変わりです。時代が変わった
ことを教えてくれます。

5) トランプ政権内の闘争
 NSSは、誰に対して書かれているか?と問うた時、その一つは明らかにアメリカ支配層
、主要メディアに向けて、です。
この30年間、歴代政権はウォルフィッツの戦略に従いネオコンが実行してきました。「も
はやその戦略は続けられない、アメリカの力は低下した、このままだと破産する、転換し
なければならない」というのが、NSSの主調です。
 アメリカ支配層には、戦争を継続することで利益を得る勢力が存在します。それは軍産
複合体であり、その株を持つ金融資本です。金融資本の多くはイスラエルの近いユダヤ資
本でもあります。これらはディープ・ステートとも呼ばれます。ただ金融資本はトランプ
政権の支持者でもあります。この勢力を政治的に代表してきたのが、ネオコンであり、今
でも主要メディアはネオコン・イデオロギーの影響下にあります。
 トランプ政権内には、ネオコンと近い閣僚、ネオコン戦略を実行してきたCIA、官僚が
大量に残っています。トランプがロシアとの交渉を、本来の役目である国務省ではなく、
友人の不動産業者ウィトコフ特使や娘婿クシュナーに任せているのは、一次政権の時、国
務省のネオコンに騙されたからです。
 トランプ政権はネオコンとは現在もなお闘争中です。ネオコン・イデオロギーを排する
とわざわざNSSに叙述しているのは、そのような事情があるからです。
 アメリカ国内、トランプ政権内で闘争が続いており、NSSの主張・内容はそれを反映し
ています。これがNSSのもつ一つの側面であることも知っておく必要があります。

6) 全体として
 「NSSから何がわかるか?」は、上述の通りです。
 トランプ政権は、「アメリカの覇権の時代は終わった、一極支配はできない。多極化し
た世界に対処せざるを得ない。そのためには、まずアメリカ国内が大事だ、世界通貨ドル
の地位を維持したい、製造業を国内に復帰させたい。世界は地域的に順位をつけて対処す
る。勢力圏である西半球には誰も手を出させない、ヨーロッパからは手を引く、中東への
関与と負担を減らす」。このように述べているのです。
 NSSの叙述に、変化しつつある現代世界が反映しています。「古い世界は死につつあり
、新しい世界は生まれようと苦闘している」その実情については、NSSとは別個に、調査
研究しその実情、発展の方向・内容を把握しなければなりません。
そのことは、平和を願い人権を尊重する世界を望む私たちにとっても、必要なことです。
 (2025年12月28日記)

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