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東京地裁の「統一教会」解散命令に思う/暴力とはあばく力
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投稿者:吉原 真次

東京地裁の「統一教会」解散命令に思う/暴力とはあばく力

 3月25日、東京地裁は文部科学省が求めた世界平和統一家庭連合(旧統一教会)への解散命令請求を受け入れて教団に解散を命じる決定を出した。法令違反による解散命令はオウム真理教、名覚寺に続いて三例目となるが民法法上の不法行為を理由としたのは初めて。

 東京地裁は決定の骨子の一つとして信者による献金勧誘で類例のない甚大な被害が生じたことを上げているが、1987年に全国約300名の弁護士により結成された全国霊感商法対策弁護士連絡会(全国弁連)の集計によれば、87年から2021年までの間に全国弁連と全国の消費者センターに寄せられた旧統一教会関連の相談件数は計3万4537件、累計被害額は1237億に達する。しかもそれは氷山の一角にすぎず実際の被害額はその数十倍あると見られている。

 1964年、岸信介元首相の邸宅の隣に日本支部を移した統一教会は1980年代には霊感商法、90年代は信者を教祖が選んだ相手と結婚させる合同結婚式、街頭や訪問による正体を隠した偽装伝道によるマインド・コントロール、高額献金等の深刻な災厄を日本社会にもたらし続けたにもかかわらず、解散命令が下されるまでには長い年月を要した。これは反共を掲げた自民党をはじめとする政治家の陰陽両面の関与、そして深刻な問題を持つ教団と多くの政治家が不適切な関係を持つことを暴いてこなかったマスコミの不作為によるものだ。

 冷戦時代に統一教会を反共のコマとして使った自民党は、ソ連崩壊後は組織票と無償の選挙運動に対する協力を目当てに統一教会を利用した。安倍晋三の父阿部晋太郎元外相は自民党の国会議員に統一教会の会員を秘書としてあっせん、議員を教団のセミナーに参加するよう勧誘した。その結果、合同結婚式がマスコミに大きく報道されるまで共に反共を掲げる統一教会とのつながりを公言する政治家たちが多くいた。

 安倍晋三は合同結婚式の報道以来、陰に隠れた統一教会との関係を強化した。2005年、安倍は内閣官房長官名で統一教会の関連政治団体UPF(天宙平和連合)創設記念広島大会に祝電を送り、06年には内閣官房長官の肩書でUPF大会に祝電を送付した。2010年2月に統一教会関連政治シンクタンク「世界戦略総合研究所(研究所)」定例会で講演、10月には研究所共催のシンポジウムにパネリストとして参加し、翌年の12月には研究所共催のシンポジウムで講演した。その見返りとして研究所幹部らは2012年4月に自民党総裁選で安倍を支持する為のイベントを開催、統一教会は多くの信者の若者を動員した。2013年、昨年の12月に内閣総理大臣に就任した安倍は4月の「桜を見る会」に研究所の事務局次長を招待し16年まで招待を続けた。同年7月には参議院選での組織票支援を統一教会に直接依頼している。また2014年10月に統一教会西多摩支部が開いた大規模集会に安倍側近の萩生田正一が来賓出席して祝辞を述べた。2016年6月、安倍は極秘裏に日本統一教会会長の徳野栄治と全国祝福家庭総連合会の李海玉総会長の夫人を首相官邸に招待した。2020年9月に内閣総理大臣を辞任した安倍晋三は、21年9月のUPF大会にビデオメッセージでリモート登壇して教団最高権力者の韓鶴子総裁を最大限に礼賛、後に全国弁連が安倍の国会事務所に届けた公開抗議文の受け取りを拒否した。2022年2月、安倍はUPFが韓国で開いたサミットにメッセージを送り、7月には参議院選挙比例区での統一教会票を差配した。統一教会は安倍のお墨付きにより第一次安倍政権では公安警察の重要監視対象から除外され、第二次安倍政権の2005年に1994年から差し止められてきた名称変更が認可されるなど多大な便宜を与えられた。

 2006年のUPF大会への祝電送付を報道し、安倍晋三を釈明に追い込んだマスコミは首相就任を期にして報道の手を緩めた。21年の安倍のビデオメッセージを報じたのはわずか4つの新聞・雑誌のみ、それどころか銃撃事件翌日の7月9日、朝日、毎日、読売、産経、日経の五大新聞は統一教会ではなく「特定の宗教団体」と報じ、旧統一教会が同月11日の記者会見で山上徹也容疑者の母親が会員だと認めるまで統一教会の名を出さなかった。マスコミの沈黙により山上容疑者をはじめとする宗教二世は教団の攻撃により口を閉ざさざるを得なくさせられた。声を上げられない弱者に代わり問題を報道して明らかにする使命を放棄したマスコミは、その後手のひらを返したかのように旧統一教会の高額献金や宗教二世を巡る問題、教団と政治家との関係を報じるが、マスコミの沈黙が旧統一教会と安倍晋三を増長させ、その結果として銃撃事件が引き起こされた。そして今後マスコミが使命を実直にはたさない限り第二、第三の事件が起こる可能性は否定できない。マスコミの体たらくを見て安倍晋三は公開されるビデオメッセージに出ても大きな問題にならないと判断したに違いない。

 銃撃事件を非難する方は多いと思う。しかし事件をきっかけに統一教会の真の姿、教団と政治家との不適切な関係、深刻な宗教二世を巡る問題が明らかにされたことは間違いない。私は無条件に暴力を肯定しないが、「暴」という漢字は「あば」くと読むことができる。暴力とは権力やマスコミの不作為で見えなくさせられている事実をあばく力でもあることを忘れてはならない。(5月7日)


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