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レイバーネット第213回放送「むらの貧困とまちの貧困をつなぐー「令和の百姓一揆」を世直しに」を見て/黒鉄好 | ||||||
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今回の放送は、私としては珍しく、生で始めから終わりまで見ました。レイバーネットTVの放送がある水曜日は、職場がノー残業デーのため、いろいろな私用が入ることが多く、生で見られるときは多くありません。ただ、私にとって農業・農政問題は公共交通、原発と並んで「3大重点分野」。生視聴しないわけにいきませんでした。 令和の百姓一揆での菅野芳秀さんのスピーチ動画は、あちこちにアップされています。それを聴いて私は、今ではほとんど死語になってしまった感のある「篤農」という言葉を思い出しました。パルシステム生協と提携し「先に販路を開拓しておいてから、安全なものを高く買ってもらう」という菅野さんたち山形・置賜農民の農薬空中散布反対運動の話は、「大義を振りかざしては負けてばかりいる」「清く正しく美しく闘いさえすれば、散ってもいいのだ」といわんばかりの昨今の市民運動をどう変えていけばいいかについて、極めて示唆的な回答となるものでした。 1〜2回、国政選挙に勝っただけで調子に乗っているどこぞの原発推進政党が「対決より解決」を売りにしていますが、菅野さんを見ていると、大切なのは「きちんと対決し、きちんと解決もする」新しい市民運動であることが理解できます。「きちんと対決、きちんと解決」「票田より水田」を来たるべき参院選で野党候補のスローガンにしてはどうでしょうか。 令和の百姓一揆で、菅野さんは「山下惣一さんが言ったように、(農家は)畑や田んぼだけを残して農業をやめて、別の職業に就けばいい。それだけのことなんですよ。しかし、困るのは消費者、国民の方です。」と発言しています。菅野さんがご紹介した農民作家・山下惣一さんの元の発言を確認しておきましょう――『個々の農民には日本農業とやらを守る義務も責任もないと私は思う。食えなくなれば、食える方法を選ぶだけだ。食糧問題、農業問題は生産手段をもたない都市の人たちの問題なのである』(「いま、米について」山下惣一、講談社文庫、1991年)。 首都圏に住んでいる人たちは知らないかもしれませんが、地方の東京への怒りは爆発寸前まで来ています。ここ北海道では、東京(国交省)の方しか向いていないJR北海道の無能な経営陣のせいで、多くの鉄道路線が廃線に追い込まれました。私は、廃線反対運動団体から招請されてこれまで何十回もの講演をしてきましたが、北海道の人たちからいつも決まって拍手で迎えられる話題があります。 「地元の鉄道がどんどん廃線になって悔しい思いをみなさん、されていると思います。でも北海道民のみなさんは何も悪くないのだから下を向く必要はありません。農水省が毎年春に公表する都道府県別食料自給率がどれくらいか知っていますか。北海道は200%を超えているのに東京はたったの1%。ここ数年の東京は0%の年さえあるんです。もちろん東京にも農家はいるので完全にゼロというわけではないのですが、農水省の都道府県別食料自給率では小数点以下は切り捨てて公表します。要は1%もないってことなんですよ。首都圏の無知無学なネット民が『ヒグマ、エゾシカしか乗っていない北海道の鉄道なんてカネの無駄だから廃線でいい』とわめき散らしているようですけれども、誰が都民を食わせてやっていると思っているんでしょうか。文句があるなら『鉄道が廃線になって輸送ができなくなった』でも何でもいいので、適当な理由をつけて首都圏向けの食糧輸送など明日から止めてしまってもいいと私は思っています。それで東京が食べていけるかどうか、『やれるもんならやってご覧なさい』と北海道民は高みの見物でもしていればいいんです」 こう講演で話すと、いつも会場からは拍手が起きます。首都圏の人たちは、この地方の怒りを甘く見ない方がいいと、私はあえて苦言を呈しておきたいと思います。 私が社会に出て、農業界の片隅に身を置いて30年。「農家の平均年齢は70〜80代。このままでは10年後には日本から農業はなくなる」と、その頃から言われていました。しかし実際、そうはなりませんでした。なぜか。若い人は農業界には来ないけれど、脱サラした中年層や定年退職した世代が60代になってから農業界に参入をしていたからです。「菅野さんが言っているのと同じことは、何十年も前からずっと言われてきたこと。いつもの『農業もうすぐなくなる詐欺』だから相手にしなくていい」と思っている自称「農業専門家」もいます。しかしそうした人たちに踊らされてはいけません。 なぜなら今回だけは本当の危機だからです。少子高齢化で人口ピラミッドが逆三角形になり、下の世代ほど少なくなっているのが今の日本です。「脱サラして農業に入る中年層」「定年退職世代」の供給源がそれによって細っています。年金支給開始年齢がどんどん遅くなっているせいで、そもそも「定年になる人」も減っています。今までと同じように、シニア引退後の農業現場をミドルで支えることが、不可能になってきているのです。 なんだか絶望的な話ばかりになってしまいましたが、一方でこの番組の後半に私はかすかな希望も見ました。子ども食堂やフードバンクといった貧困世帯のための直接支援の場に多くの農家が食料を提供してくれたことです。「資本主義に見捨てられた人たちを、別の資本主義に見捨てられた人たちが助ける」という新たな共助の姿がここから見えてきます。資本主義から降りる人が増えていくことが、問題の解決になることが示されたといえます。 実をいうと、今回の番組には私もコメンテーターのひとりとして出たくて仕方ありませんでした。しかし、北海道からそう毎度毎度東京には出られませんし、多彩な顔ぶれのゲストを見て「私の出る幕はないな」と正直なところ、思いました。それに、出演者を農業の現場を知っている人だけで固めることは必ずしもプラスとは限りません。失礼を承知でいえば、「貧困の現場には精通しているけれど、農業現場にはまったく精通していない」瀬戸大作さんが出演してくださったことで、「貧農連携」(私の造語です)という思わぬ方面に話が広がったことは、結果的に良かったと思っています。「脱資本主義」にまで話題の幅、深みを持たせることは、おそらく私では無理だったと思います。 今、米トランプ政権が世界秩序をどんどん壊しています。しかし、意外にも(?)喜んでいる人が大勢います。小幡績・慶応大大学院教授は「世界経済へのトランプ自爆テロで資本主義は終わり、新しい時代が来る」(注1)と喜んでいますし、大手企業法務部門に勤務する男性は「いつか来るだろう、来てほしい、と思っていた”世界経済の中心地が米国でなくなる日”。それをもしかしたら、自分が生きている間に目撃できるかもしれない、という期待感で今は胸いっぱいである」とまで述べています(注2)。資本主義のど真ん中で生きてきた人ほど、世界経済のアメリカ支配にうんざりしていたのだと思います。 「アメリカを再び偉大に」どころか、アメリカを決定的に壊した男――後世の歴史家は、必ずやドナルド・トランプをこのように評するでしょう。自分以外の誰かにジョーカーを引かせるつもりでディール(取引)をしていたら、ジョーカーを引いたのは自分だった――それが「トランプ」の結末のようです。でも、それでいいのだと思います。私たちがなすべきことは、アメリカ自身が資本主義とそれに基づく世界秩序を壊しに行っている今こそ、堂々と胸を張って資本主義から降り、労農(そして、付け加えるなら「貧・労・農」)が協働する新しい世界の姿を描くことなのです。前首相が繰り返していた新しい資本主義ならぬ「新しい社会主義」とでも呼ぶことにしましょう。 番組の途中で「米価格の高騰で、農家の手取りは増えたのですか」という視聴者からの質問が寄せられました。菅野さんは、米1俵当たりの価格を示しましたが、農家の手取りが増えたかどうかは、現場をよく知り抜いている菅野さんだからこそ、視聴者に伝わるように答えることが難しい面もあったと想像します。そこで、私が代わりに答えたいと思います。 結論から言えば、さすがに2倍もの米高騰で農家の手取りがまったく増えていないということはないでしょう。しかしそれは農家が食べていける水準にはほど遠いというのが一応の回答になります。では、消費者のみなさんが払わされている高いお米代はどこに消えたのか? 農家? 米流通業者? それともJA(農協)グループ? おそらくどれも違います。「このゲームの勝者は誰もいない」が、実態に最も近いと私は考えます。農家の苦境がより一層深刻化したのは2023年頃からですが、それにはコロナ禍とウクライナ戦争、そして歴史的な円安とインフレが関係しています。燃料費、資材費の値上がりが原因ですが、それらのほとんどは輸入なので、消費者が払わされた高い米代の大半は海外に流出しました。しかし、流出先の海外でも、人々は物価高とインフレにあえいでおり、生活は苦しくなっています。「全員が敗者となるクソゲーム」、その名を資本主義と呼びます。 菅野さんは「米農家の生活を保障する高い米代と、消費者の生活を保障する安い米代が必要」だと述べました。これを愚直にやっていたのが食糧管理制度時代の日本です。私が子どもの頃、農家が自民党本部の前で「エイエイオー」と気勢を上げ、それを受けた国が高い生産者米価で農家から米を買い、それより安い消費者米価で国民に売っていました。仕入れ値より安く売り、「損して得取れ」どころか本気で損して損する「逆ざや」という文字が新聞紙面に躍っていたのを覚えています。商売の常道に反するこうした芸当ができたのも「完全国営食糧管理制度」があったからです。 農家は米価が高ければ高いほど手取りが増え、消費者は米価が安ければ安いほど手元に残るお金が増えます。農家と消費者の利益は完全なトレードオフの関係なので、片方が笑えばもう片方は泣くことになります。両者をともに満足させる価格政策などあり得ないのです。ーーただひとつ、「逆ざや上等!」の完全国営食糧管理制度を除けば。 菅野さんの仰るような「米農家の生活を保障する高い米代と、消費者の生活を保障する安い米代」を同時に実現したいなら、方法は2つしかありません。かつての食管制度に戻るか、農家に所得保障を導入するか。これ以外の解決策は、30年農業界を見てきた私にも思い当たりません。 そろそろまとめましょう。消費者も農業者も、本気で怒っていいと思います。勝者不在のクソゲームに日本中の人々を晒した自民党と、そのワールドワイド版である資本主義をぶっ壊すべきです。今回の番組をそのささやかな一歩とするために、世界中の人々が連帯して頑張るときだと思います。 注1)「東洋経済オンライン」2025.4.5付け記事 https://toyokeizai.net/articles/-/869323 注2)ブログ「企業法務戦士の雑感」2025.4.7付け記事 https://k-houmu-sensi2005.hatenablog.com/entry/2025/04/07/233000 (文責・黒鉄好/農業問題ライター) Created by zad25714. Last modified on 2025-04-12 00:30:52 Copyright: Default |