「週刊新潮」の差別的コラムで名指しされた作家の深沢潮さんが抗議
　〜会見開き、新潮社に謝罪など求める〜

竪場勝司

　「週刊新潮」７月３１日号に掲載されたコラムで「日本名を使うな」などと名指しで差別を受けたとして、作家の深沢潮さんが８月４日、東京都千代田区の衆議院第二議員会館で発行元の新潮社に抗議する記者会見を開いた。深沢さんは新潮社に対して、文書による謝罪などを求めたことを明らかにした。

　問題のコラムは元産経新聞記者・高山正之氏の連載「変見自在」の第１１４４回。「創氏改名2.0」のタイトルの下、深沢さんをはじめ、俳優や大学教授の実名を挙げて、「日本も嫌い、日本人も嫌いは勝手だが、ならばせめて日本名を使うな」とコラムを結んでいる。

　深沢さんは２０１２年に新潮社が主催する「女による女のためのR18文学賞」の大賞を受賞。受賞作の短篇を含んだ、在日コリアンの家庭を描いた「ハンサラン　愛する人びと」を新潮社から刊行し、デビューした。

深沢さん「背後から突き落とされた、そんな感覚です」

　深沢さんがコラムのことを知ったのは、雑誌が発売された翌日の７月２５日。「素晴らしい文学作品を輩出し続けてきた新潮社からデビューし、数冊の本を出せたことは、とても幸せでした。しかし、今回の件で、私の心は打ち砕かれました。屋上でいい景色を見せてくれたと思ったら、背後から突き落とされた、そんな感覚です」。会見で深沢さんは心に受けた衝撃を語った。（写真下）

　深沢さんは「レイシズムに基づいた差別扇動となる、事実誤認のあるコラムが、信頼していたデビュー版元の媒体に載ったことは、私一人ですませていい問題ではないと思い、このような記者会見にいたりました」と会見に踏み切った思いを語り、「新潮社がいまの時代や社会の変化に対応する姿が、多様性を排除し、分断を煽る方向にあることが残念で仕方ありません。私の行動がくさびとなり、新潮社が創業の精神に立ち返り、あの、尊い文学作品の数々を生み出してきた、本来の新潮社の姿に戻ってほしいです」と訴えた。

　会見に同席した深沢さんの代理人の佃克彦弁護士は、高山氏が「日本人の差別意識を批判する深沢潮が韓国人の子女だと朝日が明かしたのはだいぶ後になってからだ」と書いている点について、「深沢氏は作家デビュー当時から、自分がコリアンルーツであることを隠していない」と述べ、コラムが全く事実と異なることを指摘。朝鮮半島の人たちに対する重大な人権侵害政策である「創氏改名」を、あえてタイトルに付けていることは、「さらに悪質さに上塗りしている」と厳しく批判した。

　佃弁護士は深沢さんが新潮社に対し、①コラムの何が問題であったかについて総括したうえで、差別的かつ人権侵害的な言及をしたことについて、文書で謝罪すること②コラムに対する批判・反論するためのスペースそして、「週刊新潮」誌上に最低８ページの紙幅を確保して提供すること、の２点を要求する内容証明郵便を８月４日、同社宛てに送ったことを明らかにした。

作家や映画監督などから次々と抗議のメッセージ

　会見では作家などから寄せられた抗議のメッセージも紹介された。

　日本ペンクラブ会長の桐野夏生さんは「当該コラムによる名指しのヘイトは、女性差別も感じられる悪意だ。ここに、作家個人として、強い批難の思いを表明する。週刊新潮編集部は、この問題にどう向き合うか、真剣に考えるべきだ」、週刊新潮に小説を掲載している作家の村山由佳さんは「あれほどの差別と中傷に満ちみちたコラムの掲載を、どうして事前に止められなかったのか不思議でなりません。これまで同誌編集部への信頼をもとに原稿を寄せてきた者として、深い失望と憂慮を覚えます」、映画監督のヤンヨンヒさんは「ヘイト本が書店のど真ん中に山積みされ、出版社が荒稼ぎした時代を再来させたくはありません。思想や価値観が違う者同士は、批判を含め議論をすればいい。差別や憎悪をむき出しにしたヘイトスピーチを吐くのと『言論の自由』は違います」、とのメッセージを寄せている。

新潮社はＨＰに「おわび」を掲載

　記者会見を受けて、新潮社は８月４日夜、自社のホームページに「今回、深沢潮様の心を傷つけ、多大な精神的苦痛を負わせてしまったことをたいへん申し訳なく思っております。深くお詫び申し上げます。いただいた様々なご批判、ご指摘は重く受け止めており、今回の事態にすきましては、出版社として自らの力量不足と責任を痛感しております」、「深沢様からのご要望は弊社に届き次第、真摯に対応を検討してまいります」などとするおわびの文章を掲載した。

「週刊新潮」の差別的コラムで名指しされた作家の深沢潮さんが抗議 〜会見開き、新潮社に謝罪など求める〜

深沢さん「背後から突き落とされた、そんな感覚です」

作家や映画監督などから次々と抗議のメッセージ

新潮社はＨＰに「おわび」を掲載

「週刊新潮」の差別的コラムで名指しされた作家の深沢潮さんが抗議
　〜会見開き、新潮社に謝罪など求める〜