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米国労働運動 : トランプの公務員削減と闘う公務員労組
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【解説】トランプ大統領は就任以来、連邦公務員の人員削減と省庁解体を推し進めている。既に教育省や国際開発庁の廃止を打ち出している。環境保護庁EPAも攻撃対象となっている。レイバーノーツ8月号は人員削減に対して声を上げた職員と公務員労組の闘いを取り上げている。(レイバーネット国際部 山崎精一)*毎月1日前後に「レイバーノーツ」誌の最新記事を紹介します。
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トランプの公務員削減と闘う公務員労組

 2025年7月10日 ジェニー・ブラウン (副編集長)


*環境保護庁職員の抗議書簡を支持する7月9日のニューヨーク行動

 上司宛てに批判的な手紙に署名した後、139人の環境保護庁EPA 職員は調査の対象となり、7月3日に2週間の有給行政休暇を命じられた。

 その手紙は環境保護庁 のリー・ゼルディン長官宛てで、トランプ政権の政策によって 環境保護庁 の使命が損なわれていると指摘し、ゼルディン長官に対して「有害な規制緩和、これまでの 環境保護庁 の政策の誤った解釈、科学的専門知識の無視」を改め、「アメリカ国民と環境の健康を守るという誓約」を再確認するよう求めた。

 ゼルディン長官の下、環境保護庁 はアスベストの禁止を見直し、水銀に関する規制を緩和し、飲料水から発がん性化学物質を除去する期限の延長を進めている。また、ゼルディン長官は 環境保護庁 の研究開発局を廃止しようとしていると手紙には書かれており、これにより同庁の科学的能力が損なわれ、「すべてのアメリカ人の健康が脅かされる」と警告している。環境保護庁の 2026 年度の予算は 54% 削減される予定である。

 全国の 環境保護庁職員がこの「反対声明」に署名し、これは個人の立場で、業務外の時間を使って意見を表明しているものであることを明記している。連邦政府職員は、その省庁の資源を使用したり、その省庁を代表していると主張したりしない限り、自分の意見を表明する権利がある。(本誌の取材に応じた連邦職員も、所属機関を代表して発言していないことを強調していた。)

 「環境保護庁が依拠している法律や政策を理解しようとしても…理解不能です」と、アメリカ連邦政府職員労働組合AFGE第3911支部のスージー・エングロット支部長は、7月9日にニューヨーク市で開催された環境保護庁の措置に反対する集会で述べた。彼女の支部に所属する 13 人の組合員は、環境保護庁 第 2 地区を担当しており、休職処分を受けている。

 環境保護庁の職員たちは、シアトル、シカゴ、フィラデルフィアでも同様の集会を開催し、他の労働組合、環境団体、公務員たちも参加した。

 ニューヨーク市の会計管理者ブラッド・ランダーは、ブロードウェイ 290 番地にある環境保護庁事務所近くで開催されたニューヨークの集会で、ゼルディン長官を厳しく非難した。「リー・ゼルディンがやろうとしていることは、環境保護庁を破壊し、職員を沈黙させるだけでなく、自分の権利を主張する人々に恐怖を植え付けることなのだ」。

 しかし、その計画はうまくいっていない。署名した職員たちが休職処分になった後、さらに多くの環境保護庁職員が「まだ署名できますか?」と尋ねてきた、と支部会計担当のドリュー・カーティスは述べた。現在、620人が新たに署名しているが、その大半は匿名である。

右翼メディアが最初に報じた

 AFGE 第3911支部 のジョエル・ワデル副支部長によると、環境保護庁の経営陣は職員たちがその事実を知る前に、右翼メディアに報復措置を発表するプレスリリースを送ったという。

デイリー・コーラーとブライトバートは、報復措置を宣伝するプレスリリースを鸚鵡返しに報じた。デイリー・コーラーの見出しは「容赦なし:環境保護庁、トランプ政権の政策を公然と妨害する官僚に鉄槌を下す」であった。

 手紙に署名したエングロットらの組合役員は、今のところ報復を受けていない。「私が現在行政休職になっていない唯一の理由は、私が選挙で選ばれた組合の役職を持っているからですが、それは私にとって納得のいかないことです」と彼女は述べている。エングロットは、空気と水の保全に関する法律の執行に携わっている。「調査対象となっている友人たちも同じなのに、彼らは現在その仕事をすることができない」

 ニューヨークの環境保護庁職員の推測によると、組合役員を懲罰の対象から外したのは、労働者と組合を分断するための戦術であり、あるいは組合役員が協約事項に関して発言しても懲罰しづらいと管理者側が考えている可能性がある。

労働協約に明記されている

 連邦政府職員の給与や社会保険は議会により決められ、交渉する権利はない。しかし、労働条件については交渉が可能である。AFGEの第238支部(環境保護庁職員8,000人を代表する)によると、2024年5月、環境保護庁の職員は、4年間の労働協約に「科学的整合性を保護し、環境保護庁の使命を政治的攻撃から守る」という条項を盛り込むことができた。

 また、法令違反を疑う職員に対する内部告発者保護も獲得した。職員たちは、この協約により、行政当局者が気候変動の危険性などに関する問題を隠蔽したり、嘘をついたりすることができなくなることを期待していた。

 「私が知る限り、これが全米で唯一の例です」と、陸軍工兵隊の専門技術職員組合ローカル 98 のクリス・ドルズ支部長は述べている。「環境保護庁の職員たちは、自分たちの利益のためだけでなく、その仕事によって恩恵を受けるすべての人々の利益のために、この条項を盛り込んだのです。」

 ゼルディン宛ての職員たちの書簡では、環境保護庁の施策は「査読を受けた研究や機関の専門家の提言と矛盾することが多い。このような矛盾は、信頼される科学的権威としての 環境保護庁 の評判を損なうものである」と非難している。この書簡は関連する連邦議会委員会にも送られた。

 「皆が仕事に戻れるようにする最善の勝算は、私たち、つまり一般市民、すべての環境団体、すべての労働組合が、処分の政治的代償が大きすぎることをはっきりと示すことだと思います」と、ドルスはニューヨーク市の集会で述べた。ドルスは政府サービスの保護の最前線で活動する、組合間の共同組織である連邦組合ネットワークFUNの創設者である。

司法の宙ぶらりん

 トランプ政権が就任して、職員の削減と労働組合の解体を試みたため、連邦職員にとって混乱が常態化している。

 大統領令の執行停止を求める訴訟が山積みになっている。一部の判事は、訴訟が審理中であるため人員削減を一時停止するよう命じたが、他の事件は訴訟が未解決にもかかわらず削減が承認されている。7月8日、米国最高裁は、労働組合の訴訟が裁判所で進行中であるにもかかわらず、多くの機関が人員削減を実行することを認めた。

 ただし、最高裁の判決は、疾病管理センター(CDC)や保健福祉省の就学補助ブログラムなど、別の訴訟で削減が争われている一部の機関には適用されない。一部のケースでは、一般市民や職員からの激しい反発を受けて、行政機関長が決まった人員削減を撤回している。退役軍人省(VA)は解雇を拡大せず、退職や辞職を通じて人員を削減する方針を表明した。VAが以前掲げていた7万2,000人の人員削減目標は、現在3万人に縮小されている。

 それでも、VAの職員は重要な役職が空席のまま放置され、人員不足が深刻化していると指摘している。トランプ大統領は、7月15日に終了予定だった連邦政府の採用凍結を10月15日まで延長した。 環境保護庁では、当初に環境正義プロジェクトに従事していると判断された171人の職員が解雇された。機関が機能するために彼らの仕事が必要だと気づき、一部が再雇用されたとカーティスは述べた。

 職員削減に加え、政権は一方的に労働組合との協約を無効化しようとしている。エングロットは自身の職場では組合が依然として認められていると述べたが、多くの機関では組合費の天引きが停止され、組合活動のための休暇の扱いが不透明になり、運輸保安庁から社会保障局までの職員の労働条件については、矛盾する裁判所の判決が出され、混乱したまま未解決である。

 連邦職員は最近可決された減税・歳出削減法(ビッグ・ビューティフル・ビル)が、今度は議会承認の下で新たな人員削減を招くことを懸念している。その法案は公務員の保護措置を廃止するか、それを維持するために給与の14.4%を削減するよう求める内容も含まれていた。AFGEは最終法案からその条項を含む複数の反労働者条項を削除することができた、と報告している。

 これらの脅威は、まだ組合員ではなかった多くの連邦職員が加入するきっかけとなり、組合は「活性化され、強固な状態」にあるとエングロットは述べている。

 「連邦組合員はこれまで以上に積極的に組合に参加しています」とエングロットは集会後に述べた。「また、これまでこれほど攻撃を受けたこともありません」


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