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LNJ Logo 「命の危険を感じ運転しながら涙が溢れた」〜国際興業バス・槙野圭さんが意見陳述
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堀切さとみ

 5月12日、パワハラによって精神障害を発症した国際興業バスの運転士・槙野圭さんの第三回期日が、東京地裁で行われた。
 回を重ねるごとに傍聴者は増え、530号法廷は槙野さんが所属する西武バスユニオンだけでなく、他のバス会社の運転士や他業種の労働者で埋まった。

 

 バス運転士にあこがれて入社した槙野さんに、国際興業は暴力的な指導や嫌がらせを繰り返し、精神的に追い詰めた果てに解雇通告を送りつけてきた。苦しさ、悔しさに呻きながら、昨年8月に提訴した裁判。三回目のこの日、はじめて原告・槙野さんの意見陳述が行われた。

 東日本大震災のボランティアをしていた時、一度きりの人生、本当にやりたいことをやろうと、路線バスの運転士に転職することを決めたこと。2015年に国際興業に正社員として採用されたが、研修が始まると大声で怒鳴られたり、頭を叩かれたり、まるで昭和を思い出させる異様な雰囲気に驚いたこと。指導運転士は乗客が乗っている車内で怒鳴りつけ、客が降りた後に胸ぐらを掴んだりしたが、独り立ちするまでの辛抱だと言い聞かせて耐えたこと。
 パワハラを受けている他の同僚に、自分が協力したと勘違いされ、「〇〇に手を貸すな、殺すぞ」と書かれた脅迫文をロッカーに入れられ、命の危険を感じたこと。乗客を乗せた運転中に涙が溢れ、ハンドルを目いっぱい切って川に落ちてしまえと思ったこと。

 国際興業の中にある派閥の集まりで「乗客の乗ったバス車内での車内事故」を企んだり、辞めさせるための話し合いがなされていたことも明らかになっている。集まりに参加した同僚が、槙野さんに実態を知らせて謝ったのだが、そのことが会社に漏れて、同僚は追い詰められ退職してしまった。
 槙野さんの声は震えていた。

 路線バスの運転士不足が注目されるようになって久しい。その理由は長時間勤務や低賃金だけではない。派閥の長に従わなければ居られなくなるという、悪しき昭和的体質が根付いているのだ。多くの運転士がそれによって心身を病み、会社を辞めていった。槙野さんも「定年まで働けると思うなよ」などの恫喝を受けながら、ハンドルを握り続けた。

 しかしながら槙野さんが提訴したこの裁判は、会社に対するものではない。「労災保険不支給処分取り消し請求」つまり、国を被告とする裁判だ。
 国際興業の労働組合に頼ることが出来なかった槙野さんは、すがる思いで労基署に労災申請を出した。しかしそこで二重三重の屈辱を受けることになる。「生きていると労災は通りにくい」「パワハラというけど、学校のいじめと変わらない」と笑いながら言われた挙句に、あっさり不支給となる。労基署も労働局も、会社とグルになっているのは明白だ。
 「職場のパワハラによる恐怖だけでなく、助けを求めて駆け込んだ労働行政に考えられないようなことを言われ、不安や動悸、不眠、恐怖に今も苦しめられています」と槙野さんは陳述を締めくくった。

 パワハラによる精神疾患は、労災かどうか認定するのが難しいと言われ、多くの人が泣き寝入りを強いられてきた。だからこそ槙野さんは「脅迫文」やカッターの刃などの物的証拠を集めた。白神優理子弁護士は、労災申請の専門医師である天笠崇氏の意見書や、槙野さんの元同僚の目撃証言などを提出し意見陳述した。
 被告である国側は、三回とも法廷には現れず、設置されたモニター越しに応対していた。しかし、どういうわけか次回は出廷するという。どんな反論を返してくるだろうか。

 西武バスユニオンの矢口正さんは「槙野さんに起きたことは、どこの職場でも起きている。パワハラされるのは恥ずかしいことではない。一人で抱え込まないで相談してほしい」と訴えた。
 法廷には女性や若者を含め、たくさんの人たちが来ていた。槙野さんのX(旧Twitter)をみて「自分も同じだ」という思いで駆けつけた人も多かった。労組が弱体化しても「一人のことはみんなのこと」という労働者魂でつながることができる。それを垣間見た思いだ。
 集まった人たちを前に、槙野さんは「この裁判、絶対負けるわけにいかない」と言った。その声はもう震えていなかった。


*槙野圭さん

   次回期日は8月4日(月)11時30分から、東京地裁530号法廷で行われる。


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