「不当判決に負けず光になる！」避難住宅追い出し訴訟　

堀切さとみ

＊入廷行動　左から二番目が鴨下美和さん　左から三番目が鴨下祐也さん

　5月8日、｢避難住宅追い出し訴訟｣控訴審の判決が、東京高裁101号法廷であった。
　
　主文。控訴を棄却する。訴訟費用は被告が負担する。
　
　一瞬のできごとだった。
　そそくさと退室する裁判長の背中に向かって、傍聴人が叩きつける声。｢何なの！ふざけるな｣｢司法は死んだね！｣｢恥ずかしいと思わないの？｣「裁判長を訴えなくちゃね！」
　その後、鴨下祐也さんへの拍手が惜しみなく送られた。

　訴えられていたのは、福島原発事故で東京都の国家公務員宿舎に避難した鴨下祐也さん。（3月12日放送レイバーネットTVに出演）
　避難住宅を貸した東京都は、一度たりとも国から賃料を請求されたことはない。つまり損害など被っていない。それなのに、避難者である鴨下さんに損害賠償請求するという不可解な訴訟だ。

　控訴審では、いわき市の自宅の放射線量を証拠として提出ばかりだった。昨年一月で４万ベクレル／㎡。依然、放射線管理区域レベルの汚染状態だ。これでは住むことも帰ることもできるはずがない。そんな一家を、国は東京都の背中を押して追い詰めてきた。避難住宅から避難者を追い出し、なかったことにするための訴訟なのは明白だ。昨年10月の東京地裁判決と同じく、裁判長は判決理由を一切述べることはなかった。

　絶望的な判決に先立って行われた、裁判所前での集会のことを書く。鴨下さん一家四人が元気な姿で並び、神奈川訴訟団の村田弘さん、前双葉町長の井戸川克隆さんと、俳優の斎藤とも子さんがアピールした。それがとてもよかった。

＊鴨下祐也さんと井戸川克隆さん

　井戸川さんは「いてもたってもいられないから今日はここに来ました。事故前に約束していたのは一ミリシーベルト以下。それが事故が起きたとたんに20ミリシーベルトに引き上げられてしまった。福島県は県民に対して責任を果たしたのか。被ばくを避けて避難した人を追い出すなど言語道断。鴨下さんは被害者なんですよ。訴えられる人ではなく訴えるべき人なのだ」。

　広島長崎の被爆者の支援をつづけ、内部被爆・低線量被爆の恐ろしさを知っている斎藤とも子さんは「どう考えてもおかしい。そのことをみんなが知れば、きっと変わる。本来、国民を救うべき司法の場でどういう判決がなされるのかを、しっかり観ていきたいと思います。私たちは観てますよということを、送り続けたい」

＊斎藤とも子さん

　斉藤さんも井戸川さんも、さまざまなしがらみから本心を語れない人が沢山いることに思いを寄せていた。原発が立地する茨城県や新潟県のホームページには、「シャドー・エバキュエーション」という言葉が跋扈しているという。避難する必要性などないのに過剰反応した結果、問題が生ずるという意味だ。
　祐也さんの妻・鴨下美和さんは「避難させないための言葉がどんどん生み出され、私たちは『影』にされる。だからこそ声をあげ続け、光になりたい。それが次の被害を防ぐこと」と力強く語った。

　しがらみや誹謗中傷を乗り越え、本当のことを訴え続けてきた鴨下さん。連帯する人たちはどんどん増えていくだろう。
　どんなに不当な判決でも、そのつながりがあれば、きっと打ち勝つことができる。