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冤罪とたたかった「狭山事件」石川一雄さん/追悼集会に約千名が集う
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 4月15日午後、東京・千代田区一ツ橋の日本教育会館で、「狭山事件」の犯人とさ れ、以後62年にわたって無実を訴えてきた石川一雄さんの急逝を悼む集会があった。 同館大ホールに支援者ら千名近い人々が集まり、ステージに映し出された遺影の前 で、それぞれの思いを語った。

 1963年5月。埼玉県狭山市で女子高校生が何者かに誘拐され、身代金を要求される 事件が起きた。警察は脅迫状で指示された金の受け渡し場所で犯人を取り逃がし、被 害者は無残な遺体で見つかった。当時、ひと月前に東京・台東区で起きた「村越吉展 ちゃん誘拐殺人事件」に続く捜査陣の大失態に、世論の怒りと非難が沸騰した。警察 の威信は地に落ち、回復できないほどに追いつめられた。

 国家公安委員長篠田弘作は「なんとしても生きた犯人を捕まえる」と語り、警察の 連日の執拗な聞き込みに辟易した地元住民は、刑事を被差別部落へと誘導した。アリ バイがあいまいだった石川さんは同年5月23日早朝、大挙して自宅に押しかけた捜査 員に寝ているところを襲われ、連行された。容疑は軽微な「窃盗」「暴行」。典型的 な別件逮捕である。この日から31年7か月もの間獄中に囚われ、無実を訴えてきた。

 開会時刻の5分前、「見えない手錠をはずすまで」(金聖雄監督作品・編集版)が 上映された。オリジナルの映像に最新の記録を加えた短縮版である。そのあと小室等 さん、ゆいさん、李政美さん、武田裕美子さんによる演奏と歌唱があった。韓国の民 衆歌「あさつゆ」など数曲が披露された。

 開会挨拶は山崎鈴子さん(部落解放同盟中央執行副委員長)。「第4次再審請求に おいて絶対に無罪判決を勝ち取る。今日はその心を一つにする集会にしたい」。西島 藤彦さん(部落解放同盟中央執行委員長)は、「3者協議によっていよいよ再審の扉 が開かれると思っていた。石川さんは不撓不屈の精神で全国を駆け巡り無実を訴え た」。「石川さんが最後まで大切にしていたバッグの中には、多くの診察券と、一枚 の名刺があった。私の名刺だった。私たち解放同盟に思いを託したのだ。弁護団と各 地の同盟員の皆さん。勝利の報告を一日も早く、と決意しよう」。

 再審弁護団事務局長の竹下政幸さんは、「4月の3者協議で証人尋問が実現するか と思われた。その矢先の訃報だ。無念である。第4次再審は一からのやり直し。新証 拠は段ボール4箱になる。東京高裁第4刑事部で、私たちは力を尽くしていく」。

 近藤昭一・立憲民主党衆議院議員、西岡秀子・国民民主党衆議院議員はそれぞれ、 超党派による「再審法改正」実現について訴えた。

 福島瑞穂さん(社民党参議院議員)は、「私は大学生の時にゼッケンをつけて狭山 闘争を闘った。石川さん、お別れは言いません。私たちと一緒にいてください」。

 静岡から駆けつけた袴田ひで子さん(袴田巌さん実姉)が登壇した。「今日新幹線 で出てくるときに、車窓から富士山がくっきりと見えた。その横で石川さんが笑って いた。今度こそ再審開始です。頑張っていきましょう」。会場には、菅谷利和さん(足利事件冤罪被害者)の姿もあった。

 日弁連の鴨志田祐美さんが発言した。「1980年代には数々の冤罪事件で無罪判決が 相次いだ。その時代ですら、私たち司法に係わる者は再審法を変えられず、多くの無 念の犠牲者を出した。いま国会議員の約半数が議員立法に動いている。正念場だ。早 智子さん、一緒に闘いましょう」。

 「私はハッピーエンドの物語しか作らない」と語ったのは、映画監督・金聖雄さん(写真上・左) だ。冤罪当事者の友情を描いた作品「獄友」でも知られる。「石川さんに『シャツの 裾を出していてだらしない』と注意された。ケニアに行く、ビールのふろに入るな ど、夢は叶わなかったが、誇らしい人生だったと思う」と振り返った。ルポライター の鎌田慧さんは、5月23日に日比谷野音で開かれる集会への参加を呼びかけた。

 最後に壇上に上がったのは、妻の早智子さんだ。(写真上・右)
「待って待って待ち続けたんだね。やっと光が見えた。その矢先に志半ばで逝った。 一雄、無念だったね。86年の生涯のほとんどを、冤罪を晴らすために使ってきた」。 「一雄、あなたの笑顔が大好きだったよ。もうあなたはいない。一雄のいない狭山闘 争」。「今日はこんなに多くの人が来ている。鶯になって、空から見守ってほしい。 一雄、今までありがとう。みなさん、今日はありがとうございました」。

 予定時間を超過して、参加者が次々と献花をした。舞台の写真に向かって手を合わ せ、一輪の花を手向けた。(Y)


Created by staff01. Last modified on 2025-04-19 10:06:07 Copyright: Default

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